Saku Yanagawaと渡辺志保 スタンダップコメディを語る

Saku Yanagawaと渡辺志保 スタンダップコメディを語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

(渡辺志保)そういう姿勢ではいるんですけども。そう。その滑った時とかね、オフェンスされた時の対処法を聞きたかったんですね。

(Saku Yanagawa)僕も、だからっていうわけでもないですけども。こっちも攻める。「ネタ」という言葉で攻めますし、それに対して向こうも言ってくるっていうのはある種、ヒップホップの考えに近いのかもしれないですよね。

(渡辺志保)間違いないですね。マイク1本でね、戦っていかねばならないですから。というわけで、ちょっとこのへんでサクさん、ヒップホップファンでもいらっしゃるということで。やや強引に「かけたい曲があったらおしえてください」って前もってお願いしていまして。それで選んでくださった曲があります。なのでここで1曲、サクさんから曲紹介をお願いしたいと思います。

(Saku Yanagawa)シカゴ出身のラッパー、ヒップホップアーティストですね。チャンス・ザ・ラッパーの『Acid Rain』をお願いします。

Chance The Rapper『Acid Rain』

(渡辺志保)はい。いまお届けしたのはSaku Yanagawaさんに選んでいただきましたチャンス・ザ・ラッパーの『Acid Rain』でした。やっぱり彼ってシカゴですごい存在感を放っていますか?

(Saku Yanagawa)そうですね。もちろんシカゴのヒップホップシーンをいま、先導しているというだけではなくて、チャリティーとかの活動もすごく盛んで。公立学校にボンとお金を寄付したりとか。あと、僕個人的には実はサイゾーの対談でもお話させていただいたんですけども。普段、レギュラーで出ていて今日もTシャツを着ているんですけども……。

(渡辺志保)「Laugh Factory」っていうロゴのTシャツを着てらっしゃいますが。

(Saku Yanagawa)これはシカゴのコメディ専用劇場で。ここの舞台に出ているんですけど。ここで夜の出番を待っていたら、誰でも舞台に上がれるオープンマイクっていう舞台があるんですけども。それにいきなりチャンス・ザ・ラッパーが出てきよって。「ええっ?」ってなって。それでドン滑りして帰っていったっていう。

コメディクラブに飛び入りしたチャンス・ザ・ラッパー

(渡辺志保)フフフ(笑)。だってラップすることなく、ネタを披露しいったわけでしょう?

(Saku Yanagawa)ネタを披露して。でも僕は逆にその姿勢はすごいなと思ったんですよ。しかも、特別枠じゃなくて一般の人と一緒に並んで出て。ほんでまあまあまあ、ちょっとドン滑りして新聞に載ってもうたっていう。

(Saku Yanagawa)ただ、それがあったので僕はアーティストとしても尊敬できるっていう。同世代なんですけども。そこも含めてやっぱり1曲目はチャンスかなということで。チャンスにさせていただきました。

(渡辺志保)ありがとうございます。私もですね、カニエ・ウェストのコンサートに行くためだけにシカゴに行ったことがあって。3泊5日の弾丸旅行で(笑)。

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(Saku Yanagawa)カニエの地元ですもんね。

(渡辺志保)そうそう。アーティストの地元でそのアーティストのライブを見るっていうのは結構……ライフワークとまでは言わないですけど、醍醐味が違うっていうのが持論としてあって。で、シカゴで見るカニエっていうのもすごい良かったですし。シカゴの街も、その時にはじめて見たんですえけども。いい思い出しかないし、ご飯もなんかすごい美味しかったし、人も優しいし。

(Saku Yanagawa)そうですね。3泊だとまだいいところが見えるんでしょうね(笑)。

(渡辺志保)そうそう。たしかにおっしゃる通りだと思う(笑)。シカゴって結構、それこそギャングスタラップじゃないですけども、そういう激しいドリルと呼ばれるラップシーンもあったり。

(Saku Yanagawa)「Chiraq(Chicago + Iraq)」ですからね。

(渡辺志保)「Chiraq」。イラク(Iraq)よりもたくさんの人が銃で死んでいるという、そういう事実もありますから。そういうところももし機会があればチラ見ぐらいはしたいなとも思うんだけども、なんせね、初めて行ったシカゴのシティですから。まあすごいめちゃめちゃいいところだなと思って。で、サクさんのお話をうかがって、コメディの聖地であるというお話もうかがって。だから次に行く時は絶対にそのコメディクラブに初挑戦してみたいなって思ってますね。

(Saku Yanagawa)ちょっと僕がコーディネートさせていただきますよ。本当に。

(渡辺志保)ああ、ぜひともお願いしたいです。で、いま、ちょっと全然話が変わっちゃうんですけども。Amazonプライムで見れる『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうドラマ。あれって昔のニューヨークが舞台なんですけど。それは女性がちょっと抑圧されてきた方というか。すごい恵まれて旦那さんもエリートの方で。子供がいてご両親もいて……みたいな恵まれた女性が、そのふとしたきっかけで。

というか、泥酔したのがきっかけで、自分にスタンダップコメディアンの才能があるかも?って気づいて。そこ人生が変わっていくっていうストーリーで。今年のエミー賞とその前のもかな? 受賞しているぐらいのドラマなんですけども。ああいうのを見ると、やっぱり女性が輝く場所っていうか、その背負っていた鎧を脱ぐ場所としてのコメディクラブ。スタンダップコメディのシーンというものがあるんだなっていうのをね。

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(Saku Yanagawa)そうですね。映画でもトム・ハンクスが主演した『パンチライン』なんていう映画があって。サリー・フィールドが普段は主婦なんですけども、自分のコメディの才能に気づいてやって。でも旦那は「お前、家にいろ!」っていう。80年代の作品で。「家事をしていろ!」って言うんですけども、それも旦那さんがだんだんと理解していって最後にショーを見に来るっていうのがあって。それがひとつ、コメディの魅力かなっていう。

抑圧からの解放

(渡辺志保)そうですね。なので、抑圧からの解放って言うとちょっと仰々しいかもしれないですけども。やっぱりアメリカのスタンダップコメディって何でもかんでもぶちまけると言うか。そこにやっぱり皮肉だとか、自分の意思をもってぶちまけるひとつの芸というか。

(Saku Yanagawa)そういう自己表現の形だと思うので。だから最近その「女性」っていうことで言うと、最近のコメディの流れとしてすごく強い女性像を打ち出したコメディアンが増えていて。たとえば、本音をとにかくぶちまけて。シモネタを言うこともいとわないっていうような。

(渡辺志保)ねえ。サラ・シルバーマンとかもすごいですからね。

(Saku Yanagawa)すごいですよね。で、それに対して女性だけじゃなく、男性のお客さんも熱狂をするっていう構図がひとつ、アメリカのエンタテインメントの素晴らしいところでもあるかなと思ってるので。

(渡辺志保)なるほどね。そう。でもそうやってこのネタ選びが秀逸じゃないですか。やっぱりみなさん。で、最初からサクさんもおっしゃっているけども、めちゃめちゃ政治的なこととか社会的なこととかも自分でそれをネタにするっていう。みなさん、めちゃめちゃそこに関しては意識的でいらっしゃるということですよね。

(Saku Yanagawa)そうですね。やっぱり日常的にニュースは見てますし、僕は本当にアメリカ育ちじゃない分、キャッチアップせなアカンなという気持ちがあるので。もう朝起きたら新聞6紙は読むようにはしていて。それをやって筋トレしたらちょうど舞台の時間かなっていう感じですけども。

(渡辺志保)すごい! そうなんですね。だから日本だとどうしてもちょっと政治的なことは慎まなければいけなかったりとか、やっぱりちょっと過激なことを言うとすぐに叩かれるとか炎上してしまうということもあると思うんですけど。やっぱりそこは厭わない姿勢ですか?

(Saku Yanagawa)そうですね。燃えることは世の中、ありますから。ただやっぱり、その燃え方というか、その自分で覚悟した上で……「炎上商法」っていう意味じゃないですよ。自分が表現したくて「これをどうしても笑いに変えて伝えたいんだ!」と思ったことで炎上するのであれば、無知で炎上するよりはいいのかなと思いますね。

(渡辺志保)そうですね。無知……「知らない」っていうことですよね。で、ちょっと前にもデイヴ・シャペルがめちゃめちゃトランスジェンダーの方をネタでいじって。そしたらその該当するトランスジェンダーの方が自殺を図ってしまったっていうニュースが本当につい最近もあって。で、デイヴ・シャペルもあれだけ大きい大物コメディアンでありつつも、やっぱりそういうひとつの弊害というか、影の部分があるっていう。それでサクさんも現地でスタンダップコメディアンとして本当に毎晩のように舞台に立たれていて。そういうコンプラ的なところで日々、変化してるなっていう風に思われますか?

トランプ大統領誕生後の状況の変化

(Saku Yanagawa)本当にこの2、3年で大きく変わっていたなと。とりわけトランプが大統領に就任して、その排外主義本というものを進める中で、それに対して過敏になるっていう世間の流れもあるので。まあ本当に前までだったら確実にただの笑いになっていたことが、まず「笑いづらいな」っていう全体の雰囲気が構築されているなというのを肌で感じますし。だからこそ、クリーンなネタをするコメディアンが増えてきたりという流れもあるのと、あとは僕自身もそこの一線っていうものの線引をいま、ちょっと変えたりはしていますね。とりわけ、他人種に対する……他人種とか他カテゴリーって言ったらいいんですかね? そこに対してのジョークというのがジョークとして通用しなくなってきてるっていうのはすごく感じます。つまり、僕がじゃあヒスパニックの人だとか、僕がジューイッシュの人、黒人の人などに対していじるってネタはあまり……スマートであっても受け入れられないんじゃないかな?っていうね。

(渡辺志保)「好ましくない」という風に判断されてしまうのかな? で、それこそサイゾーの記事にもね、書いてくださってますけれども。日本でもやっぱりいつまでたっても他人種に対する無知ないじりというかね。Aマッソであるとか、あとはダウンタウンの浜田さんが黒塗りにしていたりだとか。

(Saku Yanagawa)ブラックフェイスにね。

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(渡辺志保)それで叩かれるというか……「叩かれる」という言い方は私は好きではないんですけども。それで私がすごく残念だなと思ってしまうのは、そういう彼らのそのお笑い的な表現。もちろん「面白さ」を狙ってしゃべったり表現したりすることが、やっぱりその無知から来ていることもそうだし。その人種的な、あとはコミュニティー的なコンテキスト(背景)とか社会的意義を全く無視して。単純にその見た目だけをあげつらうとか、そこにだけフォーカスした笑いになってしまうっていうのが本当に残念だなと思うんですよね。

(Saku Yanagawa)そうですよね。ひとつには、これはいろんなところでも言ってんですけど、ユーモアっていうのはローカルなものであっていいと僕は思っていて。世界に通じる笑いって本当に突き詰めると結局はもうスラップスティックであったり、体を使ったものになる気もするんですが。その上でいま、たとえばそのブラックフェイスの件にしても、いろんなものがそのひとつの国の中だけで完結するっていうのはありえない状況になってきているわけですよね。コンテンツがこれだけグローバルになる中で、ああいうものへの配慮を誰か1人でもできないっていう状況が寂しいなとは思いますね。

(渡辺志保)本当、そうですね。だからたとえばアメリカに目を向けると、そのブラックフェスっていうものは1920年代ぐらい、それ以前までさかのぼって。

(Saku Yanagawa)ミンストレル・ショーとかね。

(渡辺志保)その白人の人たちが当時、奴隷であった黒人の人たちを侮蔑するための笑いとしてそもそもの成り立ちがあるんだよっていうその背景がもちろん大前提としてあるけれども。それを「日本ではそんなの、関係ないじゃないか」って言っちゃって、この日本のコミュニティーの中だけで成立するお笑いとして受け止めることももちろん可能ではあるが
でもいまはもうそういう時代では……。

(Saku Yanagawa)そういう時代ではなくなってきているっていうことに敏感でないといけないなって、改めて僕は感じさせられましたね。

(渡辺志保)私も全くその通りだなっていう風に思います。で、ちなみにサクさんが今後、アジア生まれアジア育ちのコメディアンとしてアメリカで成し遂げたいことってなにか、具体的にはありますか?

(Saku Yanagawa)本当に具体的に言うと、サタデー・ナイト・ライブというNBCの番組があるんですけど。これ、日本でもご存知の方がいらっしゃるかもしれないですけど。過去に本当に……たとえばブルース・ブラザーズの2人とか、アダム・サンドラーもそうですし、有名な名だたるコメディアンがそこから巣立ってきているような番組で。これ、まだ……いままでにアジア人はいたんですけど、日本人としてレギュラーになった人っていうのは誰もいないんですよね。これにならないと……っていうね。

(渡辺志保)目指してほしい! SNLですね。でもあれも本当に攻め攻めじゃないですか。去年とかもアレック・ボールドウィンがね、あれだけトランプ大統領をいじって。トランプ大統領もそれに対してめちゃめちゃ……。

(Saku Yanagawa)ツイートしていましたね。

(渡辺志保)「いい加減にせえよ!」みたいな感じで、もうあからさまに嫌悪の感情を見せていた。でも、その対立構造が成り立ってしまうのがアメリカのすごいところですよね。

(Saku Yanagawa)NBCが守ってくれますからね。何があっても。そこがやっぱりすごいなって思いますね。

(渡辺志保)そこがすごい。だって日本でそんなね、現総理大臣をあそこまでこき下ろすようなことをしてしまったら……。

(Saku Yanagawa)あるとしても、ニュースペーパーさん。政治風刺をする方々がちょっと見た目とかをいじるっていうのはあると思うんですよね。あとは小泉さんのライオンヘアーで出てきて「感動した!」とかっていうのはあるんですけども。政治の政策とかまでは切り込んでいかないですから。切り込めないっていう風潮がありますからね。

(渡辺志保)でも、ちなみにサクさんは日本のお笑いのそういう風潮とかは変えたいなっていう意志はありますか?

(Saku Yanagawa)まあ、「お笑い」という分野で変えられるかっていうところに関しては、僕はいまお笑いの畑にいないので何とも言えないんですけど。ただ、そのスタンダップコメディというメディアを通して、まずそのシーンを構築して、そういう政治にも北風と太陽で言うと太陽のアプローチから変えていければなっていうのは本当に思ってます。

(渡辺志保)すごい! 本当に楽しみだし。YouTubeで東京のビルボードカフェでやってらっしゃる動画とかも拝見して。いやー、これは日本で笑える人と笑えない人でたぶん真っ二つにわかれちゃうと思うんだけども……。

Saku Yanagawa at Billboard

(Saku Yanagawa)でも、さっきも「ローカル」っていう話をしましたけども。日本でやる時は僕は日本語ネイティブとしているので、日本に伝わる、でも攻める姿勢というものは忘れない作品。しかもただただ攻めただけでなく、風刺というかウィットを使ったものでやらなければなと本当に思っています。

(渡辺志保)なので本当にサクさんの笑い、コメディに触れたい方はぜひちょっとYouTubeとかでチェックしていただいて、機会があればぜひアメリカの現地でね。

(Saku Yanagawa)ぜひ見ていただければなと思います。

(渡辺志保)そうですね。で、今回ちもう1曲、サクさんに選曲をお願いしていまして。この曲を選んだ理由というのはありますか?

(Saku Yanagawa)これは実を言うと、さっきチャンス・ザ・ラッパーとのちょっとした関わりを言いましたけども。実は彼がいま、シカゴで使っていた……いまでもたまに使うらしいんですけども。クラシック・スタジオというところで1回、レコーディングのお手伝いをさせていただいたことが。たまたまなんですけど、ありまして。で、そこにいるエンジニアがチャンスのさっきの『Acid Rain』の入った『Acid Rap』の制作者なんですよね。エルトンっていうやつなんですけども。エルトンと仲良くなりまして、彼が引き連れて日本でこの前公演を果たしたスミノという。

(渡辺志保)ああー。いいラッパーですね。

(Saku Yanagawa)彼の『blkswn』という曲をお届けしたいなと。さっきエルトンにメールしたら、「おう、流しとけ。たのむで!」っていうことだったので。彼もね、中国系アメリカ人なんですよ。

(渡辺志保)じゃあちょっと親しみを感じるという感じですかね。ありがとうございます。ということで、今日のゲストはSaku Yanagawaさんでした。たっぷりいろんなお話をうがかいました。ありがとうございました!

(Saku Yanagawa)ありがとうございました!

Smino『blkswn』

<書き起こしおわり>

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