町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムで配信中の人気ドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』を紹介していました。
(町山智浩)で、なぜこれ(『シュガー・ラッシュ:オンライン』)を前振りにしたか?っていうと、今回紹介する『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうのもそういう話なんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)これは1950年代が舞台なんですけども、その時代のニューヨークに住むミッジという名前の26歳の奥さんで2人の子供のお母さんが主人公なんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、1950年代だからその頃、アメリカはものすごく豊かで。本当に、そこに写真があると思うんですけども。このコートとかドレスとかの色がまあきれいな映画なんですよ。
#12DaysofASD4 Day 7: I'll be watching the new season of The Marvelous Mrs. Maisel over break. Can't wait! #ASD4All pic.twitter.com/5R0kM7mXNp
— Tara Corral (@taracorral) 2018年12月14日
(赤江珠緒)ああ、なんかみんな仕立てのいいコートを着ているようなね。
(町山智浩)まあ映画っていうかドラマなんですけども。ピンクのコートとかグリーンのコートとかワインレッドのドレスとか。で、その頃って男も女もいつも正装をしていたんですね。要するに、ジーパンにシャツで外に出る人っていうのは本当のワーキングクラスの人だけだったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、ある程度中流の人たちはみんないつも化粧をして。それこそネックレスとかをつけて手袋とかをして帽子をかぶって外を歩くのが普通っていう時代の話なんですよ。
Congrats to Robin Urdang, Amy Sherman-Palladino, and Dan Palladino, on their music supervision @TheEmmys win for “The Marvelous Mrs. Maisel”! pic.twitter.com/7Zp1WvZ165
— Guild Of Music Supervisors (@guildofmusic) 2018年9月9日
(赤江珠緒)ああ、そうか。男性もみんな帽子をかぶってますもんね。
(町山智浩)そういう時代なんですよ。でね、ちょっとこの中で流れる歌でね、『I Enjoy Being A Girl』。「女の子でいるの、大好きよ」っていう歌をちょっと聞いてもらえますか?
(町山智浩)はい。この歌はもともとはミュージカルの歌なんですけども。歌詞がすごい歌なんですね。1958年の『フラワー・ドラム・ソング』というミュージカルの歌で。「私は女の子でいるのが大好きなの。私は出ているところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルが自慢なの。歩く時はお尻を振ってくねくね歩くのよ。洋服はフリルやレースがついているのが好きなの。まつげはいつもきっちりカールしていて、いちばんうれしいのは男の人に『かわいいね』って言われることなの」っていう。どう思いますか、この歌詞は?
(山里亮太)なんか典型的な男が思い描くいい女像っていうか。
(赤江珠緒)「女の子!」って意識しまくっている。
(町山智浩)まあ、というか見た目とセックスだけなんですよ。存在価値が。で、それが素晴らしいっていう歌なんですよ。でも、この歌は完全な皮肉な歌でオチがついています。「私の夢はこのアメリカで自由を謳歌する自由な男性に愛されること。私のような女の子を好きな男性に愛されること」っていうのがオチに来るんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)つまり、「アメリカは自由の国で男は自由だけど女は自由じゃない」っていうことですよ。
(赤江珠緒)うーん!
(町山智浩)こういうのに縛られていて。で、この『マーベラス・ミセス・メイゼル』もすごいシーンがあるんですけど。その頃、女の人たちってネグリジェをつけていたんですね。夜に寝る時。いま、ネグリジェ着ます?
(赤江珠緒)ネグリジェは着ないかなー?
(町山智浩)あと夜寝る時、夜化粧っていうのをやっていたんですよ。夜、寝る時にお化粧をするんですよ。なんでネグリジェを着て化粧をするんだと思います?
(赤江珠緒)えっ? やっぱり相手を喜ばせるため?
(町山智浩)夫の娼婦になるためですよ。そういうシーンがあってちょっとゾッとするんですよね。いま見ると。
(赤江珠緒)じゃあ全然、選ばれないと自由じゃないっていう?
(町山智浩)うん。だからはっきり言って「結婚」っていう契約で買われた娼婦なんですよ。その頃の妻っていうのは。だからそこから始まるんですよ、この『ミセス・メイゼル』っていうドラマは。「ミセス・メイゼル」っていう名前もすごくって、「メイゼルさんの家の奥さん」っていうだけの価値なんですよね。彼女は。
(赤江珠緒)ああーっ! そうか。うん。
(町山智浩)本名の自分の名前「ミッジ」っていうところでは呼ばれないんですよ。
(赤江珠緒)うん。
1950年代の女性の地位
(町山智浩)「メイゼルさんところの奥さん」としか呼ばれないっていう。で、当時50年代は女性の地位が低くて、雇用機会均等法もないし。だから会社は女性を雇わなくても全然よかったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だから結婚して専業主婦になるしか生きる道がなかった時代に彼女はそこから脱出していくっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)これがまたもうひとつひねりがあって。このミッジの旦那さんはジョエルっていう人で、会社で結構成功しているサラリーマンなんですけど、コメディーが大好きなんですよ。
(赤江珠緒)旦那さんが。
(町山智浩)旦那さんは漫談が好きなんですね。スタンダップコメディーが。で、そこに彼女を連れて行くんですね。まだ結婚前、デートをしている時に。で、そのミッジはいっぺんでそのスタンダップコメディーが好きになるんですけど、この旦那さんのジョエルは自分もスタンダップコメディアンになりたくて、コメディークラブの素人コンテストに出るんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ところがね、本当に下手くそで、まるで芽が出ないんですね。一方、奥さんの方がお笑いの才能があるんですよ。
(山里亮太)ああーっ、これは辛い!
(町山智浩)そう。結婚式の挨拶でも彼女がもうバーッとみんなの喝采をさらったりするんですよ。で、だんだんそれがわかってきて、旦那のジョエルがイライラして自分の奥さんのことを責めて。自分が上手くいかないから。で、しまいには愛人を作って家を出ちゃうんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ?
(山里亮太)そうか。才能への嫉妬。
(町山智浩)そう。で、捨てられたこのミッジさん、奥さんは頭にきてベロベロに酔っ払ってコメディークラブに殴り込みに行って。ステージに無理やりあがってマイクを掴んで「いまね、私の旦那が家を出ていったのよ!」って話し始めるんですよ。するとお客さんも「これは芸なのか?」って思うからみんな「なに、なに?」って聞くわけですよ。出し物かと思っているわけですよ。みんな。で、「あのね、私の旦那はガキみたいな変な愛人のところに行っちゃったのよ! こんな素敵なおっぱいの奥さんを捨ててね!」って言ってそのミッジはいきなりおっぱいをペロンって出しちゃうんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)それで警察に公然わいせつ罪で捕まっちゃうんですよ。っていうところから、でも彼女それでバカウケしちゃうんですね。お客さんたちにめっちゃくちゃにウケて。面白いっていうことで。で、下ネタを徹底的に過激にやる人妻の漫談師としてだんだん大人気になっていくという話なんですよ。
(赤江珠緒)ほー!
(町山智浩)ただ、この1950年代、さっき逮捕されたって言ったみたいにお笑いとかでも下ネタを言ったりすると警察が舞台に来てステージにいる漫才師に手錠をかけちゃうっていう時代だったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、彼女が漫談を好きになった理由っていうのはレニー・ブルースというその当時出てきた漫談師がいて。これも実在の人物なんですけども。彼がその「絶対に言ってはいけない」と言われていたセックス関係のネタ、下ネタと人種問題とか政治とかを全部ギャグにしていったんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、もう実名でバンバン政治家の名前を出したり、いろんな芸能人の名前を出したりして、もうめっちゃくちゃに叩いたり徹底的に下ネタを言ったりして。あとは自分はユダヤ人だったんですけど、ユダヤ人の問題とか黒人の問題とか差別の問題もしゃべりまくって全部笑いにして。で、片っ端から逮捕されていったっていう人がレニー・ブルースっていう人なんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、その人によってアメリカのコメディーっていうのは革命が起こって変わっていったんですよ。で、このミッジさんはその弟子みたいになっていくんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、これは実在の女性漫談師がいまして。ジョーン・リバースっていう人がいて、その人がモデルになっているんですね。その人も本当にニューヨークのいいとこのお嬢さんで人妻だったんですけど、まあ下ネタばっかり言う人で。で、「私はモテないのよね。男がなんか近寄らないのよね。産婦人科に見てもらおうと思ったら、産婦人科の先生が『電話にしてくれませんか?』って言うのよね」みたいなね。そういうギャグをやったりとか。徹底的に下ネタをやりながら80歳すぎまで下ネタ一筋で通した女性芸人がいて。その人がモデルなんですけどね。
(赤江珠緒)ああ、モデルがいらっしゃるんですね。
(町山智浩)いるんですよ。ただ、やっぱりその当時は女性が下ネタをしゃべっているっていうだけで男がケンカを売ってくるんですよ。「お前、やめろ! お前みたいな女は許せねえ!」とかって言って。そういう非常に保守的な時代で。だからその中で彼女がどうやって戦っていくのか?っていうことと、旦那は自分の奥さんの方が優秀であるっていうコンプレックスをどう克服できるのか? みたいなことがテーマになっているんですよ。
(赤江珠緒)へー! これは町山さん、コメディーっておっしゃってましたから、笑える感じで進んでくるんですか?
(町山智浩)もちろん。すごく笑えます。ものすごく面白いですよ。
(赤江珠緒)テーマはすごい普遍的でね、考えさせられるないようですけども。
普遍的なテーマを描く
(町山智浩)すごい普遍的なんです。だから50年代と比べてどのぐらい世の中が変わったのかとか、変わっていないのかとか、そういったことをいろいろと考えさせられるんですよね。で、だからいま『シュガー・ラッシュ:オンライン』にしても、『スター誕生』にしてもそうなんですけど、なぜその社会に女性が進出するということがどの世界に行っても遅れているのか?っていうと、やっぱり女性と男性が実は基本的には同じ能力を持っているわけだから、女性に社会進出を普通にされたら男の人はだいたい半分ぐらい職を失うことになるからじゃないのか?って思いますよね。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)だからブロックしているのかなっていうね。そういうところで、彼女の敵になったり味方になったりする人がいっぱいいて。で、しかもそれを非常に50年代風の美しいファッションと夢のような映像で見せていくという素晴らしいドラマがこの『マーベラス・ミセス・メイゼル』なんですけども。もうね、アマゾンではシーズン1、2が見れますので。ぜひご覧になっていただきたいなと思います。はい。
(赤江珠緒)ああ、いいですね。なんか本当にここ最近、そういうテーマのお話が続きましたね。
(町山智浩)はい。赤江さんとか全然大丈夫なんですか? そういうの。
(赤江珠緒)うん?
(山里亮太)下ネタ言う女性芸人として。
(赤江珠緒)下ネタ?
(町山智浩)大丈夫ですか? まあ下ネタっていうか、要するに旦那さんとの関係とか。
(赤江珠緒)ああー。そうですね。なんか、うん。うちは旦那さんのお母さんとお父さんが割とお母さんが強かったらしいんですよね。
(町山智浩)ああ、そうなんですか。はいはい。そうすると、そういうのには慣れている?
(赤江珠緒)慣れているみたいですね。
(町山智浩)まあ、さっき言ったジョーン・リバースさんっていう実在の芸人の旦那さんもね、そこでくじけて自殺したりしているんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)だからいろんな問題がね、アメリカは進んでいるって言ってもあるんだなって思いますね。
(赤江珠緒)へー! そうですね。
(町山智浩)ということで、『シュガー・ラッシュ:オンライン』の方も面白いので。
(赤江珠緒)はい。今日は現在公開中の映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』と冬休みに一気見できるというドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』を紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)はい。良いお年を!
<書き起こしおわり>