丸屋九兵衛と宇多丸 Pファンクを語る

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丸屋九兵衛さんがTBSラジオ『タマフル』でPファンクを特集。宇多丸さんとPファンクについてたっぷりと語り合っていました。


(宇多丸)今夜の特集は、こちら! 丸屋九兵衛プレゼンツ みんな大好きPファンク特集!



(宇多丸)さっそく今夜のゲストをお呼びいたしましょう。音楽サイト『bmr』編集長、丸屋九兵衛さんです。

(丸屋九兵衛)こんばんは。お久しぶりでございます。よろしくお願いします。

(宇多丸)はい。ということで丸屋九兵衛さん。音楽評論家、編集者、ラジオDJとしても活躍。ブラックミュージック専門誌『bmr』編集部を経て、現在は音楽情報サイト『bmr』の編集長。以前は『ストレイト・アウタ・コンプトン』特集で来ていただきました。『ストレイト・アウタ・コンプトン』の言い回しの解説をさらに詳しくされた本も……

(丸屋九兵衛)タイトルがむっちゃ長い、『丸屋九兵衛が選ぶ、ストレイト・アウタ・コンプトンの決めゼリフ』でしたね。


(宇多丸)あれ、でもすっごいよかったです。さらに決定版的な『ストレイト・アウタ・コンプトン』のサブテキストというか。僕も全然わかっていなかったこと、いっぱいあったし。さすがでございます。

(丸屋九兵衛)いえいえ、ありがとうございます。

(宇多丸)中でね、この特集をした時の私がね、ジェリー・ヘラーの顔が似ていないって(笑)。

(丸屋九兵衛)ジェリー・ヘラー問題を語っているうちに、(時間が)なくなっちゃいましたからね。

(宇多丸)ああ、そうですね。

(丸屋九兵衛)で、最終的に「やっぱりジェリー・ヘラーはジアマッティっていう顔じゃないよな」っていう……


(宇多丸)ポール・ジアマッティが似ていないっていう。俺が「ジェリー・ヘラーの顔とか、どうでもええわ!」って(笑)。「いや、どうでもよくないですよ!」っていう。そのやり取りがちゃんとその本にも載っています。ぜひ、『ストレイト・アウタ・コンプトン』自体が映画としても素晴らしいですし、副読本としておすすめでございます。で、今回はなんとですね、Pファンクということで。

(丸屋九兵衛)そうなんですよ。

(宇多丸)みんな大好きPファンク特集とか言ってますけども……

(丸屋九兵衛)本当にみんな大好きなのか?っていうことをまずね。

(宇多丸)これ、反語、反語。反語的意味ですよ。ただ、Pファンクね。それこそ僕とかはブラックミュージック……そこれそソウルミュージック研究会に(大学時代に)いたぐらいですからわかりますけど。どうなんでしょうね? 一般的にどのぐらい伝わっているのか、いないのか? それにPファンク特集って、僕自身、「えっ、ずいぶんデカく出るね?」っていうか(笑)。そこまで、この時間で把握できるのか?っていうことで。まずはなぜ、このタイミングでPファンク特集なのか? といったあたり。

(丸屋九兵衛)まずは、本国で予期せぬベストセラーを記録したジョージ・クリントン自伝があるわけです。

(宇多丸)ジョージ・クリントンというのは……

(丸屋九兵衛)Pファンクの親玉です。その人が2014年に出した自伝がついに邦訳となって発売されたと。で、その自伝はアメリカでは予期せぬベストセラーということで、ニューヨークタイムズのブックレビューで「本年度の音楽系書籍のベストのひとつ」とまで言われたと。あのニューヨークタイムズでという。

(宇多丸)へー! その「予期せぬ」っていうのはやっぱりアメリカで……もちろんね、過去の音楽ジャンルでもあるし、ジョージ・クリントンの自伝とかって、ここまで売れると思わなかったと?

(丸屋九兵衛)っていうことだと思うんですよ。それが、今年になって邦訳が。

(宇多丸)面白いタイトルがついているじゃないですか。

(丸屋九兵衛)『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ) バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』。「自伝」と書いて「サーガ」と読めという、なかなか無茶な注文ですけどね。

(宇多丸)(笑)。長いですね! この長いタイトルからもみなさん、なんとなく想像はついているでしょうが、監修は丸屋九兵衛ということですね(笑)。まあ、素晴らしい。拝読しました。めちゃめちゃ面白かったですよ。もう、こんな波乱万丈なというかね。ちょっと、どこまでが本当なのか? という……

『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝』


(丸屋九兵衛)そうそう。だから若干眉唾もののエピソードもないわけじゃない。

(宇多丸)後ほど、そのあたりの話もうかがっていこうと思いますが。で、まあとりあえずジョージ・クリントンの自伝が。

(丸屋九兵衛)自伝が話題になって。その自伝がやっと日本でも出たと。

(宇多丸)まず、そのタイミングだと。さらに?

(丸屋九兵衛)で、それを引っさげて……「引っさげて」っていうのもアレですが(笑)。自伝を引っさげて、11月にはまたジョージ・クリントンの来日公演が昨年に続いてあると。

(宇多丸)でも、この自伝を読むとやっぱりPファンク、なんか機会があれば。僕、2002年とかのFUJI ROCKで見たのが最後なんで。やっぱり行きたくなりますね。

(丸屋九兵衛)なんかね、最近調子いいんですよ。本当に。

(宇多丸)ああ、そう? ジョージ・クリントンが?

(丸屋九兵衛)ステージでも。

(宇多丸)ああ、なんか丸屋さんの文章の中でも、あとがきでも出てきますけども。前に会った時よりも若返っているなんて……

(丸屋九兵衛)そうなんですよ。

(宇多丸)これは、やっぱりあれですかね? 最近、自伝なんかも調子いいしっていう?

(丸屋九兵衛)あとはまあ、自伝の内容に触れちゃいますけども。ドラッグを止めたんですね。長年、30年ぐらいずーっと浸りきりだったクラックを……

(宇多丸)しかも結構ハードにクラックなんかやっていてね。よく身体、壊さなかったなっていう。

(丸屋九兵衛)逆に、よくあんなに太ってられたなっていう。

(宇多丸)おかしいでしょ?(笑)。

(丸屋九兵衛)普通、クラックやったらボロボロに痩せるでしょ? それこそ『ニュー・ジャック・シティ』の時のクリス・ロックみたいにボロボロに痩せるでしょ? なぜ、それで136キロまでいけたのか?っていう。

(宇多丸)だからもともとその調子だったところが、もうドラッグを止めたら、「あれ? 調子いいぞ!」みたいな感じになっちゃって。

(丸屋九兵衛)で、ライブもだいぶいいんですよ。だから、この10数年でいちばんいいかもしれない。

(宇多丸)あ、本当に? じゃあそういう意味でもライブも見どきでもあるしという。

(丸屋九兵衛)それに加えて、「クリントンが元気になると、クリントンがホワイトハウス入りする」というジンクスがあり。つまり、ジョージ・クリントンが復活すると、クリントン姓を名乗るものが大統領になるという。

(宇多丸)前の、旦那の方の(ビル・)クリントンがなった時も?

(丸屋九兵衛)前のあれも90年前後のジョージ・クリントン復活期を経て、いとこのビル・クリントンが大統領になり。で、その時にジョージ・クリントンがね、残したコメントというのが、「アメリカの大統領というものに本当の意味で権力があるとは思っていないから、クリントン家の名に恥じない程度にがんばればいい」っていう(笑)。

(宇多丸)(笑)。上から目線!

(丸屋九兵衛)もう完全に上から目線(笑)。

(宇多丸)まさかの上から目線で。で、まあね、ヒラリー・クリントンもね。

(丸屋九兵衛)大統領にならんとせん勢いですよ。

(宇多丸)なるほど、なるほど。まあそれはちょっとこじつけにしてもですよ。

(丸屋九兵衛)まあ現在のアメリカのエンタメおよび政治ともかかわりがあるんじゃないか? という。

(宇多丸)まあ、でもここからね、お話をうかがっていくことでたぶんみなさんもわかると思いますが、本当に現在の音楽シーンにも大きな影響を与えた……前にね、ジェームズ・ブラウン特集なんていうのがありましたけど。まあJBはね、もちろん影響度っていうのは話デカすぎですけども。ループミュージック全体っていうことですから。

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(丸屋九兵衛)まあ、そうですよね。

(宇多丸)Pファンクがどのような影響を与えたのか? というあたり、うかがっていきたいんですが。まず、そのPファンクとは何ぞや?

(丸屋九兵衛)そうなんです。これね、Pファンクってジャンルでもあり、クルーでもあり、ジョージ・クリントンが指揮するミュージシャン集団の俗称、通称、総称ですね。で、主にパーラメント(Parliament)というバンドと、あとファンカデリック(Funkadelic)というこの二大バンドが中心なんですけど、ややこしいことにこの二大バンドがメンバーがほぼ同一であると。で、そこにブーツィー・コリンズ率いるブーツィーズ・ラバー・バンドとか、あとはソロ展開もあり、なおかつグルーピーから発展したんではないか? というんですが、某恐怖映画のタイトルをもじったドクター・ファンケンシュタインの花嫁たちというグループがあったりとか。

(宇多丸)うん。

(丸屋九兵衛)そういう、一部のメンバーがかぶっているにもかかわらず、たぶん総勢50人ぐらいいるっていう。

(宇多丸)あと、プロデュースした人も、それこぞザップとかまで含めれば、裾野がもうどんどん広がっていく。

(丸屋九兵衛)たぶん3桁は間違いないっていう、そういう集団でありまして。これがまあ、根強い人気とダイハードなファンがいますでしょ?

(宇多丸)そうですね。しかも、その根強さっていうのが後ほど出てくるかもしれませんけど、特に西海岸ヒップホップの連中はね、もう精神的なところからまんま受け継いでいるっていうか。

(丸屋九兵衛)まさに。今日、だって士郎さん、デジタル・アンダーグラウンドTシャツで。

(宇多丸)ええ! これはPファンク特集となってね、いちばん僕が持っているTシャツの中でPファンク色が強いものとなると、こうなってきますよ!

(丸屋九兵衛)はっきり、「Humpty Hump」って。

(宇多丸)はっきり書いてありますね。デジタル・アンダーグラウンドというグループ。これ、オークランドのグループですけども。

(丸屋九兵衛)このデジタル・アンダーグラウンドが出てきた時にジョージ・クリントンが言っていたのは、「Pファンクをサンプリングするやつは多いけども、Pファンクのキャラクターまでサンプリングしたのはデジタル・アンダーグラウンドが初めてだ」と。

(宇多丸)要は架空のストーリーとかキャラクターを語っていく。ここがPファンクの醍醐味なわけですよね。

(丸屋九兵衛)そうなんですよね。やはり、ちょっと私も考えたんですけど。いま、手元に持ってきた『BLUES&SOUL RECORDS増刊号 No.1ヒットで知るソウルの歩み 1970年代編』っていう本があるわけですよ。で、表紙がブーツィー・コリンズだったりするんですけど、その割にはPファンク系のナンバーワンヒットはほとんどないっていう。


(宇多丸)そういう、だからポップチャートに入ってヒットとか、そういうことじゃないんですね。

(丸屋九兵衛)でもこれ、ソウルチャート。ソウルチャートでもやっぱりナンバーワンヒットはあんまりないんですよ。

(宇多丸)まあ、これから曲を聞けばみなさんわかると思いますけども。長いし……

(丸屋九兵衛)まあ、最長15分ぐらいですかね。

(宇多丸)長いし、コテコテでグチョグチョだしっていう。

(丸屋九兵衛)で、展開がほぼないというね。で、そういうヒット実績は少ないのに、日本はもちろんUKでもフランスでもドイツでも、マニアが多いのはなんでやろ?って考えるとやっぱり……

(宇多丸)若い層もいまだにファンが多いし。

(丸屋九兵衛)そうなんですよ。やっぱりストーリー性がね、宇多丸師匠がおっしゃったようにコンセプトアルバムを1、2枚出すんじゃなくて、全盛期を通じてずーっと風刺的なSFストーリーをアルバムで展開し続けた、たぶん世界史上唯一のグループなんじゃないか? と。

(宇多丸)この「SF的」っていうのがね、黒人的なファンクネスとSFイズムの融合みたいなところもありますね。

(丸屋九兵衛)この自伝に書いてありますけども、「コンセプトはゲットーのスター・トレック」と言い切りましたからね。で、まさに『スター・トレック』が昨日から今日にかけて、まさに50回目の誕生日。

(宇多丸)そのタイミングもあってのこのPファンク特集。

(丸屋九兵衛)左様でございます。

(宇多丸)丸屋さんの中では、惑星直列が起きているというね。まあ、アレな人特有の思考法というね(笑)。

(丸屋九兵衛)「アレ」ってなんです?(笑)。で、まあそのSF的なストーリーとしては、まずは『Mothership Connection』というアルバムでスターチャイルドという主人公が登場し、その次のアルバムでドクター・ファンケンシュタインという正義の黒幕が登場し。で、その次のアルバムでは悪玉であるサー・ノーズ……士郎さんもやりました? 喉を震わせて「I am Sir Nose」って……



(宇多丸)やってないですけど(笑)。

(丸屋九兵衛)やってない?

(宇多丸)まあ、サー・ノーズっていう鼻がデカいね。

(丸屋九兵衛)だから、扇風機の前で歌うと全部ザップになるとか、あるじゃないですか。

(宇多丸)まあまあ、僕はどっちかっていうとブーツィーの「ヤーバダバッ♪」って。そっちをやってましたから。

(丸屋九兵衛)なるほど。とか、ミスター・ウィグルズとか、ランプ・オブ・スティールスキンとかいろんなキャラクターが出てくる。

(宇多丸)キャラクターもあるし、それこそバップ・ガンというSFガジェットも出てくるし。というぐらいに、そのSF的世界観とストーリーが……そんなにでも、きっちりストーリーをアルバム通して語っているということろまでは僕もわかっていなかったです。

(丸屋九兵衛)まあ、でも言っちゃなんなんですけどファンクバンドなんで。たまに突然ラブストーリーとかね。

(宇多丸)関係ねえだろ!っていう(笑)。

(丸屋九兵衛)でも、たとえばお母さんに捧げる曲とかがあっても、やっぱり「俺のおふくろを見かけたら、俺は元気でファンクしてるって伝えてくれよ」っていう。やっぱりファンクがほとんど宗教のごとき扱いになって、お母さんバラードが成立しているっていう。

(宇多丸)とにかく、だからスケールが、曲で伝えようとしている曲そのものの長さもそうだし、人数もそうだし、歌詞の世界観もそうだし。スケールがとにかくデカいっていうか。

(丸屋九兵衛)デカいところになぜか、その宇宙的な宗教としてのファンクを崇め奉るみたいなところがありますよね。

(宇多丸)うんうんうん。で、いろんなキャラクターも出てきて、それがまあ、一種バカバカしく、コミック的な……

(丸屋九兵衛)本当にバカバカしいです。戦いのレベルはかつてのタケちゃんマンとブラックデビル並にひどいです。

(宇多丸)あ、でもそのノリですね! タケちゃんマンとブラックデビルのその感じですね。

(丸屋九兵衛)あのひどさですね。

(宇多丸)で、実際にステージングとかも宇宙船が出てきて。

(丸屋九兵衛)本気で宇宙船をステージに着陸させた唯一のグループと言われてますけども。

(宇多丸)本当に円盤型ですもんね。

(丸屋九兵衛)いや、ステージに着陸したのはむしろアポロの月面着陸船に似ている感じですかね。だから、ジャケットとぜんぜんちゃうやん!っていう突っ込みがみんなの心の中で起こらなかったのか?っていうのがすごく不思議で。


※動画9:10あたりで宇宙船が着陸します

(宇多丸)まあ、でもとにかく宇宙船を着陸させて。で、みんなそれぞれステージングもいろんな扮装をしてやったりとか。

(丸屋九兵衛)まあ、ひどかったですよね。格好はね。

(宇多丸)どんな扮装の人がいるんですか?

(丸屋九兵衛)扮装に関してはピラミッド型の人とか……

(宇多丸)(笑)

(丸屋九兵衛)あとはまあ、オムツ1枚の人。あと、花嫁姿の黒人男性……


(宇多丸)(笑)

(丸屋九兵衛)まあでも、あれ以来、黒人男性が花嫁姿をするのって定番になりましたね。

(宇多丸)なんかフェチとして感じられる。

(丸屋九兵衛)その後に、キャメオのラリー・ブラックモンがやり、後にはデニス・ロッドマンが。

(宇多丸)ああ、たしかに!

(丸屋九兵衛)やりましたでしょ? あれがまた、妙に美しかった。


(宇多丸)まあ、要はちょっと傾奇者イズムなわけですよね。

(丸屋九兵衛)ああ、すごく傾奇者ですね。ただね、こういう変なことをやっていたんですけど、Pファンクってほら、90年前後に日本で再評価されたんですけど。

(宇多丸)ちなみに改めて言っておくと、全盛期は何年ごろなんですか?

(丸屋九兵衛)75年から80年っていうところですかね。

(宇多丸)意外と短いんだね。

(丸屋九兵衛)まあまあ5年ですよ、やっぱり。

(宇多丸)まあ、旬の音楽のあれっていうのはそのぐらいでしょう。で、90年代ぐらいに日本でも再評価を。

(丸屋九兵衛)されたんですけど。

(宇多丸)逆に言えば、その前って本当にマニアしか聞いてない世界?

(丸屋九兵衛)80年代……要するに70年代の日本の音楽評論界っていうのはあくまでもソウルだったんですね。

(宇多丸)歌ね。「しみるわー!」って。甘茶ソウルみたいなことですもんね。「辛抱たまらん!」っていうね。

(丸屋九兵衛)だから、こんな変な格好をしたおっさんたちのいるバンドっていうのは謎だったんですよ。

(宇多丸)しかもね、歌もないところが延々続いてね。

(丸屋九兵衛)そう。曲が15分もあるし。

(宇多丸)早稲田のソウルミュージック研究会に行った時に最初に叩きこまれたのは、「士郎、なんといってもブラックミュージックはPファンクに限る!」って(笑)。

(丸屋九兵衛)(笑)。それもまた、偏見がすごいですね。

(宇多丸)「とにかくPファンクがわからないようでは……」っていう感じで、まず叩きこまれたのがPファンクイズムだったんですね。

(丸屋九兵衛)素晴らしいですね。

(宇多丸)さあ、ということで、再評価時期もあったんだけど……

(丸屋九兵衛)だけどあの時期ってほら、日本の音楽界は、まず評論家たちの英語力がまだまだっていうこともあって……

(宇多丸)英語力っていうか、これヒップホップ評論もそうなんですけど、そもそも歌詞を理解しようっていう気がないで聞いている人が多かった気がするんですよ。

(丸屋九兵衛)そう。まさにそれを言おうと思ったんですけど。士郎さんもライターを始めた頃に、周りのおっさんたちがあまりにもヒップホップがわかってなくて、閉口したでしょ?

(宇多丸)そうですね、そうですね。

(丸屋九兵衛)あれが、もっとおっさんのための音楽であるはずのPファンクでも90年ぐらいに起こっていたっていう。

(宇多丸)じゃあ、要するにそんなこと言ってないのに、なんかそういう風に書くとか?

(丸屋九兵衛)ブーツィーのね、『Bootzilla』っていう曲、あるじゃないですか。で、まさにいまこそ理解しなくちゃ行けないんですけど。あれって「ブーツィー(Bootsy)」プラス「ゴジラ(Godzilla)」なわけですよ。



(宇多丸)うんうんうん。

(丸屋九兵衛)だから、怪獣としてのブーツィーなのに、あれを「ブーツィー・ランド(ブーツィー国)」だと。もう、澁澤龍彦かと。ドラコニアかと。

(宇多丸)それはそれでコンセプトとしてなさそうでもないから面倒くさいけど……

(丸屋九兵衛)ないんだけど、これは……だって、日本が生んだゴジラをわざわざ合体させてくれているのに、それを理解し得ない日本とはなんなのか? と。

(宇多丸)なるほど、なるほど。でも、ちょいちょいそういうことはあったでしょうね。BDPの『Bridge is Over』がね、「橋の終わるところ」って……(笑)。「と、センチメンタルに歌った」っていう評を見て、僕は笑い死にするかと思ったんですけどね。



(丸屋九兵衛)(爆笑)

(宇多丸)いや、でもすごい有名な人が書いた文なんですよ。それは。まあいいや、それは。でもそんな感じで誤解も多かったと。

(丸屋九兵衛)多かったんですよ。

(宇多丸)そういう意味では、その後ね、Pファンクのイズムが特に西海岸。Gファンク以降のラッパーたちとか、割とそういう理解度は深まったんですかね? 今は。

(丸屋九兵衛)だと、思います。なんと言っても『Let Me Ride』でドクター・ドレーが「マザーシップをインパラに置き換えて乗せてくれよ」って言ったのは、あれはなかなか美しかったと思いますね。



(宇多丸)なるほど、なるほど。それをだからもうちょっと自分たちの生活感みたいなのに引き寄せて。

(丸屋九兵衛)引き寄せて。残念ながらジョージ・クリントンに言わせると、「デジタル・アンダーグラウンドと違って音楽をサンプリングしただけだ」っていうことになるんでしょうけど。

(宇多丸)でも、ヒップホップに関してこの自伝だと、すっごいジョージ・クリントンは完全に支持っていうか。完全に支持だし、むちゃくちゃ研究しまくって。「ボム・スクワッドみたいなサウンドが作りたくって……」って。「自分たちの曲をサンプルして作り上げた新しい世代のグループみたいな音が作りたくてやったんだけど、そのスキルが自分にはなかった」って(笑)。

(丸屋九兵衛)だけど、面白いのは「ドクター・ドレ―が『Fuck The Police』事件の時にドレーが震えていた」って(笑)。

(宇多丸)「FBIに目をつけられて震え上がっていた」って(笑)。

(丸屋九兵衛)やっぱここでドレーのヘタレ伝説がまた強化されてしまうという(笑)。

(宇多丸)でも、アイス・キューブはイケイケで……みたいな話も出てきますもんね。

(丸屋九兵衛)あと、ジョージ・クリントンが見たコンプトンって、「これって郊外の街なんじゃないの?」っていう。

(宇多丸)「全然ゲットーじゃないんですけど」みたいな。

(丸屋九兵衛)まあ、我々もコンプトンの風景を見て、「これって洒落てるよな」って。「板橋区より、だいぶいいよな」っていう(笑)。

(宇多丸)(笑)。面白いね。そのへんのさ、彼一流の、ジョージ・クリントンしか言えないあれが……

(丸屋九兵衛)これは他の人が言ったら怒られるでしょうね。

(宇多丸)面白いですね。ということで、ちょっとここらで曲を聞きましょうよ。さっきからなんなんだ?っていうことになってしまうと思うから。

(丸屋九兵衛)まあ、こってり濃い目のPファンクで、なおかつちゃんとある程度ヒットした曲っていうと、これしかないかもしれないなということで。パーラメントの『Flash Light』。

Parliament『Flash Light』



(宇多丸)はい。ということで、『Flash Light』というパーラメントの代表曲にしてPファンクの中でもいちばん有名な曲。

(丸屋九兵衛)の、ひとつですね。

(宇多丸)もう、「あっ!」って思った人も結構いるんじゃないですかね。サンプリングソースとして本当にこの1曲の中に何個詰まっているんだ?っていうぐらい。山ほど、たぶん枚挙にいとまがないというか。ちょっと挙げてられないぐらいだと思いますけども。

(丸屋九兵衛)だけどこれは、さっき言ったタケちゃんマンの戦いのような戦いの描写なんですよね。

(宇多丸)ああー、レーザー光線が行き交っているような。

(丸屋九兵衛)で、サー・ノーズがいままさに就寝しよう、寝ようと思っているところに、懐中電灯で嫌がらせをすると。だから、「フラッシュライト」。

(宇多丸)客も、それでフラッシュライトで照らしていると。サー・ノーズっていうのは要は、野暮天っていうか。「ファンクとか全然とんでもないし、俺は踊らないし……」っていうやつなんですよね。なんだけど、その野暮天キャラがめちゃ人気が出ちゃって。



(丸屋九兵衛)かっこいいんですよ! だからスヌープもサー・ノーズ化してますでしょ?

(宇多丸)だから、サー・ノーズを舞台上で曲の流れ上、やっつけようとすると客からブーイングが起きたとか。あの話とかすっごい面白いですよね(笑)。

(丸屋九兵衛)(笑)

(宇多丸)最高でございます。ということで、後ほどまたね、ジョージ・クリントンとはこんな人とかも含めて、Pファンクについてさらにいろんなお話をうかがっていきたいと思います。

(CM明け)



(宇多丸)はい。ブーツィーの雄叫びから始まりました。

(丸屋九兵衛)本家ブーツィーの雄叫びです。

(宇多丸)やっぱ全然違いますね(笑)。時刻は11時34分に向かっているところです。『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』、今夜はみんな大好きPファンク特集をお送りしております。教えてくれるのは音楽サイト『bmr』編集長で『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ) バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』の監修も務めた丸屋九兵衛さんです。よろしくお願いします。

(丸屋九兵衛)よろしくお願いします。

(宇多丸)ということで先ほどからね、名前が何度も出ていますPファンクの中心人物。ある意味、この男のビジョンこそがPファンクというジョージ・クリントンなんですが、この人についてもうちょっと詳しくうかがっていきたいんですが。いろんな、大所帯グループじゃないですか。パーラメントにしろ、ファンカデリックにしろ。で、いろんな腕利きミュージシャン。それこそブーツィー・コリンズ。さっきの雄叫びの。ブーツィーは腕利きベーシスト。

(丸屋九兵衛)まあ、16、7にしてね、JBのバックを務めていたという。

(宇多丸)ジェームズ・ブラウンのバックですから。それこそ、ジェームズ・ブラウン特集の時も見事なベースラインでグイグイ引き込まれる素晴らしいミュージシャン。他にもいっぱいいるわけですよね。で、じゃあ肝心のジョージ・クリントン先生は、なにをしている人なんですか? という。

(丸屋九兵衛)ねえ。

(宇多丸)ねえ(笑)。

(丸屋九兵衛)まず、歌が下手なんですよね。

(宇多丸)もともと歌手なんですよね?

(丸屋九兵衛)もともと、The Parliamentsというドゥーワップグループをやっていたぐらいで。歌が歌いたくてああいうことを始めたんですけど、そもそも歌が上手くない。で、コーラス理論をわかっていないので、ハーモニーがつけられない。

(宇多丸)(笑)。そうなんすか?

(丸屋九兵衛)5人いるんだけど、バリトンベースとそれ以外しかないんです。

(宇多丸)雑な(笑)。「上と下」みたいな。

(丸屋九兵衛)上と下しかない。だから、真ん中と下しかないみたいな感じですね。

(宇多丸)はいはい。じゃあ、歌はダメ。

(丸屋九兵衛)ダメ。で、楽器が弾けない。で、まず間違いなく楽譜は書けない。まあ、それを言ったらプリンスだって楽譜は書けないし読めないからいいんですけども。

(宇多丸)おおー。まあ、全然ね、ミュージシャンでそれはいるんだけれども、でも歌えないし、楽器弾けないし、曲作りも怪しい?

(丸屋九兵衛)いや、曲はできます。

(宇多丸)曲はどうやって作っているんですか?

(丸屋九兵衛)口ずさむ。

(宇多丸)「ラララ、イラララ、ララララ……♪」って。あとフックのね、「すげーフックができたぜ! バウバウワウ、イピエ、イピエ……♪」って。

(丸屋九兵衛)で、歌詞は……「よし、今度はサー・ノーズを水攻めにするぞ。これで行こう! ほら、いま『ジョーズ』が流行っているし!」って。

(宇多丸)「『Aqua Boogie』だ!」っつって(笑)。



(丸屋九兵衛)そう。で、「サイコ、アルファ、ディスコ、ベータ、バイオ、アクア、ドゥループだ! (Psychoalphadiscobetabioaquadoloop)」とか。そう。単語を作る能力はありますね。

(宇多丸)造語。

(丸屋九兵衛)「Promentalshitback Wash Psychosis Squad」とか。

(宇多丸)すごい! よくスラスラ出ますね。

(丸屋九兵衛)あ、これはジョージ・クリントンに褒められました。「よくそれを覚えたね。スーパー○×△※×△○……(聞き取れず)とか」って(笑)。

(宇多丸)(笑)。まあ、その長くて言いづらいこともギャグみたいな感じのネーミングで。でも、そういうのはできる。とにかくコンセプターであるけども……

(丸屋九兵衛)まあ、本当に手に一芸がなにかあるとしたら、それと、ストレートパーマぐらい?

(宇多丸)えっ?

(丸屋九兵衛)ああ、元理髪師、元バーバーなんで。だから、「バーバーショップから」っていうのは本当にバーバーなんで。

(宇多丸)まあ、黒人コミュニティーにおけるバーバーショップっていうのは本当に……

(丸屋九兵衛)教会か、バーバーショップかっていう。

(宇多丸)人々が集って。

(丸屋九兵衛)コミュニティーの中心部。

(宇多丸)それはわかるんだけど、そのバーバーショップで……「ヘアのスタイリングはいまだにできる」なんて言ってますけども。ヘアスタイリングのスキルはあると。

(丸屋九兵衛)そうそう。「ニュージャージーで最も危険なストレートパーマ屋」と言われていたと。

(宇多丸)危険(笑)。

(丸屋九兵衛)いや、「危険なぐらいまっすぐ」っていう。ギリギリまでまっすぐ。

(宇多丸)ギューッと引っ張っちゃう。

(丸屋九兵衛)だからまっすぐにしすぎて、たとえばファーストの頃のトニ・ブラクストンなんかはあれ、たぶん切れたんでしょ。髪の毛。だから、短髪だったっていう……


(宇多丸)(笑)

(丸屋九兵衛)あれはクリントンがやったわけじゃないですけど。

(宇多丸)話が拡散しすぎてあれですけど(笑)。

(丸屋九兵衛)で、結論を言うと、ジョージ・クリントンとは『項羽と劉邦』における劉邦なんじゃないか? と。


(宇多丸)はい。三国志たとえですね、これね。

(丸屋九兵衛)いや、三国志より400年前ですが。

(宇多丸)あ、項羽と劉邦か。そうか。

(丸屋九兵衛)前漢を作る話ですね。だから、項羽っていうのはなんでもできるんですよ。戦ってよし、指揮してよし。個人戦もできるし、戦場においていろいろ指揮する能力もあるっていう。

(宇多丸)要は本当に尊敬されて当然のオールマイティープレイヤーと。

(丸屋九兵衛)プリンスみたいなもんですね。だけど、ジョージ・クリントンは基本的に一芸はなにもないんですよ。だけど、みんなを指揮する能力っていうか、みんながつい、慕ってしまう不思議な人徳があるがゆえに、いい人材が集まってくる。

(宇多丸)ここぞという時での、演説力とか。

(丸屋九兵衛)そうそうそう! まさに劉邦ですよね。まあいま、ちょっとファンタジー界では『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』っていう明らかに『項羽と劉邦』を模したファンタジーがありまして。

(宇多丸)へー。それはだから対照的な?

(丸屋九兵衛)対照的な2人のヒーローが暴政を敷いていた帝国を倒すっていう。これは秦の始皇帝ですね。っていうファンタジーがありまして、ちょっとしたファンタジー界で静かな『項羽と劉邦』ブームが。


(宇多丸)そうなんだ。

(丸屋九兵衛)いま、この時こそジョージ・クリントンを見直したいと思って私は……

(宇多丸)劉邦イズムとして考えるとわかりやすいよと。まあ要は、とかく「なにもできないじゃないか!」みたいなことを簡単にいう人が多いから。日本人は専門職が好きだから、こういう人のことを理解できないっていうのはあるけど。

(丸屋九兵衛)とにかく、なんか不思議な人徳ですよね。たぶん金遣いも荒いし、パッと見、人格者でも人徳者でもないんだけど……っていうところも含めて、劉邦そっくりだな!っていう。

(宇多丸)あと、やっぱりトータルでビジョンっていうか。やっぱりPファンクのいろんな作品でも、ジョージ・クリントンが関わったのとそうでないのとだと、やっぱり違うでしょう?

(丸屋九兵衛)やっぱりね、最後まで詰めている感がありますよ。

(宇多丸)なんかね、他のは寂しいの。なんか。なんか。

(丸屋九兵衛)なにかが足りない。

(宇多丸)なんか、ちゃんとしすぎているのかわかんないけど。なーんか足りないんですよね。もうちょっと過剰な……

(丸屋九兵衛)ああ、過剰なんですよね。たぶん。

(宇多丸)なんですかね? だから、ステージとかを見るとわかるけど、ステージ上でとにかくゆさゆさこうやって……

(丸屋九兵衛)でもね、最近はもっと。更生してからは。

(宇多丸)クラックをやめてから。

(丸屋九兵衛)クラックをやめてから、かなりちゃんと動いてますよ。

(宇多丸)動いてる(笑)。でも、動いてるだけじゃダメでしょ(笑)。

(丸屋九兵衛)クラックをやっている頃よりも声が出ているから。

(宇多丸)ああー。じゃあ、コーラスとかはやっているけども、ということですかね。

(丸屋九兵衛)基本的にリード、取れないですからね。ほとんどね。

(宇多丸)でも、そう考えると不思議ですね。JBはもうシンガーとしても圧倒的だし。

(丸屋九兵衛)ただ、でもたとえばテンプテーションズで長年リーダーをやっていたのって、リードを取れないやつだったから。そういう、黒人ボーカルグループにおけるリーダーのあり方というのは、歌えないやつなのかもしれない。

(宇多丸)実はね、客観的に見る目があるのかもしれない。なるほど、なるほど。といったあたりでまた、Pファンクを1曲聞きましょうか。

(丸屋九兵衛)これだけね、ジョージ・クリントンは歌えない、歌えないって。だって、ネルソン・ジョージにジョージ・クリントンは「歌えないから」ってお墨付きをもらったぐらいの。

(宇多丸)言わなくてもわかっているわ!っていう感じですね。

(丸屋九兵衛)(笑)。だからそんなジョージ・クリントンのシンガーとしてのベストが出ている曲。ファンカデリック名義の『Holly Wants to Go to California』を聞いてください。

Funkadelic『Holly Wants to Go to California』



(宇多丸)はい。クリントンおじさんがいい湯加減でね、気持ちよさそうに歌っている。

(丸屋九兵衛)で、この朗らかに歌っている時の彼がシンガーとしてのベストであるという。

(宇多丸)うーん……まあでも、「ようやく俺、ソロで歌えてる!」みたいな感じがあるのかもしれないですけどね。後ろで歓声みたいなのが聞こえるけど、これはライブ?

(丸屋九兵衛)ライブ仕立てですね。

(宇多丸)仕立てか。まるで、客が退屈して騒いでいるように聞こえるあたりがすごいなっていう……

(丸屋九兵衛)まあね、さっき『Flash Light』っていうかっこいいもんを聞いた後で、これっていう……

(宇多丸)これ、だっておかしいですよ。Pファンク特集で1時間もないのに。『Flash Light』はわかりますけど。みなさん、これ、全然Pファンク的音楽像でもなんでもないですからね、これね(笑)。

(丸屋九兵衛)(笑)

(宇多丸)ジョージ・クリントンのね、気持ちいいところを聞いてもらったっていうだけのことですからね。まあまあ、こんな曲もあるということですね。で、ジョージ・クリントン、そんな感じでいろんなミュージシャンを束ねていく様みたいなのが今回の自伝(サーガ)に書いてあるわけですけど。これ、でもいろいろ面白いことが書いてあって。

(丸屋九兵衛)まあね、これ面白い話が500ページぐらい書いてありますからね。

(宇多丸)もう、しかもなんて言うの? 小話として完成されているのがめちゃめちゃいっぱい入っているみたいな感じで。「すべらんなー!」っていう感じじゃないですか。俺、びっくりしたのは『Get Off Your Ass And Jam』ってさ。「シット、ガッデーム! Get Off Your Ass And Jam♪」っていう。



(丸屋九兵衛)ねえ。

(宇多丸)あの曲のレコーディングの時にエディ・ヘイゼルっていうギタリストがいなくて。ギターほしいなっていうところに謎の白人男性がふらりとやって来て、「金がほしいから、25ドルくれればギター弾くよ」って。で、見事なギターソロを入れて去っていって、その男は誰だかわからないっていう。

(丸屋九兵衛)いまでもわからない。

(宇多丸)わからないっていう。クレジットを入れたいんだけど、もうその後どこに行ったかわからなくて……って、そんなこと、あり得る?

(丸屋九兵衛)っていうのと、それをちゃんと書いてあげちゃうジョージ・クリントンっていうね。

(宇多丸)そうですね。ある意味ね。だって、名乗り上げてね、「俺に金をよこせ!」っていう。

(丸屋九兵衛)っていうやつが100人や200人いてもおかしくはないですよ。

(宇多丸)本当ですよ、本当ですよ。

(丸屋九兵衛)これは『Get Off Your Ass And Jam』だからまだいいですけど。『Flash Light』でこんなことがあったら……

(宇多丸)ああっ、どえらい! どえらい!

(丸屋九兵衛)でしょう? 数万人出てくるじゃないですか。

(宇多丸)本当ですよね。とかね、こんな話とか。あと、この番組のファンの人が喜びそうな話で言うと、ツアー中に田舎道を車で移動中に……

(丸屋九兵衛)ねえ。ジョージ・クリントンは免許を持っていないっていうね。で、免許を持っていないジョージ・クリントンが寝てしまって、ハッて起きるとえらいところを走っていて。「お前、なんてところを走ってるんだよ?」って言っていたら……周りに死者が歩いていたと。

(宇多丸)ヨタヨタ周りを歩いていて。「ゾンビだ! 怖い!」って思って。したら、後にそれがジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の撮影中だとわかったっていうんだけど……本当かよ、それ!(笑)。そんなだって、普通の車が通りかかるところで、そんなのやっているわけないじゃないですか。

(丸屋九兵衛)だからね、これ、士郎さん。ほら、信頼できない語り手っていう……アンリライアブル・ナレーター(Unreliable Narrator)ね。日本だと、極端なところだと、『ドグラ・マグラ』ですかね?

(宇多丸)ああー、まあ、『羅生門』ですよね。『藪の中』。

(丸屋九兵衛)『藪の中』。a.k.a 映画の『羅生門』。だから『羅生門』エフェクトとしてね、ウィキペディアで項目があったりするぐらいですから。そういう、物語を語っている人物を信用していいのか? 問題。

(宇多丸)そこも込みでの……

(丸屋九兵衛)そう。面白さっていう。

(宇多丸)って言うと、聞こえはいいが……(笑)。

(丸屋九兵衛)いや、でもたとえばR.ケリーの自伝だって、ねえ。

(宇多丸)自分の都合の悪い話は書いていない。

(丸屋九兵衛)都合の悪い話。15才ぐらいの女の子シンガーのことは全く出てこない。

(宇多丸)それ、すごい話ですよね。アリーヤの話が出てこない。おかしな話ですよ。

(丸屋九兵衛)そう。っていう。でもね、都合の悪いところを隠しているというよりは……

(宇多丸)そんなことないよね。だってドラッグに耽溺している話も全部出てくるし、金のトラブルの話、めっちゃ出てくるじゃないですか。

(丸屋九兵衛)めっちゃ出てくる。だけど、本当にこれを全部信用していいのかどうかがわからない。

(宇多丸)なんかね、その盛り方が自分をきれいに見せるとか、よく見せるとか、削ぎ落としてこうじゃなくて、やっぱり盛る方なんですよ。

(丸屋九兵衛)で、面白くなるんだったら、嘘をついてもよいっていう。まあまあ、その哲学はよくわかる。

(宇多丸)でもさ、通りかかったところに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の撮影って、やっぱり嘘でも思いつかないから。やっぱりその近くに、「あっ、あれ撮影なんじゃね?」みたいなぐらいはあったのかもしれない。

(丸屋九兵衛)かもしれない。だけど、たとえば『Chocolate City』っていうアルバム、さっき一瞬かかった『Ride On』っていう曲が入っている『Chocolate City』っていうアルバムを1974年に出したことをいいことに、「私は40年前にオバマ大統領の出現を予言していたのじゃ!」みたいな(笑)。これ、ちょっと盛り方が変じゃない?って(笑)。

(宇多丸)順番、なんかおかしいだろ?っていうのはありますけどね。ただ、ビッグマウスぶりっていうかね、そこも合っていますしね。「彼が言うなら許せるか」っていう。

(丸屋九兵衛)許せるんだけど、なんか2010年に会った時に聞いた話とだいぶ違うなっていう……

(宇多丸)話が変わっている。あと、まさに丸屋さんがインタビューした時には「知らない」って言っていた……

(丸屋九兵衛)そう。「サミュエル・R・ディレイニー? なんか聞いたことがあるけど……」みたいなことを言っていたんだけど、文章の中だと、「サミュエル・R・ディレイニーのようなSFが……」って書いてあって。

(宇多丸)SF作家ですね。

(丸屋九兵衛)そうです。黒人のSF作家で、60年代にデビューした。

(宇多丸)それを、要するに丸屋さんが質問で出した時には「知らない」って言っていたのに、この自伝では……

(丸屋九兵衛)ばっちり書いてある。

(宇多丸)要は、「インスピレーションを受けました」ぐらいのことが書いてあると。だから、ひょっとしたら……

(丸屋九兵衛)あっ、ワシがインスパイアした?

(宇多丸)そうですよ。丸屋さんがジョージ・クリントンのインスパイア元のひとつになったわけですよ!

(丸屋九兵衛)ああー、なったわけですか。

(宇多丸)だからPファンクの一部ですよ、あなたは。

(丸屋九兵衛)(笑)。それを断言した宇多丸さんもだいぶ盛ってますね。

(宇多丸)イズムに乗っていますね。はい。このね、大らかな感じがいいですよね。ということで、もうちょっと曲をかけましょう。もうちょっとPファンクっぽい曲を。

(丸屋九兵衛)じゃあ、ちゃんと宇宙をテーマに、UFO……ここで言うPファンク用語の「UFO」っていうのは「Universal Funk Object」なんですが。「Universal Funk Object」なのに、アンファンキーだと。そんなかわいそうなUFOの話を歌った、『Unfunky UFO』。

Parliament『Unfunky UFO』



(宇多丸)はい。『Unfunky UFO』。だから、そういうSF的ストーリーとユーモアとみたいなのが常にひねった感じで語られているというか。

(丸屋九兵衛)だから、「お前にはこのファンクなしで死につつある、ファンクレスで死につつある惑星を救う素質がある!」って。

(宇多丸)(笑)。「素質がある」って言われても、なんの話をしているんだ?っていう(笑)。

(丸屋九兵衛)っていう歌ですわね。

(宇多丸)でも、なんかこう、歌ってやっぱりなにを歌ってもいいし、どんな世界を広げてもいいし。なんかそういうところで、やっぱり勇気が出ますけどね。Pファンクは。なんだっていいんだ!っていう感じで。

(丸屋九兵衛)なんだっていいんだ!っていう気はしますよね。

(宇多丸)ということで、最後になんですが丸屋九兵衛さん。先ほどね、驚くべきジョージ・クリントンに影響を与えた男という認定もされましたが。丸屋さん自身、Pファンクから得たものというか。影響というか。どんな感じなんでしょうか?

(丸屋九兵衛)ああー、そうですね。さっきも言及してくださったように映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の字幕監修なんかもやったりましたけど、基本的に英語はPファンクで学びました。

(宇多丸)ほう!

(丸屋九兵衛)Pファンクってラップより遅いが、歌でない語りの部分がやたらと多いじゃないですか。「Micro biologically speaking, When I start churnin’, burnin’ and turnin’」みたいな。



(宇多丸)おおー、すごいなー!

(丸屋九兵衛)あれとか、さっき言った「Promentalshitback Wash Psychosis Squad」とか。

(宇多丸)変な映画ばっかり覚えるんじゃないですか?

(丸屋九兵衛)それで、ラテン語とかギリシャ語系の接尾辞、接頭辞とかを覚えていって、いまに至ると。

(宇多丸)へー。英語はPファンクで学んだ。

(丸屋九兵衛)本当、Pファンクのおかげですね。英語塾に行ったわけでもなんでもないので。とか、あとはそれが高じて90年前後はコスプレをしていたわけですよ。

(宇多丸)Pファンクの?

(丸屋九兵衛)Pファンク系の。まあ、同時に『指輪物語』系のコスプレもやっていましたけど。同時進行で。

(宇多丸)うーん……困った人だ。

(丸屋九兵衛)(笑)。で、Pファンク系のスパンコールコスプレなんかで会場に行っていたら、ミュージックマガジンの人に声をかけられたっていう。

(宇多丸)えっ? 「そこのPファンクコスプレの君。うちで原稿を書かないかい?」って?

(丸屋九兵衛)そうは言われなかったですけど。「君、すごいね」ぐらいだったんですよ。で、そのちょっと後に、ブーツィー・コリンズに文章を提出したんですよね。

(宇多丸)それはどういうことでしょうか?

(丸屋九兵衛)英語の文章ですね。ブーツィーもブーツィーでストーリーがあるので。ブーツィーが自分をアーサー王に模して、岩に刺さっていたベースを引き抜いて王になったみたいな話があって。それをアーサー王の最初の部分なんで、アーサー王の最後の部分に自分を当てはめたファンクストーリーみたいなのを書いたわけですよ。私が。

(宇多丸)ああ、もうオリジナルストーリーを作って?

(丸屋九兵衛)オリジナルストーリーを英語で書いて、それをブーツィーに渡したら、翌日またブーツィーと会って。「いやー、君のライティング、よかったよ」って言われて。なぜかそこで文章に自信を持ってしまい、そうこうしている間にPファンクコミックの関西弁翻訳を添付して送ったら、『bmr』編集部に採用されたっていう。

(宇多丸)ああ、もうPファンクづくしだ。

(丸屋九兵衛)そうそう。これがなかったら、本当にいまここにいないっていうね。

(宇多丸)っていうかすっごい変なことばっかりやっていますね!

(丸屋九兵衛)(笑)

(宇多丸)ブラックミュージックに入るきっかけとしても、おかしいですもん。

(丸屋九兵衛)いやー(笑)。

(宇多丸)っていうかさ、仕事する前になんでそんなブーツィーに会えるんですか?

(丸屋九兵衛)あまりにもいつもいるからですね。

(宇多丸)その格好でいるから。

(丸屋九兵衛)いつも最前列に。

(宇多丸)で、扮装も目立つし。じゃあ、ジャパニーズ・サイコボーイとしてバックステージに呼ばれて。

(丸屋九兵衛)ファンカティーアとして。

(宇多丸)へー! あ、そう。すっごいですね!

(丸屋九兵衛)ブーツィーの初来日の時、ステージに上げてもらいましたね。そういえば。

(宇多丸)へー! まだお若い時でしょう?

(丸屋九兵衛)まだ若い時。10代ですよ。

(宇多丸)でも、それでPファンクってやっぱりさ、いろんなことがフィクショナルなメタファーというか、あれで書かれている分、ちゃんと掘らないとっていうか。僕らは違う文化圏にいる分、調べ甲斐はありますよね。

(丸屋九兵衛)そうなんですよ。だから、ジョージ・クリントン先生がこうやってご自身で自伝を出したけど、もうちょっと軽めの文章を私が書いてみようかな? と思っている今日この頃でもあるというね。

(宇多丸)ああー、これはちょっとあまりにもね、大著で。こんなにしおり用の紐。こんなについている本、はじめて見ましたけどね。

(丸屋九兵衛)4本ね(笑)。

(宇多丸)4本ついているからね(笑)。

(丸屋九兵衛)まあまあ、1本つけるのも2本つけるのも……2本と4本は値段が違ったらしいんですけど。この際だから4本つけてみようっていう。で、ジョージ・クリントンの割と最近までつけていた極彩色のカツラを意識して……

(宇多丸)ああー、エクステンションのこの感じだ。なるほど、なるほど。

(丸屋九兵衛)で、色を選んだのは私っていう。実は監修ってそこだけじゃないか?って言われている。

(宇多丸)しおりがこんなにいっぱいついていて、「いやー、便利!」って一瞬思ったんだけど、そんなに便利じゃない(笑)。好きすぎて……

(丸屋九兵衛)そこまで分散して読む人もそうそういないでしょうからね。

(宇多丸)あと、分散しすぎていて、しおりの役目をあまり果たしていないっていう(笑)。まあいいや、ということで、そんなジョージ・クリントン自伝。翻訳監修を務められたこの本を改めまして紹介させてください。『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝(サーガ) バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』はDU BOOKSから税込み3240円で発売中。そして、ここでプレゼントのお知らせです。


(中略)

(宇多丸)最後に丸屋さん、告知時効などありましたら、お願いします。

(丸屋九兵衛)明日は明日でね、『観ずに死ねるか!傑作音楽シネマ88』上映会の『ブルースブラザーズ』編でトークするんですけども、その後に9月21日(水)に丸屋九兵衛トークライブシリーズ『【Q-B-CONTINUED vol.12】with サンキュータツオ』っていうのがありまして。これが『戦え、ご長寿戦隊シルバーズ! 高齢化社会を翔ける老人英雄列伝』。ちょうど、シルバーウィークなんですね。で、敬老の日の直後なんで、こういうジョージ・クリントン先生みたいにですよ、70才になってクラックをやめて更生できるという。そういうところも含めて……


(宇多丸)はいはい。映画監督なんか、歳取ってキレッキレの人、いっぱいいますからね。

(丸屋九兵衛)と、言いながら私、『マイティ・ソー』のオーディンの話とかをしたりするわけですけども。

(宇多丸)(笑)

(丸屋九兵衛)いや、おじいさんと言えば、オーディン、ガンダルフ、ワイナミョイネン……

(宇多丸)ああ、なるほど。おじいさん流れ、ありますよね。

(丸屋九兵衛)太公望、水戸黄門。あとは、パパ・レグバとか。

(宇多丸)わかんない……

(丸屋九兵衛)パパ・レグバってブードゥー教の神なんですけど。で、実はジョージ・クリントンはパパ・レグバに影響を受けてるっぽい。

(宇多丸)その感じを出そうとしているっていう?

(丸屋九兵衛)っていうっぽいですね。『マンボ・ジャンボ』っていうイシュメール・リードのカルト小説があるんですけど、そこにヒントを得ている……

(宇多丸)あのー、「もうやめてくれ」っていう……ええー、ということで、丸屋九兵衛さん。話は尽きないということなんですが、とりあえずPファンク特集、序説ぐらいの感じなんでね。ぜひ、この自伝と作品を聞いてください。丸屋さん、ありがとうございます! 次回は、ビン様特集、お願いいたします。

(丸屋九兵衛)よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>