鳥嶋和彦 イラストレーター江口寿史を語る

鳥嶋和彦 イラストレーター江口寿史を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

鳥嶋和彦さんが2024年5月25日放送のJ-WAVE『TOKYO M.A.A.D SPIN』の中でゲストの江口寿史さんが『ストップ!! ひばりくん!』で行き詰まり、イラストレーターの仕事がメインになっていった経緯についてトーク。イラストレーターとしての江口寿史さんについて話していました。

(鳥嶋和彦)今回の展示を見てね、僕はやっぱりボクシングの『エイジ』のワンシーン。ボクサーが飛ばされてロープに……ナズさんに説明したのよ。わざわざ呼んで。「このシーンがなぜすごいか、わかる? 江口寿史のすごさ、目のよさがここにあるよ。普通の人にはわかんないでしょうけど」っつって。そうそう。でね、書けるんだよ。でも、書かないのよ。で、結局ね、イラストに行くようになったきっかけは絵にこだわって漫画を書けなくなって。そうすると、いろんなことで追い詰められていって。

で、僕はこのへんの情報を読んで初めて知ったんだけど。「専属契約」ってあるわけじゃない? 新人で作家を育てるから、邪魔が入らないようにって。小学館の白井さんみたいな、ああいうのがスカウトしないように専属契約を結ぶわけ。ところが、その専属契約は「漫画に関してだけ」だったの。それが「イラストなら大丈夫」っていう逃げ道があったわけ。で、漫画を書けないし。でも書かないとお金が入ってこないから。オファーが来るようになったんだよね?

(江口寿史)そうなんですよ。

集英社の専属契約をかいくぐるためにイラスト仕事へ

(鳥嶋和彦)で、それがみんな女の子のオファーだったんだよ。『ひばりくん』があまりにも衝撃だったから。ここに大きな選択肢、わかれ道が来るわけだよ。

(Naz Chris)どうなんですか? 鳥嶋さんとしては。江口先生という天才ギャグ漫画家と、今の……。

(鳥嶋和彦)だって、ものの3分の1しか書かないっていう人生になっちゃったわけだ。男も書けるし、いろんなものも書ける。だけど女性のキャラクターっていうのはその3分の1だもん。3分の1だけでやるっていうね、このもったいなさ。

(Naz Chris)いや、それはもったいないですけども。この、ねえ……。

(鳥嶋和彦)いや、僕はやっぱり今回、本当にあの展示を見て「ああ、もったいない。江口寿史なんてことをしてくれたんだ」って。天才漫画家がいなくなり、そこそこのイラストレーターができたっていう風に感じて、それは今でもそうなのよ。

(Naz Chris)それは愛の言葉でしかないと思いますけども。

(鳥嶋和彦)だから読者を含めて、いろんな人が江口寿史の本質を見てないから。

(Naz Chris)付き合ってるんですか?(笑)。どんだけ好きなんですか?(笑)。

(鳥嶋和彦)いや、大好きだよ。だって僕、才能は大好きだよ。僕にとっての好物だから。才能。こんな腹の立つ……3分の1しか書いてない人生。だから3分の1でこれですよ? 残りの3分の2を書いたら、どうなる? だからもう女の子は書かなくていい!

(Naz Chris)ええっ? ちょっと待ってくださいよ?(笑)。

(江口寿史)でも漫画はいいですね。自分の漫画を読むと(笑)。本当にいいなって思いますよ(笑)。

(鳥嶋和彦)だって「江口寿史展ノット・コンプリーテッド」って、これある部分、腹が立つわけ。「完成してないのはお前じゃん! お前が書かないからだよ!」って。で、それを売りにして出すっていうこのセンス。センスはいいのよ? いいんだけども。「なんだ、こりゃ?」って。腹が立つわけですよ。だから江口さんのイラストの展示を見に行かなかったんだけど。漫画の展示を見に行ったのは、そこに思いがあるわけ。「なんだ、江口。今さら!」っていう。

(Naz Chris)どんだけ好きなんだよ?っていう。本当にもう「愛してる」っていう風に聞こえますけど。江口先生、どうですか?(笑)。

(江口寿史)ありがたいですね(笑)。いや、僕もそう思いますね。本当にある種、イラストが簡単っていうわけじゃないんですけど。漫画にとっては僕に「逃げ」っていう部分がたしかにあるんですね。漫画は書くのは大変すぎるから、そこから逃げて。

(鳥嶋和彦)だってナズさん、聞いたでしょう? 江口さん、漫画を書く前に吉田拓郎に憧れて、詞を書いていたの。ということは今、絵は書いてるけど、言葉は書いてないわけですよ。あの3年間……映画を見て、フォークを書いていたその江口寿史のセンスを捨てているんだよ。

(Naz Chris)でも一方で、そのセンスは「絵を見ると音楽が聞こえる」っていうところに落とし込まれているとも言えるじゃないですか。

(鳥嶋和彦)だってさ、1枚いくらのものを書いてどうすんの? やっぱり漫画なら、印税が入ってくるじゃん。キャラクターは江口さんが何もしなくても、世界各地で稼いでくれるわけですよ。だって秋本さんとか鳥山さんと並ぶぐらい、ある意味、違ったもっと大きな才能があるのに……まあ、江口さんには失礼だけど。圧倒的な収入格差があるとすれば、それはイラストを書いてるからですよ(笑)。イラストじゃ印税、入ってこないから。

(江口寿史)まあね(笑)。

イラストでは印税は入ってこない

(Naz Chris)でも、今の30代、40代の世界線を変えたと思いますよ。デニーズのメニューで出会い、2005年の銀杏BOYZの『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』で出会い……。

(鳥嶋和彦)いや、そういうのはね、外の人はそう言うだろうけども。編集からすると、この才能をなぜ、もっと等価交換というか、もっと大事にしなかったのか?っていう。僕からすると、なまじっかのセンスが才能をすり減らしている。

(Naz Chris)でも、じゃあ今、鳥嶋さんは江口先生にどうしてほしいんですか?

(江口寿史)漫画を書いてほしいんだよね?

(鳥嶋和彦)漫画を書いてほしい。ただ、僕は担当したくない(笑)。

(Naz Chris)なんで? それはちゃんとしてくださいよ。それぐらい愛情がある編集じゃないと……。

(鳥嶋和彦)いやいや、でもね、こんなに1人でやってきた人が打ち合わせに耐えられないよ。たとえば僕がやったら。直しとか、こういう方向がどうこうって言うから。耐えられないもん。

(江口寿史)いや、聞きますよ?(笑)。

(鳥嶋和彦)いやいやいや!

(江口寿史)納得がいけば直すし。

(鳥嶋和彦)絶対納得しない!(笑)。

(江口寿史)納得できなかったら変えないけど(笑)。

(鳥嶋和彦)ほら。ここに至るまでのところを聞いてると、無理だよね。

(Naz Chris)そうなんですか? 絶対、編集の言うことを聞かなきゃいけないわけじゃないですよね?

(鳥嶋和彦)じゃないけども。ただ、直しをできるかどうかって相当のね、精神的なストレスとか、経験値がないとできない。で、今更この歳になって遭遇しても、無理だと思う。ということは、江口さんは自分の中に歯を食いしばって1人の編集を立てて、その編集にチェックしてもらうっていうやり方しかないな。

(江口寿史)ああ、自分の中に?(笑)。

(Naz Chris)でも、江口先生としては「また漫画を書きたい」という思いはどこかには?

(江口寿史)どこかっていうか、すごいありますよ。

(鳥嶋和彦)だって、あれでしょう? 自分のこと、イラストレーターだと思ってないでしょう?

(江口寿史)思ってない。

(鳥嶋和彦)漫画家でしょう?

「自分はイラストレーターではなく漫画家」(江口)

(江口寿史)思ってないけど、やっぱり書かないとね、世間的にはそうは思われないので。ただ漫画を書くのは本当に……本当にすごいことですよね。

(鳥嶋和彦)だから僕はね、本当に大好きなちば先生をもう1回、見習った方がいい。毎日、とにかく書く。ねえ。

(江口寿史)書いてから言わないとあれだけども。本当に書きたいですけどね。

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