町山智浩 ポール・ニューマン『ハスラー』を語る

町山智浩 ポール・ニューマン『ハスラー』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年10月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でポール・ニューマン主演の映画『ハスラー』について話していました。

(町山智浩)で、ちょっと古い映画の話だったんですけど。今日、お話するのもちょっと古い映画の話になっちゃうんですよ。今週の10月21日からですね、テアトルシネマグループという映画館でですね、ポール・ニューマン特集というのがスタートするんですね。で、60年を中心に活躍したポール・ニューマンの代表作4本『明日に向って撃て!』『熱いトタン屋根の猫』『ハスラー』『暴力脱獄』が上映されるんですけども。これをちょっと紹介したいんですね。というのはその……ポール・ニューマンって、わかります?

(赤江珠緒)ものすごくハンサムな俳優さんというイメージではありますけど。

(町山智浩)なんか見てます?

(赤江珠緒)いや、見てないですね。『明日に向って撃て!』とかね。

(山里亮太)聞いたことはありますけども。

(赤江珠緒)「名作だ」みたいな感じでは聞いてますけど。ごめんなさい。通ってないな。

(町山智浩)聞いたことある感じですね? 僕、1969年生まれですけども。僕がギリギリなんですよ。リアルタイムで見てるのは。で、僕より下になると……僕、もう60ですけど。僕より下になるともう、ブルース・リーとかが出てきちゃうんで。ポール・ニューマンはあんまり見てない人が多いんですね。ただ僕は、子供の頃にポール・ニューマンの映画の『ハスラー』と『暴力脱獄』の2本を見まして、ものすごい影響を受けたんですね。

忘れられないセリフが何個かありまして。だからこの2本について、ぜひ見ていただきたいので。全然ポール・ニューマンとか興味ない人もね。というのは、いい映画と楽しい映画っていうのがあるわけですけど。楽しい映画といい映画の違いは何か?っていうことなんですよ。いい映画は見た後、すごく人生の糧になった気がするんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

「いい映画」と「楽しい映画」

(町山智浩)「これを見ておいたせいで、俺の人生が少し変わったかもしれない。変えられるかもしれない」という気にさせてくれるものがいい映画なんですね。で、特にこの『ハスラー』と『暴力脱獄』はそうだったんで。ちょっとお話をしますとですね。『ハスラー』というのはこれは「勝負師」って意味なんですよ。で、具体的にはこの映画でポール・ニューマンが演じるのはエディという名前のビリヤード打ちですね。で、彼はいつもはみんながビリヤードをしているところに行って。わざと下手くそなビリヤードをて。「ちょっと賭けをしようぜ」って言ってくるやつをカモにして。彼、実はめちゃくちゃ天才的にうまくて。そいつから金を搾り取るという仕事をしてるんですが。まだ若いんですけどね。

でも、そのビリヤードのランキングみたいなものを上げていくために、すごく強いやつとも戦わなきゃなんないわけですよ。で、そういうところに行くんですね。そこはもう完全に博打をする場というよりは、本当のプロのめちゃくちゃうまいやつらが勝負をかけてくるという場なんですね。雀荘とかにもなんか、そういうところがあるらしいんですけれども。ものすごく怖いところないんですよ。昔は将棋とかを打つところで、大阪とかにそういうのがあったみたいですけど。そういう場所に行くわけですよ。

そこで、ミネソタ・ファッツというビリヤード打ちと対決するんですけど。このミネソタ・ファッツっていうのはものすごく太ってるミネソタから来た男なんですが、これ実際のビリヤードプレイヤーなんですよ。本当にアメリカにそういう人がいたんですね。

(赤江珠緒)俳優さんじゃなくて?

(町山智浩)で、俳優が演じてはいるんですけど、このミネソタ・ファッツっていうのは伝説的なビリヤード打ちとして実在するんですね。それとこのポール・ニューマン扮するエディが戦うんですが……エディの方が圧倒的に技術がすごくてですね。あらゆる技を使って勝っちゃうんですよ。これ、ポール・ニューマン自身が一応、ビリヤードはやってはいるんですけども。すごい曲打ちみたいなところは本当にプロは手だけで演じてますけどもね。で、絶対に不可能と思われるようなショットもいくつかやって。それはこの映画で有名になって、その後もハスラーショットとかハスラーバンクショットって名前が残るぐらい、この映画で有名になったショットがいくつかあって。

(赤江珠緒)ああ、ハスラーショットって、そういうこと?

(町山智浩)あるんですよ。この映画から来てるんですね。で、今のお金にすると1000万円ぐらい、勝っちゃうんですよ。エディが。それで「勝ったぜ!」っておさらばしようとすると、このミネソタ・ファッツから「えっ? 何も終わってないよ」って言われるんですね。「でも、もう既に6時間ぐらい戦ったけど?」「いつ終わるか、誰が決めたんだ?」って言われるんですよ。で、それから延々と、何十時間も勝負が続くんですよ。終わりはないんですね。

(赤江珠緒)ええっ? 終わりが、ない?

(町山智浩)決めてないから。で、「途中で逃げることも許さない」ということでだんだんエディは絞り取られていって、最後は一文なしで。もうボロ負けするんですよ。で、この屈辱から彼が何とか立ち上がって、この絶対的なライバルのミネソタ・ファッツを倒すまでの物語が『ハスラー』なんですね。復讐戦を挑むんですよ。で、そのために、もうアメリカ中を回って。旅しながら各地のものすごく強い奴に勝負を仕掛けていくというですね、非常にゲーム感覚の映画にもなってます。

(赤江珠緒)武者修行をしていくみたいな。

(町山智浩)武者修行していくんですよ。で、その中で彼は非常に孤独なサラという女性と会って、非常に寂しい恋をするんですね。2人とももう身寄りがなくて、本当に1人ぼっちの2人が身を寄せ合って、愛し合っていくんですけれども。この映画は実はビリヤードについての映画じゃないんですね。というのは「ビリヤードに興味ないから、この映画を見ない」って……僕も全然、ビリヤードに興味はないんですけど。でも、ものすごく面白かったんです。

当時、子供だったからビリヤードのルールなんか知らないわけですよ。見た時にね。でもこの映画はすごく重要なことを言っていて。エディのマネージャーになってついてくる男がいるんですが。その彼が「なんでお前がミネソタ・ファッツに負けたと思う? 技術はお前の方が遥かにすごい。でもお前は彼に勝てないんだ。それはミネソタ・ファッツの方が遥かにお前よりも『キャラクター』があるからだ」って言うんですね。

(赤江珠緒)「キャラクターがある」?

(町山智浩)これ、すごく難しい言葉で。見た時、よくわからなかったんですけれども。これ、「人格が分厚いんだ。奥が深いんだ」っていうことですね。「もう底なしだから、彼と戦うとそれに巻き込まれていってしまうんだ。もうあらゆる懐があるんだ」って。で、それはやっぱり生きていく中でしか、その人格というのは厚くできないんですね。

(赤江珠緒)うわっ、すごいな。たしかに重い言葉ですね。

(町山智浩)いろんな人生を知って、いろんな苦難を経て、いろんな悲しみを背負っていく中で、初めて作られるものなんだっていう話なんです。そのために、このエディは非常に悲しい悲しい目に遭っていくんですね。で、勝負師としてのそのキャラクターをつかむということの代償に、いろんな大事なものを捨てなきゃならないんだっていう話で。これはね。この人格・キャラクターっていうのは実はギャンブラーにだけ通じることじゃなくて。あらゆることに通じることですよね。

物書きもそうですよね。物を書くのって、小手先じゃ書けないんですよ。いろんな経験が必要ですよね。いろんな人生を知ってることが。芸人さんもそうですよね。

(山里亮太)そうですよね。

ビリヤードを超えた、人生についての映画

(町山智浩)本当に芸人さん、そうですよね。落語なんか、特にそうですよね。同じネタをやっても、語り口が深くなる人と、深くならない人がいるんですよ。それは技術じゃない。人格の深さですよ。音楽もそうですよ。全部、そうなんですよ。全てに通じることなんで、これはビリヤードを超えた、人生についての話として『ハスラー』はすごくそのセリフがガーンと身に染みたんですけども。全然自分自身はそれを役に立ててないんですけど(笑)。

(山里亮太)いやいや、キャラクター。人間的厚みをね。

(町山智浩)そう。キャラクターなんだって言うんですよ。ストーリーじゃないんだ。技術じゃないんだ。キャラクターなんだっていう。あらゆるものに通じることですね。

(山里亮太)たしかにそうですね。

(町山智浩)で、この『ハスラー』っていう映画は非常に梶原一騎さんのね、いろんな物語にものすごく影響を与えてる映画でもあるので。そのへんを見ると、いろいろ発見できると思います。

ハスラー [Blu-ray]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

<書き起こしおわり>

町山智浩 ポール・ニューマン『暴力脱獄』を語る
町山智浩さんが2022年10月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でポール・ニューマン主演の映画『暴力脱獄』について話していました。
タイトルとURLをコピーしました