(CM明け)
(荒川強啓)今日は音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんの音楽コラムをお送りしております。だんだん時間がなくなってきました。
(高橋芳朗)じゃあ、最後の1曲を紹介したいと思います。最後はですね、現代の新しい公民権運動。『Black Lives Matter』というムーブメントに音楽界からもっとも影響を与えるミュージシャンと言っていいと思います。ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)というラッパーをご紹介したいと思います。このケンドリック・ラマーは年齢28才なんですけども。来年2月に開催されますグラミー賞でですね、11部門にノミネートされております。
(片桐千晶)すごーい!
(高橋芳朗)これ、マイケル・ジャクソンがですね、1983年のグラミー賞で達成した12部門ノミネートに次ぐ快挙ということでですね、いま非常に注目が高まっているアーティストなんですね。で、今日はそのケンドリック・ラマーが今年の5月にリリースしたアルバム『To Pimp A Butterfly』。こちらがジャケットなんですけども。ここから『Alright』という曲を紹介したいと思います。で、欧米メディアではですね、この『To Pimp A Butterfly』というアルバム自体がですね、新しい公民権運動のサウンドトラックみたいに評価されているんですね。
(荒川強啓)うーん・・・
(高橋芳朗)これ、ジャケットがいま、すごい結構過激な。ホワイトハウスの前で、白人裁判官が倒れているところに、まあちょっとストリートギャングみたいな上半身裸の黒人がこう、群がっているような。
(片桐千晶)ねえ。ひしめいている。
(高橋芳朗)はい。すごい強烈なジャケットなんですけども。で、これからかける『Alright』はですね、同じように現代の『We Shall Overcome』なんていう評価をされていたりもするんですね。そして実際にこの曲、新しい公民権運動のアンセムと評価しても十分いいような曲だと思います。というのはですね、この『Alright』という曲がいまアメリカの各地で行われているポリスハラスメント。白人警官による黒人に対する嫌がらせ行為に対する抗議デモでシュプレヒコールとして使われているんです。
(荒川強啓)ほう。
(高橋芳朗)曲のサビの部分の『We Gon’ Be Alright(私たちは大丈夫)』っていう一節をですね、コールしながら街を練り歩いたりしてるんですね。結構You Tubeとかで検索すれば、動画とかたくさん上がっているんですけども。
Chants of @kendricklamar's "Alright" echoes down 7th street downtown. #JusticeOrElse pic.twitter.com/f1R62P0bIi
— The Hilltop (@TheHilltopHU) 2015, 10月 10
(片桐千晶)ええ。
(高橋芳朗)特に若い大学生のデモとかでこの曲がシュプレヒコールとして使われております。で、歌詞の内容はですね、サビの部分を要約するとこんなようなことが歌われております。『俺たちはオマワリが大嫌いだ。奴らはストリートで俺たちを殺そうとしている。俺は牧師の前で許しを請おうとしているが、膝が弱って銃をぶっ放しちまうかもしれない。でも、きっと俺たちは大丈夫。なんとかなるさ』。で、これ、『俺は牧師の前で許しを請うているが膝が弱って銃をぶっ放しちまうかもしれない』って結構過激な一節ですけども。
(片桐千晶)うん。
(高橋芳朗)『もう俺たちの我慢は限界に来ている』っていう。
(片桐千晶)もう我慢ができないっていう。
(高橋芳朗)はい。ところまで来ているっていう。そういうのを表しているフレーズだと思うんですけどね。はい。で、ちょっと攻撃的なニュアンスも含んでいる曲ではあるんですけども。曲調的にはジャズの要素も取り入れた、非常に洗練された作りになっております。じゃあちょっと、聞いていただきましょう。ケンドリック・ラマーで『Alright』です。
Kendrick Lamar『Alright』
(高橋芳朗)来年開催されますグラミー賞でソング・オブ・ジ・イヤーにノミネートされておりますケンドリック・ラマーで『Alright』を聞いていただきました。こちら、モノトーンで統一されたミュージックビデオ。非常にメッセージを踏まえた素晴らしい内容になっておりますので、これもYou Tubeなどで、もし機会があったらチェックしていただけたらと思います。
(荒川強啓)はい。
(高橋芳朗)で、このケンドリック・ラマーなんですけども、こういう革命を起こすようなアーティストとしていま、非常に注目されているんですけども。ちょうど昨日公開になったインタビューでこんなことを語っていたんですね。『I can’t change the world until I change myself first.(まず自分が変わらないと、世界を変えることができない)』って言ってるんですね。
(荒川強啓)うーん・・・
(高橋芳朗)これ、先ほど紹介しましたディアンジェロの『Black Messiah』の声明文でありました、『俺たちの誰もが黒い救世主になれるよう志すべきなんだ』というメッセージと本質的には同じことを言ってるんじゃないかな?と思います。やっぱり人々に立ち上がることを促しているっていう。誰かに頼るんじゃなくて。みんなで運動を起していこうっていうことを言ってるんじゃないかな?と思います。で、このケンドリック・ラマーが来年、グラミー賞でどのように評価されるか?っていうのが非常に僕、楽しみにしておりまして。
(片桐千晶)うん。
(高橋芳朗)まあ、彼がいっぱい受賞するようなことになりましたら、今後の音楽のあり方とか、人種問題にも少なからず影響を与えてくることになるかな?と思っております。
(荒川強啓)うーん・・・しかし先ほどもちょっと触れましたけども、アメリカのミュージックシーンっていうのはもう1968年から何も変わらず、2015年という、こうしたことが起きたとしても、みんながひとつになって、ソウルフルに、そしてブラックミュージックというものを武器にして。そして、みんなにメッセージし、みんなに訴えかけ、自分たちで共通意識を持っていこうというアメリカの奥の深さと言いましょうか。音楽シーンのこの根強さというか。見事なもんですね。
(高橋芳朗)そうですね。今年のグラミー賞がまさにそういう感じだったんですよね。黒人差別にみんなで断固として声を上げていこうという。
(片桐千晶)本当にその、『なんでだよ!?』っていう怒りとか。みんなで声を上げよう!とか。本当にずっと変わってないんですね。
(高橋芳朗)そうですね。常にそれは根底に流れているものとしてありますね。
(荒川強啓)はい。今日は音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんの音楽コラム。『1968年と2015年のアメリカ、ブラックミュージックが歌ったものとは?』。このテーマで6曲、ご紹介いただきました。ありがとうございます。
(片桐千晶)ありがとうございます。
<書き起こしおわり>