高橋芳朗 黒人差別問題とブラックミュージックを語る

高橋芳朗 黒人差別問題とブラックミュージックを語る 荒川強啓デイ・キャッチ!

音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがTBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』に出演。いまなお続くアメリカの黒人に対する人種差別問題と、ブラックミュージックというテーマでキング牧師が殺害された1968年と2015年を対比させつつ話していました。

(荒川強啓)『荒川強啓デイ・キャッチ!』、今日はニュースランキングをお休みして、音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんの音楽コラムをお送りします。テーマはこちらです。。
(片桐千晶)『1968年と2015年のアメリカ ブラックミュージックが歌ったものとは?』。

(高橋芳朗)はい。さっそく進めさせていただいてよろしいですか?

(荒川強啓)はい。お願いします。

(高橋芳朗)さっきもお話した通りですね、ここ数年アメリカで無抵抗無防備の黒人が白人警官によって殺害される事件が多発して、大きな社会問題になっております。それに伴って、黒人に対する根深い人種差別が改めて表面化してきているわけですけども。今年の4月にはメリーランド州ボルティモアで警察に拘束された黒人青年が死亡した事件をめぐって大規模な暴動が発生しましたよね。日本でも大きなニュースとして取り上げられたと思うんですけども。

(荒川強啓)はい。

(高橋芳朗)で、ボルティモアの暴動は州知事が非常事態宣言を発令しまして、州兵が投入される事態にまで発展したわけですけども。この暴動を特集したアメリカのタイムマガジンの5月11日号の表紙が非常に大きな話題を集めました。こちらにありますけれども。

(荒川強啓)ええ、ええ。

(高橋芳朗)まあ、白昼の路上。大通りでですね、暴動を制圧しようとする警官隊から1人の黒人男性が走って逃げる様子をとらえたモノクロの写真になります。

(荒川強啓)アップでその黒人。奥の方に警官隊。

(高橋芳朗)そうですね。ものすごい数の警官隊がいますけども。

(荒川強啓)このコントラストが非常にショッキングですね。

(高橋芳朗)そうですね。かなりショッキングな写真なんですが。そしてそこにですね、大きな見出しで『AMERICA,1968(アメリカ 1968年)』と書いた上にですね、赤ペンで修正されて『AMERICA,2015』と。

(片桐千晶)書き直されている。

(高橋芳朗)そうですね。『これは1968年に起こったことではなく、2015年のたったいま、起こっていることだ』という風に修正されているわけですね。そしてその下にはですね、こんな見出しが掲げられております。『WHAT HAS CHANGED. WHAT HASN’T.(何が変わって、何が変わっていないのか?)』。

(荒川強啓)うん。

(高橋芳朗)要はですね、黒人大統領も誕生して、アメリカの人種問題に対する意識は一見すると大きく向上している。前進しているように思えるんですけども、実は全く状況は変わっていないと。

(荒川強啓)1968年って高橋さん、なにがあったんでしたっけ?

(高橋芳朗)これはキング牧師が暗殺された年です。

(荒川強啓)ああ!

(高橋芳朗)マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺された年ですね。4月4日です。

(荒川強啓)ああ、その時と、じゃあいまは何が変わっているんだ?っていう。そういうことで赤い修正が入っている。ああー!

(高橋芳朗)だからタイム誌はですね、2015年。今年起きたボルティモアの暴動の写真をですね、あえてモノクロで掲載して、時代を特定しにくくするように加工することにより、アメリカが47年前とですね、まったく同じ問題を抱え続けていることを端的に証明して見せたわけですね。

(荒川強啓)なるほど。意味があるんだ。

(高橋芳朗)そうですね。なので今回は、このタイム誌の表紙にならってですね、1968年と2015年。それぞれの人種問題の解消を求めた運動に音楽がどのような役割を果たしたのか?を聞き比べてみたいと思います。

(荒川強啓)ぜひぜひ。

(高橋芳朗)1968年と2015年で3曲ずつ紹介したいと思います。まず、1968年のパートから行きたいと思うんですけども。いま、強啓さんのお話にもありました通り、1968年はアメリカの人種差別撤廃を求める動きにおいて非常に大きなターニングポイントになった年になります。それは、公民権運動の指導者でありますマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺されたことに起因しているわけですけども。

(荒川強啓)ええ。

(高橋芳朗)ここでですね、キング牧師の暗殺を受けて黒人民衆の怒りが爆発してですね。アメリカの125の都市で暴動が当時発生したらしいです。で、ここで最初に聞いていただきたい曲はですね、『We Shall Overcome』という曲になります。日本では『勝利を我らに』というタイトルで知られている曲なんですけども。これは古くからあった賛美歌が元になっているプロテストソング。政治的抗議を含んだメッセージソングになるわけですけども。公民権運動の盛り上がりの中でですね、ピート・シーガー(Pete Seeger)でしたり、ジョーン・バエズ(Joan Baez)みたいなフォークシンガーが歌うことによって広まって、運動を象徴する曲。公民権運動のテーマ曲になったような曲なんですね。

(荒川強啓)はい。

(高橋芳朗)で、この曲は実はキング牧師の葬儀でも、彼を天国に送り出す曲としてセレモニーの最後に歌われているんです。歌詞を要約するとですね、こんな内容になります。『我々は打ち勝つ。いつの日か。心の奥深くでそう信じている。いつの日か、手に手を取って歩く日が来る。なにも恐れることはない。きっと神様が導いてくださる。我々は打ち勝つ。いつの日か』。こんな内容になっております。で、今日はこの曲をですね、1963年のワシントン大行進にも参加したゴスペルの女王のマヘリア・ジャクソン(Mahalia Jackson)のバージョンで。こちら、ジャケットになります。

(荒川強啓)はい。

(高橋芳朗)聞いていただきたいと思います。キング牧師の死後まもなくしてですね、リリースした追悼アルバムがあるんですけども。『Mahalia Jackson Sings The Best-Loved Hymns Of Dr. Martin Luther King, Jr.』。まあ、『キング牧師が愛した賛美歌集』みたいなタイトルの作品になります。そこから、マヘリア・ジャクソンで『We Shall Overcome』です。

Mahalia Jackson『We Shall Overcome』

(高橋芳朗)はい。公民権運動のアンセムですね。マヘリア・ジャクソンで『We Shall Overcome』、聞いていただきました。じゃあ続いてはですね、こちらも公民権運動に大きな貢献を果たしたミュージシャンですね。ジャズ・シンガーのニーナ・シモン(Nina Simone)の曲でですね、『Why? (The King of Love is Dead) 』という曲をご紹介したいと思います。こちらがジャケットになります。

(荒川強啓)はい。

(高橋芳朗)これはですね、ニーナ・シモンの『Nuff Said』というタイトルのライブアルバムに収録されている曲なんですけども。実はこのライブですね、キング牧師暗殺3日後。1968年4月7日にニューヨークで行われたパフォーマンス。

(片桐千晶)直後ですね。

(高橋芳朗)本当に直後です。3日後です。はい。で、曲自体もですね、キング牧師暗殺の知らせを受けて、急遽作られたもので。このライブで初めて披露されたものになるんです。で、ちょっとその曲の歌詞の一部を読みあげたいと思います。こんな内容になります。『また誰かの命が奪われるのだろうか?彼らは人間なのか?それとも獣なのか?いったい何を望んでいるのか?私の国はもうダメになってしまうのか?もう手遅れなのか?キング牧師の死は無駄になってしまうのか?彼は山の頂を見た。止めるわけには行かなかった。常に死と向き合いながら生きていた。みな、よく考えて。そして再び感じて。私たちは危険な状態にある。彼がいない今、何が起こるかわからない』。かなり危機感に満ちた内容になっているんですけども。

(荒川強啓)そうですね。

(高橋芳朗)で、この曲、これから聞いていただくんですけども。とてもしっとりとした、おだやかな美しい曲なんですよ。でもいま読み上げた歌詞とかですね、収録アルバムのタイトル『Nuff Said』っていうのは『もうたくさんだ・もううんざりだ』みたいな、ちょっとフラストレーションを表したような感じなんですけども。まあ、聞いていただくとですね、歌の奥底から結構ふつふつとした怒りと絶望みたいなのが伝わってくるんじゃないかな?と思います。

(荒川強啓)はい。

(高橋芳朗)だからこの歌詞を踏まえるとですね、タイトルは『Why?』なんですけども。『なぜ?』っていうのは深い悲しみですとか、個人的には、ちょっと汚い言葉なんですけども。『畜生!』というかですね。憤りを強く感じさせる・・・

(片桐千晶)『なんでだよ!?』みたいな?

(高橋芳朗)はい。タイトルに解釈できるんじゃないかなと。では、キング牧師暗殺3日後のパフォーマンスになります。ニーナ・シモンで『Why? (The King of Love is Dead) 』。聞いてください。

Nina Simone『Why? (The King of Love is Dead)』

(高橋芳朗)キング牧師が暗殺された3日後のパフォーマンスになります。ニーナ・シモンで『Why? (The King of Love is Dead)』を聞いていただきました。

(荒川強啓)いやー・・・これがアメリカのミュージックシーンなんですよね。その一面を見る思いがしますね。

(高橋芳朗)強啓さん、曲がかかっている間におっしゃってましたけども。この『Why?』っていう短い言葉の後ろに、ものすごい多くの感情が隠されているなっていうのが、歌を聞くと余計に。

(荒川強啓)ねえ。『Why?』と言ったその向こう側に、『君はどう反応するの?』と問いかけられている。その『Why?』なんだろうっていうのがね。

(高橋芳朗)民衆に突きつけてくる『Why?』ですよね。じゃあちょっと、次の曲に行ってみたいと思います。で、キング牧師の暗殺を受けてですね、反人種差別運動がもう完全にモードが切り替わることになるんですね。より急進的な黒人民族主義運動を展開していたブラックパンサー党の台頭によってですね、ブラックパワーと呼ばれる・・・非暴力を掲げたキング牧師の公民権運動とはまた違ったですね、黒人の地位向上を求める運動が盛り上がっていきます。

(荒川強啓)はい。

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