星野源 ドラマ『テッド・ラッソ』が一生の作品になった話

星野源『テッド・ラッソ』シーズン3の胸熱展開を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんが2023年6月13日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で最終回を見終えたドラマ『テッド・ラッソ』についてトーク。自身にとって一生の作品となったと話していました。

(星野源)あの、一生の作品っていうのが人それぞれにあると思うんですよ。たとえば、映画とか、ドラマとか。アニメでもゲームでも何でもいいんですけど。もう一生、自分から離れないだろうなみたいな、大事な作品。僕はすごいいっぱいあるんですよ。音楽だったら細野晴臣さんの『泰安洋行』とか『HOSONO HOUSE』とか。あと映画だったらアニメーションの『マインド・ゲーム』とか。あとは『デッドプール2』とかね。

で、舞台だと大人計画っていう名義じゃないけど、松尾スズキさんが書かれて演出していた『マシーン日記』とか。あとは大人計画の諸々の作品群とか。あとゲームだと『MOTHER』とか。そういう、いろんなものがですね、自分の一生、大事にしたい作品として、なんていうんですかね? 自分の心の取っ手みたいなところにキーホルダーみたいな感じで、カラビナみたいな感じでカシャンってかかって、もうきっと外れないだろうな、みたいなものとしてずっと身に着けてるみたいな作品があるんですよ。

で、それってその後の自分にすごい大きな影響を与えたりとか、それを見たことによって、たとえば細野晴臣さんの音楽だったら僕はこういう音楽を作りたいとか。今の仕事に繋がるような、人生を変えてもらったような、そういう作品だったりとか。あとは、なんだろう? 自分の人生だったりとか、生き方みたいなことを見つめ直したりとか、何かを教えてもらったりとか。そういう作品っていうのが僕にはいくつかありまして。

なんか、その中でもこう、自分の上にいるような作品っていうのもあるし。「ああ、これは自分の人生を知っているんじゃないか?」みたいな。なんか、たとえばそういう歌ってあるじゃない? 「俺の人生を知ってくれているんじゃない? これ、俺じゃないの?」みたいな。なんか、そういうのがあったりとか。なんかいろんな作品があって、いつもそれを勇気みたいなものにしながら、自分は生きてるなといつも思うんですけど。

結構、いつも思い出すのが、小学5年とかですかね? 10歳、11歳とか、そのぐらいですかね。そのぐらいに、埼玉県の川口市の産業道路っていうのがあるんですけども。その産業道路をバスに乗って……市営バスみたいなのに乗っておじいちゃんちに行く。おじいちゃんちにおばあちゃんと一緒に行く。おばあちゃんが家まで迎えに来てくれて、おじいちゃんちに一緒に行って、おじいちゃんと会ったりとか。おじいちゃん、八百屋さんだったんで。その八百屋さんをちょっと手伝ったりとかね。そのために、たしか日曜日かなんかに一緒に移動していった、その窓際をいつも思い出すんですよ。

で、その産業道路のね、町並みが流れていく、走ってるバスの中で、ボーッと外を見ていたんですよ。で、ボーッと外を見てたら、視点が急にギューン!って丸くなって。魚眼みたいな視点になって。僕は割とその頃はもう、結構お腹をね、学校とかでもよく痛くしていて。たとえば社会科見学の時とか、みんなでバスに乗っている時になんかお腹痛くなっちゃって。それで1人だけ降りて、なんか「すいません、トイレ貸してください」みたいな、そういう子供だったんですよ。

で、集団行動みたいなのが結構苦手で。で、その小学校に入ったぐらいからどんどんね、その社会性が濃密になっていく中で、なかなか馴染めないみたいな頃だったんですよ。で、そのおじいちゃんちに行くバスのその視点がギューン!って丸まってきて。「あれ? なんだ、これ?」って思って。で、その時にお腹が痛くないのに……お腹が痛い時って、なんか焦るのよ。たとえば、それは「トイレが近くにないか、探さなきゃ」とか。あとは授業中だったら「トイレに行きたいけど、みんなから笑われるから怖いな」とか。

なんか、ちょっと焦りみたいなのが生まれるんだけど。お腹痛くないのに、その焦るっていう感覚がなんか生まれてきたんですよ。で、その頃は、なんていうか、そういうものとしてその感覚が日常の中にあったんですよ。で、「お腹は痛くないけど、お腹が痛い時のやつ」っていう名称で自分の中に残っていて。それは、高校生ぐらいまであるのかな? その後、一人暮らしを始めて、自分でバイトしたりとか。あとは演劇、お芝居、あと音楽。自分でバンドをやったりとか。そういう風に、仕事じゃなかったけどもそれがだんだん仕事になっていったりするみたいな時間を過ごすことによって、どんどんそれがなくなってきて。

で、それはなんかすごいたまになる……3ヶ月に1回ぐらいなるっていうのから、1年に1回、なる。2年に1回、なる。みたいな感じでどんどん減って、なくなっていったんですよ。で、その感覚を持ってる人っていうのにしばらく会わなかったんですけど。だから、誰とも話ができてなかったんすよ。でも、とある人が同じ状態だったんですよ。それが、『テッド・ラッソ』っていうドラマの主人公のテッドだったんすよ。

主人公テッドが自分と同じような感覚を持っていた

(星野源)で、前にも話したんですけど『テッド・ラッソ』っていうApple TV+でやっているドラマなんですけど。それ、コメディドラマなんですけど。「めちゃくちゃ面白い」っていう話を前もしたと思うんですけど。

あのね、この度、シーズン3の最後の話が公開されて、ちょっと数週間経ったんですけど。遅ればせながら、やっと見れたんですよ。最終回が。で、このシーズン3でどうやら終わりみたいなんですよ。めちゃくちゃ面白かったんですよ。めちゃくちゃ面白くて、もういろんな人にもすすめていて。で、もちろん日本でも好きな人は見てると思うんですけど。なんかいまいち、そんなにすごい盛り上がってる感じがしなくって。たとえばWikipediaとか見ても、情報が結構最低限のことしか書いてなかったりとか。

エミー賞っていう、すごい向こうの権威あるドラマの賞ですよ。エミー賞を2年連続取ってるんですけど、それも日本語のwikiには載ってないとか。もちろん英語の方はしっかりいろいろ載ってるんですけど。めちゃくちゃ大人気のドラマで。でも、その人気みたいな感覚が全然届いてなかったけどある日、「そういえばApple TV+、契約してるのに全然見てないな。見よう」って思ってパンってつけたら、もちろん人気のプログラムなんで。一番頭に出てきて。「ああ、見てみよう」と思って見てみたら、すごく面白くて。

で、そのテッドっていうのが、自分がその小学校の時から主にティーンの時に体感していたような感覚になるっていう描写があって。「俺だ!」って思ったんですよ。で、その描写みたいなものは、さりげなく描かれてはいるんですけど。なんか、その描写があることによって、もちろんただでさえめちゃくちゃ面白いドラマなんですけど。より、何て言うか、自分にすごい近い……性格とかはテッドと僕は全然違うんですけど。でもなんか、すごい身近なドラマになっているんですよね。

で、本当にすごいドラマで。概要を説明するとジェイソン・サダイキスっていうコメディアンの方……『サタデー・ナイト・ライブ』とかにずっと出られてて。いろんな面白いスキット、コントを作ってきた人で。その人が制作もやって、脚本も書いたりとかしてるドラマなんですよ。で、エミー賞を2年連続取っていて。で、ティナ・フェイ……『サーティー・ロック』っていうドラマが僕は好きなんですけど。その『サーティー・ロック』の制作の人が参加していたりっていうドラマで。

元々はNBCスポーツっていうスポーツニュースのところのYouTubeの広告枠みたいなところで、コントとしてアメリカンフットボールの監督がイギリスのプレミアリーグのサッカーチームの監督になるっていう。そういう、コントとして最初、演じていたんですよ。9年前ぐらいに。それでテッド・ラッソがボールがサッカーのゴールの上を抜けていったら「3ポイントだ!」って喜んで。「いやいや、ポイントじゃないよ」って言われるみたいな、そういうギャグだったりとか。あと、オフサイドが全く意味がわからなくてブチ切れていたりとか。そういう、めちゃくちゃ面白いコントのキャラクターが元々あって。

で、それを3年かな? そのぐらいにドラマ化して。同じ名前で同じキャラクターで、しっかりドラマ化されたんですよ。だからたぶんジェイソン・サダイキスさんの中ですごく大事なキャラクターだったのか、「こういうことをやりたいんだけど」っていうキャラクターだったんだと思うんですけど。僕がすごい好きなところは、登場人物のほとんど欠陥っていうか、欠点を抱えてるんですよ。性格だったり、いろんなところで。

で、それは3シーズンを通して、もう本当に全員が大好きになるっていう。そんなドラマ、いっぱいあると思うんですけど。こんなに、やっぱり終わった後もその人のことを考え続けるっていうのは、なかなかないだろうなっていう。それはなんでか?っていうと、サッカーの物語なんです。サッカーチームの物語なんですけど。しかもコメディなんですけど。でも、その中身は人間ドラマで。しかも職場コメディっていうか。なので、主に人間関係の話なんですよ。人間関係と、自分が生まれた環境と、その社会っていう環境と、自分の資質だったり素質っていうもののバランスが全然取れてなくて。それが欠陥として、自分の中で欠点として認識している人たち。もしくは、人からそう認識されてる人たちっていうのがいて。

それがその主演のジェイソン演じるテッドっていう監督がいろんなことを言うことによって、ちょっとずつ変化していって、その人たちが最高の自分になっていくっていう物語なんですよ。なので、スポーツがわからなくても面白いし。スポーツがわかっていても、面白いと思うし。実際にFIFAのサッカーゲームの中で、その物語の中のチームがゲームの中に登場するぐらい、人気なんですよ。登場人物のキャラクターがモデリングされて、FIFAのゲームでプレイできるぐらい、すごい人気なシリーズみたいなんですけど。

それが、シーズン3でしっかり終わったんですよ。なんか、海外ドラマって僕が何度か見たことあるのは結構、なんていうんだろう? 善人だった人が急に悪人になったりとか。で、その悪人になった瞬間にシーズン2みたいな。で、なんかそれがもう8ぐらいまで行くみたいな。だからなんか先に先に……もちろん、それだけじゃないんですけど。「おもしれー!」って思ってみていると「あれ? これって、もしかしてこれってまたさらに展開を生み出すために、そうしてるのかしら?」なんてちょっと邪推しちゃうようなものもあったんですけど。

これはそうじゃなくて。シーズン3、必要だった。そのキャラクターがこうなるには3年、必要だったっていうような、そういう風にしてきっぱり終わるみたいな。で、Apple TV+を代表するコンテンツなんだと思うんですけど、しっかり終わるところがまたすごく好きで。だからそういう風に自分の昔の感覚と似てるっていうのもあったんですけど。そのテッドがなにが素敵かっていうと、「破天荒コーチ」みたいな副題がついてるんですけど、全然破天荒じゃなくて。めちゃ、いいやつなんですよ。めちゃくちゃいいやつで。

で、その相手のその意思を尊重し続ける人なんですよ。で、何か欠点があるとしたら、自分の怒りとか自分の思いっていうのを人に……大事な人にほど、伝えられないっていう、そういう欠点があるんですけど、それが最後どうなるのか?っていう話もちょっとあるんですけど。なんか、そういう自分……今は自分の思いとか、不満とかを僕もガンガン言うような人間になりましたけども。それこそ、ティーンの時は僕も全然それは言えなくて。何かの拍子にそれがバーン!って爆発するみたいなこととか、あったんですよ。

だから、それは自分にとっての欠点だったと思うし。そういうところもなにか、シンパシーを感じる部分もあるし。なんか、テッドが言うんですけど。やっぱり最初、スポーツ物だと思って見るから。やっぱり勝って終わるんだろうなと思うんですよ。でも、その1話か2話ぐらいのところでテッドがめちゃめちゃはっきり言うんですよ。「成功に勝敗は関係ない」って。それってもう本当にこのドラマのテーマだし。これはテッドの思いでも、セリフでもあるんですけど、このドラマ自体のテーマだなと思うんです。

「成功に勝敗は関係ない」

(星野源)「成功に勝敗は関係ない。選手がプレーしてる時も、してない時も、最高の自分でいられること。それが成功だ」って言っていて。それでなんか、バーン!ってショック受けたんですよ。なんでか?っていうと、自分は人とコミュニケーションを取る時に、高校生の時からずっと音楽とか、お芝居とかでコミュニケーションを取ってきていて。ギターをコピーして「これ、どう?」みたいに言って。「いいね」って言われて嬉しいみたいなことでコミュニケーションを取っていた。

だから、それがもう高校卒業してすぐ活動をし始めたんで。仕事っていうものを介したコミュニケーションがほとんどなんですよ。で、その中で、自分の作品だったり、自分が出演するものっていうのの達成感だったりとか、評判だったりとか、自分がどうできたか。自分の目標に対してどうクリアできたか、みたいなところを常にモチベーションとして生きてきたところがあって。だから、たとえば何かそれが1個行き詰まると、なんか全部終わった感覚になるんですよ。全部、シャッターがバーン!って落ちたみたいな。

いわゆる、その仕事がバーン!って奪われた時の自分っていうのに全く自信が持てないみたいな人間だったんで。なんかそういう中で、だから自分の音楽がどうだとか……たとえばチャートとかね。「○位だ」とか、そういうところでアドレナリンだったりとか、なんかそういう興奮物質みたいなもので自分のエンジンみたいなものにしていたと思うんですけど。

でも、自分のこの数年のテーマが「そういうのは関係なく、幸せになりたい」っていう。「幸せになりたい」っていうのは「幸せな気持ちでいたい」みたいなことなんですけど。なんか、それの答えをテッドがバーッ!って言ってくれた感じがして。なんか、自分の人生の初めの方の記憶ともリンクもするし、今の気持ちみたいなものともすごいリンクして。その勝敗だったりとか、結果とか、仕事のデカさとか、そういうことじゃなくて。今、どう幸せか? 今、最高の自分でいられてるか? みたいな、そういうことを改めて見つめ直せるドラマだったんです。

なので、本当にいいドラマなので、ぜひ見てほしいというのを17分、使って話しました(笑)。いや、本当に見てほしいんだけどね。なんか日本でそんなにまだ盛り上がってないイメージがあるんで。ぜひ、いろんな人に見ていただきたいと思っております。それではここで1曲お送りしましょう。これも、自分の心の取っ手みたいなのにかなりきつく、しっかり、キーホルダーみたいな感じでいつもつけてる曲です。プリンスで『I Wanna Be Your Lover』。

Prince『I Wanna Be Your Lover』

<書き起こしおわり>

星野源『テッド・ラッソ』を語る
星野源さんが2023年4月4日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でApple TV+で配信中のドラマ『テッド・ラッソ』について話していました。
星野源『テッド・ラッソ』シーズン3の胸熱展開を語る
星野源さんが2023年4月25日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でApple TV+で配信中のドラマ『テッド・ラッソ』シーズン3についてトーク。胸熱な展開が起きていることを話していました。
宇多丸と日比麻音子 完結した『テッド・ラッソ』の素晴らしさを語る
宇多丸さんと日比麻音子さんが2023年6月28日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でシーズン3で完結したドラマ『テッド・ラッソ』についてトーク。最終回まで完走した2人がその素晴らしさを話していました。
タイトルとURLをコピーしました