鳥嶋和彦 イラストレーター江口寿史を語る

鳥嶋和彦 イラストレーター江口寿史を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

(Naz Chris)私、『KING OF POP』のインタビューとか、峯田くんとの対談で拝見したんですけど。「広末涼子さんが出た時に本当にかわいくて。広末涼子に俺たち、なりたかった」みたいな。だから自分が女の子になったらどういう女の子がいいだろう、みたいな目線が新しいと思いましたね。

(鳥嶋和彦)というか、そんな視点で書いた男の漫画家はいなかっただろうね。「女の子になりたい」って。だから逆に言うと、さっき江口さん言ったけど。ちばさんはキャラクター1人1人になって、その気持ちで書くっていうじゃない? 江口さんもそれなんだよね。憑依型だよね。

(江口寿史)憑依っていうか、男じゃ絶対手に入れられない無敵な時期が羨ましくてしょうがないっていうかね。

(鳥嶋和彦)今でも?

(江口寿史)今でも。女性のね、ある時期の無敵感。誰もかなわないと思う時があるんですよ。女の人って。それに絵を迫りたいっていうのが、僕の絵のモチベーションですからね。

(鳥嶋和彦)なんでそれを漫画で書かないかな?

(江口寿史)ああ、だから絵の方が手っ取り早いのかな?(笑)。いや、だから漫画はね、それをまたさらに……ねえ。いろいろと。ストーリーを付けて。

(鳥嶋和彦)カメラだけじゃなくて、シナリオとか、いろいろとやんなきゃいけないんだよね。だけど、逆に言えば江口さん、それを漫画として定着化できれば、残っていくんだよ。作品集として。

(Naz Chris)この扉絵集っていうのを『江口寿史展 ノット・コンプリーテッド 』で買ったんですけど。女の子がアイメイクをしてる絵があって。これって、女性じゃないと書けない。その、まぶたをどれぐらい閉じるとか、どこからアイシャドウを塗るとか。ちょっと上目遣いみたいな。あと下まつげ……江口先生といえば下まつげっていう。これはすごい! 天才!

(鳥嶋和彦)いや、すごいんだけども。そういうことをね、みんながあんまり言い過ぎるから。だから3分の1になっちゃったわけよ。

(Naz Chris)いや、事実ですよ。こんな女の子を書ける人は日本にいないんですもん。これは本当にすごいなって。女性として見ても、もう感服するっていうか。「なんでわかるの?」って思うっていう。なんでわかるんですかね?

女性も感服してしまう江口寿史の女の子の絵

(江口寿史)「女に生まれていたら、そうするだろうな」と思うからでしょうね。女に生まれたら、そうするだろうなって。

(鳥嶋和彦)というか、やっぱり自分でポーズを取ってみたりする?

(江口寿史)しますよ。手とかのね、演技とかは自分で鏡に映して。

(鳥嶋和彦)漫画家はよく言うんだけども。鏡を置いて仕事するから、表情を……ナズさん、知らないでしょう? 漫画家を早々に諦めてる人には。

(Naz Chris)知らないです……。

(鳥嶋和彦)必ずみんな、鏡が机の上にあるわけ。で、どういう表情をするか?っていうのが大事だから。それは自分でその顔を見て「こうだな」って。それで書いていくわけです。

(Naz Chris)そうなんですか?

(鳥嶋和彦)そうなの。だからアクションシーンとかが続くと、漫画家は顔が疲れるんだよ。歯を食いしばっている顔をずっと書いてあるからね。

(江口寿史)そうそう。

(Naz Chris)本当にそうなんですか?(笑)。

(江口寿史)本当にそうなんですよ。怒った顔とかね、おどけた顔とか。

(鳥嶋和彦)だからね、かならず鏡があるの。僕は最初ね、なんで漫画家の机の上に鏡があるのか、よくわかんなくて。

(江口寿史)だから絵の上手い人って、演技が上手いと思いますよ。割と。

(鳥嶋和彦)一番簡単な資料だから。

(Naz Chris)それは、恐れいりました。

(鳥嶋和彦)そういう意味では、江口さんは演技が上手いんだね。女性の演技が。なりたいから。

(江口寿史)だから俺の俺の絵は全部、演技がうまいんですよ。演技の下手な絵って、いっぱいあるから。

(鳥嶋和彦)他の人のはね。だからこの中では江口さんはある程度……さっきの『パイレーツ』のあれじゃないけれど。真意があるわけだね。

(江口寿史)そうですね。

(鳥嶋和彦)このワンカットを書くにあたっての前後の流れが。

(江口寿史)前後があるんですよ。

(鳥嶋和彦)前後があって、切り取ってるからものすごくフレッシュなの。

前後がある中でのワンカットを切り取るイラスト

(Naz Chris)あと、ファッションとかが……これ、全部ノーブランドだけど。あえてコンバースじゃなくてプロケッズとか。ここを目立たせる感じっていうか。なんかもう、かわいい!って。

(鳥嶋和彦)それはもう異常なんですよ。

(Naz Chris)いや、異常じゃないですよ。このフレッドペリーを着せて。このジーンズのちょっとローライズな感じとか。丈のクロップな感じとかが。「なんで? すごい!」って。

(鳥嶋和彦)一言、言っていい? その凄さをなんで漫画に振り向けないのか?っていう(笑)。

(江口寿史)でもこれは全部、漫画の表紙ですよ? 漫画で書いていたやつです。

(鳥嶋和彦)でもさ、この扉絵に振り向ける努力を中にも……(笑)。

(Naz Chris)いや、これはでも天才としか言いようがないですよ。

(鳥嶋和彦)だからさ、それで絵にこだわって、漫画が書けなくなって、外から注文が来るようになって。で、ジャンプから離れていって、いろんなところと仕事が始まるっていうとこに至るわけですよ。

RECORD
河出書房新社

<書き起こしおわり>

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