町山智浩 映画俳優・内田裕也を語る

町山智浩 映画俳優・内田裕也を語る たまむすび

(町山智浩)1981年に内田さんが出ている映画で『嗚呼!おんなたち猥歌』っていう映画があるんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これはどういう映画か?っていうと、この映画の中での役は売れない、ひとつもヒット曲がないロックミュージシャンなんですよ。40をすぎている。それ、単なる自分なんですよ。で、どういう人として描かれているのかっていうと、その中で出てくる挿入歌のタイトルがすべてを言い表していて。それが『俺は最低な奴さ』っていうタイトルなんですよ。

(山里亮太)直球(笑)。

(町山智浩)そのまんまじゃねえか!っていう話ですね。で、この人は妻子がいるんだけど別居をしていて……って、全く内田さんと同じです。で、愛人がいて、その彼女をソープで働かせて、その貢いでもらった金を子供の養育費として奥さんに渡しているんですよ。で、頭に来たその愛人がつかみかかって交通事故になっちゃうんだけども、その愛人が病院で昏睡状態になっている間にその横で看護婦さんとやっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)わわわわ……。だってこのタイトルの漢字「猥歌」っていうのも……。こんな言葉自体、見たことがないような。

(町山智浩)ああ、「猥歌」っていう言葉があるんですよ。学生さんとかがエッチな歌を歌うんですよ。「チンコロ、なんころ……♪」とかそういう歌があるんですけど。そうい歌のことを猥歌って言うんですね。昔は学生が酔っ払うと猥歌をずっと歌っていたんですけどね。で、この映画ではこういう女ったらしでどうしようもないクズみたいな役をやっているんですけど、最後にはバチが当たって何もかも失ってしまうんですね。で、金持ちの女性のための男性ソープボーイになって終わるんですけども。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これ、内田裕也さんの逆ソープテクニックが見れる映画としても素晴らしいです、はい!

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)なるほど(笑)。「じゃあ、見よう!」っていう気持ちにまだなれない自分がいたんですけど……(笑)。

(町山智浩)えっ、これ見た方がいいですよ。それでその翌年、1982年には『水のないプール』っていう映画に出るんですけども。これはクロロホルムによる婦女暴行事件の犯人を彼が演じているんで、これは昼間のラジオではとても話せない内容です。

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(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)すごい役ばっかりやってますね!

(町山智浩)だから言ったじゃないですか。内田裕也さんの映画そのものが犯罪なんですよ!

(赤江珠緒)本当だな。

(町山智浩)で、その次のに出たのが1983年に『十階のモスキート』という映画に出るんですよ。で、これは内田裕也さん、なんと警察官ですよ。

(山里亮太)おおっ、いい方に?

(町山智浩)交番の警察官ですよ。でもね、警察官って試験がたくさんあって、その出世の試験に全然受からなくて、出世の見込みがないまま40をすぎてしまったんですね。で、奥さんと子供に見捨てられちゃうんですよ。子供はちなみに小泉今日子さんです。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)中学生の頃ですね。で、子供はグレちゃうんですよ。小泉さんはグレてて。まあ、いつもグレてますが(笑)。それで裕也さん扮する警察官は競艇にハマってしまって。で、給料は安いのにお金をどんどん失ってしまって、養育費が払えなくなって、借金まみれで。それでサラ金・ヤミ金にどっぷり入っていくんですよ。で、もうどうにもならなくなっていくんですよ。それでどうするか?っていうと、拳銃を持っていますからね。郵便局に強盗に行くんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)これ、実話ですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)1978年に実際に警察官が郵便局を強盗しているんですよ。それで逮捕されているんですよ。それを元にした映画なんですね。それが『十階のモスキート』という映画で1983年、崔洋一監督の監督デビュー作ですね。

(山里亮太)ああ、これでなんですね。なんかお二人は親友だってよく、崔さんがテレビでこの前、お話をされていました。

(町山智浩)そう。だからなんですよ。崔洋一監督は内田裕也さんの晩年、入院なさっているところをドキュメンタリーにして『転がる魂』っていうドキュメンタリー映画にしてテレビで放送しましたよね。

(山里亮太)はいはい。『ザ・ノンフィクション』の。

崔洋一監督デビュー作『十階のモスキート』

(町山智浩)そうそう。『十階のモスキート』で崔洋一監督がデビューしているからなんですよ。で、この映画でも……だいたいどの内田裕也さんの映画でも共通するのは、口下手です(笑)。口下手なんですよ。で、なにも言えないから、周りの人がみんな、口が達者だから説教をしたりするわけですよ。警察だと警察署長が説教をするし。家に帰れば奥さんが「あんた、全然稼ぎがないじゃないの!」って説教をするわけですよ。で、子供の小泉今日子からは「父ちゃん、金ねえな。金くれよ!」みたいに言われるんですよ。「遊びに行くんだよ、原宿によ!」とか言われるんですよ。キョンキョンに。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、うだつが上がらないんですよ。でも、口下手だから言い返せない。なにを言われても。で、カーッとなっていきなり暴力を振るうんですよ。

(赤江珠緒)本当に……(笑)。

(町山智浩)言い返せないから、暴力を振るうんですよ。毎回、内田裕也さんの映画はそれですよ。

(赤江珠緒)えっ、これ、じゃあ内田裕也さんの映画を連続で見たら、もうなんかどういう気持ちになるだろう?っていう(笑)。

(町山智浩)DVされているような気分ですよ。見ているだけで。

(山里亮太)見るだけで打ちのめされているような感覚になる。

(町山智浩)そう。で、ガーッ!ってやるでしょう? 大抵、喧嘩でも負けるんですよ。内田裕也さんの映画ってかならず酔っ払ったりとかして飲み屋で内田さんが喧嘩を売るんですよ。で、ボコボコにされるっていうシーンがかならずあります。

(赤江珠緒)そうかー。で、全部最後、敗れ散っていくみたいなところ、ありますもんね。いま聞いたら。

(町山智浩)ただ、内田さんが出ている映画にはかならず安岡力也さんがいて。用心棒で内田さんが負けそうになると、周りのみんなをブチのめしますから気をつけた方がいいんですよ。

(赤江珠緒)安岡力也さんもセットで(笑)。そうですか。

(町山智浩)力也さんは本当にいっつも一緒にいたんですよ。兄弟関係みたいな感じだったんですよ。裕也・力也っていう感じで。で、実際に僕は内田裕也さんとは……内田裕也さんのマネージャーさんとは何度か仕事をしたことがあるんですよ。それで、本当に力也さんみたいなマネージャーさんがいたんですよ。ジャンボさんっていう。大きくて、ヘルズエンジェルスみたいな格好をしていて。要するに、革ジャンを着ていて、リーゼントで。そういう人が来ていて、本当に「裕也さんのためなら死ねます」みたいな人だったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)それをまた本当にそういう人である力也さんが演じているんですけども。だから、裕也さんはかならず喧嘩で負けるんですけど、力也さんがそこで助けに入るっていうシーンがよくあるんですね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。なんか謎の魅力ですね(笑)。

(町山智浩)そういうね、みんなが思っている感じとちょっと違うのが映画を見るとよくわかるんですよ。毎回同じだっていうことは、たぶん本当の裕也さんもそういう人だったんじゃないかなと思うんですよね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから、その『嗚呼!おんなたち猥歌』でもそうなんですけども。どうしようもない人なんだけども、なんかみんなが見捨てられない感じなんですよ。毎回、そういう話です。なんか母性本能みたいなものを……だから、いちばんズルい男かもしれないですね。それって。

(赤江珠緒)そうですね。結局、奥さんの樹木希林さんもそんな感じでしたもんね。

吉田豪と宇多丸 樹木希林と内田裕也を語る
吉田豪さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さんと亡くなった樹木希林さんを追悼。樹木希林さんインタビューの模様や、その夫・内田裕也さんのエピソードなどについて話していました。

(町山智浩)そういう感じなんですよね。そのへんがまた、内田裕也さんのすごく困った魅力みたいなものがこの手の映画には本当に満ち溢れているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、いつも危険な映画ばかり作っているから、その1978年にあった警察官による郵便強盗事件を元にして、1983年に『十階のモスキート』を撮ったら、1984年にそのモデルになった警察官が出所して、今度は強盗殺人をしちゃいましたね。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)だからもう、本当に大変なことになっているんですよ。内田裕也さんの映画って。それをリアルタイムで見てきて、もうなにが……どこまでが現実でどこまでが映画なのか、全然わからなかったですよ、僕も。

(赤江珠緒)そうかー!

(町山智浩)それがね、内田裕也映画の魅力だったんですね。僕にとっては。もうなにがなんだかわからないっていう。で、ここでちょっとその『十階のモスキート』の最後にかかる白竜さんの『誰の為でもない』をちょっとお願いします。

白竜『誰の為でもない』

(町山智浩)この歌は内田裕也さんの歌じゃないんですけども。この歌は内田裕也さんの歌じゃないんですけども、1980年代の内田裕也さんのニューイヤー・ロックフェスでは最後にこれを全員で歌うんですよ。お客さんとミュージシャンとで。それでミュージシャン全員が舞台に並んで、それをお客さんもこの歌を全員で歌うんですよ。だからね、そこにはたけしさんもいました。松田優作もいましたよ。沢田研二もみんないましたよ。アナーキー、スターリン、全員でこの歌を歌うんですよ。僕も歌いましたよ!

(山里亮太)その場にいて。

(町山智浩)はい。だからね、内田裕也さんが亡くなったということで、この歌でお送りしたいと思います。

(赤江珠緒)いやー、すごい人間臭い人だったんですね。今日は昨日亡くなった内田裕也さんの出演映画についてお話しいただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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