町山智浩『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』を語る

町山智浩『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』を語る こねくと

町山智浩さんが2026年1月20日放送のTBSラジオ『こねくと』で『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、もうすでに公開されてるんですけど。ノルウェー映画で『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』という映画をご紹介します。

(曲が流れる)

(町山智浩)はい。いかにもおとぎ話っていう感じの音楽がかかってますが。これ、もう先週16日から公開されて、これから日本中で随時公開されていくみたいですけど。新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷で公開中ということですが。これ、この音楽でわかるようにおとぎ話です。シンデレラですね。

シンデレラって、ほら。お父さんがお母さんが亡くなった後、継母と再婚するじゃないですか。そうすると、主人公のシンデレラはいじめられるってしょう? あれ、もともとシンデレラっていう本名じゃなくて、本名なんだか知らないですけど。「シンデレラ」って「灰かぶり姫」っていう意味で。メイドさんみたいな下働きをさせられて。いつも煙突とか掃除して灰でどろんこだからシンデレラって呼ぶんですよね。で、その継母の連れ子がいるじゃないですか。意地悪なお姉さんが2人、シンデレラにはできるんですね。それがステップシスターなんですよ。

で、この映画はそのステップシスターを主人公にしたシンデレラ(原題『The Ugly Stepsister』)なんです。シンデレラって、そのガラスの靴に合う人を探すっていうやつですよね。その話をこれはノルウェーでなぜか、ステップシスターの目から描いてるんですけど。まず、その再婚をするところから始まるんですね。で、再婚してみたらその再婚相手が金がなかったんですよ。で、相手の方もその新しい再婚相手の女の人の方に金があると思っていたんですね。両方とも、そう思ってたんですね。

でもなくて、もう破産状態っていうか、借金がいっぱいあって。「さあ、どうする?」っていうところから始まるんですよ。そこでまあ、シンデレラって原作では父親が何をしているのか、全然わかんないんですね。そこが謎なんですが。この映画ではもう手っ取り早く、父親はくたばります。で、金がない家でどうしよう? 豪邸からも追い出されちゃうぞということで、その時にお城の王子様が嫁探しをするということで舞踏会を開くんで。「みんな、来てください」ってやるわけですよ。

そうすると「じゃあ、そこにうちの娘を行かせて王子様と結婚させるか」ってなって。まあ、そうでなくても、舞踏会は基本的に貴族とか大金持ちの若い兄さんたちが集まっていて、お嫁さん候補の人たちと会って順番に踊るんですね。だからなんていうか、ねるとんみたいなものなわけですよ。

あ、ねるとんって古かったね。知らないよね? みんな、ねるとんの時には生まれてないもんね。それは今、何て言うんですか? 街コンっていうんですか? 全然知らないんです。結婚して40年目ぐらいだから全然知らないんですが(笑)。それをお城でやるわけですね。で、そこに家を救うためにそのステップシスターのエルヴィラという女の子が行こうとするんですが……「お母さん、大丈夫だよ。私が行って王子様と結婚して家を救うから!」って言ったらそのお母さんが「あんたさ、鏡を見て言いなさいよ?」って言うんですよ。

で、このエルヴィラちゃんはお母さんが考えるに無理だろうという感じなんですね。で、じゃあシンデレラの方はどうしてるか?っていうと、シンデレラの方は行けうなんですよ。でも「負けたくない!」ってことで競い合うという話なんですけど。ただね、この映画は一筋縄でいかない話なんですよ。というのはこれ、スプラッターホラーコメディです。
で、じゃあまずどうしようってなって。「あなた、鼻の形があんまりよくないわ。美容整形に行きましょう」ってなって。で、そこの美容整形の人が「手術しますよ」って言うんですね。でもこれ、17世紀ぐらいの話なんですよ。そのお医者さんはいきなりトンカチとミノを持ってくるわけですね。それで、麻酔とかもないですよ?

で、顔を押さえつけていきなり鼻に「はい、ここ、行きまーす!(ガッ!)」ってやるんですよ。もうね、「うわーっ!」っていう、そういう映画なんですね。この原題『The Ugly Stepsister』という作品は。で、これね、見ていて……去年、アメリカで公開だったんですけど『サブスタンス』に似てるんですよね。これね、監督もね、両方とも女性ですね。

『サブスタンス』に似ている

(町山智浩)『サブスタンス』の方は昔の大女優だったデミ・ムーアが年を取って、60近くになったんで番組から切られそうになって。「若いのに変えた方がいい」とか言われて。で、禁断の若返り術をして大変な事態になるっていうのが『サブスタンス』っていう映画だったんですけど。期せずしてというかね、本当に同じ年に女性監督による美醜についてのスプラッターコメディが公開されたというのはね、面白いなと思いますね。

で、まあ鼻をバーンとやられた後、今度はね、「学校に行け」って言われるんですよ。これね、フィニッシングスクールというものがヨーロッパにはあるんですね。これ、花嫁学校です。アメリカにもまだあって、サンフランシスコにも何軒か、あるんですよ。これはね、大金持ちのお嬢さんが行くところですね。で、何をやるか?っていうと、まあマナーですね。高級な食事のマナーとか、あるじゃないですか。いっぱい。それとか、お裁縫とか、そういうのとか。あとお菓子の作り方とかね。あとダンスですね。社交ダンスの仕方。そういったものを教える学校があるんですけど。

日本って昔、花嫁学校っていうのはいっぱいあったんですけど。今はあるかな? 昔、お見合いがありましたからね。昔だとお琴とかをやっていたりしましたよね。昔はだから、「趣味は何ですか?」って聞かれて「お琴をやっています」って言おうとして「おとこを少々」って言って大変な事態になるっていうギャグがありましたけども(笑)。

まあ今でもね、アメリカにはそういう学校があるんですよ。でね、16歳を過ぎるとまだやってる人たちもいますね。だから16歳を過ぎると「スイートシックスティーン」っていうイベントをアメリカ人はやるんですよ。16歳を過ぎると結婚ができるから。昔は社交界にデビューできる歳だったんですよ。で、16歳になったってことでみんなでお祝いして、男の子たちを呼んでパーティーをするんですよ。こういうのって、日本はないよね。

まあ、お金持ちの家ですよ、やっぱり。結婚が、この家もそうですけど資産の問題だからですね。金持ちじゃない人たちがやっても意味がないんですよ。全然。で、アメリカではまだやってたりするんですけども。で、その修行させられるとこの主人公のステップシスター、エルヴィラちゃんはあんまりうまくないんですよ。色々と。成績がよくないんですね。

ところが、そのシンデレラの方は何をやらせてもうまいんですよ。で、「勝てるかしら?」みたいな話になっていくんですけど……そこでそのフィニッシングスクール、花嫁学校の先生が「エルヴィラちゃん、頑張ってるわね。でもあなた、ちょっと体が大きいわね。それでもあなたは行けると思うから。内面から綺麗になることができるのよ」って言うんですよ。で、「はい、これをどうぞ」って渡すんですよ。それは、サナダムシの卵です。

サナダムシは体の中で大きく育って10メートルぐらいになるんですね。それで栄養を全部、吸い取っていくから、痩せるんですよ。これ、聞いたことないですか? まあ、そういう都市伝説なんですよ。マリア・カラスという有名なオペラ歌手の女性が痩せるためにサナダムシをお腹の中に入れたっていう都市伝説があったんですよ。で、いろいろサナダムシ都市伝説ってあって。なんとかコレクションでファッションモデルが歩いていたら、お尻からサナダムシが出てきたとかね、そういう話がいっぱいあるんですけども。

ただね、これは監督がね、女性監督でね。エミリア・ブリックフェルトさんって人なんですが「このシーンはすごく大事なんだ」って言ってんですよ。これは要するに美醜に関しての、何が美しいか、何が綺麗で何が醜いかっていう価値観を最初、主人公の彼女は自分の中にはなかった。で、周りから押し付けられるものに従って「あんまり可愛くない」って言われたりして悩んでたんだけど。このサナダムシの卵を飲み込むというシーンは世間的な周りが押し付ける価値観を自分で内面化するという意味なんだって言ってるんですよ。これは恐ろしいことだよね。

それは本当は自分の価値観じゃなかったんだよね。だからそういう点ですごいよくできた映画なんですよ。バカバカしい映画になってますけどね。結構笑えるようにできてるんです。スプラッターなんで、とんでもないシーンがどんどん出てくるんですけど。ただね、そういうとなんか、ちゃちい感じの映画に思えてくる人もいると思うんですけど。この映画ね、ものすごく撮影が上手くて、格調高いスタンリー・キューブリックの映画みたいなんですよ。ものすごい立派な、品格のある映画になってるところもすごい変な感じです。内容的にはこれなのに。

で、基本的にはこれ、ミスコンとかそういったものに対する批判なんですけども。ただ、ちゃんとそういったものに囚われない人も出てくるんですよ。これ、継母には2人の娘がいたはずでしょう。シンデレラって。妹がいるんですよ。妹の方はこういったくだらないミスコン的な婿取りゲームに参加したくないんですよ。それはくだらないと思ってるから。で、生理が来ちゃうと出なきゃならないから、生理が来たことを隠して。いっそのこと、男装までしてそういった婿取りゲームから距離を置こうとする妹っていうのが出てくるんですよ。で、この妹が非常に重要なものになってくるんですけども。

これで描かれるのはシンデレラっていう物語自体のとんでもなさですよね。だってこれ、会ったこともない王子に会って、ちょっと踊っただけで結婚したら幸せっていう話でしょう? そんなこと、ありえないよね。これ、気持ち悪い話なんですよ。で、実はシンデレラには……シンデレラは選ばれるかもしれないんですけど、シンデレラには本当は好きな男の人がいたんですよ。

まあ、すごい話になってくるんですけど。これ、グリム童話の原作で王子様がガラスの靴が履ける人を探すっていう時、継母の連れ子たちはどうするか、知ってますか? これ、原作では靴に足を合わせるため、足を切断するんですよ。足の形を小っちゃくして。まあ、それもこの映画にはあるわけですよ。「うわーっ!」っていうね。もう大変なことになってくるんですけど。僕は途中でもうギブアップしましたね。

彼女、しかも体の中に長さ10メートルのサナダムシがいるんですよ。大変なんですけども。これ、後半はもうすごいです。ぐちゃぐちゃです、もう。『サブスタンス』も結局、最後は一種の爽快感があったじゃないですか。全部、ぶっちゃけたるで!っていう。そういうなんか変なルッキズムのジジイどもをぶちのめすっていうのがあったじゃないですか。この映画もある種の解放感があるんですよ。最後に。これ、ちょっとすごいです。ご飯をちょっと食べにくくなったりすると思います。という感じでおすすめです。

『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』予告編

アメリカ流れ者『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』

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