吉田豪と荻上チキ アイドル・未成年者の労働問題を語る

吉田豪と荻上チキ アイドル・未成年者の労働問題を語る 荻上チキSession22

吉田豪さんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に出演。愛媛県のアイドルグループ・愛の葉ガールズのメンバーが自殺した事件をきっかけにさまざまなアイドルらから労働条件に関する情報が集まるようになった吉田さんが荻上チキさんや弁護士の深井剛士さん、ジャーナリストの秋山千佳さんらとアイドル、未成年者の労働問題について話し合っていました。

(荻上チキ)ここからは特集、メインセッション。今夜のテーマはこちらです。

(南部広美)アイドルグループ・愛の葉ガールズのメンバーが自殺し、遺族がパワハラや過重労働が原因として所属事務所を提訴。この問題をめぐっていま、考えるべきこととは? 愛媛県を拠点に活動する農業アイドル・愛の葉ガールズのメンバーだった16歳の大本萌景さんが今年3月に自殺しました。大本さんの遺族は今月12日、萌景さんの自殺は所属会社のパワハラや過酷な労働環境で精神的に追い詰められたことが原因として、代表取締役ら4人におよそ9200万円の損害賠償求め、松山地方裁判所に提訴。一方、所属会社側はパワハラなどを否定していて、「法的責任はない」と反論しています。

この問題を巡ってはアイドル固有の事情だけではなく、未成年者による労働の問題や子供と大人という知識が立場の点で著しく非対称な関係から生まれる構造に問題があると指摘されています。今夜はこの問題をきっかけに労働問題を手掛ける弁護士や子供の貧困やスクールセクハラなどの問題を取材するジャーナリスト、アイドルの動向などに詳しい方などと共ににさまざまな論点から考えます。

荻上チキ;はい。今回の事件というか裁判というのは現在進行形の係争ではあるんですけれども、この報道に端を発していろいろとアイドル業界であるとか芸能業界であるとか、あれはその若者の労働現場に関するいろんな論点が山ほど出てきてる状況にあるわけですね。今日はまず論点整理をした上で、それぞれの論点ごとにどういった提案であるとか、どういった改善が必要なのか。そうしたことをじっくりと語り合ってきたいと思います。

(南部広美)では、今夜のゲストを紹介していきます。弁護士の深井剛志さんです。よろしくお願いいたします。

深井剛志:よろしくお願いします。

(南部広美)深井さんは主に労働問題などを取り扱っていて、これまでに地下アイドルの法的紛争も取り扱って気ました。

(荻上チキ)はい。深井さん、どういったアイドル関係の裁判に携わられてきたんでしょうか?

深井剛志:いちばん多いのはやはり、アイドルの報酬に関する裁判。ないしは辞める時の損害賠償の裁判。それが非常に多かったと思います。

(荻上チキ)ではそのお金に関するトラブルというのはとても多いと言うか、深刻な実態なんでしょうか?

深井剛志:そうですね。この件についてはいまもかなりの問題が浮上してるという風に聞いておりますけれども、低賃金かつ非常に不透明な賃金制度になっているという点が問題だという風に思っております。

(荻上チキ)また拘束時間であるとか、あるいは連絡を受けなきゃいけない体勢であるとか、いろんなその労働の雇用の状況についても、法的にも課題があるということですか?

深井剛志:そうですね。やはりアイドルの契約の形態というものが形式的には労働契約ではないということで、労働基準法上の時間制限。1日8時間というような時間制限。そういったものが及ばない。休日の規定が及ばない。そういうことで問題になっているという例はいくつか聞いております。

(荻上チキ)はい。後でまた詳しく聞きますけど、「労働契約ではない」っていうのはどういうことなんですか?

深井剛志:アイドルが事務所側と結ぶ契約書には、基本的には「専属マネジメント契約書」というタイトルがついておりまして、形式的には雇用契約となっていないんですね。雇用契約というものだと、やはり出勤日ないし出勤時間。そして賃金というものを決めなくてはいけないことになっているんですけども、そういったものが契約書に盛り込まれていない。マネジメント契約書……法的には「業務委託契約」というものになっていることが非常に多い。

(荻上チキ)ということはアイドル側が「マネジメントをお願いね」っていう風に言う契約ということになるんですか?

深井剛志:そうですね。アイドルが事務所に対して「マネジメントをしてください」という、形態としてはそういう風になっているということですね。

(荻上チキ)なるほど。ということは、その権利保護という観点がいろんなところで抜け落ちがちな状況でもあるんですね。

深井剛志:そうですね。契約の形態はそういう風になっているということです。

(荻上チキ)今日は司法の法の観点からいろいろと解説、よろしくお願いします。

(南部広美)続いて、ジャーナリストの秋山千佳さんです。よろしくお願いします。

(秋山千佳)よろしくお願いします。

(南部広美)秋山さんは朝日新聞記者を経て、ジャーナリストとして活動中です。著書に『ルポ 保健室 子供の貧困・虐待・性のリアル』などがあります。

(荻上チキ)秋山さんは子供のさまざまな労働環境を含めた問題について取材を続けていらっしゃるわけですけれども、今回、「アイドルのニュースだ」という風に取り上げられることが多いんですが、むしろ「労働」という観点からも注目されていらっしゃるですか?

(秋山千佳)そうですね。私自身、アイドルの子たちを取材してきたわけではないんですけれども、それでもこのニュースを最初に見た時に「これは芸能界っていう特殊な世界の話ということだけではないな」っていう風に感じたんですね。むしろ、普通に学校に通っているような16歳の子たち、自殺した子と同じくらいの年齢の子たちであっても、同じような目に遭っているし、実際にこれまで取材してきた中で、似たようなことで大人から食い物にされてしまっているような子というのもたくさん見てきました。

(荻上チキ)うん。だからたとえば「アイドルなんて目立ちたがりな子で、だからそういったような危険なところに自ら行っているんだから自己責任だ」みたいな切断をしようとする人も世の中はいるわけですけども、そうではなくて。「労働」っていうようなちゃんとした契約を結ばれないような状況だったり、大人と子供っていうアンバランスな状況だったり、あるいは女性と男性だったりとか、いろんな構造というものが今回の件からも普遍的に見て取れるという?

(秋山千佳)ええ。まさに子供をめぐる様々な問題……大人が子供をその力関係の違いから支配するような、食い物にするような問題っていうところに根っこがすごく共通しているなというのは感じています。

(荻上チキ)今日はどういった観点からそうした普遍的な問題つなげていき、あとはどんな改善が必要なのか、ぜひともよろしくお願いします。

(秋山千佳)はい。お願いします。

(南部広美)そしてプロインタビュアーでプロ書評家の吉田豪さんです。ご無沙汰しております。よろしくお願いいたします。吉田豪さんはアイドルの動向などに詳しく、最新著書に『吉田豪と15人の女たち』などがあります。そして今夜は『Session』のTシャツを着てくださっています。

吉田豪と15人の女たち
Posted at 2018.10.18
吉田 豪
白夜書房

(吉田豪)通販で買いました。

(荻上チキ)僕の顔が(笑)。懐かしいですね。いま、吉田さんのTwitterのタイムラインを見ると、アイドルの方からのDM・ダイレクトメッセージっていうので相談がたくさん来ているみたいですね。

(吉田豪)そうなんですね。ちょうどこの事件の前後に沖縄のローカルアイドルでRYUKYU IDOLっていうのがいまして。そこのメンバーがTwitterで告発っていうのがあったんですよ。セクハラ、パワハラ、賃金未払い的な騒動。で、僕もちょっとそこのメンバーで知っている子がいたんでいろいろとやり取りをして。内情を聞いたりとかして、「これはひどい」とか思ってそういうのをつぶやいていたら、次々と「じゃあ、うちはどうですか?」「うちもこんなことがあったんです」みたいな子が次々と来るようになって。いまは本当にそれこそ全然、かなり広まって。男性地下アイドルからも来たりとか、すごい事になっていますね。僕がなぜか労働問題の専門家と勘違いしたのか、「ラーメン屋の賃金はこんな感じです」とか(笑)。自分の職業で苦しんでいる人たちが僕に送ってきたりとかもしていますね。

(荻上チキ)ああー。そこはなにか別の、それこそ弁護士の方とか、他と繋がっていくということが必要になるかと。

(吉田豪)そうなんですね。僕は本当にいろいろと正直、「吉田豪に相談するには弁護士に相談した方がいい」みたいなことを言う人がいるんですけど、実際にそれはそうなんですけど、突然言えないんですよ、やっぱり。いきなりその未成年の女の子が悩んで弁護士に相談ってできるわけがなくて。まず、誰にも言えないで困ってる人たちがすごいいて。で、僕に言ってはじめて「ようやく私の話を聞いてもらえた」みたいな感じの反応が多いんですよ。で、「私のこれって間違ってたんですか? おかしいですよね。いままで『おかしいんじゃないか?』と思いながらも、おかしいと思えずにいた」みたいな人がすごく多くて。だから「それはちゃんと親御さんに相談して動いた方がいいよ」みたいに僕が言っているっていう感じですね。

(荻上チキ)それは豪さんがかつてインタビューした方だけではなく、アイドルだけどまだ接点がなかったような方からも来られているということですか?

(吉田豪)そうですね。ちょっと……すごいことになってますね。

(荻上チキ)なるほど。またそういったような実態から芸能の実態までいろいろと豪さんには伺いたいんですが、まず最初に吉田さんにですね、整理をしてほしいんですけども。そもそもこのアイドルとか地下アイドルとか。そして今回は農業アイドルっていう言葉、いろいろとありますが、それぞれ定義というか意味合いっていうのは違ってくるんですか?

地下アイドル、地方アイドルの定義

(吉田豪)農業アイドルの定義は難しいですけど、まあ地上と地下の違いっていうのは僕が定義してるのは、90年代に入ったぐらいからいわゆるホールコンサートとかをできる規模じゃなくなってきた。「アイドル冬の時代」というちょっと人気が落ちてきた時に地下のライブハウスで活動を始める子たちが出てきて。そこから地下アイドルと呼ばれるようなものが出てきた。で、地下のしたにさらに地底があるとか、いろいろあるんですよね。で、地方アイドルというものもAKBとか、まあなにかが流行ると一気に地方にも出るんですよ。地方アイドルがAKBで一気に増えたまま、どんどんその後も増え続けていて。で、そこからもいろいろと幅を持たせるみたいな感じで農業アイドルという、だから農業に特化したアイドルも出てきたりしているという感じですね。

(荻上チキ)農業アイドルとか○○アイドルっていうのはひとつのジャンルとしてニッチなところを取って行こうっていう?

(吉田豪)そうですね。地方でやる上ではそういう方がいろいろとビジネスになりやすいっていうことでやってるんだと思いますけども。ただ、だからちょっと特殊だと思うんですよ。他のアイドルよりも多分労働がハードだったりもしただろうし。

(荻上チキ)ええ、ええ。朝早く起きて……とかっていうのもありましたもんね。たとえばご当地アイドルであるとか、いろんなものがあると思いますが、地下アイドルはテレビとかのメジャーシーンとは違って、ライブなどを中心とするみたいに定義する人もいるわけですけども。

(吉田豪)はい。「ライブアイドル」という言い方もあって。物販でお客さんとの接触の機会が多くて、チェキを撮ることによってビジネスが成り立ってるような世界ですね。

(荻上チキ)チェキ?

(吉田豪)チェキ……インスタントカメラでの撮影なんですけども。それがもう本当に無から有を生み出すぐらいの。フィルムだけで値段もいくらつけてもいいような文化で。基本は1枚1000円とかなんですけど、2000円とかで売ったりすることもあるし。で、「チェキバック」と呼ばれるもので女の子たちは基本、生活をする感じなんですよ。チェキのバック率で。

(荻上チキ)ああ、歩合制みたいな?

チェキバックの割合で事務所の良し悪しが分かる

(吉田豪)歩合制なんですよ。ところが、それも払われてないケースとか、本当にチェキバックの金額でその事務所がちゃんとしたかどうか?って結構わかるんですよ。40%から50%ぐらい払っていたら優良な事務所。で、ゼロとか50円とかが多いですね。意外と。「これっておかしいんでしょうか?」って僕のところに来て、「いや、おかしいですよ」っていう。

(荻上チキ)ゼロ……もちろん適正価格っていうのはなかなか難しいですけども、幅広く見ていくと「だいたいこれぐらいの金額」っていうところはあるわけですよね? 水準が。

(吉田豪)あります。で、またそういうことを相談しづらいシステムになってるんですよ。他の人たちに言うと、言ったことでクビになったりとかしたりするんで、誰にも言えない。「おかしいのかな?」と思いながらも、「でも、これをおかしいと思っているのは私だけだ」みたいな感じで、ほぼ洗脳に近いような状態で外部に相談できず、自分で思い悩むしかないような状況に追い込まれて行くという。

(荻上チキ)だからファンとしては、たとえば自分が推しのアイドルとチェキを撮って想い出として持ち帰ったり、集めたりする。それは同時に推しに対して還元されると思っていたら、されていないという?

(吉田豪)されていないケースが意外と多い。

(荻上チキ)うーん、なるほど。そうした中で今回の愛の葉ガールズの子というのはパワハラや長時間労働をおさせられていたということなんですけれども、豪さんに対してはTwitterでこんな質問も来ております。

(南部広美)はい。吉田さんに質問ということで。「ここ最近、吉田さんのTwitterには地下アイドルから実態を知らせる情報が届いているようですが、言うことができる範囲でどんな事例がありましたか?」という。

(吉田豪)そうですね。うーん、かなり細い話は来てるんですよ。やっぱり「契約してるんだから、しょうがないだろ」みたいな意見がたまにあるんですけど、そもそも契約してるのかどうかもわかんないケースが多くて。契約書が存在しないこともあるし、存在しても法的に絶対それは有効じゃないよね?っていう契約書が多い。ハンコも押させてもらえなかったとかもあるし。契約書に「報酬はない」って書いてあったんだけど、いざ話すと「ああ、これは紙で書いてあるだけで、ちゃんと売れたら払うから」「ああ、そうですか」ってなったら一切払われないままとか。なんかその場しのぎの嘘で乗り切ろうとするところが意外と多い。で、たぶん親とかも契約の際に混ぜないで勝手にやっている感じなのかな?っていうぐらいの。

(荻上チキ)うーん。その契約書のたとえば写真が送られてきたりとか?

(吉田豪)そうですね。僕はこうなる前から実は事務所サイドからも契約書が山ほど送られてきたいとか。「辞めた子がこんな不当な契約でした」みたいな。なぜか僕の携帯に多分、結構な契約書入ってますよ(笑)。

(荻上チキ)でもその事務所っていうのは、「しっかりした」というとあれですけれども。ピンキリなんですか?

(吉田豪)ピンキリです。僕がよく言ってるのは「地下アイドルの運営は8割は信用できない」って公言していて。「ちゃんとしているところは2割ぐらいしかいないだろう」って言ってるんですけど。だけど、アイドルをやっている子たちからはよく言われるんですよ。「たぶん9割だと思う」っていう。1割ぐらいしか信用できるのはいない。で、地方アイドルはさらに……でしょうね。本当に、普通にいろんな仕事をやっていた人が突然アイドル運営を始めるケースが多いんで。当然、アイドル運営のノウハウも何もなくやっているから。だからアイドルになって「いつか売れるんじゃないか」と思ってやってる人たちにしてみれば、どこかで「あれ? おかしい……」と思い始めるですよね。売れる目もない上に、お金もロクに払われず、ハードで。

(荻上チキ)酷使されるということになるわけですね。いま、深井さん、法的に……たとえば「無報酬である」と書かれていたり、あるいはそもそもサインする機会がなかったり。あるいは、文書を見せてもらう機会がないっていう話がありましたけど。これはそもそも法的にはどうなんでしょうか?

(深井剛士)最初の「無報酬」ということに関して言えば、報酬なく業務をするということになれば確実に違法だと思いますね。その契約は無効であるということになると思いますので、「報酬はない」ということに仮にサインをしていたとしても、やはり一定金額払わなきゃいけないということになると思います。

(荻上チキ)はい。違法なことにサインをしても、これは違法のままですもんね。「殺してもいいです」とかいっても、殺したら殺人になりますし。

(深井剛士)まあ、法的にはそういうものは無効であるということがありますので。そういった契約書は無効であると考えられますね。

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