町山智浩『ホロコーストの罪人』を語る

町山智浩『ホロコーストの罪人』を語る たまむすび

町山智浩さんが2021年8月17日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ホロコーストの罪人』について話していました。

(町山智浩)(今回のアメリカ軍のアフガニスタン撤退は)すごく難しい選択だったとは思うんですけれども。やっぱりこれはすごく裏切りになってしまったなと思いまして。ちょうど、そういったことを描く映画が続けて日本で公開されるので、今回紹介したいのですが。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、ひとつはですね、『ホロコーストの罪人』というタイトルの映画なんですね。これ、ノルウェー映画なんですが、これは日本語タイトルは非常に誤解を招くんですけど。ホロコースト、つまりユダヤ人大虐殺をした罪人の話かと思うんですけど、全然そうじゃなくて。これはホロコーストされたユダヤ人たちの家族の物語なんですよ。で、この映画の英語タイトルは『Betrayed』。つまり「裏切られて」っていうタイトルなんですけど、そっちの方が正しく内容を意味しているタイトルなんですが。

で、これね、第二次大戦中にノルウェーはナチスドイツにずっと抵抗をしていまして。特にノルウェーの国王のホーコン7世は「絶対にヒトラーには屈しない」という人だったんですね。だから、他の国で弾圧されていたユダヤ人が逃げてきていたんですよ。で、この物語『ホロコーストの罪人』の主人公は実在のユダヤ人一家で。ブラウデ一家という家族で。元々はリトアニアに住んでたんですけども、そこでユダヤ人の迫害が起こったのでノルウェー政府に亡命を申請して受け入れられた難民なんですよ。

で、ノルウェーが守ってくれると思っていたんですが……ナチスドイツが攻め込んできて、占領されちゃって。抵抗していたノルウェー国王はイギリスに逃げちゃうんですね。で、そこに残ったノルウェー人たちはナチスドイツに屈服してユダヤ人狩りを始めるっていう。これ、実際にあった話なんですね。

(赤江珠緒)うわあ……。

ノルウェー人によるユダヤ人狩り

(町山智浩)これがね、だから彼らは信じて。ノルウェーの人たちが自分たちを守ってくれると思ったんですけども、守られなかったんですね。で、これは実在の一家で、主人公はチャールズというボクサーで。ノルウェーのチャンピオンになるのかな? 国内で、アマチュアボクシングで。ところが彼は収容所に入れられるんですね。

(赤江珠緒)それは、裏切られて?

(町山智浩)裏切られて。で、収容所の所長みたいな、看守の看守長みたいなのが元ボクサーなんですよ。で、「君の試合を見たよ。僕は君と戦うのが夢だったんだ。一緒に試合をしよう」とか言うんですよ。でも、それが非常に微妙で。もし試合をして殴ったら、その後に何をされるかわからないですよね? でも、断ったら断ったで「なんだよ。俺と試合をしたくないのか?」って拷問されるというね。どうしたらいいのかよく分からないという状況に追い込まれるんですけど。で、結局ユダヤ系の人たちはですね、773人がアウシュビッツにノルウェーから送られて、殺されるんですね。

で、このチャールズくんをはじめこのブラウデ一家は果たして生き残ることができるのかという映画がこの『ホロコーストの罪人』なんですよ。で、これは実話なんで、調べるとこの家族がどうなったのかはわかっちゃうんですけども。調べないで見てもらいたいなと思いますが。で、これでね、すごいのはそのナチスドイツがやってるんじゃなくて、実際の現場でその彼ら、ユダヤ人を狩りたてて、財産を取り上げて、アウシュビッツに送るっていうことをしてるのは全部ノルウェー人なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、そのノルウェーの人たちもちょっと前まではナチスに対抗するって……。

(町山智浩)そう。「ナチスと戦ってユダヤ人を守る」って言っていたユダヤ人の人たちの隣人だったんですよ。みんな。

(赤江珠緒)それが、そんなにガラッと変わっちゃうんですか?

(町山智浩)ガラッと変わっちゃうんですよ。だって、自分たちが危なくなるから。自分たちの身を守るために。で、裏切っちゃうんですよ。というね、これはノルウェー映画なんですけど、ノルウェーの人たちが自分たちの罪をつぐなうために作られた映画なので、ノルウェーの原題は『最も大きな罪』っていうタイトルなんですね。だからこれはノルウェー人にとってもすごく厳しい映画になってますね。

『ホロコーストの罪人』予告編

<書き起こしおわり>

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