(吉田豪)ちょっと僕が聞きたいのが、結構「ここで起きたことは口外禁止である」みたいなことも一筆取られるケースが多いらしいんですよ。で、それはだいたい事務所に問題がある。未払いとかで大変なところに限って、よりそういうことをやってるっぽくて。そういうので一筆取られたって、口外しても大丈夫ですよね?
(深井剛士)そうですね。仮にですけれども、あんまりないと思うんですが、アイドルがですね、本当にその事務所の大事な営業秘密を知っちゃったとか……まあ、そんなことはないと思うんだけどね。そういうものを隠すっていうことについては、なんらかの正当性はあるかもしれないんですけども。たとえば、アイドルとしての普通の活動をしている中で知ったことを外で漏らしていけないとか、そういったことが違法になるということは基本的にはないんじゃないかなと思いますね。
(荻上チキ)通常、秘密保持契約っていうのはクライアントのプライバシーとか個人情報を守るとか、あるいは業務上のノウハウを他社に知らせないっていうものではあるけども、本人が被害を受けたものを告発してはいけないっていうことでは絶対にないですもんね。
(深井剛士)そうですね。そういった条項についてはさっき言ったように「公序良俗」って言いますけども、公の秩序に反するので無効であるということになるんじゃないかと思います。
(吉田豪)僕のところにもいま、売れかけているグループで「実はノーギャラでずっとやらされてきて。ただ、そのことは外に言っちゃいけないって言われているので……でも、これっておかしいですよね?」っていう。
(荻上チキ)ノーギャラでやっている人たちは、じゃあどうやって食べているんですか?
(吉田豪)親が持ち出したり……ですよね。
(荻上チキ)ああ、バイトしたりとか?
(吉田豪)バイトの時間もなかったりするんですよ。結局。
(荻上チキ)そうですよね。学業の時間がなかったりっていう。あと、違約金などもよく、脅迫的に使われることもあると思うんだけども。深井さん、このあたりは?
(深井剛士)違約金についてはですね、たとえば「契約期間の途中で辞めた場合にはその後の活動で得られたはずの利益に加えて、さらにでこれまでのレッスン代とか交通費とか全て請求できる」というような条項が入っていることが多いんですけども……。
(吉田豪)できるんですか?
契約書の違約金条項は有効か?
(深井剛士)それについてはですね、やはり裁判例とかもあるんですが。「今後の出演によって得られた利益とかそういうものについては、それは損害とは言えない」ということで、弾かれるというか、損害賠償はできないという風に言われた裁判例もありますし。まあ、これまでの交通費とかでレッスン代というものは、それは基本的にはアイドルが本当にマネジメント契約なのか?っていう問題はやっぱりあるわけで。本来、アイドルとは言っても事務所の指揮監督下で時間を拘束されて働いているんであれば、それは「労働者」じゃないのか。「業務委託」ではないんじゃないかという、そういう論点もありますよね。そうした時に、じゃあその交通費とかレッスン代というものに対してアイドルが責任を負わなければいけないのか? という問題もありますので。労働者であるという風に認められるのであれば、交通費やレッスン代というものは基本は事務所負担であろう。アイドルに負担をさせるのはおかしいだろうという、そういう判断になると思います。
(荻上チキ)なるほど。ここまでの話を聞いて秋山さん、他の若年労働者の置かれている状況と重なるところというのは多く感じますか?
(秋山千佳)重なりますね。本当に未成年者の置かれた状況として、アイドルじゃなくても同じだなと思うのは、先月に北海道で地震がありましたよね。あの1週間後に北海道に行きまして、現地の定時制高校の先生にお話を聞いたんですね。で、「生徒さん、この1週間どんな状況でした?」ということでお聞きしたら、真っ先に上がってきたのがアルバイトの問題だったんです。具体的には地震の当日にコンビニのアルバイトでシフトに入っていた子がいた。シフトももともと1人で入れられて、ワンオペの状態ですよね。なんですけれども……。
(荻上チキ)高校生でワンオペ!?
(秋山千佳)そうです、そうです。そこからしても問題なんですけれども、問題がさらにたくさんあって。当時、北海道は停電で大変でしたけれども、その停電してる中で店長に指示を仰ぐわけですね。「どうしたらいいでしょう?」と。そしたら、「とにかく1人でそこに居続けろ。売れるだけ売れ!」という指示が来て、その日から3日間連続で……着替えに一度家に帰ったということなんですけれども、それ以外は寝る時間もう、レジのカウンターの中で寝るような状況で、ずっと働かせられたという。
(荻上チキ)本当にずっといたんですか?
(秋山千佳)ずっと、3日間。
(荻上チキ)交代なくっていう?
(秋山千佳)ということですよね。その子の状況が異常なのかな? というのも思って、その先生にもお聞きしたんです。そしたら、やっぱり同じようにひどいアルバイト環境で働いているような子がたくさんいて。その学校の生徒さんたちに先生も「これってブラックバイトって言うんだよ」っていうような話もするそうなんですけれども、でもみんなもうすっかり諦めてしまっているというか。「まあ、ブラックじゃないバイトなんて、ないよね」なんていう感じで、もうそれで良しとしてしまっているということなんですね。
(荻上チキ)これ、たとえば定時制高校なので家計が苦しいとか、他のバイトでなかなか雇われにくいとか、そうしたものもかかわっていたりするんでしょうか?
(秋山千佳)そうですね。まさにいま、例にあげたそのコンビニで3日間働き続けた子なんかも、お家が母子家庭だそうなんですね。で、学費を含めてそういう学校生活に関わる部分ていうのは全部自分で出しているそうなんです。ただちょっとですね、今回のこのアイドル自殺の件も繋がることかなと思うんですけれども、じゃあその親御さんが悪いのか? 「もっと親が頑張って働けよ!」みたいな単純な話で済むのかと言ったら、そうじゃなくて。たとえばその子のお家にしても、そのシングルマザーのお母さんはパート中に骨折を負ってしまって、後遺症が残ってしまったというので働けない事情があって。その子が「じゃあ自分がアルバイトしてやるしかないね」ということで頑張っているということなんですね。
(荻上チキ)豪さん、たとえばこの学校を中退しているような状況だったりとか、あるいは定時制に行ってるとか。あるいはシングル家庭でそもそも「この道しかない!」っていうワンチャンスにかけてる方とか。やっぱり地下アイドルでもそういった方もいらっしゃるわけですか?
(吉田豪)そうですね。多いし、やぱり学業優先で入ったのに優先させてくれないパターンは本当に多いみたいで。それが理由で辞めたのに、さっき言ったように「じゃあ、金を払え!」ってなったりとかするという。で、「それは果たしておかしいのかどうかすら、気づかないままでいままで来たけど……」みたいな人が意外と多かったですね。
(荻上チキ)お金の話と学業の話で、ちょっと前に48グループの1人のアイドルが通信制か家庭教師か、どこでも勉強していてコンサートの間も勉強できるみたいなCMが流れていたじゃないですか。で、そういえばアイドルは普段、どこで勉強してるんだろう? みたいなことが気になるわけですけれども。ちょっと前だと、堀越学園とかに行って勉強するのかな、みたいなイメージがあったんですが、どうされてるんですかね?
(吉田豪)まあね、東京は芸能学校があるからいいですけど、地方はもうね、そこまで気を遣ってくれるのかどうか、難しいとは思うし。だから結局学業と両立ができなくて、こういうトラブルが起きたんだろうとも思うし。
(荻上チキ)うん。実際にそうですよね。
(吉田豪)ただ、あれなんですよ。長時間労働に関しては多少のフォローはしておきたいのは、移動の時間も長時間労働にカウントしているのは、あれはちょっとかわいそうだと思っていて。それは、どこもやっていますね。早朝に集まって深夜解散とかは。それより、もっとその中の話をいろいろ詰めていくべきだと思いますね。
(荻上チキ)まあ、一般の企業でも通勤時間は労働時間に含めてはいないわけですから、まあ拘束時間と労働時間はちょっと分けて議論が必要だということにはなるわけですね。で、このたとえば地下アイドルのその働き方と給料の問題。今回のケースは特殊なのか、それとも割とある話なのか、豪さん、いかがでしょうか?
(吉田豪)そうですね。給料35000円というのが出て……給料というか報酬ですね。それが安すぎるんじゃないかとか言われてはいたんですけど、僕の感想としては意外と普通なんですよ。これに関しては。とにかく全体的にもらえていない。それは地下に限らずアイドル全体だと思うんですよ。メジャーデビューしているアイドルでもそうで。ちょっと前に姫乃たまさんっていうアイドル兼ライターの人が地下アイドルにアンケートを取った新書を出していて。地下アイドルの平均収入は月に12.7万円って書いてあったんですよ。
アイドルの給与事情
(荻上チキ)はい。
(吉田豪)それで僕、直後に彼女とイベントをやった時に「絶対にそんなにをもらってない」って言って。僕がいろいろと接した限りだとメジャーとかのアイドルでも一桁のケースが多い。5万、7万のケースが多くて、地下だともっと低い。たぶん基本3から5ぐらいじゃないのかな?っていう。
(荻上チキ)それは1ヶ月に、ですよね?
(吉田豪)1ヶ月で。というようなことをつぶやいてたら、次々とその「うちはいくらです」みたいなのが来て。想像以上にゼロから3000円ぐらいが多いです。
(荻上チキ)ゼロから3000円!?
(吉田豪)月に。でも、みんなそれがおかしいと気づいてないんですよ。僕のところに来たのが「私、月5000円なんですけど、これっておかしいんですか?」みたいな。「いや、おかしいですよ!」っていう。
(荻上チキ)でも、なんとなくこれは夢を追いかけるためのいまは準備期間で。事務所も応援してくれて手伝ってくれているんだから……って?
(吉田豪)で、「事務所もいろいろと先行投資しているんだから、もらえなくて当然だ」みたいな発想にはなっていくんでしょうけども。
(荻上チキ)うーん、なるほど。深井さん、このあたりのゼロとかが常態化してるという状態についてはいかがですか?
(深井剛士)実は私もですね、報酬についての紛争はやったことがあるので、そういう状況があるということは知っておりました。私が相談を受けたアイドルについては月1万円ということでしたね。しかも、さっき豪さんがおっしゃったようにチェキの売上だけ。固定のものは全くない。チェキの売上だけで1月に1万円だということがあったので、私も豪さんのTwitterをフォローしてますけども、あの状況を見てあまり驚かなかったんですね。ただ、じゃあそれでいいのかという問題もちろんありまして、先ほど申し上げたようにアイドルが本当は雇用契約であるというような裁判例もありますので。そういったことからすると、じゃあ基本的には本来は最低賃金ぐらいのお給料はもらえるべきじゃないかというのが法律を解釈した時に至る帰結だと思いますので。やっぱり最低賃金だと月に18万ぐらいになるんですけども。それぐらいは本来もらえるべきなのではないかというのがあるべき姿とじゃないかなという風に思います。
(吉田豪)ただ怖いというか難しいのが、それこそアイドルでいちばんキャリアの長いNegiccoという新潟のグループがあって。僕も2年に1回ずつぐらいインタビューしてるんですけど。いま、結構売れてきてるのに、彼女たちがいまだに言うんですよ。「いまだに新潟で実家暮らしだから成立していて、一人暮らしするだけのお金はまだもらえていない」っていう。あのキャリアでさえ、そうなんですよ。たまにいろいろ仕事をしてて、「うちは20万ぐらい払ってるよ」みたいなグループもあったりするんですけど、そこはちょっとメンバーに手を出しているっていう噂があったりとか。一長一短な……。
(荻上チキ)一長一短っていうか……短・短な感じがしますけどね。20万で、しかもハラスメントもあるということですよね。あの、僕はまだアイドルの方とチェキを撮ったことはないですが、うかがいたいんですけど、チェキがあるがゆえにたとえばNG客じゃないけど、NGファンを排除しにくいとか、そうしたものが働くようなメカニズムみたいなものもシーンとしてあったりはするんでしょうか?
(吉田豪)そうですね。太客は切りづらいでしょうしね。よっぽどひどいことでもしない限り。チェキの時とかに。
(荻上チキ)そうですよね。で、一緒にポーズを取ってくれたりする時に、やっぱりある程度の接触を許すアイドルも中にはいたりするわけじゃないですか。
(吉田豪)「あそこはこれぐらいやらせてくれたのに、何でお前はダメなんだ?」みたいなケースは多いですね。
(荻上チキ)そうですね。それがある種のハラスメントの温床になるということもあるわけですよね。マネジメントとしてやっているはずなんですけど、そこは介入して守ってくれたりしないところも多いんですか?
(吉田豪)マネジメント側が手を出すケースが意外とあるというところが問題なわけですよ。
(荻上チキ)ああー……。深いため息が出ますけども。
(吉田豪)そうなんですよ。
(荻上チキ)でも、なんだろう? フォローしてくれたりとか、(握手会で)はがしてくれたりとかは?
(吉田豪)まあ、あるにはありますけど、でもだから僕のところに来るのだと、やっぱりそうなんですよね。運営サイドが人気のあるメンバーとできていて。その子だけが新幹線移動で他の人たちは違うとか、なんかもうそういうような待遇に差をつけられて……みたいな話とか。でも、いちばん怖いと思ったのは、運営サイドが巡業とかに行った時に、あるメンバーの部屋にかならず泊まるみたいな。それが辛くての告発とかもあって。
(荻上チキ)はー……。でも、最近知り合いがアイドルグループに入ったんですけど、「推しばっかりプロモーションして常にセンターに置く。人気投票では変わっているのに……」みたいな話は聞いて、「へえ、残念だな」って思いましたけども。こんなメールも来ております。