町山智浩『トゥギャザー』を語る

町山智浩『トゥギャザー』を語る こねくと

町山智浩さんが20206年1月27日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『トゥギャザー』を紹介していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、非常に懐かしいルー大柴さんを思い出させる映画で。来週6日金曜日から公開の『トゥギャザー』という映画を紹介します。これ、もう怖い音楽が思いっきりかかってますけど、ホラー映画ですよ。ぐちゃぐちゃの血みどろのスプラッター映画です。すいません。2週連続で。2週連続スプラッターが本当に申し訳ない(笑)。でも今はね、でも世界中でホラー映画ってね、ちょっとすごいことになってきていて。ホラー映画が哲学を語ったり、社会を語ったりね、人生を語ったりする時代になってきちゃったんですよ。

これ、どうしてかっていうと、お金がかかんないからです。コロナ禍以降ですね、全世界の映画産業はもう崩壊してるんですよ。製作費をたくさんかけても、それで劇場で回収ができない状態になっているんですね。ただ、ホラーだけは元気なんですよ。これは製作費が安いから。コストの採算分岐点が低いからです。ホラー映画って、基本的に登場人物少なめだし。ワンシチュエーションだったりで……大抵、森の中の山小屋で話が進んだりするんで。登場人物が合計で6人ぐらいしかいないとか、そういうのが多いから安いんですよ。

で、もうアメリカも世界的にもホラー映画ばっかりになっちゃったんですよ。まあコストのリスクを負いたくないから。どこも。そうすると、もう映画が作りたい人っていうのはまず、ホラーで企画するしかないんですよ。だからあらゆるジャンル……その社会派からもう哲学的な映画まで、ホラーの枠組みの中で作られるように現在はなってきています。
で、今回紹介する『トゥギャザー』という映画は「恋愛とは何なのか?」っていう映画なんですよ。先に言っちゃいますけど。男と女、女と女、男と男、誰でもいいんですけど、2人の人間が相手を好きだと思って愛し合うって一体、何だろうってことを考察する映画なんですね。

テーマを言っちゃいましたが。で、『トゥギャザー』ってのは「一緒」っていう意味ですよね。で、まあこれは一緒なんですけども。2人のその男と女がですね、体がくっついちゃうって話なんですよ。物理的に。だから、たとえばキスしてると……これはくっつき始めの時ね。キスしてると唇がブーッと持っていかれちゃですよ。引っ張られて。で、「いててててっ! 噛まないで!」とか言って。「噛んでない!」とか言ってるんですけど。これは唇の細胞がくっついちゃっているんですよ。

これ、組織自体が一体化しちゃってるんですよ。それで「どうしよう?」っていう話が、この『トゥギャザー』っていうので。ルー大柴さんが「トゥギャザーしようぜ!」って言ってましたけど。これ、古いんですよ。すごい古くて。たぶん分からないかもしれないですけど。これ、カップルの話なんですね。で、この2人がですね、結婚もしてないのに10年ぐらい、一緒に暮らしてるんですよ。

で、男性の方はですね、ティムというんですけれども。彼はミュージシャン志望で、売れないんですよ。バンドマンなんだけども。で、彼女の方は小学校の先生なんですね。仕事がちゃんとあって、彼は彼女に食わしてもらってるヒモみたいになってるんですね。でも、「これは別れた方がいい」っていう風に彼は思いだすんですよ。どうしてか?っていうと、彼女の下で主婦みたいにして暮らしてるわけですね。

家の世話とかをしながら。で、ぬくぬくと暮らしてはいるんですけど、これだとミュージシャンとしてたぶん大成しない。もっとワイルドに、旅に出て……バンドマンだからね。で、ライブハウスとかを回ったり、いろいろやって。それこそロックミュージシャンですから。こんな1人の女性に縛られないで自由に生きた方がいいんじゃないか?って思い始めるんですよ。

この発想自体がもう売れてないんですよ。でも「ワイルドにした方がいいんじゃないか。別れた方がいい」って思いだして、そういうことを彼、言ったりするんですよ。あともう一つはこの2人、あんまり性格が近くないんですよ。彼女の方は学校の先生だから非常に真面目で。あんまり派手なことはしたくないんですね。で、彼女は田舎の方の小学校に仕事が見つかって。そこに転勤するんですね。あんまり人がいないところなんですよ。ところが、彼のはやっぱりロックミュージシャンになりたいから。もっと華やかに生きたいって思ってるんですよ。

で、別れようと思ってるんですがとりあえず彼女に仕事があったんで、その田舎に行って。森の中の一軒家を借りて、そこに住むんですね。で、その森の近くを散歩してると、穴に落っこちちゃうんですよ。で、この2人が落っこちた穴のところにはなんか教会みたいなものの残骸があって。宗教団体の残骸があって。で、そこで喉が乾いたんでそこにあった泉の水を飲んじゃうんですね。

すると、それから2人の体が少しずつくっつき始めるという話なんです。で、一種の呪いみたいな感じで。腕とかをくっつけてるだけで腕がくっつき始めたりして。「これはやばい!」って思うんですね。それと、彼の方はもう本当に彼女と別れてミュージシャンとしてツアーに出て。そうしなければ俺はこのままだと腐っちゃうと思って、その準備をするんですけど……物理的にくっついてない時も2人が離れてると、だんだんつらくなってくるんですよ。互いを求めて。

頭の中では「もう別れなきゃ。これは腐れ縁だから」と思ってるんですね。「10年も一緒にいて、あんまり性格も合わないし……」みたいな感じでね。ところが、彼女はその学校に働きに行くだけでつらくなったりするんですよ。で、体が彼女を求めるんですよ。「これはただ惰性で一緒にいっただけだから合わないんじゃないか。彼女は俺が本当に将来、結婚するべき相手じゃないんじゃないか」と彼は思い始めていたんですよ。で、そういうことを言うから彼女の方も頭にきちゃって。2人の中は悪くなっていたんですが、その泉の水を飲んでから体が離れなくなっていくんですよ。

だからすごく「離れなきゃ」って思う気持ちと「離れられない」って気持ちが同時に入り乱れるんですよ、2人の間で。これ、でもそういう人たちいっぱいいるじゃない? 「俺たち別れた方がいいよ」って言ってね。「もう、これで最後にしよう」って言いながらね。

あと、はたから見て「なんでこの2人、一緒にいるの? 全然合わなくね?」っていうのもいない? 「どうして2人は一緒にいるの? わからないよ」ていう風に娘から言われました。「全然違うのになんでパパとママは一緒にいるの? パパはお酒を飲んでギター弾いて暴れてるのに、ママは静かで真面目に働いて。全然、性格違うじゃない?」って。うちのカミさん、お酒は一滴も飲めないしね。「パパとママはなんで一緒にいるのか、わからない」って言われたこと、ありますね。僕は(笑)。

それで「お前はわかんないって言うけど。そうならなきゃ、お前は生まれてないからな」って思いましたけど。そういう話で。ただ、まあ「もうこれで最後にしよう」って言いながらね、なんかしちゃったりするんですけど……すると、くっついちゃですよ。ここがね、めちゃくちゃすごくて。これね、アメリカではそのまま見せちゃったんですけど。日本でどういう風になってるか、わかんないですけど。その、くっついてるところをちゃんとどアップで見せるんですよ。二つの部品が。まあ、モザイクだろうな、日本だとね。ところが、「とにかく剥がさなきゃ」っていうので2人で引っ張り合うんですよ。

これ、2人で「いたいたいいたいたいっ!」って言いながら。でも頑張って「せーの!」で、2人でドン!って突き飛ばして離れようとするんですけど……ここね、映画館で悲鳴が上がりました(笑)。これ、ホラーっていうか痛い系なんですよ。「いててててっ!」っていうシーンがシーンが次々と連続するんですけど。でも爆笑してましたけど。これね、ホラーなんだけどみんな、めちゃくちゃ笑って。腹を抱えて笑っててね。で、みんな自分が痛いわけじゃないのにね、股間を押さえたりしてるんですよ。観客が(笑)。

「これは何の映画なんだ?」って思うんですけど。これね、途中でその彼女、学校の先生の友達が出てきて。「こういう話、知ってる? プラトンっていうギリシャの哲学者が言ってたんだけれど。人間はなんで人に恋をするのか? 他の人に会った時に『この人は好きだ』って思うのか、わからないじゃない? それは古代から謎だったんだ。たとえばすごい美人がいたとして、じゃあその人を好きになるかっていうと、かならずしもそうはならない。

男も女も男同士も女同士も顔の良し悪しっていうのはあんまり関係なくて。あと一目惚れっていうのもあって。会った途端に好きになっちゃったけど、なんでか全くわからない。その人の趣味とか、着てるものとか、やることとか、言うこととか全部、嫌いなんだけど。なんか好きでたまらないっていう理由が全く自分にわかんないっていう時、あるじゃない? だからそれは古代から謎で、たぶん現在も解明されていない。人が人を好きになるシステム、メカニズムは。

で、それに対してそのプラトンが『昔、人間はみんな腕が4本、足が4本で頭が二つの怪物みたいなものだったんだ。それで完全だったんだ。ところが完全だから神様に嫉妬されて、二つに分けられて生まれたんだ。だから切り離される前の自分自身を探して見つけた時、その人を好きだと思うんだ』っていう説を唱えたんだ」って話をするんですよ。

まあ、これは御伽話ですけどね。そういう話をするんですよ。で、この『トゥギャザー』っていう映画はそういう話なんですよ。なんだかわからないけど、そういう人がいるんだよっていう話なんですよ。

まあ、兄弟じゃないのに兄弟みたいに思える人とかいるのはそういうことなんじゃないかって話をこの映画の中でするんですけど。で、この『トゥギャザー』っていう映画は実は監督の体験談だそうなんですよ。これね、監督で脚本を書いた人はマイケル・シャンクスっていう人なんですけども。これがデビュー作なんですね。で、その自分のパートナーの女性とずっと10年ぐらい一緒に暮らしてるのに、なんかうまくいかなくて。彼はなんか俳優になりたかったみたいなんですよ。ところが、パッとしない。

これは別れた方がいいんじゃないか?って思ってジタバタしたことがあって。で、その体験を元にシナリオを書いたそうなんですよ。で、これがすごく面白いのはマイケル・シャンクス監督の彼女が働いてた会社っていうのがあって。それが大人のおもちゃ会社だそうなんですよ。そこで製作をしてたみたいなんですよ。で、さっき言った2人の男女の結合した部分の特撮っていうか、特殊メイクはこのマイケル・シャンクス監督の今は奥さんになった人がやってるそうです。彼ら、最終的には結婚したそうです。

それはラテックスで作ったらしいんですけどね。

これは「2人は別れた方がいいんじゃないか。俺たち、本当は愛し合ってなくて惰性でいるんじゃないの?」って悩んだことがあったみたいなんですよ。そういうね、非常にこれは個人的な話で。ホラーにしなくてもいいんだけど、でもホラーにしたところがいいでしょう?

これ、自分の人生がもしかしたらなりたいものになれないかもしれないって思って……「俺の人生は彼女によってちっちゃくなっちゃうかもしれない」と思ったんですよ。「俺は彼女といるとダメになってしまう。優しいから。幸せだから逆にダメになっちゃう」とか思ったりするんでしょうね。これはそういう映画なんですよ。これをホラーにしたところがすごいんですよね。

で、ちょっと音楽かけてもらえます? これね、テーマ曲があるんです。この映画『トゥギャザー』って。それがね、スパイスガールスって覚えてます? 知ってます? これなんですよ。

(町山智浩)これがね、テーマ曲なんです、この映画の。スパイスガールスって90年代終わりにね、世界的に大ヒットしたイギリスのアイドルグループなんですけど。彼女たちのヒットアルバムの中にある『2 Become 1』っていう……「二つが一つになる」っていう歌があるんですけど。これはシングルカットされてすごい当時も当たったんですけど。ロマンチックなね、いい歌なんですけど。「今夜私たちは2人で一つになるのよ」っていうものすごいロマンチックな歌詞なんですが。ただこれね、サビのところがね、「それしか方法はないのよ」っていう歌詞なんですよ。ちょっとこれ、怖いなっていうね(笑)。

ちょっと積極的すぎるだろう、みたいなところなんですけど……これ、そういう映画になってくるんですよ。これね、いつまでも付き合っているのに結婚してくれない相手がいる人を連れてって見た方がいい、デートムービーですよ(笑)。もう「それしかない。そうかもな」って思う人もいるでしょうね。「今のうちに逃げた方がいい」と思う人もいるかもしれないけど(笑)。これは本当にね、ホラー映画ですけど究極のデートムービーですよ。

『トゥギャザー』予告

アメリカ流れ者『トゥギャザー』

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