高橋芳朗さんが2022年1月25日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。The Weekndの最新アルバム『Dawn FM』について宇多丸さん、宇垣美里さんと話していました。
(宇多丸)さあ、ということで今回はまたまたちょっとビッグなやつが来ちゃいましたね。
(高橋芳朗)1月7日にえニューアルバム『Dawn FM』をリリースしたアメリカのR&Bシンガー、ザ・ウィークエンドですね。
(宇多丸)ウィークエンドは結構ここ数年、このコーナーでも大きな、そのトレンドセッターっていうかさ。
(高橋芳朗)なんかあるとウィークエンドの話になるみたいなところ、ありますよね。じゃあ、まずこのニューアルバム『Dawn FM』に至る流れと新作の概要をざっくりと説明させてもらえたらと思うんですけど。ウィークエンド、2013年にメジャーデビューしてるんですよね。そこからアルバムリリースごとに着実にステータスを高めていって。それで2020年11月にリリースした前作の『After Hours』で名実ともに現行シーンきってのスーパースターの座を決定づけたっていう感じですかね。シングルの『Blinding Lights』は1年に渡って全米チャートのトップテンにランクインし続けて。全米チャート史上、最も成功した曲に認定されました。
(宇多丸)すげえな! そうなんだ。
The Weeknd『Blinding Lights』
(高橋芳朗)で、今回の新作はその前作の『After Hours』に端を発するトリロジー(3部作)の第2部なんですね。つまり『After Hours』を経て『Dawn FM』……「Dawn」っていうのは「夜明け」。だから「夜明けに向かう」みたいな感じですかね。
(宇多丸)じゃあ、次は昼なんですかね?(笑)。
(高橋芳朗)「死のトンネルを抜けて天国に行く」とか、そんな流れかもしれないですね。
(宇多丸)ああ、なるほどね。
(高橋芳朗)で、今回はアルバムが「架空のFMラジオ局」っていう設定のコンセプチュアルな構成になっていて。曲間がほぼシームレスになっているような感じですかね。で、ラジオDJを俳優のジム・キャリーが務めています。
(宇多丸)ねえ。三木道三の『MIKI-FM』以来の試みと言っても過言ではないですね。
(高橋芳朗)アハハハハハハハハッ! あなたも参加していましたよね(笑)。『いいじゃん』という曲でね。
(宇多丸)すいません(笑)。どうしても今、言おうか言うまいか迷って、数秒経ってしまって。やっぱり言わなきゃ後悔すると思って、言いました(笑)。
(高橋芳朗)ありがとうございます。で、内容に関しては結論から言うと、ウィークエンドの集大成にして最高傑作と言ってもいいんじゃないかなと思います。で、実際本人も「ずっと作りたかったアルバム」っていう風に話していて。音楽的には、こんな風に説明しています。「(マイケル・ジャクソンのプロデューサーの)クインシー・ジョーンズ meets ジョルジオ・モロダー……」っていう。ジョルジオ・モロダーはダフト・パンクもリスペクトしてるディスコミュージックの巨匠ですけど。「クインシー・ジョーンズ meets ジョルジオ・モロダー meets 人生最高の夜を彩るパーティーレコード」って言っているんですね。まあ、要は極上のダンスミュージックアルバムっていうところだと思うんですけど。
(宇多丸)でも『After Hours』の時点だってさ、そういう80’sなシンセで、ジョルジオ・モロダー感は全然あったっちゃあったけど。さらにそれを?
(高橋芳朗)そうですね。基本的にはその『After Hours』の流れをくんだエレクトロポップ、シンセポップ路線ではあるんですけど、ダンスミュージックとしてよりエッジが立ってるっていうか。身も蓋もない言い方すると、『After Hours』よりもかっこいいです。
(宇多丸)アハハハハハハハハッ! ストレート!
(高橋芳朗)「それ、a-haみたいだね」って感じでニヤニヤする瞬間があまりないっていうかね。
(宇多丸)まあ、あれは逆に言えばそのニヤニヤする……デュア・リパのある種の曲にもあるさ、ニヤニヤしちゃう感じももちろん、ひとつの発明だったんだけど。今回はもうド直球?
(高橋芳朗)ニヤニヤ排除です。
(宇多丸)笑い排除(笑)。
(高橋芳朗)笑わせようとはしていないんですけどね(笑)。
(宇多丸)ウィークエンドも不本意だと思うけどね。そんなことを言ったらね(笑)。まあ、でも要するにストレートにかっこいいっていうか。
(高橋芳朗)そうですね。だから、ウィークエンドがリスペクトしているマイケル・ジャクソンだったり、ダフト・パンクの影響を完全に血肉化した自信とすごみにみなぎってるっていう感じですかね。
(宇多丸)だからもう、ひねったことをやる必要もないぐらいの境地まで達したっていうことかな?
(高橋芳朗)で、メインプロデューサーは引き続き、この番組でも特集しましたけども。スウェーデンのヒットメイカーのマックス・マーティンと、彼の相棒のオスカー・ホルター。あと、これに加えて今回は映画の『アンカット・ダイヤモンド』の劇伴も手掛けてましたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが大々的にフィーチャーされています。
(宇多丸)なるほど。じゃあ、現代シンセ界の巨匠たちが。
(高橋芳朗)そうですね。だから結構宇多丸さんの好きな要素が盛りだくさんだと思うんですけども。なのでちょっとアルバム『Dawn FM』から1曲、聞いてもらいたいと思います。この曲、まさにマイケルとダフト・パンクのエッセンスをウィークエンド流に昇華したディスコナンバーと言っていいと思います。ザ・ウィークエンドで『Sacrifice』です。
The Weeknd『Sacrifice』
(高橋芳朗)はい。ザ・ウィークエンドのニューアルバム『Dawn FM』より『Sacrifice』を聞いていただいております。
(宇垣美里)かっこいい!
(宇多丸)なるほど。本気出して来たなっていう感じ、あるね。でもさ、たしかにおっしゃる通り、マイケル・ジャクソン感とかさ、いろいろ……あの2番の抜きの感じとか、もうすごいマイケルっぽいと思うけど。でもさ、なんかやっぱりたとえばベース。このダッダダッダッ♪ってハードかつファンキーなこのべースが引っ張っていう感じ。で、途中でガッと抜けて、そこだけになったりとか。なんかこう、今までに……やっぱり流行りのいろんなものとは違う感触をちゃんと出してて。エッジーな感じっていうか。いや、さすがです。やっぱり1歩、先に行ってる。
(高橋芳朗)結構すごいですよ。うん。圧倒されます。
(宇多丸)やっぱりすごい。でも、誰もが聞いて、誰もがわかるかっこよさ。素晴らしいと思います。笑い要素、なし!
(高橋芳朗)で、この『Dawn FM』でめちゃくちゃ話題になっているのが、1980年代の日本のシティポップを大胆にサンプリング、引用してる曲があるんですよ。
(宇多丸)「シティポップが世界的にブームだ」っていう話はこの番組、ちょいちょい出ているんですけども。ウィークエンドが使うっていうのはもう桁が違う話だからね。
(高橋芳朗)そうだよね。だからウイークエンドみたいな超ビッグネームがここに着目したのは非常に大きな意義があると思います。
(宇多丸)本当だよね。どこで掘ったんだろう?(笑)。
(高橋芳朗)で、これがちょっとしたひとつのエポックな出来事になるかなって気もするので。ちょっとこの機会にこの近年のね、アメリカのポップミュージックにおいて、日本のシティポップとその周辺の音楽がどういう風に受容されてきたか。その流れを今回はざっと紹介できたらなと思うんですよね。アジアでのシティポップの再評価の動きは結構、取り上げられると思うんですけどね。
(宇多丸)そうですね。イックバルとか、いろいろありますよね。
(高橋芳朗)でも、アメリカに関しては意外とまとめられてないかなって気もして。
(宇多丸)でもアメリカもそういう意味では「ああ、本当なんだ。話には聞いていたけど……」っていう感じだよね。
(高橋芳朗)こういう企画が成立するぐらいで。
(宇多丸)そのあたり、ちょっとヨシくんにいろいろと話をうかがっていきたいと思います。一旦、お知らせです。
<書き起こしおわり>