(渡辺志保)まず、タイトルが6時16分。で、なんで「6:16」なのか?っていうと、今年は6月16日がまず、父の日なんですね。かつ、6月16日は2パックの誕生日でもあって。他にもいろいろと、日付とか数字が絡み合っていて。ケンドリック・ラマーが初めてトロントでライブをした日も6月16日。で、先ほどかけた『euphoria』から、ドラマの『ユーフォリア』の最初の放送日が6月16日。あとはOJ・シンプソンの裁判が開始された日……OJ・シンプソンについては皆さん、どうぞ調べていただきたいんだけど。その裁判が開始された日も6月16日であると。で、この曲はケンドリック・ラマーが6時16分にYouTubeに上げていたっていうような感じで、いくつもそういう意味が隠されたタイトルらしいんですよね。それで私は恥ずかしながら、あまり聖書には明るくないんですけれども。第6章16節の聖書のテキストとも関係があるんじゃないかという風にも考察がなされておりまして。そもそもこの「何時にどこどこ」っていう曲のタイトルはですね、元々ドレイクが自分のトレードマークみたいにしていたんですよね。
長年のドレイクファンだったら「ああ、あれね」って思うかもしれないけど。たとえば過去にも『9AM in Dallas』とか6『6PM in New York』とか、「何時にどこどこにいます」っていうのはドレイクがずっと発信してきたスタイルでもあった。なので、それを乗っ取るじゃないけど、そういう形でケンドリック・ラマーが『6:16 in LA』という曲をリリースした。で、まだリリックの内容に入る前なんですけれども。この楽曲のプロデュースにはTDEの作品をずっと長らく、たくさん手がけてきたSounwaveというプロデューサーが参加していまして。その他にジャック・アントノフさんという方がプロデューサーとしてクレジットされているんですね。
で、このジャック・アントノフこそ、テイラー・スウィフトのプロデューサーとして知られている人で。なので数週間前にドレイクは『Taylor Made Freestyle』という曲をリリースして。ちょうどその日、テイラー・スウィフトが新しいアルバムを出した日でもあったんですよね。かつ、ケンドリック・ラマーはかつてテイラー・スウィフトと1曲、一緒にやっていて。「あれはTDEのボスに言われたから渋々やったんだろう。お前はこういうポップスターとも共演するラッパーなんだろう」みたいなことを言われていたわけなんですが。ケンドリックはそれをちょっとひっくり返すというか、皮肉るような形で実際にテイラー・スウィフトのプロデューサーを引っ張ってきてこの曲をリリースしているという。で、さらにこの楽曲ビートはアル・グリーンの1972年の楽曲『What a Wonderful Thing Love Is』をサンプリングしているんですが。この曲にはドレイクのおじさん、Teenie Hodgesさんがギターで参加しているということで。
(DJ YANATAKE)これ、すごいよね(笑)。これは本当にすごいと思った。
(渡辺志保)ドレイクのお父様、Dennis Grahamさんも非常に有名なミュージシャンではあるんですけれども。おじさんが参加してるアル・グリーンの名曲を引っ張ってきていて。で、先ほどかけた『euphoria』はテディ・ペンダーグラスの『You’re My Latest, My Greatest Inspiration』という名曲をサンプリングしているんですけども。これ、知らなかったんだけど。アル・グリーンとテディ・ペンダーグラスって2人で『Back to Back』っていうコンピレーションベストアルバムを作ってるそうなんですよ。なんで、バック・トゥ・バックスタイル。やられたらやり返すっていう。そこにもかかっているんじゃないか?っていう熱心な方の考察があって。
(DJ YANATAKE)いや、いいですね。この深読みが面白いんですよね。
(渡辺志保)そうそう。面白いnですよね。ということもある。それでリリックの中では引き続き、めっちゃドレイクと、あとはそのドレイクの周辺のこともディスっているわけなんですけども。基本的にはドレイク1人をもう集中攻撃してディスっている。で、私はちょっと個人的に「あっ!」と思ったのがリリックの中にLucalisっていうブルックリンにあるピザ屋さんの名前が出てくるんですよ。で、ここって私、行ったことはないんだけど。毎回、ニューヨークに行くたびに「行こう」と思っていて、自分のGoogleマップにブックマークしているピザ屋だったの。で、『euphoria』でもドレイクの地元のトロントにある中華料理屋さんの名前を出して、そこがバズるっていうようなことがあったんだが。今回のこの6時16分の曲ではブルックリンのピザ屋の名前を出している。で、私がなんでこのピザ屋をブックマークしていたか?っていうと、ここがジェイ・Zとビヨンセのお気に入りのレストランなんですよ。
で、いつだったかのグラミー賞でジェイ・Zがめっちゃノミネートされたのにグラミー賞に出席せずに、その代わりここでピザを食べてたっていうのがニュースになったの。そこのピザ屋さんなんですね。で、この1個前の『euphoria』のリリックでケンドリック・ラマーはGOAT。これ、J・コール曰くJ・コール、ケンドリック、ドレイクの3人でGOATだってことになっているんだけども。「いやいや、俺の知ってるGOATと俺。それとあと残りの2人はステージの上でキスしたり、ハグしたりしてるぜ」っていうラインがあるんですよ。で、その残り2人のGOATっていうのはたぶん、ジェイ・Zとビヨンセのことなんですね。そういう風に『euphoria』でラップしていて、今回のこの『6:16』ではジェイ・Zとビヨンセのお気に入りのブルックリンのピザ屋さんの名前を出してラップしてるっていう。で、これは私が気づくぐらいのイースターエッグだから、たぶんこういう仕掛けが本当に曲のいろんなところに隠されてると思うんですけれども。
この曲の中でケンドリック・ラマーが「Are you finally ready to play have-you-ever? Let’s see」っていうリリックがあるんですけど。この「have-you-ever」っていうのは「◯◯したことないゲーム」っていうので。そういうのがアメリカの中であるらしいんですよね。なんか飲み会とかでやるらしいんですけど。ドラマのシーンとかでそのゲームをやってるところが使われたりしてるそうなんですけれども。「じゃあ、みんながやったことないことを私が言うね。◯◯!」とかって言うと「ああ、俺はそれ、やったことあるわ」っつって。で、そのやったことがある人が酒を飲むみたいなゲームなんですけども。で、ケンドリックが「やったことないゲーム、するね」って始めて。「OVO(ドレイクのレーベル)が俺のために動いてるって考えたこと、ある人?」みたいな感じで。「お前のレーベルが俺のためにコソコソ動いてるって、考えたことある人?」みたいな感じで呼びかけていて。
OVOの中にスパイ(Mole)がいる?
(渡辺志保)で、ここ以降で結構、これが主題のひとつになっているんですけど。「OVOの中にスパイ(Mole)がいる」っていうことで。「スパイがいる」っていうことをドレイクがちょいちょい、ラップするんですよね。で、この『6:16』の曲の最後のラインは「It’s time that you look around on who’s around you Before you figure that you’re not alone, ask what Mike would do」っていうすごい2行で締められてるんですけれども。「お前のそばに一体、誰がいるのか考える時が来たんじゃないか? お前が1人ぼっちになる前にマイクならどうするか、尋ねてみろよ」っていう意味のラインなんですけど。これ、「Before you figure that you’re not alone」っていう、この『You Are Not Alone』っていうのは、言うまでもなくマイケル・ジャクソンの代表曲のタイトル。で、その後に「ask what Mike would do」って言っているんですけども。この「Mike」っていうのは、もちろんマイケル・ジャクソンなんですよね。
で、ドレイクって自分の曲の中でずっと「自分はマイケル・ジャクソンだ」っていう風にも言ってましたし。ケンドリックもケンドリックで「ドレイクがマイケル・ジャクソン。そして俺がプリンス」みたいなこともずっと言ってるわけなんですけど。ここで、それをまた逆手に取って。「じゃあお前がマイケル・ジャクソンに聞いてみれば? お前が1人ぼっちになる前にな」っていうようなことをこの『6:16』ではラップしているという感じです。
(DJ YANATAKE)それって、あれですね。『You Are Not Alone』ってあの(性的虐待などの罪で有罪判決がくだった)R.ケリーがプロデュースしてるのとかも入っているのかな?
(渡辺志保)ああ、関係があるのかね? そういうのもね。なんで、「お前のOVOの周りのやつらはみんな、お前に反目している。裏切り者ばっかりだぞ」みたいなことを半ば、警告しているような曲にもなっておりますし。で、「what Mike would do」っていうフレーズは、たとえばプシャ・Tが以前、ドレイクに向けたディス曲として出した『What Would Meek Do?』という曲。「ミーク・ミルならどうするか?」っていうタイトルの曲。もしくはドレイク自身がリリースした『What Would Pluto Do』っていう。Plutoって冥王星って意味だけど、これはフューチャーのニックネームでもあるんですよね。なんで、かつてのドレイクのそういったタイトルをもじって、いろいろ逆手にとってこの最後のラインになっているのではなかろうかというような考察もなされておりました。というような感じで、ケンドリック・ラマーが2曲立て続けにドレイクを攻撃する曲をリリースしたというところでワーッと盛り上がったんですよね。
Kendrick Lamar『6:16 IN LA』
(渡辺志保)で、その2曲……『6:16 in LA』を出した同じ日、5月3日にいよいよドレイクが『Family Matters』というアンサー曲をリリースします。これはドレイクさんらしいなとも思ったんだけど。ミュージックビデオ付きで、ちょっと派手な感じでリリースされたんですよね。それで最初に『euphoria』の時に述べたんですけれども。「お前のクローゼットの中にはトミーヒルフィガーはあってもFUBUはねえだろ?」っていう風にケンドリックは揶揄をしてたわけですけれども。なんと、このミュージックビデオの中ではドレイクさんがFUBUを着ている。そういうところもちゃんと拾ってるんだね、みたいな。それで、その『euphoria』でもひたすらそのケンドリックはドレイクに対して「お前がNワードを言うの、マジでも聞きたくないからやめてくれ」っていう風に何度も何度も言ってたわけなんですけれども。この『Family Matters』のイントロはドレイクのお母さんのサンドラさんの声で始まるんですよ。それで「あの言葉、言っちゃダメだと思うのよね」みたいなことを言って。その後にめっちゃNワードをドレイクが言ってるっていう。
(DJ YANATAKE)というところから始まるんだよね。
(渡辺志保)「性格悪い!」みたいな感じの始めり方で。
(DJ YANATAKE)まあ喧嘩っぽいアンサーですよね。
(渡辺志保)そこをね、言葉尻を捉えて言ってるっていう。で、「You know who really bang a set? My n*gga YG」って言って。その後に「Chuck T」とかも続くんですけども。その、「俺の仲間のYGの方が間違いない。俺の仲間のChuck T(The Game)の方が間違いない。もっと盛り上がるぜ」っていうようなことをラップしているわけなんですけれども。言うまでもなくYGもThe Gameもコンプトン出身のラッパー。なのでドレイク的には「別にケンドリックがいなくても、俺にはYGもいるし、The Gameもいるからな」っていうようなことをラップしているわけですね。
(DJ YANATAKE)なんか、あれだよね。「お前の地元の怖い先輩と俺、仲がいいから」みたいな牽制だよね。すごい嫌な言い方だよね(笑)。
(渡辺志保)「お前の先輩、俺、知ってるから」みたいな。で、その後に、たぶんここにすごいケンドリックはイラッとしたんじゃないかなと思うんですけど。ドレイクのリリックで「Always rappin’ like you ‘bout to get the slaves freed You just actin’ like an activist, it’s make-believe」っていうのがありまして。「お前はまるで奴隷を解放するような雰囲気でラップしていて、まるでアクティビストごっこかよ」っていう。でも、こうした命題……奴隷制についてラップするとか、ステージの上でそういうパフォーマンスするっていうのはケンドリック・ラマーがずっと命題にしてきたことだと思うんですけれども。なんかね、「そういうごっこ遊び、お疲れさん」みたいな感じでドレイクはラップをしていて。それで「お前はブラック・メサイア(ブラックの救世主)なんだろう?」って言っていて。で、どんな救世主かというと、「ミックスの女性を妻にした」っていうことをその後、続けてラップしていて。
ケンドリックの奥さんのホイットニーさんはバイレイシャル、黒人と白人のミックスで。ケンドリック・ラマーもドレイクに対して「お前はバイレイシャルなんだから」っていうところで攻撃しているわけなんですけど。「お前の奥さんだってバイレイシャルのミックスじゃねえか」っていうことをここでドレイクはアンサーというか、攻撃しているわけなんですよね。その後に「自分の自尊心のために白人女性とセックスしたこと。お前はそんなことだってやってるじゃねえか」っていうことをリリックにしておりまして。あとはケンドリックのパートナーの名前がホイットニーだから、そこにボビー・ブラウンとホイットニー・ヒューストンのことをかけて揶揄をするようなラインを続けている。他にもですね、「子供を置いてニューヨークに引っ越したのはお前だろう」とか。あと、ここも本当に本当にイラッとしたと思うんですけれども。
「長男の父親はお前じゃなくて、TDEのボスのデイブ・フリーだろう」っていうようなこともラップしていたりとか。あとは「なんで子供たちにセイ・チーズしないんだ?」ってこともラップしていて。これはたぶん、ケンドリックはなぜ、子供と一緒に撮った写真をネットに上げないんだ?っていうようなことをラップしてるんだと思うの。それはイコール、「お前は息子と一緒にいないんじゃないか?」っていうことをラップしてるのかなと思うんですけれども。逆にドレイクって自分の子供の息子さん、アドニスくんとの写真をたくさん、Instagramに上げたりとか。自分のプロモーションの映像にアドニスくんを出したりとかしてますけれども。「俺だってちゃんと父親をやってるわ!」っていうようなことをここで反撃している。
プラス、ドレイクはこの曲『Family Matters』の中で、他にもザ・ウィークエンドであるとか、エイサップ・ロッキーであるとか、フューチャーとメトロ・ブーミンであるとか。その他のラッパーの方たちへも、まとめてディスのアンサーを返しているというような曲になっております。それが『Family Matters』っていう曲の内容なんだけど。なんかこれはちょっとさらっとでいいかなって思っていて。
Drake『Family Matters』
(渡辺志保)その後、ドレイクが『Family Matters』をリリースしたわずか20分後に、ケンドリック・ラマーが『Meet the Grahams』という、さらにドレイクを攻撃する曲をリリースしました。で、さすがに20分後にアンサー返すっていうのは絶対絶対不可能だろうって思うんだけども。私が見たXのポストだと、元々この『Meet the Grahams』のYouTubeリンクが存在していて。ドレイクがこの『Family Matters』をリリースした後に、ケンドリックがその公開を非公開……プライベートモードから公開にスイッチしたのを知ってるっていう風に言ってるポストもあって。「本当かな?」って思うんだけども。でも逆にこの速さ……20分後に曲を出すっていう速さがさっき、『6:16 in LA』でラップしたみたいに「OVOの中にスパイがいるぞ」っていうことを裏付ける証拠なのかなという風に感じました。なのでOVO、ドレイクの周りにいる誰かが「ケンドリックさん。この後、ドレイクがこういう曲を出します」ってリークして。「よし、来た!」っつってもう前もってケンドリックがバーッと曲を録って。それをドレイクのリリースのわずか数十分後にリリースするという形にしたのかなという風にも私は感じました。