渡辺志保 Kanye West『Jesus Is King』を解説する

渡辺志保 Kanye West『Jesus Is King』を解説する INSIDE OUT

(渡辺志保)でも、このへんは私も不勉強なところがたくさんなので勉強しなくてはと思うんだけども。そう思ったきっかけのひとつがその憲法修正第13条に関するあれこれ。で、もうひとつがちょっと前。10月12日かな? ワシントンDCにあるハワード大学っていう大学でカニエが自分の子供プラス、キム・カーダシアンも伴ってサンデーサービスを開催したんですね。で、ハワード大学の公式Twitterとかでも結構好意的に。「いよいよ始まりました!」みたいな感じでレポートされてたんですけれども。

ハワード大学でのサンデーサービス

(渡辺志保)私はちょっと「あれ?」って思ったところがあって。というのもハワード大学っていうのは非常に由緒正しい「HBCU」の大学なんですよ。で、HBCUっていうのは「歴史的なアメリカの黒人大学(Historically black colleges and universities)」なんですね。で、非常に歴史もあって、あとは団結力とかエネルギーとか、そういったものがすごい強いっていうのが私のイメージなんですけど。たとえばビヨンセも今年、コーチェラでやった『Beychella』を『ホームカミング』と題してNetflixのドキュメンタリーにまとめましたけど。その『Beychella』でも背景になったのはこのHBCUっていう黒人大学なんですよね。

(DJ YANATAKE)ビヨンセの衣装とかもね。

(渡辺志保)そうそう。それもHBCUっぽいロゴを使っていたりとかもで、そのNetflixのドキュメンタリーでもまさにこのハワード大学の出身である超有名黒人女性作家、先日ちょっと急逝されてしまいましたが、トニ・モリスンという方。『青い眼がほしい』とか『ビラヴド』とかを書かれているんですけども、そのトニ・モリスンの言葉をフィーチャーしたりとかしてて。なのでハワード大学とかHBCUっていうと、やっぱりアメリカでその自分たちの人権を向上するために常に戦ってきた先人たちのスピリットやバイブスみたいなところある種、レプリゼントしているところなんですよ。

でも、そんなハワード大学でそのトランプに投票もしてないくせに「トランプを支持します」みたいな。それでMAGAハットとかを被ってたカニエ・ウェストがそこでライブをするということに対して、私も「ちょっとこれってその根底にある信念みたいなものがちょっと乖離してしまっているんじゃないかな?」っていう風に感じた。プラス、Twitterをちょうどリアルタイムで見ていたらそのハワード大学のアフロ・アメリカン・スタディーズ。

まあ、アフロ・アメリカン学のマフラーアメリカン学のグレッグ・カー教授という方がTwitterで「このサンデーサービスが終わったらカニエ・ウェストさん、ぜひ校舎3階にある図書館に行ってください。あなたに読ませたい本がいくつかあります」ということで。だからそのアフリカン・アメリカンの歴史について、あなたはもうちょっと勉強をする必要がある」っていうことを皮肉ってツイートをしていたという。

(DJ YANATAKE)そうかそうか。

(渡辺志保)で、そこでやっぱりその批判といいますか。「ハワード大学でこんなことするなんて!」みたいな。そういった意見もちょっとたくさん見て。それで私も……なんか私も勝手にブラックチャーチみたいな文脈でカニエのこの一連のサンデーサービスとかを見ていたけど。「いや、ちょっとどうやら違うな?」という風に思った次第です。で、このへんはちょっと私も勉強したいなって思っているところなんだけども。すごい英語のめちゃめちゃ長い記事なんだけど、アメリカのビルボードに「Using The Gospel」。今回、まさにこの『Jesus Is King』の中に入っている楽曲のタイトルを用いて。

「Using This Gospel: The Black Community’s Skepticism of Kanye West’s New Direction」っていう。「Skepticism」って懐疑的。「どうなの?」って思うことなんですけども。なので、そのカニエの新しい方向性に対してブラックチャーチ的な、本来のアフリカン・アメリカンが信じるキリスト教的な立場から「どうなの?」って言ってる記事があって。すごい長いんだけど、そういう記事が上がっていて。それがすごい勉強になったんですね。なので、ぜひぜひ暇な方は読んでほしいなって思うし。

(DJ YANATAKE)なるほど。

(渡辺志保)で、その中にフィーチャーされていたツイートでも「カニエはそのブラックチャーチのカルチャーをSupremeのお店みたいにしてしまった」みたいな。ちょっとトレンドみたいな。

(DJ YANATAKE)ああー、すごい言い方をするな。それ。

(渡辺志保)すごいなって思ったんですけども。なんか、ただのみんながね……本当にコーチェラのちょっと引きの映像とかそうですけども。中央でアフリカン・アメリカの人たちがゴスペルを歌ってて、それを白人のお客さんたちがピクニックをするような感じで眺めているみたいな。なんかそういったことをすごく皮肉っぽくおっしゃっている方もいて。

(DJ YANATAKE)まあでも、宗教を取り扱うっていうのはそういう、良くも論争を呼んだりとかすることなのかな?

(渡辺志保)そういうことなのかなと思ってて。で、そういうことを考えていくと……なんかね、すごいいろいろと考えちゃったのよ。なんか天皇象徴制とか。「カニエはもしかして神ではなくて象徴なのでは?」みたいな。

(DJ YANATAKE)でも志保の言うようにさ、その新しいスタイルのキリスト教みたいなものを作ろうとしてるっていうのは、俺もなんかすごいハッとしたよ。それ、そうかも。そしたらいままでの既存の物は別に当てはまらない……「キリスト教」って言っちゃうからいろいろとあれなのかもしれないけど。「カニエ教」だとしたら別にいいわけでしょう?

(渡辺志保)そうなの。そうなの。それで「自分のチャーチを作りたい」みたいに言った時もキムが「これは宗教宗教したものじゃなくて、ヒーリングとかスピリチュアルとか、そういったものなんだよ」っていう風にフォローをしてたりとか。で、カニエが「自分はフリーシンカー(自由な考え方をする人間)だ」って言い続けていることに関しても、まあちょっと納得がいくな、みたいな。

そういうところに落とし所を見つけることはできるのかなという風に思いまして。まあ、そんな風に考えながら聞いてくと、従来のキリスト教……まあ、キリスト教にも本当にいろんな宗派がありますから一概には言えないんですけれども。やっぱりカニエが思う自分の宗教。それはキリスト教に基づく自分の新たな宗教がある一定のレベルのにおいて具現化されたのがこの『Jesus Is King』ということになるのでは? とか。そういう風に思っちゃったね。

(DJ YANATAKE)いや、それはいい考察だと思いますよ。

(渡辺志保)そうですか。それがこの土、日、月とBUDDHA BRANDとカニエを交互に聞きながら私が考えたひとつの結論みたいなところかな?

(DJ YANATAKE)でもいままでもやっぱりさ、みんなが「えっ?」って思うようなアルバムを出してきて。そのみんなの考えもひっくり返してきたような人ですし。でもなんかその新しいスタイルを作るって意味ではね。

(渡辺志保)そう。だからカニエがすごいなと思うのは前作の『ye』でも自分がすごい双極性障害を患ってることとか鬱病であるみたいなことをリアルタイムでみんなにレポートするようにアルバムを作っていたじゃないですか。で、たぶん普通だとそういう葛藤を全てくぐり抜けてからみなさん、曲とかを作り始めて。「いや、あの時はああいう風に苦しんでいたんだよね」みたいな。そういうのが結構一般的なアーティストの作品の出し方だと思うんだけども。カニエのすごいところはそのもがいている最中の自分をそのまま見せちゃうところ。で、今回もだからその新しいダイレクション(方向)に向かって一生懸命こ何百人ものクワイヤをワッと率いて。「みんな、こっちだよ!」って行く。その途中経過をこれで見せてくれてるのかなっていう風に思ったんだよね。

(DJ YANATAKE)いや、いいですよ。すごい面白い。

(渡辺志保)それで、最初の方にヤナさんと話したことに戻っちゃうんだけど。そんな感じだから、リリックとか音楽性に関してもガラッと変わっている、ガラッと削ぎ落とされているところもあるんだけど、昔のカニエのままのところもあるんですよね。で、その同居具合、共存具合っていうのがちょっと曖昧で面白いというか。アンバランスすぎて逆に私は面白いっていう風に思ったんですよ。てもそれが逆にちょっと分かりづらいとか、気持ち悪いとか。いきなりゴスペル始まっちゃって気持ち悪いとか思う方もいるのかなという風に思いました。ちなみにヤング・サグもこの『Jesus Is King』がドロップされてすぐにカニエにツイッターで@をつけて「カニエさん、俺のあのデビルについてのバース、まだ残っていますか? アルバムに残ってますか?」って。

(DJ YANATAKE)ああ、「俺、参加してますか? いつ出るの?」みたいなツイートをしていましたもんね。

(渡辺志保)そういう風に呼びかけていたり。ニッキー・ミナージュもリークされた『New Body』っていう曲があるんだけども。そこに3回、テイクを取り直した……バースを3種類、提供したらしいんですよ。でもやっぱり、カニエとのその方向性というか趣旨の理解具合ですかね。そういったものが合わずにお蔵入りになったっていう風に彼女はまあ、お蔵入り宣言をしている。で、元をたどればその『Yandhi』制作期間にですね、いろんな……それこそクエヴォとウガンダに一緒に行ったりとか。あとはマイアミに新しく高級のマンションみたいなのを買って。そこでみんなとレコーディングしたりっていうことをしてるので。本当にバッサバッサと切り捨てられた人ばっかりっていう。

(DJ YANATAKE)あと、京都にもいましたよね。

(渡辺志保)ああ、京都にも。そう。ご家族と一緒に京都にもいらっしゃって。でも今回、ティンバランドが結構複数曲に渡って参加してるんだけど。ティンバは逆に『Yandhi』時代から一緒に制作をしていたっていう。その時、すでにもう当時の記事がいくつもあがっていたので。ビートに関してはたぶん『Yandhi』時代のものもちょっと使ってるのかなと。たぶんピエール・ボーンとかもその時、一緒にやっているのかなって。

(DJ YANATAKE)やりながらコンセプトができていったっていう。どんどんどんどんやりながら方向も変わっていって……。

(渡辺志保)それでコーチェラがあって「あっ!」ってなって。

(DJ YANATAKE)なんか見えたんだろうね。それでサンデーサービスを始めちゃってなおさら見えちゃったんだな。

(渡辺志保)そうそう。そういう感じがします。でもね、やっぱりビートの倒錯具合っていうか、それに関しては『Yeezus』時代を感じさるところもあるし。かつ、昔の……自分もね、「オールド・カニエ」って前にも言っていましたけども。昔のカニエ・ウェストを彷彿させるサンプリングサウンドなんかも見受けられるので。そういった意味ではここ4、5年ぐらいのカニエ・ウェストのサウンド本当にごちゃまぜにしてブンッて投げたような、そういう仕上がりになっているなって思ったの。で、いまからもう1曲、お聞きいただきたいんですけども。次にかける曲『Follow God』。まあ「神様に続け」っていう意味ですけども。これが、たぶんいまいちばんストリーミングでも再生回数が多いんじゃないかなって。

(DJ YANATAKE)ねえ。どこを見てもこれが1位になっているね。

(渡辺志保)で、どこかのレビューで、「これは『Watch the Throne』の時の『Otis』のビートを彷彿とさせる」みたいな。

(DJ YANATAKE)なるほど、なるほど。

(渡辺志保)で、それよりもさらに前の『College Dropout』の頃のサンプリングカニエもちょっと彷彿とさせるような曲に仕上がっておりますので、聞いていただきたいと思います。『Follow God』。

Kanye West『Follow God』

(渡辺志保)はい。いまお届けしましたのはカニエ・ウェストの最新アルバム『Jesus Is King』から『Follow God』でした。(ツイートを読む)「もがいてる最中の自分を見せちゃう。なるほどな」とか。(ツイートを読む)「熱い解説。私なりに考えようと思いました。勉強になります」とか。(ツイートを読む)「カニエの新しいアルバムは『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』には及ばないけど名盤かもしれないです」という。などなど、ご意見を頂戴しております。というわけで……。

(DJ YANATAKE)まあでも、さっきも言ったけどこの曲がいま一番人気でさ。たしかになんかさ、ちょっとDJとしてもかけるならこれかなって思っちゃうけど。でも、さっき言ったようにこれ1曲とかではジャッジするっていうのは……。

(渡辺志保)だからまあ、短いしね。『Jesus Is King』を1回、フルでぜひぜひ、みなさんに聞いていただいていろいろと感じてほしいなって。

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