高橋芳朗さんが2025年2月10日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』で2025年のグラミー賞を振り返り。ケンドリック・ラマー『Not Like Us』のグラミー最優秀シングル賞&最優秀レコード賞受賞について話していました。
(高橋芳朗)というわけですね、グラミー賞主要4部門のうち最優秀アルバム賞はビヨンセの『Cowboy Carter』が取ったわけですけども。ここから残りの3部門に行きます。最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞、最優秀新人賞ですね。まずは最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞。これを受賞したのは本日のNFLスーパーボウル・ハーフタイムショーでもパフォーマンスしたラッパーのケンドリック・ラマーです。
ケンドリック・ラマーの全米No.1ヒット、『Not Like Us』が受賞しました。今回、ケンドリックは5部門にノミネートされて全部、取ってます。で、ケンドリックもビヨンセと同じようにこれまで何度も歴史的名盤を作り上げて、何度も主要部門にノミネートされてきたんですけど、やっぱり決まって小さいサブカテゴリーに押しやられてきたっていう経緯があるので。
(宇多丸)これはね、ヒップホップの歴史全体を見ると本当にそういうのがあるわけですけども。
(高橋芳朗)それで今回、ついに主要部門初受賞です。ケンドリック。
(宇多丸)それがこれかっていう(笑)。
(高橋芳朗)で、ヒップホップ楽曲の最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞の受賞は両方ともね、2019年にチャイルディッシュ・ガンビーノが『This is America』で取った以来ですね。通算2度目です。それで今、宇多丸さんも言おうとしていましたけども、これも大変な快挙なんだけども。それ以上に注目に値するのが前回、先日の放送でも触れましたけどこの『Not Like Us』って曲が現行ヒップホップシーンでケンドリックと人気を二分するカナダのラッパー、ドレイクとのディスり合い。ディス曲の応酬から生まれた曲なんですよ。
(宇多丸)その中での最後っていうかな? 決めの1曲で。
(高橋芳朗)だからそもそも作るつもりがなかった曲とも言えますよね。
ドレイクとのビーフが発端となって作られた曲が受賞
(宇多丸)でもそれってすごいヒップホップらしい経緯の曲でもあるし。もちろん、そこに込められた多層なメッセージみたいなものももちろんわかるし。だけど、この『Not Like Us』が流れてさ、会場でさ、名だたる人たちがこうやって口ずさんだりしているんだけども。「いやお前さ、後でドレイクとか会う時、気まずくないの?」って。あとはグラミーの会場だって、ドレイクまた来ることも……俺、ドレイクなら「てめえ! お前らよ!」ってなるけどなって(笑)。
(高橋芳朗)でも、それを超えたヒット曲になってしまったっていうところですね。でもとはいえ、ある特定のアーティストを罵倒した曲がグラミー賞の最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞したってのはこれ、音楽史的にもヒップホップ史的にも大事件で。
(宇多丸)でもさ、ビーフから発展して名曲が生まれるとかはヒップホップの歴史、これまでもあったことですし。日本だってさ、たとえば『証言』とかさも、なんで生まれたかを考えたらさ、「えっ、そんな事件が?」みたいなこともあったりするわけで。だから、あるある。それが名曲として独り歩きを始めるっていうさ。そういうことはあるんだけども。
(高橋芳朗)ヒップホップのバトルの文化がね、こういう形で……。
(宇多丸)バトルっていうか、週刊誌的側面?(笑)。でも、これもヒップホップですからね。
(高橋芳朗)で、ケンドリックは受賞スピーチでこんなことを話してました。「ラップミュージックよりパワフルなものはない。俺たち自身が文化なんだ。このアートフォームをリスペクトしてほしい」っていう風に話していたんですけど。やっぱり彼はね、カルチャーとしてのヒップホップを重んじているんですよ。
(宇多丸)そうだね。特にLAの地元のパイセンたちとかをすごい名前を挙げていって。「こういう人たちがいたから俺はやってるんだ」みたいなね。だからすごい彼っぽいし。
(高橋芳朗)先日の放送で「ケンドリックとドレイクのビーフはヒップホップをポップミュージックとして捉えてるドレイクとヒップホップをカルチャーとして認識してるケンドリックとの戦い」って言ったけど。それがモロに如実に出た感じかなという気がしましたね。じゃあ、聞いてください。ケンドリック・ラマーで『Not Like Us』です。
Kendrick Lamar『Not Like Us』
(高橋芳朗)ちなみに今回のグラミー賞でビートルズの最後の新曲と言われているビートルズの『Now And Then』が最優秀ロックパフォーマンス賞を受賞したんですけども。そこにジョン・レノンの息子のショーン・レノンがトロフィーを受け取ったんですね。で、彼がスピーチの最後に「若者たちにひとつ、アドバイスがある。ケンドリック・ラマーにバトルを挑まないように」っていう(笑)。
(宇多丸)まあ、挑まなくてもケンドリック、来るからね。これだってドレイクが挑んだわけじゃないじゃん? 最初はさ(笑)。
(高橋芳朗)でも彼、2018年にピューリッツァー賞を取ってちょっと神聖化されていたところがあったから。このバトルでちょっとラッパー然としたところを見せたのは結構、今後のキャリアを……。
(宇多丸)あれですね。KRSワンがすごくいいことばっかりラップしているのかと思いきや、すごい……P.M.ドーンのライブに殴り込みに行った時みたいな、そんな話ですかね。
(高橋芳朗)だからケンドリックの今後のキャリアにすごく重要な曲になると思いますね。
(宇多丸)歴史です、歴史。
ドレイクとのビーフが発端で作られた罵倒する曲がアメリカでその年のナンバーワンの曲として認定される……アメリカという国のすごさを思い知らされる受賞でしたね。発表されて曲がかかった際、グラミー授賞式の会場で「Aマイナー」の部分で大合唱が起きていたのとか、すごすぎですよ。(※Aマイナーの意味は各自、調べてください)。マジでドレイク、どんな気持ちだったんだろう? アメリカ、とんでもねえ!