町山智浩『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を語る

町山智浩『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でクエンティン・タランティーノ最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を紹介していました。

(町山智浩)今日は僕の大好きな映画監督、クエンティン・タランティーノの新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をご紹介します。

(曲が流れる)

(町山智浩)はい。いまこれなんだろう?って思いましたけども。この流れた曲は1969年のハリウッドのAMラジオの音声でしたね。この『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』という映画のタイトルは「昔々、ハリウッドで」という意味なんですが。この「昔々」っていうのは1969年を意味しています。で、1969年に売れなくなってしまった落ち目の俳優のレオナルド・ディカプリオとその相棒で彼のスタントマンをやっているブラッド・ピット。

(赤江珠緒)またかっこいいスタントマンだな。

(町山智浩)スタントマン、めちゃくちゃかっこいいんですよ(笑)。で、この2人のコンビを描いたコメディみたいな映画なんですね。今回ね。で、クエンティン・タランティーノという人はとにかく映画オタクなんですよ。で、僕と年齢がひとつ違いぐらいなんですけども。タランティーノはブラピと同い年かな? で、1969年の頃に6歳ぐらいだったんですね。で、彼は実際にハリウッドの近く、ロサンゼルスで暮らしていたんですよ。で、その時の子供の頃に見た大人たちの楽しそうな世界みたいなものを映画にしようとしたのが今回の映画なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから日本でやるとしたら、たとえばですけども、もう1960年代の六本木で大原麗子さんとか加賀まりこさんとかがブイブイいわせてるような世界ですよ。そういう時代があったんですよ。みんなミニスカートでしたけども。

(山里亮太)想像がつかない!

(町山智浩)いや、1969年っていうのは山ちゃんも全然生まれてないでしょう?

(山里亮太)僕は1977年ですから、まだ生まれてないですね。

(町山智浩)破片でもなんでもない。存在しないわけですね。その頃、僕は6歳ぐらいだったんですけども。どういう時代かっていうと、サザエさんのフネさんまでミニスカートを履いているような時代でしたよ。

(赤江珠緒)はー! そうか!

(町山智浩)みんなミニスカートを履いていた時代なんですよ。

(赤江珠緒)ツィッギーが入ってきて……みたいな感じですか?

(町山智浩)ああ、そうです。ツィッギーです。よく知っていますね。

(赤江珠緒)うちの母親とかも当時の写真を見るとたしかにミニスカート履いていました。

(町山智浩)でしょう? みんなミニスカートを履いていたですよ。パンツ見えそうだったり、見えたりしていたんですよ。当時。

(山里亮太)いい時代!

(町山智浩)見たくないような人もいたでしょうけどね(笑)。すごい時代ですよ、はい。要するにその頃、タランティーノは子供だったから。当時6歳ですから。下から見ていたんだと思いますけどね。まあ、それはいいんですが……(笑)。

(山里亮太)それは関係ない話なんですね(笑)。

1969年という時代設定

(町山智浩)関係ない話なんですけども。まあその頃って本当に華やかに見えたんですよ。時代が。で、69年っていうとどういう時代だというイメージがありますか?

(赤江珠緒)60年代……?

(町山智浩)69年ですよ。

(赤江珠緒)69年。70年に入る頃か。

(山里亮太)景気もよくて元気な頃じゃないですか? 時代的にも。

(赤江珠緒)あとは学生運動って何年ぐらいでしたっけ?

(町山智浩)そう。世界的に学生運動の時代です。だからこの時代を「カウンター・カルチャー」っていうんですよね。カウンター・カルチャーの「カウンター」っていうのは「対抗」とか「対決する」っていう意味ですけども。それまであった時代、社会の価値観に対して全部戦っていくという時代だったんですよ。だからいちばん大きなスタイルとしては、ヒッピーですね。

(赤江珠緒)ああ、ヒッピー。

(町山智浩)ヒッピーの時代です。ヒッピーというのはなにをしていた人だと思います?

(赤江珠緒)ヒッピーの格好とかファッションはね、すぐにイメージできるんですけどね。

(山里亮太)髪が長くて、柄ものの服を着て……みたいな。

(赤江珠緒)ちょっとパンタロンで。

(町山智浩)そうなんですよ。なんでああいう格好、していると思いますか? ヒッピーって。

(赤江珠緒)なんだろう? 自由を謳歌する……。

(山里亮太)縛られたくないっていう。

(町山智浩)そう。就職をしないためなんですよ。髪を切るということは、当時就職をすることなんですよ。

(赤江珠緒)そうか! だから『いちご白書をもう一度』とかでも出てきますもんね。「就職が決まって髪を切ってきた時」って。

カウンター・カルチャーの時代

(町山智浩)そうそうそう。だからその頃、カウンター・カルチャーっていうのはそれまでの社会の価値観に対決していくわけだから。学校を出て、会社に入って、世の中の歯車になっていくということを拒否するのがカウンター・カルチャーなんですよ。だからヒッピーはいちばん重要なのはネクタイをしないということなんですよ。その頃、もう1960年代のはじめっていうのはみんな学校を出たら髪の毛を切ってどこかの会社に入って、ネクタイをして働くというのがいちばんまともな道だと思われていたんですけども。それを拒否することからその60年代の革命が始まっていったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、もうひとつ、その時代を代表するものはフリーラブという言葉なんですよ。これも聞いたことないですか?

(赤江珠緒)聞いたこと、ありますね。

(町山智浩)どういう意味だと思います?

(赤江珠緒)えっ? それこそ本当に自由に、無節操に……というイメージですね。

(町山智浩)エッチすることですよね。それまでは結婚をする前は基本的に女の人ってセックスしちゃいけなかったんですよ。日本もアメリカも。

(赤江珠緒)はー。貞操観念みたいなね。しっかりあって。

(町山智浩)それが常識だったんですよ。だから「初夜」って言われていたんですよ。結婚式の夜にはじめて処女を失うという。それが常識だったのを全部ひっくり返す。結婚をしばられずに自由に恋愛やセックスをするという新しい生き方がその当時、出てきたんですね。だからそういうすごい転換期で若者文化が世の中を……まあベビーブーマーっていうことでその当時の若者ってものすごく人数が多かったんですけども。それが社会全体を変えていったということが世界中で同時に起こっていたんですけども。それがまあ、1960年代のカウンター・カルチャーというじだいなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、69年っていうのは実はその最後なんです。だから、まさかその時代が終わるとは思っていなかったんですよ。僕もタランティーノも。どんどん世の中は自由になっていくんだって思っていたんですよ。その雰囲気で作られているのがこの映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』なんですね。でもそう聞くと、なんてバカげた話だろうって思いません? 夢なようなことを言ってるって思いませんか?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だから『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』っていうタイトルなんですよ。「昔々、こんなことがあってね……」っていうのはおとぎ話の語り方ですよ。だから「君たちは信じられないかもしれないけど、昔、夢みたいな時代があったんだよ」っていう話なんですよ。でも実際にあった時代なんですけどね。で、これ、映画のストーリーに戻りますと、ディカプリオが演じてるのは昔、ハリウッドで西部劇のドラマで人気者だったんだけども、その番組はもう終わってしまっていまはテレビドラマにちょこちょこ出ては脇役で悪役をやったりしている落ち目の俳優っていう役です。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「イタリアに行ってマカロニ・ウエスタンにでも出れば?」とかって誘われるんですね。その頃、ハリウッドで落ち目になった人はイタリアに行ってアクション映画とか西部劇に出て出稼ぎをするっていう時代だったんですよ。で、そういうことを言われて「俺は落ち目だって言われたよ!」ってボロボロ涙を流して泣く、泣き虫男がディカプリオなんですよ。で、その泣き虫のディカプリオの肩を抱いてやって「よしよし」って慰めるのがブラピなんですね。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ!

すごい豪華なブロマンス映画

(町山智浩)すごい豪華なブロマンス映画なんですよ。で、このブラピがやっているスタントマンっていうのは完全にディカプリオのスタントマンしかしない人なんですね。当時、そういうコンビがいっぱいいたんですよ。背格好が近かったり、相手の動きを完全に真似することができるから、見分けがつかなかったんですよ。影武者みたいな。

(赤江珠緒)専属だったんですね。

(町山智浩)そうなんです。で、実際に昔、その当時に世界最高のアクションスターだったスティーブ・マックイーンっていう人がいたんですね。『荒野の七人』とか『大脱走』とか『ブリット』とかに出ていた人です。で、このスティーブ・マックイーンがいちばん有名なのは『大脱走』という映画でドイツ軍の収容所から脱走したアメリカ軍の兵士であるスティーブ・マックイーンがスイスへの国境線にあるバリケードを盗んだオートバイでジャンプして飛び越えるっていうシーンなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それをやったのは、実際は彼じゃないんですよ。彼の相棒だったスタントマンのバド・イーキンスっていう人がやったんですね。で、その2人の関係っていうのはずーっと続いたんですよ。親友として。相棒として。その関係をこのディカプリオとブラピの2人のコンビがこの映画の中で再現しているんですね。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)だからね、2人はかならず一心同体なの。で、どんなことがあってもブラピはディカプリオを裏切らないんですけども。この映画ね、またブラピ、脱ぎますよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)もう今年で56ですけどもね。

(赤江珠緒)でも、そうか。年齢的に……。

(山里亮太)それ相応の体になっているのか、それともまだ……?

(町山智浩)そこに写真、ないですか? ブラピの体?

(山里亮太)あっ、これだな! おおっ、バキバキじゃないですか!

(赤江珠緒)わあ!

バキバキなブラッド・ピット(56歳)

(町山智浩)バキバキですよ! 信じられないよね。

(赤江珠緒)あれ? 町山さんと同年代っていうことですか?

(町山智浩)同年代。ブラピの方がひとつ下。これ、すごいよね? で、その脱ぐシーンって全く意味がないんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)全く意味がないんですよ。サービスです(笑)。日本だと西島秀俊さんが時々やるやつですよ(笑)。

(山里亮太)フフフ、たしかにいま脱がなくてもいいっていうところで脱いでいる(笑)。

(町山智浩)そう。もう完全にサービスなんで笑っちゃいましたけども。まあ、すごいんですよ。で、その2人がなんとかしてハリウッドでカムバックしようとがんばっているんですね。で、その2人が……その彼が売れている時にディカプリオはハリウッドに豪邸を建てるんですけども、もうそのローンも払えない状態になっているんですよ。で、その隣の豪邸に大スターが引っ越してくるんですね。新人スターなんですけども。それがね、シャロン・テートという女優さんなんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)その当時、売り出して急にバーン!って人気が上がってきた女優さんで。すごい美人なんですけども。で、これをマーゴット・ロビーっていう女優さんが演じています。この人、『スーサイド・スクワッド』に出ていた人ですね。極悪美少女ハーレイ・クインの役で出ていましたけども。あとはトーニャ・ハーディングの伝記映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でものすごくゲスいトーニャ・ハーディングを演じていた人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん!

(町山智浩)だからこのマーゴット・ロビーさんっていままではヤンキー系、スケバン系の役ばっかりやっていたんですけども。今回、シャロン・テートは本当に純粋無垢なお姫様みたいな人として出てきます。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからまあ、これはおとぎ話ですからお姫様が必要なんですね。で、彼女はまさにその時代のヒッピーカルチャーとか、フラワームーブメントって言われていて、みんなお花を髪に飾っていたような時代があったんですよ。当時。それはね、ベトナム戦争中だったからなんですよ。戦争に対して、その戦争よりも花とか愛の方がいいでしょう?っていうことで、フラワームーブメントっていう反戦運動があったんですね。

(赤江珠緒)そうでしたか。

(町山智浩)だから「ラブ&ピース」っていう言葉、よく聞くでしょう? それはこの時代に生まれた言葉なんですよ。

(赤江珠緒)そうだそうだ。ラブ&ピース、まさにね。

天使のようなシャロン・テート

(町山智浩)「戦争よりも愛と平和の方がいいじゃん」っていう運動なんですね。で、そのすごくほんわかしたハッピーな、その当時のはっきり言うと楽観主義的なものを表現しているのがそのシャロン・テートという女優さんなんですね。この映画の中では。本当に天使みたいなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、彼女はロマン・ポランスキーという当時、ハリウッドに来たポーランド人のものすごい売れっ子の監督と結婚をして、新婚の夫婦として隣に引っ越してくるんですが……ディカプリオは話しかけることもできないんですよ。

(赤江珠緒)もう落ちぶれちゃっているから?

(町山智浩)そう。落ち目だからっていうことで、怖気づいちゃって(笑)。ものすごく情けない男です、ディカプリオ。この映画の中では。セリフ、入っていないしね。セリフ、入っていないんですよ。大根なんですよ。で、しかも酒に溺れていて、前の晩にちゃんとシナリオを読んでおけばいいのに、読まないで寝ちゃったりしているダメな俳優なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ダメなんですよ。しかも、シナリオを読んでいる最中とかにカウボーイの話とかを読んでいたりするとね、「彼はもう年老いて昔のような輝きはない」みたいなのを読むと「俺みたいだぁ~~~!」って泣き始めちゃうんですよ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、だいぶメソメソしてますね(笑)。

(町山智浩)そう。コメディですからね。でも、感情をコントロールできないんだから、この人は俳優とかやんない方がよかったと思うんですけども(笑)。まあ、そういう役をやっているのがディカプリオっていうだけで、ディカプリオができないわけじゃないんですけども。そういうね、なんだか噛み合うようで噛み合わない不思議なコメディになっているんですよ。で、これはね、タランティーノ曰く、「きっちりしたドラマにしようとはしていなくて。その当時の1969年のとある3日間をただ見せるという映画にしたかった」と言っているんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからね、話が直線的になにかに向かって進むという感じではないので、「この話はどこに行こうとしているの?」って観客がよくわからないところがあるんですよ。エッセイのような感じがするんですね。「1969年っていうのはこういう時代だったんだよ」っていうことでいろんな人が次々と出てくるんです。スティーブ・マックイーンもこの映画の中に出てくるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、いちばんびっくりするのはブルース・リーが出てくるんですね。

(赤江珠緒)ええっ!?

(町山智浩)ブルース・リーは当時、ハリウッドにいたんですよ。彼は『グリーン・ホーネット』というテレビドラマシリーズでカトーという日本人の運転手の役を演じていたんですね。空手使いの。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、すごく人気が出たんですけども、やっぱり番組が終わっちゃって。その後に仕事がなくて。やっぱりアジア人の仕事が当時、アメリカではなかったんですよ。だから、ハリウッドで格闘シーンの殺陣を彼はつけていたんですよ。いわゆるアクション・コレオグラファーという仕事で。それでこの映画の中でブルース・リーが出てくるんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そっくりさんが演じてますけども。で、彼はスタントマンみたいなものですから。スタント・コーディネーターですから。スタントマンのブラピとぶつかっちゃうんですよ。

(山里亮太)へー! ブラピとブルース・リーが戦うんだ。

ブルース・リーVSブラッド・ピット

(町山智浩)ブラピVSブルース・リーなんですよ。すごいですよ。タランティーノはもちろんブルース・リーファンで、『キル・ビル』の中でブルース・リーの『死亡遊戯』に出てくる黄色いトラックスーツをユマ・サーマンに着せているぐらいブルース・リーファンなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ブラピもブルース・リーファンで、『ファイト・クラブ』っていう映画の中ではブルース・リーの動きを完璧にコピーしているんですよ。だから2人のブルース・リーファンがブルース・リーと戦うという非常に異様な映画になっているんですけども。ただね、ブルース・リーの娘さんが遺族でいるんですけど、その方はこのシーンが嫌だって言っているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ、そうなんですか?

(町山智浩)あのね、これは見てもらうとわかるんですけども、ブルース・リーはあんまりいい人じゃないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなの? そんなにファンの2人が描いて?

(町山智浩)そう。ブルース・リーってね、ちょっといじめっ子だったところがあるんですよね。これはご覧になるとね、「うん? ブルース・リーってこんな人なの? うーん……」っていうような難しいところですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)僕はね、ものすごいブルース・リーファンだから、タランティーノに会った時にちゃんと言いましたけども。「You offended my hero!」って言いましたけども。

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)ああ、いまのは『燃えよドラゴン』のセリフのパロディですが。はい。まあ、タランティーノは「ブルース・リーはいろいろと調べると、こういう人だったんだよ」って言ってましたけどね。はい。

(山里亮太)へー。そうなんだ。

(町山智浩)まあ、そこはちょっとご覧になってのお楽しみというところですけども。ただね、こういう話を聞くとすごい楽しい映画のように聞こえるでしょう? 実際に楽しいですけども。

(赤江珠緒)60年代の空気が出ているっていうね。

(町山智浩)そう。ハッピーでハッピーでラブ&ピースなところでディカプリオとブラピのデコボココンビがいろいろとやらかしては失敗して怒られて……っていうのがずっと続いて。そこにかわい子ちゃんの天使のようなシャロン・テートがウキウキと……。あ、このシャロン・テートはブルース・リーに格闘を教えてもらった人なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)だからまあ、すごく楽しい映画なんですけども、歴史を知っているとすごく辛くなってくるんですよ。見ているうちにだんだんだんだんと。すごく辛くなってくるんですよ。

(赤江珠緒)なぜ?

(町山智浩)というのはこの1969年の8月8日の夜にシャロン・テートは殺されているんですよ。実際には。

(赤江珠緒)ええっ? それは実話ですか?

(町山智浩)これはすごく有名な事件なんですけども。チャールズ・マンソンというカルト教団の教祖がいまして。彼に命令、指導されたカルトの信徒たちがそのシャロン・テートの家に銃を持って押し入って、そこにいたシャロン・テートとその友達を皆殺しにしているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

チャールズ・マンソンとシャロン・テート

(町山智浩)シャロン・テートさん、その時妊娠8ヶ月なんですよ。それを皆殺しにしたんですよ。それで大変なことになって、そのチャールズ・マンソンの信徒たちっていうのはヒッピーみたいなものだったんで。「ヒッピーはラブ&ピースだって言われていたのに、違うじゃないか!」ということでヒッピームーブメント自体がそれで終わっちゃうんですよ。ほとんど。

(赤江珠緒)この事件で?

(町山智浩)この事件で。で、それまであったカウンター・カルチャーとかラブ&ピースというヒッピーの理想とか楽観主義的なものは一気にそこで歴史的には滅びてしまうんですよ。ものすごいアメリカと全世界に衝撃を与えた事件なんですよ。僕もこれがあった時を覚えています。子供だったから「なんてひどいことが起こったんだ!」ってものすごいショックでした。で、それがだんだん近づいてくるんですよ。この映画の中で、その瞬間が。

(赤江珠緒)そうか……。

(山里亮太)歴史を知っていると複雑な気持ちに。

(町山智浩)そう。歴史を知らないでこれを見ていると、なんだか楽しそうにしているなって、全然緊迫感が出てこないんですけども。途中でブラピがヒッピーたちと接触するあたりで、彼らが誰かを知っているとものすごい怖いんですよ。

(赤江珠緒)そうですね……。

(町山智浩)殺人集団なので。だからこれはね、そのチャールズ・マンソン事件を知っているのと知らないのとでは全く映画の意味合いが違ってきちゃうんですよ。ということで、これだけはネタバレとかそういうことじゃなくて、これを知っておかないとこの映画は意味がないんで。恐ろしいことが起こることを。

(赤江珠緒)へー! これはどういう結末を迎えるんだろう。この映画自体ね。

(町山智浩)それはもう言えないんですけども。はい。まあ、本当にね、僕にとってはすごく懐かしい懐かしい感じの映画なんですが、いまの人たちが見ると「こんな夢のようなことがあったのか! こんな楽しい時代があったのか!」という映画なので。ぜひご覧になっていただきたいと思います。

(赤江珠緒)だから「ワンス・アポン・ア・タイム」なんですね。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、8月30日に日本では公開になります。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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