モーリー・ロバートソンとプチ鹿島 ピエール瀧逮捕を語る

モーリー・ロバートソンとプチ鹿島 ピエール瀧逮捕を語る 水曜日のニュース・ロバートソン

(モーリー)この続きなんですけども。いま、ピエールさんのことはひとつ置いておいて。そしてこの先、もしかしたら本にするなり、何年か先にご自身の言葉で語る部分もあると思うので、そこはあまり私の興味が行っていなくて。むしろ、同じ薬物でもコカインというものがいま、時代遅れなのか?っていうことについて語りたいんですよ。

(プチ鹿島)ほう。

(モーリー)まあ、一言でいうとアンダーグラウンド的に見てもコカインってかっこ悪いんですよ。ダサいっていうか。「いまごろコカインをやるなよ」みたいな(笑)。ちょっとアウトロー視点で見た時、私のそういう審美眼がありまして。まあちょっと主観も入っていますが。なぜか?っていうと、いま2019年になって、過去にアメリカおよびヨーロッパでコカインが大量に出回った。これ、薬物というものは地球上の産地が固定しているんですね。たとえばヘロインやアヘンなどケシ系の産地はだいたいアフガニスタンですよね。トルコ、アフガニスタン、パキスタンのあたり。

(プチ鹿島)はい。

(モーリー)そしてコカインはコカの葉っぱから作るんですけど、高山でしか採れないのでコロンビアとペルーぐらいなのね。

(プチ鹿島)だから価値がものすごく上がる。

(モーリー)そして、なぜそれがはるばる地球上のあちこちに移っていったのか?っていうのをいまや、やっと検証ができる時代になりまして。1980年代、コロンビアに巨大な麻薬組織カルテルが作られて。そのカルテルは2つ、大きなものがあってひとつがメデジン市にあったメデジン・カルテル。そしてもうひとつがカリという街にあったカリ・カルテル。この2つが二大勢力でした。で、そのメデジン・カルテルのリーダーだった非常に粗暴で暴力的なパブロ・エスコバルというリーダーがいたんですけど。その人の人生の物語を『ナルコス』というドラマにしてNetflixでやっています。

(プチ鹿島)はい。

(モーリー)それを見ると非常にドキュメンタリータッチなので、いかに貧困の中から、コカの葉っぱを地元に住んでいる農民が作り……他の農業をするよりもコカの葉っぱを作る方が圧倒的に儲かるわけで。そこに地元の警察がまず賄賂を受け、最後は政府ぐるみで賄賂を受け。ところがアメリカとの関係もあるから。アメリカは麻薬取締局(DEA)という組織を送り込むんですよね。で、本当は政府とDEAは協力して、そのカルテルを一緒に潰したり、コカの畑を焼いたりするはずなのに、パブロ・エスコバルは捕まりそうになると軍隊にトランシーバーで連絡が来て、その軍隊は帰っちゃうんですよ。

(プチ鹿島)ほう。

(モーリー)上から連絡が来て。で、「話にならない!」ってDEAの人たちが毎回怒って。「またか!」って。そんな感じでドラマは何シリーズかあって、最終的にパブロ・エスコバルは射殺されるんですけども。今度はそれと前後して、コロンビアで生産された大量のコカインをアメリカ国内のマーケットにどうやって運び込むか?っていうことで、カリブ海のルートがあったんだけどそこはDEAが潰してしまった。上手くやって。そうすると、今度はメキシコ経由の陸路が残っているわけですよ。そこでメキシコの利益率の低い大麻ばっかり売っていたカルテルがコカインに手を出して。間に入るミドルマンになるんですね。で、これによってアメリカに入ってくるコカインという薬物の量が激増するという時代があるんです。1980年代に。

(プチ鹿島)それが80年代ですか。

(モーリー)で、そこのリーダーだった人っていうのがエル・チャポと呼ばれる人で、最近捕まってやっと裁判になって。まあ、終身刑になるわけですけども。その構造および不幸の連鎖。貧困の人たちが生活のために麻薬の原料となる作物を作らされ、その人たちは奴隷のように働かされ、秘密も漏らすと殺される。そして地元の警察もグルになるから、警察に駆け込んでも警察に売られてしまって自分は殺される。そんな風に法の支配が及ばない、貧困と麻薬というもの。そしてそこにお金をつぎ込んでいるのは先進国のマーケット。間にはいろんな腹黒いものがあったり。アメリカの捜査当局ですら、場合によっては腐敗していたりする。それがいま、アメリカ人が史上もっともコカインを摂取してきたんだけども、それをやっと落ち着いて見れる時代になったんですよ。

(プチ鹿島)うんうん。

(モーリー)だから麻薬っていうのが基本的に自分の裏庭で自分の意志だけで作って。いわゆる人に迷惑をかけないで作って摂取しているっていうのは牧歌的な見方なんですよ。これは広域のカルテルで、そこに貧困や紛争がかかわっており、南北格差……そういう問題があり。そしてアメリカでも超格差社会になって、下にいる人ほどクスリに手を出すという構造になっている。

(プチ鹿島)そうか。前にモーリーさんが全然薬物じゃない普通の商品の話としても、そこがやっぱり経済的に貧しい国でその労働力の犠牲の上で……。

(モーリー)そう。まさに。だからたとえば「これはオーガニックコットンですよ」って言われて買った衣類が実は、強制労働させられている子供の手でウズベキスタンで作られていたとしたら嫌ですよね。カンボジアの縫製工場でギャラも払われずにばっくれたとか。やっぱり人道に反するわけですよ。コーヒーの豆でも、やっぱり子供が働かされていたり、地元の人たちの豆が不当に低く買い付けられたりすると、そこがみんな破産してしまうんで。そうすると、そこで破産をしたエチオピアのコーヒー村の人たち……これはドキュメンタリーがあるんですけど。実は麻薬を作るという方向に行くの。

(プチ鹿島)はいはい。

(モーリー)だから、そういう風に貧困が増幅されていく。この構造を消費者は末端で知る時代が来ているから、いまコカインをやっているのを「ワルでかっこいい」とは僕はもう言い切れなくなった。

(プチ鹿島)だから変な話、同じ薬物をやるのであれば……って。だから僕、今日話を聞いた前まで卸をやっていた人って、やっぱりコカインって価値があるから日本だと富裕層が使いだしているイメージがあるって言っていたんですよ。

(モーリー)そうですね。コカインは日本の場合はそういう風に遠くから運んでこなきゃいけないとか、アメリカと違って巨大なカルテルが日本に密売網を作っていないので、価格にはとてもプレミアムがつくはずです。

(プチ鹿島)でも、いまのモーリーさんの話を聞いたらじゃあ、「日本の富裕層よ。いまお前がやっているそのコカインというのはそんな搾取とか労働の上に成り立っているものなんだ。それなのに、なぜコカインなんだ?」っていう、そういう変な問題提起も必要なわけですね。

(モーリー)そうですね。そして、元ウルグアイの大統領のムヒカさんという人が大麻の合法化をした。なんでか? それはコカインのカルテルの資金源を絶つために(ゲートウェイドラッグとなる大麻の合法化を)やった。だからいま、南米でも欧米でも大麻の合法化が進んでいる。日本では「うわっ、大麻なんて大丈夫なのか?」みたいにちょっとヘラヘラ見ている部分もあるけど、実はそこにある根源的な問題は全部つながっている。コカインやヘロインを絶ちたければ大麻を合法化するという作戦に出た国々があったわけですよ。そこからドミノで、いま最終的に日本にも押し寄せてくるという状況がある。

(映像が途切れて途中音声が記録できず)

(モーリー)……ところが当時は情報不足だったため、どうしてコカインや大麻がアメリカでありふれているのかを誰も知らず。当時はメディアも統制されていたんです。だから「(ドラッグは)悪い、悪い!」っていうことをいまの日本のように報道をするだけで。でも「悪い」って言われると子供はやってみたくなるんですよ。

(プチ鹿島)そう。それもおっしゃっていた。いま一生懸命リハビリしている人が。やっぱり「危険だ、危険だ」って言われると、ちょっと手を出してみたいという風に若い頃に思ってしまったって。

(モーリー)あと、危険の度合いというものが本当に違っていて。大麻がもたらす精神的な依存とされる部分の依存と、あるいはコカイン、あるいはケタミンがもたらすもの。あるいはフェンタニルのような本当に致死性が高いものがもたらす依存というものは全く種類が違うんですね。ここをやっぱりリテラシーを特に若い人に向けて上げてやること。これが日本の防衛になると思います。実はBBCは子供向けの、子供が読んでわかりやすいレイアウトをした薬物の総合サイトを作ったりしています。

BBC 子供向け・薬物総合サイト

(プチ鹿島)じゃあ僕、もうひとつのメディア論をちょっとご紹介していいですか? この話で。これを見ていただいてもよろしいでしょうか? 1週間前の東スポの記事。これ、タブロイドからこんにちはのコーナーをちょっと早めにやっていますけども。「薬物、DV、詐欺、大物芸能人3人」ということで。真ん中の「大河出演B」という。まあ東スポが最近お得意の影絵ですね。影絵記事。これが今日、この事件が発覚したことによって「瀧さんなんじゃないか?」っていう風に話題になっているわけです。これ、どういうことか? メディアの話として、東スポが最近、僕もこの番組でしょっちゅうお話をしていますけども。影絵を出してたとえば次、薬物で逮捕されるのは誰か? とか。そういうセンセーショナルな記事の作り方というのが最近のお家芸になっているんですよ。

プチ鹿島 タブロイド紙の影絵記事のすごさを語る
プチ鹿島さんがBSスカパー!『水曜日のニュース・ロバートソン』の中でタブロイド紙に時々掲載される影絵記事の魅力とすごさについて話していました。

(モーリー)ところがそれがリアリズムになりつつある。

(プチ鹿島)そう。昔だったらみなさん、考えてみてください。東スポの未知のものって雪男だったりUFOだったりしたんですけども。それがいま、こういうもっとシビアで下世話な影絵の方が受けるという。そういう時代になってきたんだなっていう。この影絵。東スポの未知がどんどん変わってきているんですね。雪男から影絵になっているということです。

<書き起こしおわり>

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