星野源と宇多丸 アルバム『POP VIRUS』を語る

星野源と宇多丸 アルバム『POP VIRUS』を語る ラジオ

(宇多丸)あと、なんかすごくこれはもうちょっと表層的な部分なんだけど、STUTSくんのビートとか、いわゆるビートミュージックは星野くん、合いますよ。

(星野源)ああ、そうですか? ありがとうございます。

(宇多丸)星野くんの声のなんていうか繊細さみたいなのが、ああいう隙間があるような音像とか、隙間がある音の作りに合うんだと思う。だから、もっとガンガンにいろいろやってもここは大丈夫なところじゃないかな、ぐらいに思った。すごくフィットしている。普通にフィットしていると思う。

(星野源)ああ、嬉しい。

(宇多丸)で、その『Pop Virus』とかの……だからね、STUTSとの相性がすごくいいと思いますね。『Pop Virus』のあれって、ビートはSTUTSで。ジャーン!っていうあのシンセは?

(星野源)あれはもう生演奏で。JUNO-6とか80年代のアナログシンセを使ってやっています。

(宇多丸)あれの頭から、歌から入ってドーン!って入ってきて、それでジャーン!って入ってきた時の、なんて言うの? 「やられた……」っていう(笑)。

(星野源)アハハハハハハッ! そうですね。あのバランスで日本でやっている人はいないっていう。「日本」っていうか、世界でも日本語でもっていうのも含めていないっていうのがあったんで。でも、あの感覚って自分の中では『ばかのうた』っていうファーストアルバムの中からあるものだと思っているので。それをいまやりたい音像でやれるのではないかっていう。で、やっぱりあのバーッ!っていうのを録音でバーッ!って鳴らしている時にみんな、爆笑したんですよ。「最高!」みたいな。「これだよね!」みたいな(笑)。

(宇多丸)やっぱり突拍子もない感じが最初、あったっていうことですか?

(星野源)はいはい。あと何回聞いても笑っちゃうみたいな(笑)。

(宇多丸)いや、でもなんか、あれはいまの音楽っていう感じだよね。だからこれ、すごくうがった見方ですよ。星野くんはたぶんそんなつもりはないって言うかもしれないけど、僕はその、要は母数が違うところっていうか。まあ、スーパースターじゃないですか。言っちゃえば。

(星野源)いえいえ、ありがとうございます(笑)。

(宇多丸)スーパースターで、その確実に次に出すアルバムは日本でいちばん売れるポップミュージックのひとつになると思われる作品で、僕は星野くんはきっと「2018年に日本で売れた曲はこれです」って言った時に、あとから恥ずかしくないものを作りたいと思っているに違いないっていうか。

(星野源)ああー。

(宇多丸)「古臭っ!」とか「この時、はいやっぱりJ-POPはガラパゴスでこんぐらいね」とか、そんなことは言わせねえぞ!っていう気概があるのかな?って思ったんですよ。

(星野源)ああ、そうですね。年代っていうよりも、いまどうしても、なんていうか、たとえば「海外進出」みたいなのってあるじゃないですか。そういう感覚。日本でやっているものはそのままでは海外ではウケないとか。だから海外用に場所なり歌詞なりを英語にしたり、アレンジも全部変えなきゃいけないのだっていう感覚ってとっても古いものだと思っていて。

(宇多丸)逆に。

(星野源)いま、国境って当たり前にあるんですけども。でも、そうじゃなくていま世界中がひとつの……これは音楽に関してなんですけども。政治とかじゃなくて、ただ音楽に関しては国境はなく、「地域」なんだと思うんですね。で、「あの地域ってダサいよね」っていうようなぐらいの感覚。で、そういう感覚になった時、やっぱりどこに地域に行っても自信を持って鳴らせる音楽を作りたいって思ったんですよね。

(宇多丸)うんうん。

(星野源)で、その中で、そうじゃないものを作ってしまったという感覚も、いままでの曲の中ではあって。で、そういう風にして次のアルバムは本当にどこに行っても堂々と「これが僕の音楽だ!」っていう風に……それは誰かの影響は受けているけど真似でその後につくものではなくて。僕という日本で育って、いま日本語しかしゃべれないですけど、そういう人間が東京というこの地域で育ったそのままの空気を含めた、俺のアルバムなんだっていう。

世界中から影響を受けたけど、俺の生活のアルバムなんだっていうのを……それは生活を描くことによって、どこの場所に行っても「ああ、これが君の生活なんだね」っていう風に思ってもらえるであろうという確信のもと、作ったっていう感覚なんですね。なので、「2018年に」っていうよりも、まあ本当にあんまり音楽って年代もあるけど、一生……あるいは人類が終わった後まで、光ディスクとかデータとかって残るものだと思うので。時間ではなく、いまという場所。延々と続く音楽というPOP VIRUSというものが残って恥ずかしくないようなものを作りたいっていう気持ちはすごくありましたね。

(宇多丸)ねえ。でもいままさにおっしゃったのがこのアルバムの全体で伝わるそのものだしさ。だから、「俺の生活を出せば」とか。星野源の歌はたとえば星野くんそのものだし。それを出したら……っていう考えを突き詰めると、人類史スケールとか、もっと言えばSF的なスケールのミームが残っていくみたいな話になっていってっていうところで、その全部込みね。音のかっこよさ、そしてこれをいまそのアルバムのタイトル曲として出すその志と。あとはやっぱり歌詞が見据えている射程。その全てを込みで、僕はその寒空の中、半蔵門のMXテレビの前で『Pop Virus』を聞きながら……。

(星野源)アハハハハハハッ! 聞いてましたよ。ありがとうございます(笑)。

(宇多丸)「なんたる志の高い作品を作りやがるのだ……ふざけるな!」って。

(星野源)ありがとうございます(笑)。

(宇多丸)で、曲に行こうかと思うんですけど。さっきから『Pop Virus』の話をいっぱいしているからね。『Pop Virus』を聞きましょうかね。

(星野源)ぜひぜひ。よろしくお願いします。

(宇多丸)また聞くのー? どうせいいんだよ、そんなのは。

(星野源)アハハハハハハッ! 聞きましょうよー。

(宇多丸)じゃあ私からご紹介させてください。星野源で『Pop Virus』。

星野源『Pop Virus』

(宇多丸)ほら、やっぱりよかった。

(星野源)フフフ(笑)。

(宇垣美里)「ほら、やっぱり」って(笑)。

(宇多丸)いま、聞きながらまたこうざっくばらんに話していたんですけども。構成作家の古川さんも。やっぱり音楽といえば古川さんということで。

(古川耕)あ、どもども。

(宇多丸)僕がさっきさ、「ビートミュージックと星野くんの声がすごく合うと思う」みたいな話を雑談の中でしていて。でも、「歌い方もちょっと変わったんじゃないか?」って。

(古川耕)歌い方がいままでとちょっと変化したような印象を受けたんですけども。

(星野源)そうですね。歌を……いま、この『POP VIRUS』の中で歌っている歌い方はお風呂場で歌っている時の歌い方なんですよ。なんとなく、自分の中では。

(古川耕)お風呂場?

(星野源)あの、僕は『ばかのうた』を作る時に「歌も下手だし、技術もないからとにかく平坦に歌おう」って。ファーストアルバムの時に。なので、平坦に歌うことを自分に課していたっていうのがあったんですけども。でも自分の歌の限界もあるけど、そうじゃなくてちゃんと練習して。稽古してっていうか、それをしてちゃんとお風呂場でただ気持ちいい歌い方っていうか。

(宇多丸)いい気持ちにちゃんとなって。

(星野源)いい気持ちになって歌おうっていうのが今回のアルバムでやろうとしていることで。

(宇多丸)逆に言うと、いままではそんなにいい気持ちになっていなかったんですか?

(星野源)「なっちゃダメだ」って思っていました。ナルシシズムに陥っちゃいけないと思って。

(宇多丸)ねえ。表現が恥ずかしいっていうのもあるしね。

(星野源)そうなんですよ。ベースに恥ずかしいことだから。人前に出るっていうのは。だからそうじゃなくて、自分に酔うんじゃなくて、音を届けるんだっていうなんか真面目な気持ちだったんですけど、なんかもういいかなって。音楽、楽しいでいいじゃんっていう。そういう感覚になんかなったんで、お風呂場で歌っている時の感じを素直にやっているっていう感じですね。

(宇多丸)でも、それって絶対に出るよね。テイクにそれは出るじゃないですか。いい気持ちのやつと、あとは自分が好きな時のテイクとそうでもない時のテイク。

(星野源)フフフ、ありますね(笑)。

(宇多丸)返りがそんなにいい感じに返ってない時のさ。

(星野源)ああ、わかります。耳の中にね(笑)。

(宇多丸)そう。心が折れた時のさ、テイクとかありますもんね。そしていま、この話で俺、大事なことを聞くのがすっ飛んでしまいました。あ、そうだ。思い出した。あのね、あれは何年前でしたっけね? 『YELLOW DANCER』が出るちょっと前ぐらいかな? 高橋芳朗さんと打ち合わせみたいなところがあって。そこに橋Pもいて。なんかたまたま僕、一緒に合流したじゃないですか。

(星野源)ああ、そうですね。ご飯をご一緒させていただきました。

(宇多丸)で、その時に、すごいざっくばらんな会話の中で、やっぱりブラックミュージックと日本的なポップの融合というところで僕がすごい「ああーっ!」って思ったのが、特にサビは譜割り的にもっとかっこいい譜割り……ブラックミュージック的といかグルーヴィーなというか。もっとかっこいい譜割りをしたくなるんだけど、サビだけはあえてベタに置く、みたいなことをおっしゃっていて。それがすごいおもろいなって思ったんですけども。そのあたりの意識っていまだにありますか?

(星野源)ええと、どんどんなくなってきてはいるんですけども。単純にそれって僕、歌の技術がないんですよ。なので、早く音程を移動できないんです。なので、自分で昔から曲を作る時に歌がゆっくりな歌しかなかなか歌えないので。でも、それをどうやって……楽しい曲も大好きなんで、楽しくするにはどうしたらいいのか?って思ったらコード進行をめちゃくちゃ凝るっていう。それで工夫をしていたんですけども。

(宇多丸)うんうん。

(星野源)SAKEROCKの時からそうなんですけど。で、それもあって。でも、その自分の好きな楽曲の条件が結構それに当てはまるといえば当てはまるんですよね。めちゃくちゃ早い曲なんだけど、歌の譜割りは遅いとか。広いとか。そういうポップさが僕は好きだったりもするので。そういうのを作ろうとは思っていたんですけど、だんだんそういう気持ちはなくなってはきていて。でも、自分が歌える範囲……技術がないものとしての歌える限界の範囲はきっと、カラオケでみんなが歌える範囲なのではないか?っていう感覚もあるので。

(宇多丸)はいはい。まさにそれがポップだもんね。

(星野源)ポップなのではないか?っていう感じです。

(宇多丸)なるほど。もういちいち話が面白い。すいませんね、宇垣さん。星野くんを占領しちゃっていて。

(宇垣美里)いえいえ。

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