町山智浩 映画俳優・内田裕也を語る

町山智浩 映画俳優・内田裕也を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった内田裕也さんを追悼。映画俳優としての内田裕也さんを主演作品の内容を交えながら紹介していました。

(町山智浩)3月17日に日本でロックミュージシャンの内田裕也さんがお亡くなりになったので、今日はその話をしたいんですね。僕は1981年から内田裕也さんがずっとプロデュースしていたニューイヤー・ロックフェスに……当時、大学生だったんですけど、ずっと通っていて、すごく感慨深いんですよ。ただ、内田さんがどういう人か?っていう話は吉田豪がいちばん詳しいので。

吉田豪 内田裕也の素顔を語る
吉田豪さんがニッポン放送『上柳昌彦 松本秀夫今夜もオトパラ!』に出演。内田裕也さんについてたっぷりと語っていました。 (上柳昌彦)さあ、今日はですね、スポットを当てる人がですね、内田裕也さんということで。 (吉田豪)そうなんですよ。 (上柳...

(山里亮太)たしかに(笑)。

(町山智浩)僕が話すことではないので。僕はその頃、とにかく内田さんの映画を見まくっていたんですね。というのは、次々と公開されていたからなんですよ。連続して。

(赤江珠緒)そんなに映画に出られていたんですね。

(町山智浩)内田さんは主役をした映画っていうのはそんなに数は多くないんですが、それは圧倒的に1979年から1991年の約10年間に集中していまして。その頃は僕、高校から大学の間だったんで、映画をとにかく片っ端から見まくっている時だったんですよ。だからリアルタイムで全部見ているんですね。だからすごく、僕はここでは映画俳優としての内田さんについて話したいと思うんですよ。それ以外のことは他の人たちが言いますから。で、とりあえず内田さんの主演映画の中でいちばんヒットした、成功した映画『コミック雑誌なんかいらない』の主題歌をお願いします。

(町山智浩)はい。これは聞いたこと、ありますか?

(山里亮太)いま、特集をされていてそれではじめて聞いたぐらいですね、僕は。

(町山智浩)そうなんですか。一応、これが内田裕也さんの歌の中で最も有名な歌なんです。で、これは頭脳警察という別のバンドの歌なんですけど。内田さんはカバーばっかりでご自身ではあんまり歌を作っていなかったんですね。で、「ロックミュージシャン」という風に言われているんですけど、ヒット曲は1曲もないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)ただ、ロックのプロデューサーとしてタイガースを見つけてきたりして、プロデューサーとしては非常に有能だったんですけども。で、この『コミック雑誌なんかいらない』は1986年の映画なんですが。ご覧になっていないですよね?

(赤江珠緒)見ていないです。はい。

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(町山智浩)これは内田裕也さんが芸能突撃レポーターを演じる映画なんですよ。その頃、梨本さんという芸能レポーターの人がいて。いろんなところに行ってズケズケとインタビューをするので有名だったんですけども。

(赤江珠緒)「恐縮です」の梨本さんですね。

(町山智浩)それはご存知ですか。

(赤江珠緒)はい。梨本さんとはお会いしたことあります。

(町山智浩)そうなんですか。この中で内田裕也さんは梨本さんの真似をして、「恐縮です」って言いながらいろんなところに突撃していくんですよ。レポーターとして。ただ、映画なんですが、芝居じゃなくて本当に突撃しているんですよ。たとえば山口組と一和会がものすごい抗争をしているんですけど、そこに行くんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)それで本物のヤクザさんにインタビューするんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)それとか、ロス疑惑っていうのがあって。三浦和義さんという人がそのロサンゼルスで奥さんを保険金目当てで殺害したという疑惑があったその時、三浦和義さんにインタビューに行くんですよ。

(赤江珠緒)えっ、アポなしいきなり突撃取材みたいな?

(町山智浩)ただ、この内田裕也さんという人、どういう人っていうイメージですか?

(山里亮太)結構荒々しいようなイメージが……。

(町山智浩)怖いっていうイメージですよね? 喧嘩っぱやいとか暴力的であるとか。内田さんってね、ものすごい口下手なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)芸能レポーターだったらベラベラベラベラしゃべんなきゃいけないわけですよね。でも、向いてないんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? なのに梨本さんの役?

(町山智浩)そう。で、三浦和義さんのところに行って、その三浦和義さんに徹底的に論破されちゃうんですよ。というおかしさなんですよ。この『コミック雑誌なんかいらない』っていう映画のおかしさって。

(赤江珠緒)へー! じゃあ、ドキュメンタリー映画みたいな感じですか?

(町山智浩)ああ、半分ドキュメンタリーみたいな。要するにゲリラ撮影して、現場に行っちゃっているんですよ。

(山里亮太)すごい撮り方してますね。

クライマックスは豊田商事事件

(町山智浩)ええ。だからね、いちばんのクライマックスは豊田商事事件っていうのがあったんですけども。これは金相場かなんかの詐欺で、お年寄りからお金をたくさん集めていた詐欺師がマスコミに見つかって、自宅に閉じこもっているところを右翼の男2人が襲撃して、マスコミがカメラを構えているところでその詐欺師を刺殺して。それがテレビで生放送してしまったという事件なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これを、その生放送をそのまんまに再現するんですよ。この『コミック雑誌なんかいらない』では。で、殺害犯はビートたけしさんが演じているんですが、すさまじい迫力なんですよ。で、そういう、どこまでが映画でどこまでが本当なのか全然わからない、その事実とフィクションの境目がわからなくなるのが内田さんの映画の特徴なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、この中でも安岡力也さんと桑名正博さんが出てきて。で、「大麻で捕まった」っていう話を本人の役でしているんですよ。実際、その直前に捕まっているんですよ。

(赤江珠緒)本人の役で?

(町山智浩)そこで、「まったく、俺たちみたいなロックミュージシャンには世間とか警察は厳しいよな」とかって言って。「大手の芸能プロには甘いんだよな」って話しをするんですけど(笑)。

(山里亮太)へー! 結構踏み込んでるな(笑)。

(町山智浩)すっごい踏み込んでるんですよ。で、内田さん自身も逮捕されているんですよ。1977年に。で、ところが77年に大麻で逮捕されるんですけど、79年に『餌食』っていう映画で主演するんですよ。

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(赤江珠緒)77年から2年後に?

(町山智浩)2年後。その映画は冒頭で、東京で内田さんがマリファナをパカーッ!って吸うところから始まるんですよ。逮捕された2年後にです。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

(町山智浩)だからね、いま、たとえばそういうことで犯罪とかで逮捕された人がいた場合にね、その人が出演した作品というものをどう扱うか?っていうことは非常に問題になっていますけども。まあ、「作品と人は分けるべきだ」みたいなことはあるんですけど、内田さんの映画については分けられないんですよ。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ! もうそういう概念じゃない話ですね。これね。

(町山智浩)だからね、「人には罪はあっても映画には罪はない」っていう風に言うじゃないですか。内田さんの映画は映画そのものが犯罪なんですよ!

(赤江珠緒)フハハハハハハッ!

(町山智浩)それ自体が犯罪を見ているような感じなんですよ。

(山里亮太)それを許させるなにかが内田さんにあったのかな? それとも時代なんですかね?

(町山智浩)そういう時代だったんですよ。前に話をした事件を実際に起こして、それを映画に撮っていく若松孝二監督の作品なんですよ。『餌食』というのは。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、この『餌食』という話がまたすごくて。マリファナを吸っている売れないミュージシャンである忠也という人が内田裕也さんの役なんですけども。それが大手のプロモーターの会社、外国からミュージシャンを呼ぶ会社にかけあって、「レゲエのミュージシャンを見つけてきたんで、その彼らを日本に呼んでほしい」っていう風に言うんですけど、相手にされないんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、実はその大手のプロモーターが彼の元恋人を麻薬漬けにしていたことがわかって復讐するために内田裕也さんが銃を取るんですよ。で、その芸能プロに殴り込みをかけるっていう話なんですね。『餌食』という映画は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ところがそこで最後に内田裕也さんは結局負けてしまって。で、もうムシャクシャするから原宿の駅前の歩道橋にのぼって、原宿の歩行者天国に集まっているなんでもない群衆を片っ端から無差別射殺していくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、その映画のわずか4年後、実際にその大手のミュージシャンを呼ぶ会社であるウドー音楽事務所に内田裕也さんは刃物を持って殴り込みをかけて逮捕されているんですよ。

ウドー音楽事務所殴り込み事件

(赤江珠緒)そうか。内田裕也さん、そうですね。なんか3回逮捕されたっていうことはうかがっていましたけども。ここと、ここ。

(町山智浩)そう。どこまでが映画でどこまでが現実なのか、わからないんですよ。しかも、そうやってこの事件で逮捕されているんですけど。『餌食』の再現みたいな形で。しかも1991年にはもう1回、この『餌食』と全く同じ話を『魚からダイオキシン!!』っていう映画でリメイクしているんですよ。

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(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)全然凝りていないっていうね。

(赤江珠緒)でもその、映画じゃなくて音楽事務所に刃物を持って乗り込んだのはこれ、なんでなんですか?

(町山智浩)それは外国のタレントばっかり盛り上げて、日本のロックを全然ないがしろにしているじゃないかっていうことなんですけどもね。

(赤江珠緒)ああ、そういうことで。はー!

(町山智浩)でも、内田裕也さんはそういうことを……僕なんかはこうやってベラベラとしゃべっちゃうんですけども、ちゃんと言えないんですよ。どの映画でもそうだし、事件を起こす時もそうだし、記者会見とかでもちゃんと言えないんですよ。口下手だから。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)この人、口下手なのに東京都知事選に出ちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)そうでしたね(笑)。

(町山智浩)で、政見放送を見ると口下手だからちゃんと言えないから、歌を歌って、あとは英語で自己紹介して、「ロックンロール!」で終わっちゃうんですけども。

(赤江珠緒)うんうん(笑)。

(町山智浩)口下手なのに選挙に出ちゃマズいだろ?っていう(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、でも町山さんが昔ね、ロックというのは政権とかそういう既定の概念を覆す、転覆させるっていう意味だと教えてくださいましたけども。その後もずっと政治のこととかにも関心をお持ちだったりっていう側面はありましたよね。

(町山智浩)まあそういう風に、難しくかっこつけて言うとそうなんですけども。まあ、僕は内田さんのいちばん面白いところっていうのは、そのへんがそんなにかっこいいものではないところなんですよ。

(赤江珠緒)そうなのか。

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