宇多丸と日比麻音子 完結した『テッド・ラッソ』の素晴らしさを語る

星野源『テッド・ラッソ』シーズン3の胸熱展開を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんと日比麻音子さんが2023年6月28日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でシーズン3で完結したドラマ『テッド・ラッソ』についてトーク。最終回まで完走した2人がその素晴らしさを話していました。

(宇多丸)日比さん、よくぞ言ってくださいました。ずっとRHYMESTERの告知だなんだとか。あと後ほど、番組グッズの話もしたいんですが。そんな話をしていて、なかなかこの話をできなかったんですけども。Apple TV+で見ることができる人気ドラマシリーズ『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』シーズン3。ついに配信が……5月の末ぐらいに最終回になってね。世界的とに言うかな? アメリカのドラマだけど、すごく人気とか評価も得いてね。非常にいっぱい賞も取ったドラマシリーズ。それがついに完結ということで。私も最終話、見ていたんですが、日比さんがずっとね、「追っかけて見てますよ」なんて言っていて。

(日比麻音子)そうなんですよ。

(宇多丸)改めて、ちょっとどういう話かを説明しておくと。テッド・ラッソさんというね、ジェイソン・サダイキスさんが演じているヒゲ面のね、いつもニコニコしてる……。

(日比麻音子)いい人!

(宇多丸)本当に……端的に言えば本当にナイスガイですよね。本当にナイスガイ。で、なんていうかな? その「ナイスガイ」なんていうと、もちろん彼には彼なりの人間的な苦しみはあるんだけど。他の人に対して絶対に常にナイスじゃない?

(日比麻音子)そうなんですよ。「いい人」って言葉って、意外と「いい」だけが含まれてないじゃないですか。「いい人」っていうとたとえばちょっとつまらないとか、ちょっとなんか嘘くさいとか。100%、純粋いい人ってなかなか、いわゆる褒め言葉として使いにくいな、なんて思っていたんですけども。

(宇多丸)「◯◯さんって、いい人だよね」っていうところになんかもう、トゲがあるもんね。

(日比麻音子)ちょっとなんか言いづらい。でもテッド・ラッソに関しては本当にいい人っていうキャラクターなんですよね(笑)。

(宇多丸)そうですね。とか、その彼のナイスぶり……彼は元々、アメリカンフットボールのコーチなんだよね。なんだけど、いろんな事情があって、イギリスのサッカーチームの監督として呼ばれて。

(日比麻音子)フットボール違いで。

(宇多丸)フットボール違い。で、しかもだから彼はほとんどそのイギリスのフットボール、サッカーのルールとかもよくわかってないような状態で来て。当然、地元のサポーターをはじめ、スポーツジャーナリストから何から、全員が当然、敵というか。彼に対して非常に冷たい目を向けている。そんな中、でもニコニコとやってきて。いろいろ罵詈雑言とかを浴びせられたりもしたんだけれども、基本的には他の人には本当に常にナイスに。なんか悪口を言われても一瞬、戸惑ったりはするんだけど。なんていうかな? 「まあ、そういうことも……」って。言った側の、「君の気持ちもわかる」ぐらいの感じで。

(日比麻音子)本当に皮肉であったり、嫌味みたいもんなものを、純度の高い愛と赦しで返していくっていう。切り込んでいくっていう。

(宇多丸)で、彼のやっぱり周囲の人に徹底してナイスであること。常にユーモアを忘れない。まあ、そのユーモアって全然、時にはうざかったりとか、オヤジギャグ的だったり、あとはなんだろう? 時代錯誤的……なんていうかな、そういう感じ。彼のヒップホップギャグは僕、完全に世代なんで。彼のヒップホップギャグ、僕は全部わかるんですけど(笑)。あの、同世代!って感じなんですけど。

そういう、もちろんうざいとことろか、あったりするんだけど。でも彼のそういう徹底してナイスであろうとする姿勢。で、もちろんその学ぶ姿勢とかみたいなものが少しずつ周りの空気も変えていって。それぞれ、いろいろギスギスした人間関係もあったそのサッカーチームが、だんだんやっぱりナイスな人たちに……元々あった人々のナイスを引き出してくっていうか。

(日比麻音子)うんうん!

(宇多丸)ただその一方で、やっぱり彼も人間だから。彼自身、メンタルのいろんな問題っていうのを実は抱えていて。

(日比麻音子)これがまた深いんですよね。

(宇多丸)すいません。ちょっと日比さんのお話を伺うべきところをちょっと説明が……なんていうシリーズのシーズン3ということですよね。

(日比麻音子)そうなんですよ。これで完結と言われていたので。これを見終わってしまったらもう、テッド・ラッソおよびあのリッチモンドというチーム……そのイギリスのサッカーリーグのリッチモンドというチームのコーチなんですけど。かなり低いランキングから、どんどんどんどん実力を上げていく。それはテッド・ラッソが空気清浄機かのように、どんどんどんどんチームの中身を、人を変えていくからこそ強くなっていくっていう。

(宇多丸)人間関係のよどみとかもうまくあれしたりとか。あとはその戦術をね、自分なりに……「そうだ! 思いついた! この戦術、いいじゃないか!」「それはもう、めちゃくちゃ古典的な戦術だけど……いい!」みたいなね(笑)。

(日比麻音子)フフフ(笑)。「思いついたぞ! 大発見だ!」って(笑)。

(宇多丸)「俺、天才じゃないの?」みたいな話をしたら「いや、それは◯◯年の△△がやった有名な戦術だけど……でも、いい! やっていこういこう!」みたいな。

(日比麻音子)だからここまで、シーズンをずっと通して、最後までずっとこの人たちを見られてよかったって思えるドラマが私は素晴らしいドラマのひとつだと思っていて。最終回を迎えるのが本当に寂しかったんです。

(宇多丸)本当に仲間たちと別れるような気持ちに……特にさ、日比さんも忙しく働いていて。仕事場で……もちろん我々もチームで動くじゃないか。まさにチームで。チームワークでやってきて、いい時もあれば、なかなか大変な時もあるけど。仕事で帰ってきた時こそ見たいドラマっていうか。

仕事から帰ってきた時こそ見たいドラマ

(日比麻音子)そうなんですよ!で、そこには決して綺麗なことばかりじゃない……本当に自分にも起こる。自分の隣の人や前の人にも起こるような、たとえば家族の問題であったり、恋人の問題だったり、チームメイトの問題とか、自分の抱えている苦しい何かみたいなものがそれぞれのキャラクターでちゃんと丁寧に丁寧に1個ずつやってくれるんで。本当に心のヒーリングになっていくっていうか。ここに……1日の終わりで1回、このメンバー会ったらちょっと自分の今日、負ってしまったってしまった傷とか後悔みたいなものがぬぐわれるんじゃないかっていう希望を託して見てるようなドラマだったので。

(宇多丸)本当にそうだよね。ちょっと本当にメンタルヒーリングっていうか、カウンセリングを受けているような、そんな効果。でね、そのメンタルヘルスについて、深い意味で言えばそういう意味みたいなのはもう作り手もね、意識してるみたいで。なんかそんなことをね、インタビューとかで言ってたりもしましたけど。まさにそういう効果、ありますよ。

(日比麻音子)あったんですよ。だからこそ最終話を見るのが本当に寂しくて。かつ、やっぱりチームがどんどん良くなっていく。つまり、強くなっていっているので。本当にリアルにあるチームを応援してるサポーターの気持ちだから、最終回、どうなるんだろう? リーグの最後も……というかところまで来ていたので。ちょっと完走をようやく、遅ればせながらしまして。

(宇多丸)ありがとうございます。まずね、完走してちゃんと見ていただいたの、本当に僕もファンとしても嬉しいし。Apple TV+ってさ、もちろん素晴らしいサービスで。入っている人もいっぱいいると思うけど。とはいえ、Netflixとかアマプラとか、そういうところと比べると、まだまだなんというか、ちょっとこう「ああ、そういうのがあるんだ」とかさ、「どういうのがあるのかな」って。知らない人がいるから。しつこくて「『テッド・ラッソ』いいよ!」って言ってるんだけど。やっぱApple TV+に、まずお試しでいいから『テッド・ラッソ』は見る価値、めちゃくちゃある作品じゃないですか。

(日比麻音子)めちゃくちゃある! 本当にある! 心の栄養源だと思って1回、見て! お願い!

(宇多丸)ねえ。だからその完走をしてくださって、僕もファンとして嬉しいし。あとさ、さっきもおっしゃったリッチモンドというそのチームが少しずつ……でもちゃんとその強くなるプロセスも描くから、単なる絵空事じゃなくて、納得できる感じだし。で、ずっと割と人間関係を描いていて。だから僕はサッカーが詳しくないけど、それでももちろん大丈夫っていうドラマなんだけど。最終話は結構きっちりスポーツドラマに。ちゃんと試合のエキサイティングな展開っていうか。

(日比麻音子)そうなんですよ! 本当に試合を応援している気持ちになる。

(宇多丸)そうなんですよ。まさに本当に試合を見てる感覚。あれ、まずさ、観客をちゃんと集めてね。

(日比麻音子)いや、そうなんですよ。そこがすごい気になって!

(宇多丸)すごいよね。あれさ、冷静に考えてどうやってあそこ、撮っているの? 観客もそうだし、あとさ、あそこのチームの人たちって俳優だよね? これ、見ながらいつもわかんなくなって。なに? サッカーがすごいできる選手とかを連れてきて演技させているのか、それともサッカーが上手い俳優なのか。まあ、俳優にやらせているんだけども。それにしては、完全にプロのそれに見えるっていうか。

(日比麻音子)しかも、たぶんシーズン1よりシーズン3の方がサッカーがうまくなっているんですよ。

(宇多丸)強くなっているから、それも理にかなっているしね(笑)。そうなのよ。だからすごいリアリティーっていうか。

(日比麻音子)で、リーグの他の実在するチームを応援するシーンももちろんあるので。たとえばそのユニフォームであったり、応援歌であったり、応援のやり方とかも全部、そのままやってるから。「これ、どういうカロリーで作っているんだろう?」って。

(宇多丸)だから向こうのリーグ全体で協力してやってるんでしょうね。もう今や、それだけのブランドに『テッド・ラッソ』という作品はなっているけど。だからそ何気にすごい、そういうリッチなドラマでもあるし。

シスターフッド要素

(日比麻音子)そうなんですよ。あと「シスターフッド」っていう言葉、あんまり乱用したくないんですけど。そこが本当に私は素晴らしいと思っていて。チームのオーナーが女性であって。それもいろいろと、いわゆる男社会のオーナーがいる中で唯一というかね、数の少ないプレミアリーグのチームのオーナーとして、どうやってチームを切り盛りしていくかであったり。その広告を担当してるキーリーがまた、素晴らしい女性で。

(宇多丸)キーリーさんは元々、もうちょっとなんていうか。日本でいうギャルじゃないけど。そういうギャルギャルした感じの人だったんだけど、実はすごい優秀で。もちろん態度とか話し方はギャルなんだけども。

(日比麻音子)やっぱりギャルは強いのよ(笑)。

(宇多丸)でも、めっちゃ優秀。でもさ、ギャル仲間を連れてきて仕事大失敗の巻とかさ(笑)。

(日比麻音子)やばいギャルを連れてきちゃって(笑)。

(宇多丸)やっぱりギャルもいるみたいな(笑)。

(日比麻音子)でもギャルだから仲間を見捨てられないから、大事にしてくれるんですけど……(笑)。そこをでも、キーリーがどうやって切り抜けていくかっていうところであったり。恋愛に対してもどうやって自らが自立していくかというか。どんどん、キーリーらしさ。いわゆる女性らしさと言っていいのかもしれないんですけれども。そこを生かしながら、どうやって自分が自分の足で立っていくかっていう、そのサバイブする姿っていうのも本当に勇気をもらって。

(宇多丸)彼女はだって、そういう意味ではずっとある種、パートナーっていうのがスーパースター選手だったりしてっていうところだったのが、完全にそのパートナーとの関係も最終的には対等になり。完全に精神的にも、経済的にも自立するっていうところにね、行きますからね。

(日比麻音子)それを自らの意思でできるようになっていくっていう。自分で選んでいくっていうそのキーリーの成長の姿も素晴らしいし。

(宇多丸)あとのオーナーの女性、レベッカがさ、あれがたとえば『メジャーリーグ』っていう映画とかだと……あれも素晴らしい作品なんだけども。やっぱりああいう、要するに元々チームを負けさせたくて、わざと変な作戦をやるっていう。それこそ、だからそのサッカーを知らない監督を呼んでくるみたいなオーナー役。しかも女性って、『メジャーリーグ』とかそういう昔のスポーツ映画だったら完全に悪役だもんね。

なんだけど、この作品においてはやっぱり彼女側の「なぜ、そういうことをしたのか?」もそうだし。どんどん彼女側も、テッド・ラッソがあまりにもナイスガイだし。どんどんどんどんチームのことも好きになって。なんていうかな? 彼女の中のやっぱりその、ちゃんとした善が引き出されて。それでキーリーとも超仲良くなって。そこがすごく美しい上に……結局、何が彼女を追い込んだか?っていうと、その元旦那がクソだっていうことで。

(日比麻音子)はい。ルパート。

(宇多丸)ルパートというね、言っちゃえばもうイギリスのモテ男。だからジェームズ・ボンド型ですよ。ジェームズ・ボンド型モテ男、そんなもんがいかにクソであるか。で、シーズン3までずっと通して一番、「もうこいつだけは本当に……!」っていう。ネイサンっていうね、元々はチームの用具係だったのがやっぱりそのサッカーの戦術の卓越したセンスを見込まれてコーチになり。で、その嫌なルパートというやつが嫌がらせのように自分が新たにオーナーになったチームの監督に引き抜いて。

(日比麻音子)(ネイサンのあだ名)ワンダーキッドね。

(宇多丸)で、ネイサンはそんなに人によくされたことないから、ちょっと舞い上がっちゃって。ちょっと一瞬、嫌なやつになりかけちゃうんだけど。彼がその恋人を……せっかく、自分がずっと好きだった人にお付き合いしようとするのに、そのルパートがその悪しき男性性の方に引っ張ろうとするところがあるじゃないですか。

(日比麻音子)あれ、本当に最低ですよ……。

(宇多丸)あそことかはもうさ、「ネイサン、ダメ! そっちに行っちゃダメ!」みたいな。

(日比麻音子)「っていうか、テッド・ラッソに相談して!」って。ダイヤモンド・ドッグスていうテッド・ラッソとその仲間の男子が相談しあうっていうのがあって……これ、ドラマ見てください!(笑)。

(宇多丸)あのおっさんたちの……(笑)。だからホモソーシャルなんだけれども、そのかわいらしい男性チームの。

(日比麻音子)あれはユニオンです(笑)。

(宇多丸)そういうのがあって。だから、そっちに相談すればいいのに。

(日比麻音子)そっちに帰ってきて!っていう。

(宇多丸)で、ハラハラしたりもするんだけども。最終的には皆さんね、その嫌な……まあ金は持っているし、モテもするんでしょうというような男がですね、最終的にどういうことになるか。ちゃんと溜飲が下がる結末が……これ以上はないというぐらい溜飲が下がる結末が。

(日比麻音子)そうなんです。

(宇多丸)でもね、そこでもテッド・ラッソだけは「ざまあみろ」っていう顔じゃなくて、ちょっと心配そうな顔してるの。やっぱり。

(日比麻音子)そうなのよね。

(宇多丸)そして彼のメンタルヘルスの問題がやっぱり限界にきて、ある意味最終回というか。彼が「やっぱりアメリカに帰ります。家族のもとに帰ります」ということになるんだけど。最後、彼がする表情。あるテッド・ラッソの表情のアップで終わるんだけども。やっぱり「これでオールOK! イエーイ!」ってよりは、なんかもうちょっとニュアンス……なんとも言えない、ちょっと何の顔なんだろう?っていう顔をするよね。

(日比麻音子)そうなんですよ。

(宇多丸)そこがやっぱこのドラマの、ちょっと本当に……すごく笑えるドラマだし。さっき言ったように心があたたかくなるドラマだけども。というきれいごとだけではない、単色じゃない余韻ですよね。

(日比麻音子)これがリアルというか。あの顔を見て、たしかに「イエーイ!」っていうあれではなかったけれども。でも、だからこのドラマはいいんだなって思いましたね。

最終回の余韻

(宇多丸)だから、見事に終わったよね。これはもう、続かないなという感じの終わりでしたよね。

(日比麻音子)そうですね。これだけ各キャラクターでも1時間ぐらい展開できるぐらい、本当にもう……。

(宇多丸)本当ですよ! ダニ・ロハスの話、したい!

(日比麻音子)ロハスの話もしたいし、キャプテンのマカドゥの話もしたいし。それだけ、各キャラクターが本当に素晴らしく愛おしく描かれているドラマなので。これからスピンオフとかも出るみたいなネット情報も見たので。ウォッチしたいなと思います。

(宇多丸)ということでApple TV+で見られます。ぜひね、お試し期間とかもあったりすると思うんで。あの、何度も何度も言ってしつこいようですが。星野源さんなんかもね、見てラジオで話したりしてるみたいですよ。星野源くんがすすめてるんですから。彼だって仕事でね、疲れて。たぶん『テッド・ラッソ』に癒されてるんじゃないでしょうか?

(日比麻音子)いろんな人とね、向き合わなきゃいけない人だからこそ、響くところがたくさんあるんだと思います。『テッド・ラッソ』は。

(宇多丸)あの、騙されたと思ってちょっと見てみてください。『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』、3シーズンございますので。Apple TV+で見られますと話でした! 日比さん、完走お疲れ様でした。

(日比麻音子)はい。ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

星野源 ドラマ『テッド・ラッソ』が一生の作品になった話
星野源さんが2023年6月13日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で最終回を見終えたドラマ『テッド・ラッソ』についてトーク。自身にとって一生の作品となったと話していました。

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