町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督の映画『万引き家族』について徹底解説。是枝監督のこれまでの作品と落語のモチーフなどについて話していました。(※内容に一部ネタバレを含みますのでご注意ください)
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— シネマサンシャイン/愛媛版 (@cs_ehime) 2018年5月27日
(町山智浩)で、先週音声とかがうまくいかなかったのでもう1回、同じ映画の紹介になっちゃうんですけども……。
(赤江珠緒)いや、ぜひぜひ。『万引き家族』ですから。
(町山智浩)すいません。ちょっとやり直しになっちゃうんですけども。『万引き家族』ですけども、僕ね、これを見ていてすごく是枝監督に質問したいことがあって。それは何かっていうと、是枝監督は落語がすごい好きなんじゃないかって思っているんですよ。
(赤江珠緒)落語?
(町山智浩)落語。あのね、僕ね、この『万引き家族』っていうタイトルで主人公のリリー・フランキーさんは鳶職みたいな、建築現場で働いていますよね。で、内縁の妻の安藤サクラさんがクリーニング店で働いていて。でも、生活は苦しくて樹木希林さん扮するおばあちゃんとか風俗で働いている松岡茉優ちゃんとかと共同生活をしているわけですけど。で、その状況っていうのが非常に長屋落語に似ている感じがしたんですよ。
(赤江珠緒)はー!
『万引き家族』と長屋落語
(町山智浩)長屋っていうのはまあ、ひとつの家ではないんですけど、みんな家族みたいに暮らしているんですよね。血がつながっていないんですけども。
(赤江珠緒)そうか。大家といえば親みたいなね。
(町山智浩)そうそうそう。そういうセリフが出てきますけども。あと、ご隠居さんがいたりね。特に職業として大工さんとか人足とか鳶の仕事をしている人が出てくるんですよね。あと、洗濯屋さんっていうのも出てくるんですよ。女の人で。だから職業的にも非常に近いんですけど。あと、髪結いさんとかね。長屋に住んでいる人は。
(赤江珠緒)たしかに。
(町山智浩)で、それだけじゃなくて僕ね、なんで落語が思いついたのかな?って思ったら、ネタが似ているやつがあったんですよ。それは「寄合酒」っていう落語のネタがありまして。これが長屋のみんなでお酒を飲もうっていうことになって。そしたら長屋の住人はみんなズルくて貧乏でセコいやつらばっかりだから。酒の肴をみんな盗んでくるんですよ。万引きしてくるんです。はっきり言って。いろんな方法で。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)でも大抵、マヌケだから失敗したり。あと貧乏すぎて数の子を盗んでくるんですけど、どうやって食べていいのかわからなくて煮てダメにしちゃうとかね。そういうギャグなんです。で、すごく似ているんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)それと、長屋の落語の基本は子供が利口なんです。
(赤江珠緒)ああ、だいたいそうですね。
(町山智浩)子供は利口で「父ちゃん、ダメだよこんなことしちゃ。バカじゃないの?」って言うんですよ。で、「うるせーな、おめー!」っていうのが落語の基本なんで、非常に落語的なんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そういう見方。言われればそうですね。
(町山智浩)それでね、是枝監督は実際に「長屋の花見」を元にした映画も撮っているんですね。『花よりもなほ』っていう映画なんですけども。
(赤江珠緒)そうなんですね!
(町山智浩)俺はね、この人は落語が原点なのかな?って聞きたいんですけども。あと、落語って基本的に詐欺の話が多いんですよ。「時そば」ってそうじゃないですか。おそばをタダで無銭飲食しようとするっていう話ですけども。
(山里亮太)そうですね。割引させようとして。
(町山智浩)そうそう。みんな、それぞれ職業はあって貧乏なんだけど、それ以上にケチでズルいからなんか悪いこと、ズルいことをしようとするんだけど上手くいかないっていうお笑いですよね。で、いかにもリリー・フランキーがまあ長屋に住んでいる、そのまま着物を着て出てきそうな感じじゃないですか。
(赤江珠緒)そうですね!
(山里亮太)言われてみたらすごくその映像にぴったりな感じがする(笑)。
(町山智浩)あれが福山雅治だったら全然おかしな映画になるわけじゃないですか。
(赤江珠緒)リリーさんもそこまで悲壮感がないっていうかね。
(町山智浩)あの人、べらんめえでしゃべっているでしょう? あの人、本当は福岡の人なのに。落語を狙っているんだと思ったんですよ。江戸っ子っぽいしゃべり方。
(赤江珠緒)ああー。苦しい状況でもなんかちょっと飄々とね。
(町山智浩)そう。でね、落語じゃないか説っていうのは他にも続くんですけど。まあ、そういう映画を作っていまして。前にも『海よりもまだ深く』っていう映画を是枝監督が撮っているんですが、これは見ましたか?
(赤江珠緒)いや、これは……阿部寛さんと樹木希林さんが出られていて。
(町山智浩)そうなんです。こっちも完全に長屋みたいな話で団地の話なんですけども。狭い狭い団地のね。これに出てくる阿部ちゃんがまた最低の男なんですよ。あのね、なんか私立探偵をやっているんですけど、男子高校生がガールフレンドじゃない子と浮気しているのを写真に撮ってですね、カツアゲして3万円とったりしているようなやつなんですよ(笑)。
(赤江珠緒)うわーっ!(笑)。
(町山智浩)あと、息子に靴を買ってやる時に靴屋で靴を汚して。「これ、汚れているじゃねえか。安くしてくれねえか?」って安くしてもらうとかですね。
(赤江珠緒)ああ、それも落語にありますね! 「初天神」とかでね、みたらし団子の汁をちょっと舐めてなんていうのがね。
(町山智浩)落語なんですよ。そうそう。是枝落語説っていうのをいま考えているんですけども。だからそういう証拠がいっぱいあるんですが。そう聞いていると、そういう人だと全然知らない人は勘違いしちゃうんで真面目な話をしますとね……是枝監督はもともとテレビのドキュメンタリーを撮っていた人なんですよ。
(赤江珠緒)はい。
ドキュメンタリー畑出身の是枝監督
(町山智浩)で、事実関係を非常に調べて調査して、それを暴いていくという調査報道系の人なんですね。で、この人が20代の終わりに作ったドキュメンタリーが福祉切り捨ての中で死んでいった人たちの実態を追いかけていくというものなんですよ。もうこの人、テーマがそこからずーっと変わっていないんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。20代の時から。
(町山智浩)そう。20代の時から一貫していて。だからこの映画に関して現在の政治的な部分を批評しているという風に言わることもあるんですが……だって、20代からやっているんだもん。
(赤江珠緒)1991年から。
(町山智浩)そう。政権は関係ないんですよ。ずーっといま起こっていることなんですよ。この福祉切り捨てという問題。その中で死んでいく人たちがいるという。で、是枝監督の非常に大成功した初期の作品で『誰も知らない』っていう2004年の映画がありまして。
(山里亮太)柳楽優弥さんの。
(町山智浩)そうそう。あれは実は『万引き家族』とほとんど同じような話なんですよ。これ、4人の小学生の子供がね、YOUさん演じるダメな母親に置き去りにされて。その中で長男がいちばんちっちゃい子を殺しちゃったっていう事件があったんですね。なんとか子供たちの面倒をその長男がみていたんですが。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、ところが実際に彼は犯罪なのか?っていうことを是枝監督が調べていくと、どうもそうではない。だから司法とか行政とかマスコミは有罪か無罪かっていう2つに分けてしまうから。でも、その有罪か無罪かからはこぼれ落ちてしまう現実っていう実態があったはずだという。たしかに殺してしまったことは悪いことだけども、じゃあ彼は悪人なのか?っていうとそうではないじゃないかと。犯罪者はかならずしも悪人ではないということをその事件の中に入っていくんですね。だからドキュメンタリーと同じ手法で。それで、結局誰も知らないものを見ようとするんですよ。是枝監督は。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だからもう『誰も知らない』っていうタイトルは今回の映画もそうですけど、全ての是枝監督のテーマになっているんです。キーワードなんですね。
(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。
(町山智浩)で、その『誰も知らない』っていう映画はいま見るとすごいんですけど、カメラがものすごく子供に近いんですよ。
(赤江珠緒)カメラワークが。
(町山智浩)そう。カメラの位置、高さが。すっごい近くでほっぺたギリギリのところから撮影しているんですよ。すごいのは、これ完全に子供の目線で撮っているんですよ。
(赤江珠緒)そういうことですね。なるほど。
(町山智浩)上から目線で「これは犯罪だ!」とか「ひどいね! ひどい親だ!」とかそんなのじゃなくて、そういうのを全部取っ払って子供の中に入ってみようっていうことなんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
『誰も知らない』と『フロリダ・プロジェクト』
(町山智浩)でね、この映画はアメリカでもすごく注目をされたんですけど、いま日本で公開されている映画で『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』っていう映画があるんですね。これ、『たまむすび』でも紹介したんですけど、フロリダの安モーテルで暮らしているダメなシングルマザーとその娘の話なんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、それをカメラが8才の娘の視線で撮っていくんですよ。これ、おそらく『誰も知らない』の影響を受けて撮られた映画だと思います。アメリカ映画ですけども。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)ジャッジしないで、子供目線で入ってくるんですよ。なおかつ、でも大人の目線があって。その悲惨な子供たちをなんとかしてやりたいんだけど何もできないっていうもどかしさがあるんですね。これはその『フロリダ・プロジェクト』の中で悲惨なその親子を見ながら、血がつながっていないから何もできないホテルの管理人さんの目線なんですよ。是枝監督の目線は。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だからこれ、たぶん影響を受けているんですね。で、もうひとつテーマとしてさっき有罪か無罪かで2つにわけてしまうのが司法や行政やマスコミだって言ったんですけども、これはその前の前ぐらいに撮った『三度目の殺人』っていう映画はそういう話でしたよね。これは見ました?
(山里亮太)ああ、はいはい。
(町山智浩)あれは福山雅治さんが弁護士で。で、最初は上から目線で事件を担当していくとどんどんどんどん本当の事件の実態が見えなくなってくるという。だからまさに有罪か無罪かでわけられないものが見えてくるということで。これも同じテーマですよね。
(赤江珠緒)是枝監督は本当にそのテーマが一貫されているんですね。
いままでの是枝監督作品の集大成
(町山智浩)すっごい一貫しているんですよ。『万引き家族』はでも、いままでの過去の作品全部の集大成的なところがあって。だからね、これだけすごく成功しているんだと思うんですよ。さっき言った落語的要素……リリー・フランキー的な要素。セックスした後に背中にラーメンのスープについていたネギがついていてそれをなめる的な要素みたいなのもあるんですけど(笑)。『誰も知らない』は結構ヒリヒリするようなドキュメンタリー要素なんですよ。それ……落語とドキュメンタリー要素は別々だったんですけど、『万引き家族』ではくっついているんですよね。
(赤江珠緒)ああ、そうだ。
(町山智浩)笑えるところと残酷なドキュメント要素とがくっついているので。だからこれは集大成なんだと思うんですよ。
(赤江珠緒)そうか。『万引き家族』は同時にいろんなものが存在していますもんね。
(町山智浩)そうなんです。ただ、全て過去の作品にあったものなんですよ。っていうのは『誰も知らない』の中にすでにパチンコ屋の駐車場の自動車の中に置き去りにされている幼児っていうモチーフは出てきているんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。
(町山智浩)そう。だからたぶんそのまま放っておいたら子供は死んでしまうかもしれないんですけど、そこにリリー扮する車上荒らしが来れば助かるかもしれないわけですよ。そういう話ですよね。だから『万引き家族』っていうのは実際はおばあちゃんが死んだのにそれを隠して年金を受け取り続けていた家族という事件が実際にあって。それともうひとつ、親子で釣具屋で釣り竿を万引きした家族がいて。その2つの実際にあった事件を元にしてはいるんですけども。その中に、車上荒らしでパチンコ屋に置き去りの子供を救うっていう形で『誰も知らない』でちょっとだけ触っていたところがグッと押し出されて来るわけですよ。今回。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、もうひとつは『そして父になる』っていう映画ですよね。
(赤江珠緒)はいはい。
(町山智浩)あれもだから実際にあった赤ん坊の入れ替え事件を元にしていて。
(赤江珠緒)病院で取り違えられてね。
(町山智浩)で、1人のお父さんは福山雅治くん演じるエリートの建築家で。もう1人はリリー扮する貧乏なお父さん。で、子供は入れ違っていたから元に戻そうとするんですけど。それで実の親のところに子供が来るんですけど。福山くんのところにね。でも、子供はリリーの方を選ぶんですね。
(赤江珠緒)うん、そうですね。
(町山智浩)ごちそうも食べれておもちゃもなんでも買ってもらえて。で、いい家に住めるんだけど、それを子供は求めない。で、血がつながっていないリリーの方を求めるという話が『そして父になる』で。あれはテーマは今回の『万引き家族』の中でもセリフで出てきているんですけども、「産んだからって親になれるわけじゃないんだよ」っていう。「親になるっていうのは単に血がつながっているということではないんじゃないか?」っていう。まあ、セリフの中でその通り、出てきますけども。あと、「実の親ってなに?」っていう。「産んだけども虐待したり育児放棄したりパチンコ屋の駐車場に置き去りにする親と、全然血がつながっていないんだけども大事にする親と、どっちが”実の親”なの?」っていう。
(赤江珠緒)そうですよね。
(町山智浩)ねえ。でもそれは『誰も知らない』でも描かれていることで、親というのは意識してならないとなれないものなんだよっていうことですよね。で、それともうひとつ、エリート問題があるんですよ。
(山里亮太)エリート問題?
(町山智浩)あのね、『そして父になる』の福山くんを見ていると本当にムカムカするんですよ。エリートで。人の心がわからなくて。で、途中でリリーに説教されるシーンがあるんですけども。それって今回も同じことをやっていますよね。緒形直人さん扮する松岡茉優ちゃんの本当の父親のところ。すっげーいい家に住んでいて、金持ちで、超気取っているんだけども絶対に松岡茉優さんがそこから逃げ出した理由があるわけじゃないですか。嫌な家だったわけですよ。で、貧乏なゴミ溜めみたいなところでも、そっちの方が幸せだったわけじゃないですか。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)それって『そして父になる』と全く同じことをやっているんですよ。金じゃないんだよっていうね。だからごちそうを食べるよりも、それこそ90円のコロッケを食べている方が本当に好きな人と食べていればどんな安いものでも美味しいですよね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、ムカつくやつとメシ食っている時はどんな高級な料理でもクソマズいじゃないですか。人間ってご飯は味で食べているんじゃないですよね。実際は。
(赤江珠緒)そういうことですね。
(町山智浩)だからお金でもないし。また、結構セリフで言っているんですけども、「人はお金でつながっているんじゃないの」みたいな話があって。「じゃあ、血でつながっているの?」みたいな話になるとリリーが胸をポーンと叩いて、「ここでつながってるんだよ」って言うんですよね。「ハートでつながっているんだよ」って言うんですよ。でも、ハートでつながっていると法律的には全く何の保証もないんですよ。
(赤江珠緒)たしかにそうですね。現実にはね。
(町山智浩)だからこの悲惨な状況を見て、そこに司法とか行政が入ってくれば助けられるんじゃないか?っていう風に思っちゃう人がいるでしょう。「この映画はこうした福祉というものを強化した方がいいという主張なんだ」みたいにとらえる人もいるでしょうね。でもここで実際、途中で福祉の人たちが入ってきて行政が入ってくるとどうなるか?っていうと、このハートだけでつながっている家族はバラバラにされちゃうんですよ。誰も守らないから。彼らは結婚もしていないし。子供も血がつながっていないし。おばあちゃんとも。だから法律でも血でもつながっていないとこれは政府だったり法律だったり行政はそうした人たちを守るようにはできていないんですよ。
(赤江珠緒)たしかに。結局なにが正しいのか、わからないですね。そう言われるとね。
(町山智浩)だから高良健吾くんがすごく上から目線で話をして出てくるじゃないですか。役所の人としてね。で、彼が言うことは全部正論なんだけど、でもそうじゃないだろうっていう。その正論からこぼれる、有罪か無罪かからこぼれるところに人情があるんですよね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)人情なんですよ。で、落語なんだと思うんですよ、僕は。
(赤江珠緒)なるほど。
(町山智浩)落語って、まあ江戸時代の長屋を描いたり、明治とか昭和の初期の長屋を描いたような落語っていうのは聞いているとわかるんですけど、ものすごく養子の話が多いんですよ。
(赤江珠緒)多いですね。
(町山智浩)そうでしょう?
(赤江珠緒)あと、みなし子になっちゃったような子供は長屋全体で育てるみたいな。
長屋落語には養子の話が多い
(町山智浩)そうそう。長屋全体で引き取ったりね。それこそ泥棒に入ったらその泥棒に入った家が火事になっちゃって、そこに取り残されていた子供をさらってきて育てるとか。あと、「人情八百屋」っていう有名な落語があるんですけども。これは、まあちょっと悲惨なんですけど、借金で家賃が払えなくなって心中しちゃった夫婦に残された子供を八百屋さんが引き取る話なんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)ほとんど、だから『万引き家族』って落語のモチーフでしょう? で、「俺みたいな貧乏でこんなヤクザ者が子供なんか育てられるのかな?」って言いながら育てようとするんですけど、お客さんは「いや、金じゃねえし! あんたのその気持ちがあれば育てられるよ!」っていう気持ちでその落語を聞くんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、長屋というのは長屋全体でひとつの家族みたいになっているからいいんですけど、是枝監督の映画はやたらと安アパートとか団地が出てくるんですね。貧乏団地が。それは彼自身が清瀬市の団地にずっと住んでいたかららしいんですけども。でも、団地は長屋のようになっていないんですよ。隣に誰が住んでいるのかもわからないんですよ。マンションとかも。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)だから『誰も知らない』みたいな子供たち4人でもって置き去りでも誰も気がつかないっていう状況が起きるんですよ。
(赤江珠緒)そうなんですよね。
(町山智浩)だから、それに対するアンチテーゼがこの『万引き家族』で。彼らはまるで長屋のように、血がつながっていなくても家族を形成して、子供たちを守っているんですよね。だから実はね、前に僕が「是枝監督みたいな映画はイギリスでも同時に作られていたんだ」っていうことで『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていう福祉から取り残されてた子供のいない老人とシングルマザーが家族として暮らしていくっていう話を例に挙げたんですが。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)実はベルギーにもそっくりな映画があるんですよ。ダルデンヌ兄弟っていう人たちが作っている映画で『少年と自転車』っていう映画があって。それが貧困の中で捨てられた息子が父親から拒否されるんだけどもそれを拾った女性に子供として育てられるっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)そういう映画をベルギーでも作っているんですね。だから、これは日本の現実を描いたというんじゃなくて、実は世界中で起こっていることなんです。アメリカでも『フロリダ・プロジェクト』で起こっていて。それはどの国にも福祉というものはあるんですけど、どうしても福祉からこぼれるものがある。システムからこぼれるものを救うのは人情による擬似家族なんじゃないかっていうことなんだと思うんですよね。
(赤江珠緒)ほー!
世界各地で同時期に作られる疑似家族映画
(町山智浩)で、まさしくどれもそういう話で。それが世界で同時に作られているということは非常に大きな問題で。ただ、是枝監督っていうのはまたすごく大事で、落語と決定的に違うのは落語は言葉で語るんですけども、彼は言葉は使わないんですよ。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)いちばんこの映画で重要なシーンは樹木希林さんが海水浴に行って擬似家族、偽の家族たちが海水浴で楽しくしているところを見ながら口をパクパクパクって動かすんですよ。
(赤江珠緒)ああ、ありましたね。うん。
(町山智浩)気がつきました? あれ、なんて言っていると思います?
(赤江珠緒)ええーっ?
(山里亮太)なんて言っていたんだろう?
(町山智浩)わからない。それはわからないですけど、僕はたぶん「私には家族はいませんでした。子供もいませんでした。でも、死ぬ前にこんなに素晴らしい本当の家族をくれてありがとう」って言っているんだと思うんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(山里亮太)はー! 「ありがとう」なんだ。あそこは。
(町山智浩)じゃないかなと僕は思うんですけどね。
(赤江珠緒)なるほど。そうか。それは言葉なしですね。たしかにあのシーンはね。
(町山智浩)そうなんですよ。『コンフィデンスマンJP』でも同じ話をやっていてびっくりしましたけどね。『家族編』で。
(赤江珠緒)ああ、ありましたね! 大富豪がね。
(町山智浩)たぶん偶然ですよね。同時なので。ということでね、まあ本当に泣ける映画ですけどね。
(赤江珠緒)ねえ。
(山里亮太)落語。
(町山智浩)落語だなと僕は思いましたね。
(赤江珠緒)本当ですね。
(町山智浩)どんなにシステムや行政が進んでも助けられないものがあって。それを救うのはやっぱり人情しかないんじゃないかなと。
(赤江珠緒)ねえ。花火のシーンとか、花火は映らないんですけど、なんか美しいんですよね。
(町山智浩)そうなんですよ。花火っていうのは彼らの心の中にあるんですよ。僕らの心の中にあるんです。
(赤江珠緒)『万引き家族』、現在公開中ということで。ぜひご覧いただきたいと思います。今日は是枝監督の『万引き家族』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>
今日の『万引き家族』について話した時の手元のメモに「人生の落語者」とネタ書いといたのに、本番で言い忘れた……。https://t.co/upX5HnmAaS
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2018年6月19日