(南部広美)その前に、運営っていうのはどういう感じで……お金が女の子たちだったりアイドルたちに行かないっていう状態ですけど、イベントだったりなんだったりで収入はあるわけ。運営側っていうのは回っているというか、ちゃんとなってるんですかね?
(吉田豪)これもピンキリなんですよね。それなりに食べていこうと思えば食べれるんですよ。搾取すれば食べれる。女の子にちゃんと払わなければ意外と稼げたりもするし、女の子に誠実にやろうとしたら、それで稼ぐのはよっぽどの規模にならないと難しかったりもするし。
(南部広美)なるほど。(メッセージを読む)「私は衣装のオーダーメイドをしていて、いくつかのアイドルグループの衣装を作りました。お客さんが100人ちょっとのいわゆる地下アイドルです。幸い賃金未払いのようなひどい運営に当たったことはありませんが、どこの事務所も仕事のできない人が多く、アイドルへの賃金も少ないのだろうけれど、そもそも事務所にもお金がないといった印象です。そしてアイドルはみんな、バイトや学校の時間をぬって一生懸命レッスンをしています。趣味とは違うのかもしれませんが、好きだからやっていて、仕事という感覚とはまた違うのかなと感じています」。
(荻上チキ)うん。ビジネスとして成立していないんじゃないかという面もあるという指摘ですけども。
(吉田豪)まあいい意味でだから部活感覚だと思い込ませようとしてるんですよね。学生の時だけでできる部活であり、ちょっとしたバイト感覚というか。それで食べて行こうという発想とは別なんですよ。そこにつけ込んでいるって言っちゃうとあれですけど。
(南部広美)わからないだろうしね。比較というか。
(吉田豪)当然です。
(荻上チキ)そうでしょうね。こういった、たとえば雇用主にあたるような人からのハラスメントとか、あるいは客からのハラスメントから守ってくれないで放置しているという現場は、秋山さん。普段取材されている他の子供の労働でも感じるところはありますか?
(秋山千佳)そうですね。たとえばですね、私が今回の件もそうなんですけれども、感じているのが、高校生年代くらいの子たちっていうのはその仕事において断れない子が多いなっていうところなんですね。それは普通のバイトでも全く同じで、さっきの北海道の子なんかもまさにそうですよね。それはなんでかな?って考えた時に、学業よりも優先してしまうっていうの現場の先生の話もあるので、なんでかっていうのは考えたら、子供たちが学校なり、あるいは家庭なりで自分が認められるだとか、あるいは必要とされるというような機会がなく来ている。そういうような子たちが、バイトだったら「来てくれ。働いてくれ」ということで求められるわけですよね。
(荻上チキ)役割意識と責任感みたいな。
仕事において断れない高校生が多い
(秋山千佳)そうです、そうです。なので、単純にお金をもらえるだとか、まあアイドルの場合はお金さえもらえなかったりもするとは思うんですけれども、そういう労働という単純な話だけではなくて、子供たちにとってその居場所ほしさだとか、あるいは最近の言葉で言うと「やりがい搾取」っていうようなことにも繋がるとは思うんですけれども、そういった面というのはすごく普遍的に感じますね。
(荻上チキ)ええ。また豪さんのところへ、たとえばアイドルの方から「これってどうなんですか?」って来ることからもわかるように、まずそもそもたぶん労働法については多くの高校生たちはまず知らない。
(吉田豪)なにもわからない。
(荻上チキ)その上で、アイドル業界はよりブラックボックスなので、他所がどうなのか?っていう情報の共有もないということですよね。
(吉田豪)そうなんですよ。で、やっぱり親御さんが反対をしている中でアイドルをやっている子が意外と多いから、親にも言えない。もしくは、親に心配かけさせちゃいけないから、やっぱり言えない。1人で抱え込むしかない。だからはじめて僕に言えて、「ああ、なんかやっと落ち着けました」みたいなケースが意外とある。
(荻上チキ)そうした、たとえば未払いやハラスメントというのは通常の職場やバイトの現場でもあるので、そうした相談などの体制を作るとか、労働知識の普遍化っていうのは必要ですけども、ややアイドルに特化したような相談体制もまた、必要だというような感じになるわけでしょうかね?
(吉田豪)結構、だから前から実は僕、言ってるんですよ。「アイドルの未払い問題とかも多くて。弁護士、絶対こっちに乗り出した方がお互いWIN-WINで何とかなりますよ。裁判すれば取れるんですよ」っていう。相手が子供だからと思って大人は脅しているわけですよ。「勝手に辞めたらン百万円だの何だの」とかっていう罰則をつけたりとか。でも、聞いてみたら意外と「警察に言う」って言ったらお金が出ましたとか、ゆるいんですよ。向こうもそこで反撃されると思ってないっていう。
(荻上チキ)深井さん、弁護士側、司法の側として法曹関係者がアイドルを支援するとか、この業界に対してメスを入れるというような動きっていうのは鈍いと感じますか? それとも、いま動き始めていると感じますか?
(深井剛士)動き始めているんじゃないかなと思います。私は直接関わっていないんですけども、この大本さんの件を提訴した代理人は、まさに5人ともそういった団体を立ち上げた方々だと聞いておりますし。私も所属しているある団体では、その芸能人の組合と言いますかね、そういったみんなで集まってそういう問題を共有して、場合によっては団体的に活動をしようというような団体を作ろうという動きが出てきておりますので。まさにいま、こういった問題を背景にして動き始めてるのかなと思っております。
(荻上チキ)これ、さらにたとえばそういった場合には、当然ながら不当な未払いについては請求できるわけですよね。さらに、多分その豪さんは詳しいと思うんですけども、たとえば「ここの事務所を訴えた」みたいな噂がたつと、他の事務所が取ってくれないだとか、「あの子は問題を起こす子だ」って……正当な要求なのに「問題を起こす子だから」っていうので使ってくれないみたいな。「使ってくれなくなるよ」みたいなことはこれ、脅迫にあたるんじゃないかと思うんですけども。これは、ありますか?
(深井剛士)「使ってくれなくなるよ」ということだけで、ただちに脅迫になるかどうかというと難しい問題ではあるんですが、やっぱりそういう言葉を言うことで本来できる権利行使をさせないというようなことについては、やっぱり対応として誠実さがないということになりますので、仮にそれが本当に裁判になった時に非常に心証が悪いといいますか、裁く裁判官の印象が悪くなってしまうんじゃないかなと思うので、大変よくない発言だという風に思います。
(荻上チキ)あと、一般に「干す」って言われること。あれは違法にならないんですか? 要はテレビ局なんかに「あいつを使ったらうちの事務所の子を出さないぞ」とか。その人に対する悪い評判、噂を流して使わないような環境を作るということですね。
(深井剛士)まあ、それが行きすぎたらですね、やっぱり不法行為というか、なりまして損害賠償の対象になるということは考えられるんじゃないかなと思います。
(吉田豪)いまだにあるんですよ。僕の知っている地方アイドルの子がグループ辞めた時にやっぱり脅されたらしくて。「お前、この世界で食えないようにしてやるからな。干すぞ」みたいなことを言われたらしいんですけど、そんな力がある人が地下運営をやってるわけがないんですよ。
(荻上チキ)たしかに! そうですよね。
(吉田豪)そして、その程度の人がそんな全方位に力が及ぶわけがないじゃないですか。「全然そんなの気にしないでいい」って言って。
(荻上チキ)そうですよね。だからそういうようなことが、いま、たぶん豪さんとかに言われると「ああ、そうか」って腑に落ちる人も多いと思うんですね。でも、その反論のロジックがたとえばネットでも落ちてないし、法テラスでも、たとえばそういうところで法律の言葉じゃないところで、アイドル業界の言葉で説明してくる人が少ないし……っていうことはあると思うんですよね。
(吉田豪)ですね。まず、データがないのが大きいんですよね。どこの事務所がいい、悪いっていうのがあまりにも地下とか地方アイドルだと、データはゼロだと思うんですよ。やってみなきゃわからない。この世界に入ってみて、なんとなくあそこは大変そうだな……みたいなことで察するしかないんで。本当に運なんですよね。
(荻上チキ)ええ、ええ。あとは豪さん、これはメディアにもかかわる問題なので、報じる側が遠慮してるっていうところはありますか?
(吉田豪)どうだろう? ただ、メディアを見ていて思うのは、報じる側もそんなに詳しくないから、どうしても自分たちの世界の解釈でやっちゃうから。地下アイドルとか地方アイドルだとちょっとそれは違うんじゃないかな?っていう。あまりにも芸能界のルールだけで話しちゃうと、ちょっとズレが出るんじゃないかなと思いますね。
(荻上チキ)どんなズレを感じました?
芸能界ルールだけで話すとズレが出る
(吉田豪)芸能界のルールからしたら、それは当然、「そんな学費を借りるとか、おかしいでしょ」とかになっていったりするでしょうけど。「親がおかしいんじゃないか?」みたいな発想になったりとか。でも、そういうだけの話じゃないですよね。
(荻上チキ)一方でメディアから、たとえば芸能人のサクセスストーリーだと、たとえば「吉本はギャラが安かった」とかなんとか……。よく、「4円だった」とかね。
(吉田豪)そうなんですよ。それもすごい言われるんですよ。「吉本の方が問題じゃないか?」とか言われるんですけど、最初から「安い」っていうのがわかっていて、大人が覚悟して入る世界と、子供が最初になんかいいように騙されてやる世界とでは全然違いますよ。それは。
(荻上チキ)そうなんですよね。そのあたりはたとえば秋山さん。他の業態でも、実際に言われていた給料と、入ってみたら「○○費、○○費」で取られるっていうようなケースも、これまた出てしまうわけですよね。ブラックバイトでは。
(秋山千佳)そうですね。私自身が取材した中ではちょっとアイドルほど極端なっていうのは聞いたことないですけれどもね、ただやっぱり全般に言えるのは子供たち、とにかく法的知識はないなという。そのあたりはもうちょっと教えておくべき。たとえば学校の家庭科の教育で、そういうようなことを教えたりとかっていうようなことは今後、やっていければいいのかなっていうのは、アイドルに限らずですけどね。
(荻上チキ)そうですね。道徳とかよりも先に、身を護ることがあると思うんですけどね。ちなみに、深井さんのところにアイドルグループの方が相談に来るというのは、どんなルートで相談にたどり着かれる方がいらっしゃるんですか?
(深井剛士)私はもともとですね、地下アイドルに知り合いがいたもので。その件を何件かやったことで、その経験なんかをTwitterに書いたところ、ある縁で記事にしていただいたりとかして。その記事を見てきたという方が何人か、いまのところおりますね。
(荻上チキ)なるほど。じゃあ、「あそこは駆け込めるらしい」っていう空気になったら一気に……ある種「#MeToo」みたいに。
(深井剛士)まあ、「一気に」というわけでもないですけどもね。
(吉田豪)でも「詳しい弁護士の人がいるぞ」っていうのは僕もリツイートした記憶がありますからね。
(深井剛士)ありがとうございます(笑)。
(荻上チキ)御本人ではなくて親御さんが来られるんですか?
(深井剛士)その件については、未成年の方ではなかったので、ご本人が来ました。親御さんと一緒に来た方は1人おりましたけれども、その方はちょっと違うルートで……もともとその親子と知り合いでということもで来たケースなので。私のTwitterを見て親子で来たとか、親御さんが来たってのはちょっとないですね。
(荻上チキ)なるほど。これ、どうして本人だけで来られるんでしょうか?
(深井剛士)それについてはその方はちょっと特殊だと思うんですけど、地方出身でアイドルになるために東京に来られた方なんですね。で、こっちで一人暮らしをしているので、親御さんは地方におられるので来られないということで。もちろん受任するにあたっては親御さんの確認を取りましたけれども。打ち合わせは本人としているということです。
(荻上チキ)これ、豪さん。アイドル活動をするにあたって、たとえば友達を作りにくいとか、地縁というものを作りにくいとか、家族に頼りにくいっていうことは共通してあったりするんでしょうか?
(吉田豪)そうですね。単純に本当に友達と付き合う時間も奪われていくわけで。学校にもなかなか行けない。情報がどんどんシャットアウトされていくんですね。自分たちの閉じた世界で運営サイドがおかしなことを言っていても「おかしい」と気づかない状況を作っていかれちゃうので。
(荻上チキ)情報がないと、「洗脳」と言ったら強すぎかもしれませんが、ある情報だけで「正しい」と思い込んでしまうので。しっかりと外部の情報に触れるような機会を作らなくてはいけないんですが。
(吉田豪)だから「豪さんが洗脳という言葉を使っていたことでやっと気づきました」みたいな。「私はいままで、あれが正しいと思っていたけど、やっぱりあれはおかしかったんですね」みたいなアイドルの子からのDMがありましたね。
(荻上チキ)そうですよね。秋山さん、たとえばブラック企業とかブラックバイトでも、やはり研修とかでまさしく意図的に洗脳しているような企業っていうのもありますし、そうではなくてただ情報が足りないとか、いろんなレベルがありますよね。
(秋山千佳)本当にそうですよね。ただ、繰り返しになりますけれども「食い物にするなら未成年ほどやりやすい対象はいない」っていうところもありますし。本当に労働者としてあまりに脆弱なのが現状ですよね。
(荻上チキ)ええ。だからそのあたりのバックアップ体制の社会の脆弱さっていうのがより出やすいところというのが未成年者だったり、あるいはアイドルのように情報が共有されないところだということがここまででわかりました。では、これからどうすればいいのか。一旦お知らせの後に考えます。