渡辺志保と池城美菜子『カニエ・ウェスト論』を語る

渡辺志保と池城美菜子『カニエ・ウェスト論』を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

(渡辺志保)そうですか。そう思いながら……だから、どのアーティストのアルバムも好きなんですけど。そして私は特にシングルよりはアルバムというアートフォームがすごく好きで。そっちの方がアーティストのエナジーというか、それこそ意地みたいなものが見えるアルバム作品というものがすごく好きなんですけど。カニエ・ウェストのアルバムって1回聞いただけだとパズルのピースがバラバラになっているような感じで、自分の中ではなにかそれが立体的になって浮き上がるところまで私はちょっと想像力とか理解力が及ばず……。

それで何周も何周も聞いて「ああ、こういう成り立ちの作品なんだ!」っていう風に理解するのが私のカニエのアルバムの聞き方なんですよね。で、いままでそういうやり方でいちばん最後までわかんなかったなっていうのが『Yeezus』なんですけども。それは本当に丸々1年ぐらいかけて……年末ぐらいにもう1回聞いて「ああ、やっとわかった!」っていう感じがしたんですが。でもこの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』も最初は意味がわからないというか。あの『Runaway』の長いミュージックビデオも「これは一体……?」と思いながら見てたわけなんですけども。

でもやっぱりこれを1冊読むと……それで『カニエ・ウェスト論』と題しているだけあって、最初の『The College Dropout』、デビューアルバムについてもすごく深く触れていますし。で、カニエ・ウェスト自身がどういう変遷をたどってここまで行き着いたかっていうところもやっぱり、いままで私が全く見ていなかった側面から書かれていることが非常に多かったので。もう目から鱗がボロボロ落ちるような感覚で読んだ次第です。でも池城さん、冒頭でもちょっとお話しした通り、カニエ・ウェストに関しては直接パーティーの場所などでは何十回と観察をされているという……(笑)。

(池城美菜子)観察を。ウォッチャーなので。でも、その時期は週に2回か3回は夜、出かけて。で、普通のクラブに行く時もあれば、アーティストがいる場所にいる時もあって、本当にいろんな人を割と見る機会が多かったから。カニエだけを見てたわけでもないんですけれども……でも、振り返ってみるとやっぱり1回1回、面白いんですよね。というか、毎回浮いていた。

(渡辺志保)フフフ、そうなんですか。それこそね、この文末の解説文でも触れていらっしゃいますが。出で立ちというか、ファッションも当時からちょっと個性的でらっしゃいましたし。忘れられないカニエメモリーっていうのはありますか? 実際にカニエを……まあ、ライブでも、そういうレセプションのパーティーの席でも見た中で。

(池城美菜子)デビュー当時から、その初めの三部作の時のカニエは、まあ私の方が年齢が上だっていうのもあるけど、かわいかったです。いっつもかわいかった。なんか「がんばってるな!」っていうような必死な……まあ、それも書きましたけど。やっぱりいろんなことがそうだと思うんですけれども。たとえば志保さんが明日、「女優になりたい」って言ったら周りの人は「ちょっと待て! ライターでがんばっているんだから」ってなるじゃないですか。だから、カニエもそういうのはすごくあったんですよ。

(渡辺志保)ああ、「プロデューサーでせっかくジェイ・Zがかわいがってくれているんだから……」みたいな。

(池城美菜子)それで、彼は断られているんですよ。だから、なかなかすごく苦労をしてデビューした人なので。「俺はこの曲も作ったし、この曲も作ったし、ラップも上手なんだ!」っていうのを一生懸命、どこでもすごくアピールしてて。それがうまく売れた後も、もうちょっと余裕を持てばいいのに、やっぱり必死なんですよね。だから一緒にいて、パーティーなんだけども、若干居心地が悪くなる感じって分かりますか? あんまりがんばりすぎてる人とか……。

(渡辺志保)なるほど。日本的な言い方だと「空気を読んでない」みたいな?

空気を読まないカニエ

(池城美菜子)それ! 自分に夢中っていうか。コンシークエンスのパーティーなんだったら、本人が楽しいんだからいいじゃんっていうのに、必死なんですよ。だから応援したくなる気持ちも……テイラー・スウィフト事件の前ではそういう感じでした。

(渡辺志保)なるほど。ちょうどテイラー・スウィフトに関してもこの番組で深く触れたばかりだったりするんですけれども。テイラーの……カニエがVMAでバーッとマイクを取って、ステージに上がって、「お前よりビヨンセの方が上だ!」みたいなことを言ったっていう。あの時に、本の中でも書いてらっしゃいますが、業界的にはどういう感じだったんですか?

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(池城美菜子)みんなびっくりしていましたね。ただ、MTVは自分でちょっと事故を起こすのが好きっていう……若干の炎上商法っていうか。あれってだってセキュリティを立たせればいいだけの話じゃないですか。

(渡辺志保)ねえ。前にもリンプ・ビズキットの時にファンの人が上がったりとか、ありましたもんね。

(池城美菜子)で、話題になってテレビの視聴率も若干……っていう。ただ、やっぱりあれは言った時にビヨンセがいちばんかわいそうだったりして。「私、関係ないし?」みたいな顔をしていて。

(渡辺志保)今年に入ってからの報道だと、ビヨンセもあの時に泣いていたぞ、みたいなね、暴露話みたいなのがありましたけどね。

(池城美菜子)本当に、自分が取れなくて文句を言うとか、そういういきなり政治的・社会的なことを言うっていうのはまだ理解の範囲内なんだけど、みんな「何の話をしているの? 誰の話をしているの?」ってなっちゃって。で、あの時はテイラーもいまみたいにガーン!っていう感じじゃなくて、初々しかったから。

(渡辺志保)みんなが「守ってあげなきゃ!」みたいな感じに。

(池城美菜子)それでビヨンセは最後に自分の時間に「新人でこういう時にしゃべるのは1回しかないから……」ってあげて。ある意味、ビヨンセが美味しいなって思って見ていたのを覚えてるんですけども(笑)。でも、さすがだなとも思いました。でも、カニエのことが心配になりましたよね。明らかに……だからはじめに流れた噂っていうのは「酔っ払っていた」っていう。

(渡辺志保)うんうん。なんかヘネシーの瓶を持って……っていう。

(池城美菜子)だから泥酔していたんだっていう話で、みんな一旦は納得をしたんですけども。それはカニエファンの気持ちで、テイラーファンはそれぐらいじゃ納得しないみたいになって(笑)。

(渡辺志保)それがね、この2019年……令和の時代まで続く確執になっていますから。でも、そのちょっと逸脱してしまうということから言いますと、やっぱりここ数年のカニエ・ウェストもだいぶ世間一般との……まあ、ヒップホップの世界ってスタンダードを壊しながら、いろんなものをイノベーティブに作っていくカルチャーであることは前提として。だけれども、それでもやはりちょっとを逸脱する部分というか。で、良くも悪くもそこにカニエ・ウェストのスポットライトが当たってしまうっていう状況になっているかと思うんですけれども。池城さんはたとえば、そのドナルド・トランプに会いに行って……とか、MAGAハットをかぶってとか、そういったカニエに対してはこの何か思うところはありますか?

(池城美菜子)でももう、その彼の音楽以外の面に関してはみんな、もうびっくりしないところまでだんだんなって……もちろん、トランプの時にはすごいびっくりしたし。でも、その後でちょっとね、バランスを崩している話とかもしていて。症状が出ているだけだなって……。そういうのもあるのと、あとは彼は「自分が神」だとか「大統領になりたい」って言っている時は割と本気だと思うんですよね。

(渡辺志保)そうか。じゃあ、この後に出馬、ありますかね? 2024年に。

(池城美菜子)それは、ないと思います。しないでしょうね。それはキムさんが割と賢いから。いろんな条件も満たしていないし。でもな、トランプさんも満たしてなかったから……。

(渡辺志保)そうですね。なので私はそのカニエ・ウェストらしいなっていう……褒められたことではないかもしれないけど、カニエらしいなって思ったのは、「自分はこれまで、大統領選に一票も投じたことがないし、トランプに票を入れたわけでもないけど、俺はドナルド・トランプが大好きだ」っていう。それは彼がいろんな「無理だ、無理だ」と言われた、その不可能を可能にした……結構マンパワーで可能にした、そのただ一点において俺はトランプを支持するみたいに言っていたところが、これまでのカニエの軌跡をたどっていくと、まあカニエさん自身がそういう結論にたどり着くのはまあ分からなくもないなと。

カニエ・ウエストとドナルド・トランプ

(池城美菜子)本当は彼はすごく賢いはずなんですよ。それは向こうの人もみんな言ってるんですけども。お母さんは大学の先生だし。いろんなことが分かってるけれども……これを書いた人とも一緒だけど、トランプとカニエさんもある部分でそっくりなので。そこにやっぱり必要以上に共感してしまったっていうのがあるんだと思うんですね。だけど、実際に彼の制作とか主張しているものがやっぱり合うわけはなくて。だからそれはいろいろと見て見ぬ振りをして。さっきおっしゃったように一点のみで……。あと、これは憶測を言いますけども。案外、オバマさんにディスられたのを引きずっているんじゃないかな?って。

(渡辺志保)ああ、根に持っている。でも本当にそれは私も思っていて。オバマ期はやっぱりオバマ大統領はジェイ・Z、ビヨンセ夫妻と一緒にホワイトハウスのカルチャーというか、裾野をブワーッと広げてらっしゃいましたけれども。やっぱりそこに……コモンも呼ばれて、ジョン・レジェンドだとか、自分の同郷の仲間や先輩たちがみんな呼ばれていて。で、オバマ大統領っていのは元々イリノイ州シカゴの方で。そこでカニエ・ウェストが……このエピソードなんかも本に書いてありますけども。やはりそこで自分だけ蚊帳の外っていう。そこでいま、キム・カーダシアンさんもトランプさんに会いにホワイトハウスに招かれるぐらいですから。私もそれはちょっと思うところがありますね。

(池城美菜子)最終的にはカニエとオバマは会っているし、お話もしてるし、ちゃんと邂逅してるんですけども。いちばん目立つ時にやってないから。それで結構大統領が「He’s Jackass」って言っちゃったのはオバマさん、かっこよかったんですけども。彼はお父さんがいないで育っていますし、オバマさん……アメリカの大統領ってやっぱりアメリカ人の心に父親像としてその時その時にいるものなので、ショックだったんでしょうね。

(渡辺志保)ああ、そうか。父親たる人に否定をされてしまった。そこは包み込んでほしかったのに……っていうところがあるのかな?

(池城美菜子)甘えなんですけども。それはやっぱり、案外そこかな?って。トランプさんの時にはいつも、見ていて思っています。トランプさんがオバマさんに対してコンプレックス丸出しでやるから。

(渡辺志保)うんうん、そうか。そこがちょっとね、面白いって言ったら変ですけどね。ちょっと興味深い展開だなという風にいつも思ってますし、やっぱりカニエ・ウェストの、池城さんも「初期の頃からかわいいけど、空気が……」っておっしゃっているように、やっぱり常に注目を浴び続けたいのかな?っていう。それが本当にめちゃめちゃエクストリームな形で表れているのがカニエ・ウェスト。それでこれだけ無茶なことをやっていても、ただまだみんながカニエの音源であるとか、彼はいまやデザイナーとしてもすごく第一線の人ですけども。みんながカニエの新曲を待ってるし、みんながカニエの新しいスニーカーを待っているっていう。そこのバランスが本当に奇跡的だなって思いますね。

(池城美菜子)だから、本物なんですよね。もう完全に本当にどの面においても、おっしゃる通り天才で。本当はだからいままでいたタイプの天才だとは思うんです。だからこの本のすごくいいところは、ピカソとかレンブラントとか。私たちは彼らが若かった時とか、どうだったのか?って知らないじゃないですか。もう評価されて、値段がついて、どういう風にとらえるかっていうのも全部揃った時点でもらってるけど、同時代の人にしてみたら、どういう存在なのかは知らない。ただの変わり者かもしれないじゃないですか。だから、カニエはそれを一緒に見ていくっていう、そのドラマも含めて面白いんですよね。

(渡辺志保)たしかに。本当にね、この本でも「ソーシャルメディア時代の寵児」という風に書かれておりますけれども。そこにありますよね。見続けることが面白いというか。彼自身がシアター、劇場のような装置として。

(池城美菜子)カニエ劇場にいる感じがありますよね。で、私たちもやっぱり目立ちたい、影響力を持ちたい、全員がプラットフォームを持っていて。でも、自分が見られたように褒めてほしいっていうのがあるじゃないですか。

(渡辺志保)いいところだけを見てほしいっていう。

(池城美菜子)違うところは突っ込まれたくないっていう。彼はそれがすべてが極端なので。やっぱりみんな笑いながらちょっと痛い思いを……自分のことを笑っているような面があって。やっぱりそういう意味でも目が離せないという。

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