トミヤマユキコと宇垣美里『バクちゃん』を語る

トミヤマユキコと宇垣美里『バクちゃん』を語る アフター6ジャンクション

トミヤマユキコさんが2020年7月14日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に電話出演。宇多丸さん、宇垣美里さんと増村十七先生の『バクちゃん』について話していました。

(宇多丸)はい。じゃあ、バンバン行きましょうか。

(トミヤマユキコ)二作目はですね、増村十七先生という方の『バクちゃん』という作品を紹介します。

(宇垣美里)私、これ好き!

(宇多丸)宇垣さんも読んでいたんですね。

(宇垣美里)今度、文春のコラムで『バクちゃん』について書きます。

(トミヤマユキコ)あら! 楽しみ。読みたいです。ええとね、これはいわゆる『ドラえもん』に代表されるような人間以外の異種が地球という異郷を訪問するみたいな話なんですよ。話の枠組みとしてはそういう話です。ですが、地球の生活にバクちゃん……まあよその星から来た、本当にバクなんですけども。あの夢を食べるバクですね。それが、地球の生活に馴染むための手続きを……どういう在留資格があるのかとかですね、そういうことがかなり細かく描かれていまして。設定がめちゃめちゃしっかりしております。

(宇多丸)うんうん。

(トミヤマユキコ)それで、バクちゃんがめちゃめちゃかわいいんですよ。バクの子供で。

(宇垣美里)かわいい!

多様性や移民問題が透けて見える

(トミヤマユキコ)なんかたどたどしい感じだし、頼りないし、ちっちゃいし。もう超メルヘンテックなんですけど、やっぱり背景には今、私たちが抱えているような移民の問題なんかが透けて見えるような話になっていまして。「多様性って何だろうか?」とか「多様性を受け入れるということはどういうことなのか?」っていうのを感じながら、ちょっとまじめな気持ちで読み進めていく瞬間もあるんです。だけど、バクちゃんはかわいいんですよ。だから「かわいい」と「シリアス」のサンドイッチで読ませていくっていうのが非常に上手い作品だなと思っています。

(宇多丸)うんうん。宇垣さんはいかがでしたか?

(宇垣美里)本当にそうで。かわいいですし、他の異星人たちもみんなすごくかわいいんですよね。なんか犬みたいだったりとか、すごいちっちゃかったりとか、モフモフのだったりとか。でも彼らが……なんていうんでしょう? 見ていたら全編を通して底辺にすごくこう、泣き出す一歩手前みたいな心細さというか、苦しさみたいなものがあって。たぶん今、日本で暮らしている他の国から来た方も同じような気持ちなのかな?っていう気持ちになる漫画ですね。特に私、あの掃除夫のお母さんというか。あの話がすごく好きで。何回も見てるんですけど、やっぱり思い出して。クッと来ちゃうシーンだなって思います。

(トミヤマユキコ)ねえ。よその星から地球に来て、掃除夫の仕事をされているおばちゃん的な存在の方が、「元の故郷には帰れるわけでもないし……」みたいな話を。

(宇垣美里)「戦争でなくなっちゃっているから」って。

(宇多丸)だから一応、SFっていうか、ファンタジーっていうか。フィクションの形を取ってるけど俺、すごく現実の今の地球のどこかの話をしてるような。なんかそういう気持ちで途中からずっと読んじゃいました。

(トミヤマユキコ)はい。その飲み込みやすさみたいなのがすごいんですよ。これは作品として。なんかあんまりお勉強とかお説経の感じじゃないんですけど、いつの間にか結構まじめに考えちゃうっていうところがすごいです。読んでほしいですね。

(宇多丸)ショーン・タンの『アライバル』っていうのがありましたけど。あれのもっと細かく書いた版みたいなね。ちょっとそれも連想したりしましたね。面白い漫画があるなと思って。

アライバル
河出書房新社

(宇垣美里)うんうん。かわいいし。

(宇多丸)文化庁メディア芸術祭新人賞受賞ということで。文化庁メディア芸術祭、センスいいんだよな。チョイスがなー!

第21回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門新人賞受賞作品

(宇垣美里)目の付け所がね!

(トミヤマユキコ)そうなの、そうなの。かっこいいの!

(宇多丸)ねえ。『バクちゃん』。増村十七さんによる本でございます。ビームコミックスから出ております。まだ1巻目ですね。

<書き起こしおわり>

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