町山智浩 映画『AMY エイミー』とエイミー・ワインハウスを語る

町山智浩 映画『AMY エイミー』とエイミー・ワインハウスを語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でエイミー・ワインハウスを描いたドキュメンタリー映画『AMY エイミー』を紹介。彼女の歌詞の意味などを絡めて解説していました。

(町山智浩)で、今日紹介する映画は『AMY エイミー』っていう映画で。これ、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞をとった映画なんですが。ちょっと、『Rehab』っていうエイミー・ワインハウスの歌を聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。これは『Rehab』っていう大ヒット曲ですけども。これを歌っているエイミー・ワインハウスという歌手もですね、この人もロシア系ユダヤ人の移民の子供なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから本当にもう、やっぱり結構移民の人たちがイギリス文化を作っているんですけども。で、この『AMY エイミー』っていうドキュメンタリーはこの彼女のすごく短い人生――27才で亡くなっているんですね。2011年に――を、追っかけているドキュメンタリーですけども。この『Rehab』がですね、2007年に大ヒットしたんですが。はじめ聞いた時ね、アフリカ系の人が歌っていると思いましたよ。

(赤江珠緒)ああ、たしかにそんな感じですね。

(町山智浩)声がものすごくソウルフルで。曲自体も60年代のアメリカのモータウンサウンドと言われるリズム・アンド・ブルースに非常によく似ているんですけども。この人自身は完全にロシア系ユダヤ人ですからね。白人なんですが。だから、顔を見てみんなびっくり! みたいな感じだったんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)で、この人は自分の歌はほとんど作詞作曲している人なんですけども。これ、日本でもしょっちゅうラジオでかかってました。僕が行ったり来たりしている時に。でもね、これね、すごく楽しい曲でしょう? ノリノリで。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、歌詞は全然そういう内容じゃないんですよ。「Rehab」っていうのはリハビリのことで。具体的には、麻薬中毒を治す病院のことなんですね。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、この歌は「みんなが私を麻薬中毒の治療(Rehab)に連れて行こうとするんだけど、私は行かないわ!」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)えっ? そういうことを歌っている歌?

(町山智浩)そういうことの歌なんです。でも、これって日本だったら放送禁止ですよね。そのままだったら。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)で、アメリカでも結構かけちゃいけないところがあったりするんですよ。だってこれ、「麻薬を治すわ」っていう歌じゃないんだもん。「私は治さないわ」っていう歌なんです。

(赤江珠緒)そうですね。「行きたくないわ」って言ってるんですよね。

(町山智浩)そう。それを結構、うちの娘なんかもわけわからないまま歌ってましたけどもね(笑)。それぐらいヒットしたんで。はい。

(赤江珠緒)へー! でも、ご自身で書いたんですか?

(町山智浩)そうなんです。この『AMY エイミー』っていうドキュメンタリーは彼女のヒット曲の多くが彼女自身の実生活から出た、自分自身に起こったことを歌っているんだということを明らかにしていくドキュメンタリーなんですね。

(赤江珠緒)へー。

自身の体験を歌にする

(町山智浩)だから、結構日本でもヒットしたから、みんな知っているんだけども。実はすごく、まさに彼女自身が自分の身を切って流した血で書いたような歌詞なんだってことをこのドキュメンタリーを見るとわかってくるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、ちょっとこの歌の歌詞の中で「Yes, I’ve been black」っていう歌詞が出てくるんですね。「私はブラックだけど」っていう歌詞なんですよ。これ、意味がちょっとわからないんですよ。で、日本では訳詞とかも出回っているんで、その部分が「私は暗闇にいたけれども」とか訳されているんですけど。このブラックっていうのは、実は英語のスラングで、ヘロイン中毒の状態なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからすごくはっきりと、「私はヘロイン中毒だ」ってって歌っている歌なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、このドキュメンタリーは彼女が2006年に『Back To Black』という非常に大ヒット曲とアルバムを出すんですけども。その頃に知り合った、結婚した彼氏がいるんですね。ブレイク・フィールダー・シヴィルという男がいるんですが。これ、写真が行っていると思うんですけども。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)この男、顔はチャラい感じですけど。彼が、エイミー・ワインハウスにヘロインを教えた男なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)最悪だよ、こいつは。

(町山智浩)そう。まあ、日本にもそういう人、いますけども。芸能人で。悪い旦那に麻薬を教えられてる人がいますけども。数人いますが。それと全く同じ状態だったんですね。はい。で、これがね、すごく悲しいのはこの時に、この彼にヘロインを教えられて、その時にちょうどね、『007 慰めの報酬』っていう映画の主題歌を依頼されているんですよ。エイミー・ワインハウスは。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、『007』の主題歌を歌うのは、イギリス生まれのソウルシンガーが王道なんですね。さっきのシャーリー・バッシーみたいな。で、このエイミー・ワインハウスの声を聞いた時に、誰もが「この人は『007』のジェームズ・ボンドの主題歌を歌うために生まれてきた」ってみんな思ったんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですね。

(町山智浩)ところが、それで麻薬でぶっ倒れて、旦那と一緒にリハビリ施設に入ったために『007』が消えちゃったんですよ。

(山里亮太)ダメな旦那だね、これは。

(赤江珠緒)大きな仕事が。

(町山智浩)そう。で、またね、この旦那がね、女好きでね。そこら中でヤリまくりなんですよ。でね、ちょっと聞いてもらいたい曲があって。『Back To Black』っていう曲を聞いてもらえますか?

(町山智浩)これは、彼氏である旦那が彼女をおいて他の女のところに走ったみたいなことを歌っている歌なんですよ。で、他の女と行ったり来たりしていたんですね。この彼はね。で、この歌詞がですね、いま普通にかかりましたけども。この歌詞の中で出てくる、「Kept his dick wet」っていうのがどういう意味か?っていうと、この「dick」っていうのは英語で、3本目の足のことなんですよ。

(山里亮太)アレですね。

(赤江珠緒)ははー。

(町山智浩)ディック・ミネさんっていうのは3本目の足がデカかったから、ディック・ミネって言われたんですね。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)本当ですか!?

(町山智浩)そうですよ。あの人はお風呂に入る時、右足、左足、真ん中の足っていう、3回ポチャンと音がするって有名だったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)で、この歌詞の「Kept his dick wet」っていうのは、「彼はディックを濡らしたままで他の女のところに行ったわ」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)なんという……

(町山智浩)いわゆるその、ディックの乾く暇のない男だったんですね。とんでもない歌詞なんですよ。で、この『Back To Black』っていう歌のタイトルは、「彼が私をおいて行っちゃったから、私はまたブラック(ヘロイン中毒)に戻るわ」っていう歌詞なんです。

(赤江珠緒)そういう歌なんですか!

(町山智浩)そうなんですよ。だからものすごい強烈な歌なんです。で、結局は作っている歌、歌っている歌が全部、自分とその彼氏との間の厳しい、辛い恋のことばっかりを歌っていたんだっていうことが、この『AMY エイミー』っていう映画でわかって。いままではただ、いい歌だなと思っていたのが実はすごい、すさまじい、身を切られるような歌だったってことがわかってくる映画なんですね。

(山里亮太)ダメ男と付き合っていなかったら、生まれなかったかもしれないと考えると、皮肉なもんですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから、もしいい旦那だったら、こんな歌ができていないんですよ。

(赤江珠緒)そういうことか!

(町山智浩)だからね、これは難しい問題で。彼女は……芸能人とかもみんなそうですけど、生け贄なんですよね。本人が不幸であればあるほど、素晴らしい芸術ができたりするんで。すごく難しいところですね。『Love Is A Losing Game』っていう非常に切ない歌もありますし。いま、かかるかな?

(町山智浩)それなんかは、「彼に恋してしまったから、私の恋はいつも負け試合なの」っていう歌なんですよ。

(山里亮太)好きだったんだねえ。ダメ男なのに……

(赤江珠緒)そうだね。こんなにダメなのにね。

(町山智浩)そう。だからやっぱり「恋愛はより好きになった方が負け」っていう歌なんですよ。これは。そういうね、悲しい話なんですけどもね。

(赤江珠緒)しかも若くして亡くなっちゃったんですね。

(町山智浩)天才だったんですけどね。

(山里亮太)彼は、どうしているんだろう? いま。

(赤江珠緒)そうね。

(町山智浩)彼はね、まだ生きてるんですよ。のうのうと(笑)。

(山里亮太)こういうやつは長生きするんだよ!

(町山智浩)そう。それでまたね、エイミーの墓参りに行くところをテレビに撮らせてお金をもらったりしているんで。本当に最低の男ですね。この旦那はね。

(山里亮太)クズ野郎だ。

(町山智浩)はい。まあ、日本にもいますが。はい。非常にタイムリーな話題でした。今回は。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)誰のことか、僕らはわかりませんということで(笑)。

(町山智浩)いやー、よくわかんないですけどね。はい。そういうことでね、『AMY エイミー』はね、もうすぐ公開ですね。この映画。

(山里亮太)はい。7月16日から。

(赤江珠緒)日本で公開されます。今日はイギリス人歌手、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画『AMY エイミー』を紹介していただきました。歌も解説していただかないと、全然違う印象だったね。ただ聞いていたら。

(山里亮太)普通にいい歌。かっこいい歌っていう感じだったけど。

(町山智浩)そうなんですよ。直訳して歌ったら、もう放送できないような内容が多いんですが。はい。非常に切ない、この歌を聞く気持ちが変わる映画ですね。ぜひご覧ください。

(赤江珠緒)はい。町山さん、ありがとうございました!

(町山智浩)はい。どもでした。

<書き起こしおわり>

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