辻田真佐憲 緊急事態宣言下で飛び交う「戦争」想定言葉を語る

辻田真佐憲 緊急事態宣言下で飛び交う「戦争」想定言葉を語る 荻上チキSession22

近現代史研究家の辻田真佐憲さんが2020年4月13日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に出演。荻上チキさんと新型コロナウイルス対策で緊急事態宣言が出された中で飛び交いう「戦争」を想定した大きな言葉、勇ましい言葉についてトーク。その言葉がもたらす影響などについて話していました。

(荻上チキ)それでは早速、Skypeがつながっております。近現代史研究家の辻田真佐憲さんです。辻田さん、こんばんは。

(辻田真佐憲)こんばんは。よろしくお願いします。

(荻上チキ)はい。「新型コロナ対策」で随分と街並みも、それから仕事ぶりもいろいろ変わったと思うんですが。辻田さん、今の状況をどういう風にご覧になってますか?

(辻田真佐憲)そうですね。あまりにも事態が急速に進んでいるので、人々の感覚がちょっと麻痺してしまっているのかな、という風に思っていて。今日扱う戦時下との比較に関してもそうなんですけれども。気をつけないと不必要にですね、たとえば私権を制限されたりとか。そういうリスクが今後、出てくるのかなとちょっと危惧しているところはありますね。

(荻上チキ)なるほど。たしかにTwitterだろうが専門家だろうが政治家だろうが、とにかく大きな言葉、勇ましい言葉というのがあちこち飛び交ったりもしていて。しかもそれが政治家とかではなくて市民からも次々と飛び交っていたりするので。そうした言葉に慣れるというのはちょっとどうなのかなという点は感じますよね。

(辻田真佐憲)そうですね。特に今、おっしゃったように市民から。下から「もっと制限した方がいいんじゃないか」とかですね、あるいは今日も少し触れようと思ってるんですけれども。自粛しない人たちに対する嫌がらせみたいなことも起きているので。単に権力を監視すればいいというだけではなくてですね、我々自身がちょっと冷静にならなければいけないっていうことだと思いますね。

(荻上チキ)なるほど。それから先週、緊急事態宣言が出される模様を各局が生放送をしたりしましたが、そちらについてはいかがですか?

(辻田真佐憲)そうですね。それもですね、すでに全部で4回、安倍首相のこういう会見が行われるいてると思うんですよね。2月末ぐらいから、前回が4月7日ですけれども。これもですね、今回また改めて一通り安倍首相の発言を読んでみたんですけれども。たとえばどういう言葉が使われているかってことを考えますと、やっぱり「戦争」っていうのが想定されているのかなと思うんですよね。

と、言いますのも、たとえば共通してこの4回の会見で全部使われてる言葉っていうのを見ていきますと、たとえば「戦う」という言葉だとか。あるいはその「勝つ」とか「勝利」という言葉。あるいは「敵」という言葉が入っていたりとか。やっぱりこれ、戦争にかなり引き寄せた発言になっているんですよね。こういったことが、しかも各メディアが放送したことによって多くの人がこの言葉を知らず知らずのうちに刷り込まれてるわけですよ。「戦争状態だ」ということを。

それには気をつけなければいけない。つまり、もちろん防疫は必要なんですけれども。「戦争」っていう言い方をすることによって、たとえば「我慢しなければいけない。耐えなければいけない」っていう刷り込みによって、本当であれば必要でないにも関わらず、いろんな自粛が強要されてしまうというようなことですよね。ここには気をつけなければなと思っています。

(荻上チキ)ではですね、今少し話題になりました、その総理会見なんですけれども。この首相の会見、先週の会見の模様の中で今、言ったようなその大きな言葉が割と飛び交いがちな後半部分などを抜粋してありますので。そこをちょっと聞いてください。

安倍首相 2020年4月7日記者会見(抜粋)

<安倍首相会見音源スタート>

(安倍首相)全く先が見えない大きな不安の中でも、希望は確実に生まれています。日本中、世界中の企業、研究者の英知を結集して、ワクチン開発、治療薬の開発が進んでいます。

自動車メーカーは、人工呼吸器の増産を手助けしてくれています。欠航が相次ぐエアラインの皆さんは、医療現場に必要なガウンの縫製を手伝いたいと申し出てくださいました。学校が再開する子供たちのために、手作りマスクを届けようとしている皆さんがおられます。

医療現場のため自分たちができる支援をしたいと、クラウドファンディングを始めた皆さんがいます。

私からも是非お願いをしたい。この国家的な危機に当たり、ウイルスとの闘いに皆さんのお力をお借りしたいと思います。

あらゆる分野でこの危機にできる限りのことをやろうと、全国で立ち上がってくださっている皆さんがいる。これこそが希望であります。

9年前、私たちはあの東日本大震災を経験しました。たくさんの人たちがかけがえのない命を失い、傷つき、愛する人を失いました。つらく、困難な日々の中で、私たちに希望をもたらしたもの、それは人と人の絆、日本中から寄せられた助け合いの心でありました。

ウイルスとの闘いに打ち勝ち、この緊急事態という試練も必ずや乗り越えることができる。そう確信しています。

<安倍首相会見音源おわり>

(荻上チキ)はい。いろいろと大きな言葉が飛び交う。後半にはその「絆」とか「助け合い」。あるいは音声で使わなかったですけれども「愛する家族を守る」みたいな。そうしたようなキーワードというのがこの間、ずっと飛び交ってるんですね。辻田さん、あらためて聞いていただきましたけれども、いかがでしょうか?

美談的な話が多く入る

(辻田真佐憲)そうですね。先ほど、ひとつはある意味人々の協力というか、美談みたいな話をすごい入れていますよね。手作りマスクの話だったりとか。これ、実際に子供がマスクを作って配ったりしているというような話を踏まえているだと思うんですけれども。なんかこう、国民のそういう美談みたいなものはいっぱい入れてるんですけれども、それじゃあ政府として何ができるのか?っていうことですよね。

まあ散々指摘されてますけれども、「諸外国に比べて経済的な補償を全然しない」と言われている中、国民の方のそういう美談ばかり紹介して、最後は「絆」というような、ちょっとなんというかぼんやりした言葉によって落としこむっていう。まあ普通に考えれば「おいおい、おかしいだろう?」と思うと思うんですけども。ここで「闘い」だとか「打ち勝つ」っていう言葉を使うことによって、ちょっと我々の感覚がぼんやりしてしまって。「うーん、そういうものなのかな」と思わせてしまう。そういう印象を受けますね。

(荻上チキ)なるほど。今、言ったような、たとえばいろんなエピソード、美談というものを織り交ぜる。実はこれ、首相の演説の中ではこの7年間の黄金パターンではあるんですけれども。実は普段のパターンと今回のパターンで少し僕、違いがあると思っていまして。普段のパターンは「自らがこんな政策をした結果、こんな人たちが生まれました」っていうような成果を誇るような形でエピソードというものを言うんですね。

ところが今回は「この最中にあっていろんな人たちが頑張ってるよ」っていう形で、いろんなエピソードにただ乗りする格好になっている。「政治がなにかしてこうなった」ということではなくて、「こういう人たちも頑張っている。だからみんな、共に頑張ろう」っていうような格好になっている。そんな違う感じたんですけど、いかがですか?

(辻田真佐憲)なるほど。たしかにそれはそうかもしれないですね。だからまさにそういう意味では今までよりも相当悪化してるというかですね。それをある種、ごまかそうとしているのかはわかりませんけれども。「闘い」だとかそういう非常時、危機を訴えてそれを上書きしようとしているのかもしれないですね。

(荻上チキ)これ、たとえばアメリカのトランプ大統領とかフランスのマクロン大統領とか。あるいは日本の専門家会議のメンバーからも。そしてメディアからも「戦時下」っていう言葉が飛び交います。この言葉が使われることについては、辻田さんはどうお感じになりますか?

「戦時下」という言葉のリスク

(辻田真佐憲)この言葉のリスクっていうものはやっぱりあると思っていて。もちろん、先ほど申し上げたように必要な協力はやってもいいと思うんですけれども。やっぱり「戦争」という言葉を使うことによって、ある種の「空気」ができてしまうと思うんですね。その空気っていうのは、たとえばいわゆる同調圧力みたいなものです。つまり、自粛しない者に対してすごく攻撃をするっていうようなものですよね。ここ最近、いろんなニュースとかを私もできるだけ集めるようにしてるんですけれども。たとえば京都産業大学で感染者を出したということで、クレーム電話が数百件単位で来たとかですね。

あるいは営業を自粛していない、これは港区だったと思いますけれども。スポーツジムに対して男性がドアを蹴破ったとか。

こんな話だらけなわけです。なんでこんな異常なことが起きてしまうのか?っていうと、やっぱり「戦争」という言葉を使うことによって、なにか我々の中におかしな空気が生まれてしまっているんじゃないか。それがこういう言葉を使うリスクだと思いますね。

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