堀井雄二・鳥嶋和彦・橋野桂「ドラクエらしさ」を語る

堀井雄二・鳥嶋和彦・橋野桂「ドラクエらしさ」を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

堀井雄二さん、鳥嶋和彦さん、橋野桂さんが2023年8月28日放送のJ-WAVE『ゆう坊とマシリトのKosoKoso放送局』の中で「ドラクエらしさ」について話していました。

(橋野桂)さっきの結婚のシナリオ的なギミックとか、そういうのが注目されがちですけど。僕、最近もやっぱりドラクエとか、改めてやったりするんですよ。やっぱりそのNPC……街の人たちとか。これ、失礼な言い方になっちゃったら、すいません。ムダがないんですよね。本当に必要で置いてある。特に感心したのはね、最初の村とかで一悶着あって。で、旅立つじゃないですか。旅立つ時の関所の人たちの、あのなんていうか、無責任な突き放し方っていうのかな? ああいうのも結構感動しちゃって。

(鳥嶋和彦)なるほど(笑)。すごいところに感動するね(笑)。

ゲームを作る立場になってはじめてわかるムダのなさ

(橋野桂)若い時は気づかなかったんですけども。やっぱり自分で作るようになってからもう1回やると、本当にムダがないし。全部、堀井さんが全て、プレーヤーと一緒に旅立って。そこでどう言われると本当に冒険をする気持ちになるのか? それが全部、積み上がってるから、その結婚イベントとかそういったトピックもより生きるようになっていくみたいな感じがあるんで。本当に完成度が高いと思っています。

(鳥嶋和彦)だからさっき堀井さんが言ったように「イベントを考える」っていうその上からの視点の捉え方がすごくリアルで。堀井さんの中のイメージが鮮やかなんだと思うんですよ。漫画家も、実はうまい・下手っていうのは、年寄りとか子供をちゃんと描写する漫画家っていうのは腕がある。やっぱり世界をどう構築して描くか、だから。主人公周りしか描けない漫画家はやっぱりね、貧弱なんすよ。で、もう1回読み直した時に面白くないわけ。ストーリーがわかっちゃうと。面白い漫画って、何回読んでも面白いじゃないですか。隅々までやっぱりね。無意識うまく作られてる。

(堀井雄二)橋野さんの言ってる話って僕もすごくわかって。子供の頃はわからなかったんだけど、こうやってそのゲーム業界で20何年、仕事をしてきてるとやっぱりそのゲームの完成度の高さってわかるようになってくるじゃないですか。要は、全部の釘が同じ方向に向けてちゃんと打たれている。だいたい、共同作業でっていうと結構バラバラに向きがちなんですよ。「ああ、こいつはこういうことをやりたかったんだな」って。その釘が逆を向いてるところっていうのが結構見えて。

(鳥嶋和彦)違和感がある。

(堀井雄二)そう。違和感があるし。まあ、雑味があるといいますか。で、たぶん橋野さんが今おっしゃったので、その雑味のなさのすごさみたいな話だと思うんですけど。

(橋野桂)そうなんですよ。なんでNPCまで全部、書いているっていうのが業界の中で……業界だけじゃないか。みんなが知ってたことだったので。最近は書いてないっておっしゃってましたけども。

(堀井雄二)でもね、逆に言うとね、ストーリーに関するセリフって簡単に書けるのね。わかっているから。で、なんともない街の人のセリフの方を考えるわけ。「こいつに何を言わせようか?」って。それで逆に悩むの。

(橋野桂)それがね、伝わってくるんですよね。やっていると。

(鳥嶋和彦)それをちゃんと、それなりに気を遣って書かないと、そこに集落があっていろんな人がいるっていう風にならないからでしょう?

(堀井雄二)ならない。そうそう。

(橋野桂)でもたぶん、あれですよね。堀井さんがさっきちょっとラジオの前に話してましたけど。いつまで、自分で全部のそのテキストを書かれたんでしたっけ? ドラクエで。

(堀井雄二)ええと、結構書いたのがね、6でも結構書いていたかな? で、7から人が増えて、だいぶ任せるようになって。

(橋野桂)システムメッセージから、その村の人の1人1人のセリフまで全部、堀井さんが書かれいた?

(堀井雄二)書いていたと思う。あと、お店のも書いていたからね。何を売っているとか、値段がいくらとか。どこにどういうボスが出るとか。で、モンスターのパラメーターも書いたし。で、宝箱の中身も書いていたんで。

(橋野桂)あれ、ワード数というか。ボタンを押す回数とかも全部計算されて?

(堀井雄二)一応ね、あんまり長くならないように。2回か3回が限度かなって思ったりとか。

(橋野桂)初期のドラクエ、ファミコンだと漢字が使えなかったりとかってあるじゃないですか。だから結構、文字のスペースの使い方とか、送りの使い方を……。

(堀井雄二)あれ、ひらがなだからね。

(橋野桂)そこにかなり気を遣ってやってるのが……。

(堀井雄二)句読点を入れると結構うるさいんで。句読点じゃなくて、スペースだけにしたんだよね。単語を切って。

(Naz Chris)橋野さんって、改めてドラクエをプレイすることがあるってさっき、おっしゃっていたじゃないですか。プレイする時って、どのシリーズをプレイされるんですか?

(橋野桂)でも3とか、6とか。

(鳥嶋和彦)6、好きなんだ。

(橋野桂)6、好きですね。6のダーマの神殿の位置をよくここに……だから相当悩まれて。ダーマの神殿、相当遅いんですよ。だけど、ここにしか置けないよなとか。作り手になってからやると、なんかわかるんですよ。

(鳥嶋和彦)ああ、それはわかるな。

(橋野桂)で、「いや、さすが天才だな! いい仕事をされてるな!」みたいな(笑)。そういうプレイが結構ありますね。

(平信一)他に橋野さんから見て「ドラクエ、すげえな!」って思った箇所、いくつか挙げてもらうとしたら、どういうものなんですか?

(橋野桂)たまに、不意を突いて感情移入をさせてくるところかな? キャラクターに。だから「ああ、このキャラクター好きだな」とか。その、クラスチェンジ、転職システムで「このキャラクター、好きだから。もうバトル的には使わないけど、賢者にはしてあげたい」とか(笑)。「賢者にしてから外そう」とか。

(鳥嶋和彦)アハハハハハハハハッ! 優しいね(笑)。

(橋野桂)なんかたぶん、もしかすると堀井さんがシナリオを作りながら、身近にいる人のエピソードとか、いろんなのをたぶん入れて。たまにそのシンクロするキャラクターが、プレーヤーごとにいるんだと思うんですよ。そういうところの作り方もすごく、感銘を受けました。一貫してるって感じがする。もちろんドラクエチームのチームとして、やっぱり組織的にはやってるんでしょうけど。ここまで作家性が強いというか、堀井さんのコントロール下で一貫してまとまってるって作品があんまり他にない感じがすごいしていて。幸せな感じになりますよね。プレイをすると。なんか、「乗っかっちゃえる」ってわかります? なんか、眼差しが全てのデータとかメッセージに入ってるような感じがして。その心地よさみたいなのがありますかね。

(堀井雄二)結構ね、スタッフも育ってきて。今までさ、いっぱいドラクエを作ってるじゃん? それをやってきた人間なんで、ドラクエらしさとはなにか?っていうのを結構みんな、わかってるんだよね。だから、それがありがたいよね。

「ドラクエらしさ」とは?

(Naz Chris)堀井さんをご自身が思う「ドラクエらしさ」っていうのはなんなんですか?

(堀井雄二)なんだろうね? あったかみとか、わかりやすさとか、そういうところだと思うんだけど。

(鳥嶋和彦)僕はね、圧倒的な肯定感だと思うよ。

(Naz Chris)ドラクエらしさって、橋野さんから見てなんだと思いますか?

(橋野桂)とにかく楽しい。なんか楽しい第一っていう感じはしますけど。その後、だから鳥嶋さんが言ったように肯定感も感じるし。なんかやっぱり家の中でいい旅できたな感は……。

(鳥嶋和彦)アハハハハハハハハッ! 家の中で?(笑)。

(橋野桂)あるんですよ。ちょっと「コスパがいいな」じゃないですけども。

(鳥嶋和彦)「コスパがいいな」(笑)。まあ、コスパがいいなっていうのは感じるね(笑)。

(橋野桂)旅をさせてくれるなっていうのはあって。

(Naz Chris)たしかに。

(橋野桂)堀井さんは旅がお好きだったりするんですか? ご自身はどうですか?

(堀井雄二)出不精だったりするよね(笑)。でもね、いろいろと行っているけどね。

(鳥嶋和彦)出不精っていう割には、ちゃんとね。たとえばちゃんと時間があれば来るからね。

(堀井雄二)結構自分からは誘えないんだけども。誘われたらどこへでも行っちゃうっていうのがあって。

(鳥嶋和彦)そのへんは素直だよね。

(Naz Chris)だから、旅の扉があるのか。入ったらすぐどこかに行けるっていう。

(鳥嶋和彦)意外と好奇心は旺盛で。シーラカンスも普通に食べてくれたし(笑)。

(堀井雄二)アハハハハハハハハッ!

(橋野桂)なんですか? 「シーラカンスを食べる」って?(笑)。

(鳥嶋和彦)取材でね。シーラカンスを取材したんですよ。で、堀井さんと一緒に食べる機会があって(笑)。

(橋野桂)シーラカンス、どんな味がするんですか?

(鳥嶋和彦)あまり美味しくなかった。単に白身の魚だった(笑)。

<書き起こしおわり>

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