町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る

町山智浩 映画『21世紀の資本』を語る たまむすび

(町山智浩)そうなんですよ。だからフォードは高級車とかをずっと作らなかったんですよ。フォードが意図的にやったのは、彼らが共産主義が嫌いだったからなんですよ。ちゃんと自分たちで再分配をやらなければ、共産主義に革命を起こされてしまう。で、もちろんさっき言ったニューディール政策もそうで、このままだと貧乏な人たちがたくさん増えて革命を起こってしまう。そうならないように……つまり資本主義を守るために再分配を国家がやったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、はい。

(町山智浩)という2つの例があるんですね。で、中流が大きくなっていくとどうなるか? たとえば将棋だと「王将」がひとつだけあって……100%のうちの1%だけが金持ち(王将)で、残りの99%は全部「歩」みたいなもんなんですよ。将棋だとしたら。でも、中流が増えるっていうことは100%みんなが「角」とか「飛車」とか「と金」とか、そういったものになるっていうことなんですね。それってはっきり言って最強じゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね。「王将」と「歩」ばっかりのと、「飛車」とか「角」とかばっかりで「王将」だけがいないっていうのが勝負をしたら……そうですね。

(町山智浩)そう。だからアメリカは1950年代に世界最強の国になったんですよ。それで日本もそうで。日本もずっと金持ちに対する税金ってすごく高かったんですよ。戦後、日本の最高税率、どのくらいだったと思います?

(赤江珠緒)そもそも結構没収されたりもしてましたもんね。戦後、財産は。

(町山智浩)どのくらいだと思います? 75%ですよ。

(赤江珠緒)75!

(町山智浩)1980年ぐらいまで日本って金持ちに対する税金は最高で75%だったんですよ。それで大企業に対しては法人税は50%だったんですよ。だから、日本は1970年ぐらいに「1億総中流」って言われたんですよ。1億人が中流って最強じゃない? それ。でしょう?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから、すごい国になったんですよ、日本は。

(赤江珠緒)だから勢いもあったんですね。

日本の「1億総中流」

(町山智浩)そう。「社会的流動性」って言われるんですけども。誰もが一生懸命頑張ると金持ちになれる社会ってのは「社会的流動性が高い」んですね。一生懸命頑張っても貧乏な人は貧乏なままの社会っていうのは「社会的流動性が低い」わけですよ。その頃の日本はすごく社会的流動性が高かったんです。今、日本て世界で社会的流動性で何位だと思います?

(赤江珠緒)ええと……何位だろう?

(山里亮太)低い方なんだろうな。

(町山智浩)64位ぐらいですね(※注 日本の社会的流動性は2020年では世界第15位だった模様です)。たしかね。先進国のドンケツぐらいですね。

(赤江珠緒)ああ、そんなに低いですか?

(町山智浩)だからもう、全然金持ちになれないんですよ。それはどうしてか?っていうと、これはもうはっきりとわかりますけども。金持ちと大企業に対しての税率をどんどんと下げていったからです。アメリカもそうです。日本もそうです。イギリスもそうなんですよ。だから、そうなっていったんですよ。格差がどんどんと増えていってどうしようもなくなっていったんですね。でも僕が子供の頃っていうか、中学ぐらいまで金持ちに対する税率って75%ぐらいだったんですよ。

(赤江珠緒)町山さんが中学ぐらいの時に。ふーん。

(町山智浩)たしか、そうだったと思いますよ。小学校から中学校ぐらいまでそうだったと思います。だから、常に長者番付が発表されて、誰が一番税金を払っていて……っていうことが発表されていたんですけども。これは2006年以降、発表されてないんですよ。何で? 格差を隠すためでしょう、これ?

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)誰がどのくらいお金もらっているのか、わからなくなっちゃっているんですよ、もう。そういうことをずっとやっていったんですけど。この『21世紀の資本』っていう映画はそれだけだとただ説明してるだけの映画になっちゃうんですけど、ちょっと面白いのはモノポリーというゲームについての説明が入るんですよ。モノポリーっていうゲーム、やったことはありますか?

(赤江珠緒)あります。

(山里亮太)あります。

モノポリーというゲーム

(町山智浩)あれは要するには最初にある程度、みんな決まった同じ額のお金をもらって始めるじゃないですか。それから、土地を買ったり不動産を買ったりして、その不動産を先に買われたところに他の人が入るとそこで家賃を払わなきゃいけなくなるじゃないですか。

(赤江珠緒)サイコロを振ってその進んで止まったマスでね、鉄道会社とかいろんなのを買っていって。はい。

(町山智浩)そうそう。いろんな会社を買ったりして。それであれってどうしたら勝ちになるか、覚えています?

(赤江珠緒)あれは土地とかを押さえていかないといけないんですよね。会社とかを。いくら持っているのかが最終的には大事になりますよね。

(町山智浩)あれは最終的な勝ちは全ての資本を独占することで勝ちになるんですよ。「モノポリー(Monopoly)」っていうのは「独占」っていう意味なんですよ。それでどうしてそのゲームができたかというと、それは大恐慌の時に破産した人が作ったゲームなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? モノポリーってそうなの?

(町山智浩)つまり、金持ち、起業家が暴走して勝手なことをどんどんやり続けると完全な独裁になってしって、その人以外の経済活動が全部潰されてしまうという風な経験をした人なんですよ。だからあのゲームで勝つということは、悪いことをすることなんですよ。

(山里亮太)ええっ! そうだったのか……。

(町山智浩)糸井重里さんがあのモノポリーっていうゲーム、大好きでしたけどね(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、まあゲームとしてね(笑)。

(町山智浩)あれは、モノポリーっていうのは法律で禁止されていることですよね。独占禁止法という法律がありますから。で、そういう独占禁止法とかができて、そういうことをやって資本家がどんどんと暴走して、何でも独占してしまうことっていうのを禁止するようになったのはその後なんですよ。だからあのゲームで非常によく分かるのは、放っておいたら、誰も規制しなければ、金持ちが全てを独占してしまうんだってことなんですよ。

(赤江珠緒)たしかに富は集中するっていうのは究極にわかりますよね。

(町山智浩)そう。それで富が集中するんだけれども、集中していったところからしか権力は生まれてこないんですよ。今、現在その政治家は日本もアメリカもそうですけども、ほとんどが二世です。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。

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