安住紳一郎さんが2008年12月にTBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』で話したトークの書き起こし。醤油研究が趣味の安住さんが日本全国の醤油の地域差について語っていました。
(安住紳一郎)さて、先週ですね、九州に行ってきたんですけど。大分県に行ってきたんですけど。私、前々から醤油というものに大変注目をしていまして。みなさんは醤油に注目したこと、ありますでしょうか?うん。たぶん関東にお住まいの方だと、こいくち醤油ですか?キッコーマン醤油、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油などが関東ではね、たいへん有名ですけども。全国あちらこちらに仕事や旅行、あるいは知人を訪ねて行ったりする際に、いろいろこう、美味しいものをいただく機会が多かったわけなんですけども。
(中澤有美子)あ、そうなんですね。
(安住紳一郎)料理ですね。で、やはりそのうち、全国での味の地域差みたいなものに、少し気づいてきたりして。まあ、東北地方はちょっと味が濃いな。京都は薄味だな。九州はちょっと甘さが特徴かな。沖縄はなんか味がよくわからないなとか。
(中澤有美子)(笑)
(安住紳一郎)ええ、そういうなんか漠然とした、そういう感想を持ちながらずっと来てたんですけども。ある時、『あ、お醤油もずいぶん違うな』と思ったんですよね。まあ、関東・関西の違いはもちろんですけども、九州とか、あるいは東北。当然沖縄もそうですけども。『まてよ?』と思って。お料理ってレシピがもしあったとしても、要するに全国各地、同じレシピを持って回ったとしても、『お醤油大さじ3』って書いてあったりするだけじゃないですか。
(中澤有美子)ええ、ええ。
(安住紳一郎)別に『キッコーマンのうすくち醤油大さじ3』とは書いてないわけで。『お醤油大さじ3』って書いてあると、要するにお醤油45ccを使うわけですけども。お醤油の味そのものが違うならば、確実にその料理の味は変わってきますよね?
(中澤有美子)そうですよね。
醤油と味噌が地域の味の特性をリードする
(安住紳一郎)ということはやっぱり、お醤油とかお味噌とか、そういうものがたぶん地域の料理の特徴の非常に端的なもので。たぶん、お醤油とかお味噌がその地域の味の特性をリードしてるんだなという風に感じるようになって。うん。砂糖とか塩っていうのは、たぶんそんなに味は変わらないと思うんですけどね。みりんもそんなにね、味の大差はない気もするんですが。お醤油、お味噌は相当味の差、ありますからね。
(中澤有美子)そうですね。
(安住紳一郎)お醤油大さじ3、お味噌大さじ1とか言われたら、その時点で味の大半はそのお醤油・お味噌の調味料で引っ張られるわけですから。それでこう、全国いろいろ行っている時に、ちょっと時間がある時に、地元のスーパーとかに顔を出して、お醤油をいろいろ見るように、ここ6年ぐらいしてたんですよ。結構、長い時間あたためてたんですよ。
(中澤有美子)そうですね(笑)。
(安住紳一郎)それでいろいろ調べたら、関東に住んでいるとなんとなく醤油っていうと、まあ繰り返しになりますが、キッコーマンがあって、ヤマサ醤油があって、ヒゲタ醤油があって。なんとなく、関西にはヒガシマル醤油があるなっていう印象があると思うんですけど。
(中澤有美子)(笑)。そうですね。スポンサーです。はい。
(安住紳一郎)これがね、関東から飛び出ますと醤油の認識が一気に変わりますよ。九州に行くと、特に九州なんですけど。その町のスーパーでも町の真ん中と町のはずれじゃあ、スーパーで置いてある醤油の種類がまるで違うんですよ。
(中澤有美子)へー!同じ町の中でも?
(安住紳一郎)同じ町の中でも。で、隣の町に行くと、当然醤油のラインナップがガラリ!と変わります。
(中澤有美子)そんなに?
(安住紳一郎)ええ。実は醤油メーカーってのは全国に1500近くあるんですよ。ちょっと多いなっていう風に感じたんですけども。全国に1500ですからね。それぐらいメーカーがあるということは、すごい種類があって。もう県どころのレベルじゃなくて、町ごとに醤油が決まっているぐらいの、味があるんですね。ええ。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)で、関東はキッコーマン醤油という、たいへん世界的な大手メーカーがあって。キッコーマン醤油もかつては千葉県にある80のメーカーが合併してもともとできているっていうか。吸収合併を繰り返してできた、たいへん大所帯なわけで。もしキッコーマンが吸収合併を繰り返していなければ、現在も千葉県には80近いメーカーがあるということになるわけですから。まあ九州ではちょっと吸収合併の動きが遅かったというか。そういうこともあり、九州は大変その、たくさんの醤油メーカーがいまもひしめいていると。
(中澤有美子)おおー!
(安住紳一郎)で、一方中部地方ではヤマシン醤油とか。イチビキ、サンビシ、盛田、七福とかあるんですけども。関東に住んでいると、ちんぷんかんぷんですよね。
(中澤有美子)そうですね。耳慣れない。
(安住紳一郎)うん。でもやっぱり中部地方出身の人は『ああー!』みたいな。『イチビキね!』みたいな。『やっぱりキッコーマンじゃないんだよ。イチビキ醤油で作った煮物が美味いんだよ』って思っている方、やっぱりいるわけですよね。
(中澤有美子)ははー。
(安住紳一郎)で、西日本では、うすくち醤油のヒガシマルとか。マルキン醤油とかがあるんですけど。マルキンはもともと、四国の小豆島出身なんですけどもね。ええ。これまた、小豆島っていうのはこの醤油好きには押さえておかなくちゃいけない、いわゆる聖地なんですけどもね。
醤油好きの聖地・小豆島
(中澤有美子)あ、そうなんですか(笑)。
(安住紳一郎)紀州和歌山と小豆島は押さえておかなくちゃいけないポジションです。
(中澤有美子)なるほど。ほうほう。わかりました。覚えておきます。はい。
(安住紳一郎)小豆島はあんな小さな島なのに、小豆島に醤油メーカーが25あるんじゃないかな?ええ。だいたい四国全土は小豆島の醤油、結構流通してるんですけどね。で、九州に行きますと、フンドーキンとか、ニビシとかですね。それから、フジジンですか。フジジン醤油とか。ニビシ醤油とかがすごいんですよ。すごいシェアなんですよ。
(中澤有美子)へー!
(安住紳一郎)東京だと、『ニビシ』って言われると『えっ?煮干しですか?』っていう感じですけどね。ニビシ醤油。
(中澤有美子)ああ、そうですか。
(安住紳一郎)ソースも出している。ニビシソースっていうの。ブルドックソースよりもシェアあるんですよ。九州で。びっくりしますでしょ?私も『ええっ!?』って思って。『なんだこれ?安売り専門のメーカーか?』って思うじゃない。なんか。『ニビシソース?知らない、知らない』と思って。そしたらもう、それがトップブランドなの。
(中澤有美子)そうなんですねー。
(安住紳一郎)うん。びっくりという。
(中澤有美子)やっぱり、甘めですか?九州のお醤油は。
(安住紳一郎)そうですね。九州の醤油はびっくりするほど甘いんですよ。
(中澤有美子)なんかそれだけちょっと知っています。ええ。