宇垣美里さんが2021年7月20日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でジャンプ+に掲載された藤本タツキ先生の読み切り『ルックバック』について話していました。
ふと読み始めたけれど、結構な大作でしたぁ?https://t.co/eO3DyvU3NL
— 手塚るみ子 (@musicrobita) July 19, 2021
(宇多丸)宇垣さん、今日はですね、リスナーからは結構、あるひとつのトピックについて集中していっぱいメールが来ておりまして。なにかと言いますと、昨日公開になった読み切り漫画。
(宇垣美里)昨日、本当に日付が変わった瞬間かな?
(宇多丸)しかも宇垣さんもその日付が変わった瞬間に……。
(宇垣美里)私、日付が変わった瞬間にジャンプ+を徘徊するっていう癖があって。
(宇多丸)チェックするんですね。
(宇垣美里)はい。新しく上がった漫画を見るっていう癖があるんですけど。
(宇多丸)癖(笑)。仕事もあるけどね。
(宇垣美里)仕事じゃない。完全に私の楽しみのために(笑)。
(宇多丸)そうですか。おそらくは宇垣さん、その全く同じものを目撃された、読まれたんだと思いますが。たとえばですね、「これまで、聞くだけのリスナーでしたが初めてメールを送らせていただきます。と、言いますのも少年ジャンプ+にてネット公開された藤本タツキ先生の読み切り『ルックバック』のあまりのすごみに、恐るべき完成度に、動揺して朝からつい筆を取った次第です。
公開された瞬間からネットでも話題になっていましたので、既に読まれた方も多いと思いますが、物語の構成力やカット割りの巧みさなどはもちろん、作品で用いられているモチーフ、引用されている作品のオマージュなどなど、とにかく語りたいことが山ほど出てくる作品でしたので、アトロクリスナーやパーソナリティーの皆さんにもお勧めしたい作品です」であるとか。
こっちも紹介しようかな。「宇多丸さん、宇垣さん、こんばんは。昨日、ジャンプ+にて公開された藤本タツキ先生の読み切り『ルックバック』はもう読まれましたか? 私は藤本先生が大学時代を過ごした山形出身で、しかも登場人物の藤野のように幼い頃、『絵がうまい』と大人たちにもてはやされ、『将来は美大に行くのもありかな』と思う子供でした。しかし小学校の高学年になるとポスターや絵画コンクールで選ばれるのは別の子となり、作品の主人公・藤野が京本に嫉妬した気持ちが痛いほどよくわかりました。
結局、私は絵を書くことをやめてしまいましたが、続けていれば京本みたいな友達ができたのかなと思いました。物語後半に実際の事件をモチーフとしたと思われる、とある事件が起きてとても胸が苦しくなりました。10代の頃にこの作品に出会いたかったと思う反面、大人になった今だからこそ受け止められるものもあると感じました。長々と書いてしまいましたが、宇多丸さんと宇垣さんの感想もよければお聞かせください」という。いろんな方がね、ぜひこの番組で話をしてくれというような……私は逆にこれは知らなかったので。
(宇垣美里)もう、読んで! 読んで!
(宇多丸)ちょっ、宇垣さん……どうどうどう。ちょっと、番組をはじめてからぜひその話をうかがわせていただきたいと思います。
(宇垣美里)(食い気味に)アフター!
(宇多丸)シックス!
(宇垣・宇多丸)ジャンクション!
(宇多丸)そこは強気なんだ(笑)。
(宇垣美里)フフフ(笑)。
(中略)
(宇垣美里)いや、『ルックバック』、読んでほしい!
(宇多丸)テンポ感がね、びっくりしました。通常のね、テンポ感ではない。改めて言うと、藤本タツキ先生は……。
(宇垣美里)あの『チェンソーマン』の藤本タツキ先生が一部が終わって。で、久しぶりに読み切りっていうの形で、ジャンプ+っていうアプリで無料で読めるものなんですけども。
(宇多丸)『元トモ』も読めますよ。
(宇垣美里)ああ、そう。『元トモ』も読めます。
(宇多丸)番組の関連で言うとね。
(宇垣美里)で、日付が変わった瞬間、新しいその曜日でアップされるものが上がるから。私は日付が変わった瞬間に見に行くんですけれども。で、「えっ? 藤本タツキ先生が書いている。長っ!」って思って。
(宇多丸)ねえ。読み切りで、もちろんサクッと読めるけど、それなりのボリュームを……。
(宇垣美里)140ページあって。でも、体感が本当に14ページぐらいの気持ちで。あまりにも良すぎて。夜中だったのに……だって日付が変わった瞬間ですから。妹に「マジでいいから読んでくれて」って送って、「寝る」って返ってきたんですけども。でも、本当によくて! まあ、話としては先ほども名前が挙がってましたけど。ある少女2人の話なんですけど。藤野っていう女の子がいて。その子はすごく漫画を書くのが好きで。
少女2人の話
(宇垣美里)小学校の学級通信とかに漫画を書いて。みんなに「面白いね」って言われていたんですけど、ある日、先生から「不登校で学校に来ていない京本っていう女の子も漫画をそこに書きたいみたいだから、書いてもいいか?」っていう風に言われて。「ああ、別に書いてもいいですけど。学校に来れないやつがそんなの、書けるんですかね?」とかって言っていて。
で、実際に載った漫画を見たら、もうあまりの画力にクラスのみんなが「えっ、なに……? めちゃめちゃうまいじゃん」って。「これを見ると、なんか藤野ってそんなだな」みたいになって。で、藤野は「うわーっ!」ってなって。そこから彼女はすごい一生懸命、漫画を練習し始めるんですよ。で、周りのみんなからは「もうすぐ中学生になるけど、中学生になっても漫画とか書いていたら『気持ち悪い』『オタクだ』って言われちゃうよ?」みたいに言われて。それでも、書きたいから書き続けて。でも、その学級新聞で2人の作品が並ぶと、あんなに練習をしてこんなに上手くなったのに、でもやっぱり京本の方が圧倒的に上手くて。そこで藤野は「やーめぴ」って思うんですよ。
(宇多丸)やっぱりね、その才能話はちょいちょいこの番組でも出てきますけどもね。モーツァルトかサリエリかっていう話、出てきます。
(宇垣美里)それで最後、京本は小学校の卒業式にも来なかったから、先生に「卒業証書を渡してきてくれよ」って言われて。藤野は「やだな」って思いながら言ったら、京本が藤野に「ファンです!」って言うんですよ。「ずっと読んでいました。あれも、あれも、面白かったけども。特に5年生になってから、すごくよくなりましたね」って言われて。それは藤野が「負けられねえ!」って思って書くようになってからのことで。それで「大好きです!」って言われて。そこでその2人は友達になって。一緒に漫画を書いたりとか、投稿をしたりとかして。何回も、それこそジャンプ賞みたいなのを取ったりとかっていうのをしたんです。だけど、まあ大学に上がるぐらいのタイミングで2人はちょっと方向性の違いから袂を分かつんですよ。
「ちょっと勉強をしたい」だとか「連載を持ちたい」だとか。それでそこで別れるんですけども。だから、そこまで読んでいたら「ある時、ある物事を一生懸命に頑張っていた2人が袂を分かつ、まあ『元トモ』みたいな話なのかな?」って。そこまででも胸にグッとくる部分もあるし。やっぱり、身に覚えがある人がたくさんいると思うんですよね。「これは自分は一番だ!」と思ったものが、もっとすごい人がいて。
(宇多丸)それは……なんなら、ある道を打ち込んだ事がある人ほど、かならず出会う件でしょうからね。
(宇垣美里)とか、「小学生の時に漫画をあんなに書いてたけど、いつの間にか書かなくなったな。なんか『付き合いが悪いやつだ』とか言われて、書かなくなったな」とか、そういうのもあるし。なんかこう、人の「ああ、あったな」っていう記憶をすごく刺激する作品で。なのですごく、その時点でも面白かったのに、その袂を分かってからある……まあ、京都アニメーションが放火されてしまったという事件があったと思うんですが。まあ、それを彷彿とさせるシーンが出てきて。
なので、もしかしてそれですごく心を揺さぶられる人はちょっと注意して読んだ方がいいかもしれないんですけど。そこで「はっ! そんな方向に転ぶんだ……」っていうところから、でもやっぱりフィクションが好きな人って、あの事件に対してすごく、なんて言うんだろう? 心を掻きむしられるようなつらい思いをした人がたくさんいたと思うんですけど。そういう人に対するひとつの、「でも、フィクションってさ……」っていう答えみたいに私はすごく感じて。
なんか、なかった未来。あり得なかった未来だけど、こうした方がよかったかもしれない。こうすれば、彼らはまだ生きてたかもしれないっていう、ちょっと空想のような瞬間が描かれていて。でも、やっぱりきっとこの道しかなくて。「もしかしたら、こうすれば助けられたかも。ああ、あのままこうしていればな……」って。という、ちょっとの救いがあって。でも、やっぱり書き続けることしかできなくて。だから私たちはフィクションが好きで。
それはなんか、救いもあるけれど、すごく強欲なというか。ある種の、なんて言うんだろう? すごく個人的なというか。決して正しい面だけではないけれども。でも、だからフィクションにどうにも救われてしまうし、私はフィクションが好きだしっていうことをすごく考えさせられて。それでちょうど昨日、の日付が変わった瞬間に発表されたっていうのはそういうことかな?ってすごく……2年前のことを思い出して。
(宇多丸)ああ、そうか。日付そのものにもね、意味があるんですね。なるほど。
(宇垣美里)なんか「あ、ああ……」って思いました。もちろん、ただ、そのひとつの病気の方が、ひとつのなにか病を抱えている方がすべて悪いわけではないし。ひとつも可能性というか、そのひとつの事件をオマージュにしているからこその描かれ方だと思うんですけれども。でも、改めてやっぱりそのことを考えて……考えちゃう作品でした。だから、読めてよかったなって思ったし。で、その1日前には(三浦)春馬くんが亡くなって1年だなっていうのもあって。三浦春馬さんの私たちに提供してくれたフィクションにどれだけ救われたかっていうことも思い出して。
「あっ……」って。すごい考えさせられたというか、胸にグッときて。それこそ『花束みたいな恋をした』みたいに、なにか語りたくなる。そこから自分の思い出がグイーッと引っ張られてしゃべりたくなるような作品で。だからこそ、こんなにも多くの人に刺さって。なんかこう、「しゃべらなきゃ!」みたいな。「SNSになにか書かなきゃ!」みたいな。誰かに伝えたいわけじゃないけど、言葉にせずにはいられないみたいな。そういうすごく衝動をかきたてるような作品だったなって思うし。あと、考察したくなる作品でもあるんですよ。
(宇多丸)先ほどもね、いろんな、うん。
考察しがいのある作品
(宇垣美里)そうなんです。「ああ、ここにDVDのジャケが映っている。あれ? 『ワンス・アポン・ア』……?」みたいな気持ちになったりとか。
(宇多丸)ああ、なるほどね。先ほどおっしゃった、現実に対するフィクションの回答っていうのでは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の……。
(宇垣美里)とか。最初のページとか最後のページとかを並べてみると、あるひとつの曲が浮かび上がってきて。まあ、『ルックバック』っていう題名からも推察できることではあるんですけど。で、その曲が何のアンセムになってるか?っていうこととか、いろいろと考えてズシッと来る……そういう意味では考察しがいのある作品でもあって。
(宇多丸)先ほども構成力とかね、だから計算され尽くした、そういう……。
(宇垣美里)そう。「ああ、ここがこれでこうで。あ、ここにこの絵があって……」みたいな。「もしかして、ここの筆跡はこういう意味があって?」とか。考えだしたらきりがなくて。
(宇多丸)そんなに? へーっ!
(宇垣美里)そうなんですよ。「後半でもう1度出てくる4コマ漫画の筆跡。これ、もしかして? ああ、だからそういうことか!」とか。そういう風に何回読んでも面白いんですね。だから。で、最後まで読んで、もう1回頭から読むと、そのいずれ終わってしまうってわかって読むからこそ伝わってくるものもたくさんあるし。本当にね、すごい……。
(宇多丸)でも一晩でそこまで咀嚼して。
(宇垣美里)何回も読んだから。私、何回も読んじゃって。
(宇多丸)旅をしてきたみたいに言うけど(笑)。でも、その旅をしてきたぐらいのものを今、その感じで伝わってきたから。
(宇垣美里)本当に、だからみんな読んで、2年前のことを思い出して。その時に自分が何を考えたかを
思い出して。「それでもやっぱり……」って思う部分もあって。ということをすごく……だからこれを「漫画って、すごいな。漫画、好き」っていう気持ちにもなったし。あと主人公がね、女の子2人なんです。っていうところも私は好きで。だから『バクマン。』は男の子2人の話だったけど、これは女の子2人の漫画を書く話。ある種、こうやって未来を切り開いて、なんて言うんだろう? 「オタクがやることだよね」と言われたことをバーン!ってはねのける。で、なんかあった時に「こうやったら勝てたかも」っていうことを考えるのに女の子が使われているっていうのもなんかすごく、だからこそしっくりくる部分もあるし。私が女性だからこそ、感情移入できる部分もあって。そういった意味で本当に「いや、すげえ!」って思いながら読みました。
(宇多丸)なるほどね。いや、もうすげえ伝わってきたし。その読み解きも含めて。だから要は、藤本タツキ先生。ビッグネームじゃないですか。もうすでに大ヒットを飛ばしていて。それが、その読み切りで突如、タダで読める作品をボンと出してっていうんで。なんていうか、イレギュラーな、「変わった発表の仕方をするんだな」ってまず、ガワの部分では思ったんだけど。今、説明を聞いたらその日付にも意味があるし。やっぱりその藤本先生なりの宣言じゃないけど。ちょっとこう……。
(宇垣美里)思ったことがあったんだろうな、もしかしたらっていう。
(宇多丸)ここで出して。しかも、広く読まれるというか、ハードルを低くしてっていうことにやっぱりすごく意義があったんでしょうね。
(宇垣美里)だし、これまでに藤本タツキ先生が描かれてきたものって結構、虐殺というか。人がいっぱい死ぬ。「意味もなく」って言ったらおかしいんだけど。まあ、なにがあっても、どんなに思いがあっても死んでしまうってことを藤本タツキ先生はすごく描いてきたと思うんですけど。その今まで描かれてきたものを合わせて、なんとなく先生が考えてることが全部わかったとは言わないけど。「ああ、こういうメッセージを私は感じるな」っていうものを受け止めたりとか。それで、すごい考えて。2年前の日記を読んで。「ううっ……」ってなって。私、アメリカにいたんですけど。アメリカにいて、聞いてびっくりしたことを思い出して、とか。ありました。
(宇多丸)ジャンプ+ですね。
(宇垣美里)いや、いい作品だったなって思ってます。
(宇多丸)ということで、読むんだったら……。
(宇垣美里)ジャンプ+。でも、なんか本にもなるのかな? 単行本にもなるみたいで。でも、これは読んだら単行本がほしくなる。
(宇多丸)ちょっと置いておきたくなるというか。1冊になるのかもしれない。
(宇垣美里)そう思いました。これはすごいよ。新しいやり方っていうものがあるねって思って。本当に。
(宇多丸)はい。『ルックバック』。ジャンプ+で、まずはネットで無料で読めますので。
(宇垣美里)すごいぜひ、読んでいただけたら。アプリもあるし、ウェブ版もあるし。どっちでも見れます。143ページだって。でも、体感14ページだった。マジで!
(宇多丸)でも体感14ページだけど、その中に何度も読みたくなる、細部に……。
(宇垣美里)そう。だからタルい瞬間が一切ない。「うわーっ!」って読み切ってしまったから。何分経ったのかもよくわかんないぐらい。「すごいもんを読んだ。伝えねば!」みたいな。
(宇多丸)でも、これだけ評判を呼んでいるっていうのも、宇垣さんのこれだけの熱のこもった素晴らしい解説を聞けば、そこはわかりましたね。
(宇垣美里)だし、この漫画をいいと思って刺さる人がすごく多いっていうことも私はすごく嬉しく思う。という気がしました。
(宇多丸)ちょっと読みますね。
(宇垣美里)読んでください。たぶん寝れなくなっちゃう。2回目も読むし、3回目も読んじゃうから。
(宇多丸)昨日はスタジオで仕事してたんですよ。
(宇垣美里)私も次の日、早かったんだけれども。普通に寝坊した。
(宇多丸)普通に……ダメじゃん(笑)。今、一瞬考えましたよ。ダメですよ(笑)。
読み込みすぎて翌朝、寝坊
(宇垣美里)マネージャーさんに「下で待っています」って言われて。「ああっ!」みたいな(笑)。
(宇多丸)ああ、そのパターンだ(笑)。お疲れ様でございました。
(宇垣美里)すいませんでした。ごめんなさい!
(宇多丸)ジャンプ+で読めますんでね。『ルックバック』です。
(宇垣美里)はい。ぜひ!
ジャンプ+『ルックバック』
<書き起こしおわり>