高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の中でアデルのニューアルバム『25』を紹介。その中から『Hello』と『When We Were Young』について解説しました。
(高橋芳朗)まあでも今週はね、1位のアデル(Adele)でしょう。
(熊崎風斗)そういうことなんですよね。はい。
(高橋芳朗)ちょっとアデルの話、たっぷりさせてください。
(熊崎風斗)はい。もちろんです。
(高橋芳朗)行ってみましょう。もうこれね、2015年、今年きってのビッグタイトルと言っていいと思います。アデルのニューアルバム『25』。アデルはイギリス出身の女性シンガーで、いまちらっとかかっていましたけど、圧倒的な歌唱力を誇るソウルシンガーです。で、2011年にリリースした全作の『21』が全世界で2500万枚。
(熊崎風斗)2500万!?
(高橋芳朗)2500万枚のセールスを記録。これ、21世紀にリリースされたアルバムでは目下最高の売上です。
(熊崎風斗)2500・・・
(高橋芳朗)で、その翌年の2012年のグラミー賞では最多の6部門を受賞して。まあいまね、作品を出したら世界でいちばん売れる、注目されるアーティストと言っていいと思います。で、実際にこの新作『25』、早くもすごいことになっていまして。11月20日に全世界同時リリースされたんだけど、すでにアメリカで243万3千枚のセールするアメリカだけで叩きだして。これ、アルバムの発売週の売上枚数としては史上最高記録だそうです。
(熊崎風斗)すごいなー。
(高橋芳朗)最終的には290万から300万に達する見込みなんじゃないか?と言われてますけども。
(熊崎風斗)すごすぎますね。
(高橋芳朗)まあ、300万いったら永久に破られないんじゃないか?っていう気がしますけどね。で、今日はそんなアデルの音楽。作品の楽しみ方というか、僕流の楽しみ方みたいなのをちょっと話したいなと思うんですけども。で、アデル。今回のニューアルバム、さっきから言ってますけどもタイトルが『25』なんですね。で、その前のセカンドアルバムのタイトルが『21』。で、デビューアルバムのタイトルが『19』。これまでリリースした3枚のアルバムすべて、数字がタイトルになっているんですけど。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)これ、なにを意味するのか?というと、まあおわかりだと思うんですが、アデルの年齢なんですよ。19、21、25。これ、つまりアデルのアルバムは彼女の成長の記録でもあるし、もっと踏み込んで言うと、アデルの恋愛の記録にもなっているんですね。
(熊崎風斗)はい。
アルバムはアデルの恋愛の記録
(高橋芳朗)で、本人も認めているんですけど、アデルは自分の実人生での恋愛体験を原動力にして作品を、アルバムを作っていってるんですよ。でもね、フランソワ・トリュフォーの映画に『アデルの恋の物語』っていう名作がありますけども。まさにね、アデルの3枚のアルバムは『アデルの恋の物語』っていう感じです。
(熊崎風斗)へー。
(高橋芳朗)だからリスナーはアルバムを通してアデルの恋愛の行方を見守っていく。そういう、成長を見守っていくような格好になるわけなんですよ。
(熊崎風斗)じゃあ前のシリーズとも、なんとなくこういう大人になってきたんだなっていうのがわかるんですか?
(高橋芳朗)そうそう。で、この『アデルの恋の物語』がですね、全作の『21』の時点でどういうことになっていたか?というとですね、とにかく波乱万丈で。決して上手くいっているとは言いがたい感じだったんですよ。基本的にね、この人、男運がめちゃくちゃ悪くて。ダメ男に苦しめられてアルコール依存症になったこともあるし、極めつけとしてはですね、インタビューで、さっき『恋愛を原動力にしてアルバムを作っていってる』って言ったけど、『私は失恋を糧にしてアルバムを作っているんです』みたいなことをインタビューで言うじゃん?
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)そうすると昔の別れたダメ男。元カレから電話がかかってきて。『俺はお前のアルバムに影響を与えているんだから、印税をよこしやがれ』とか。
(熊崎風斗)おおー!
(高橋芳朗)そういう金をせびられたりする始末なんですよ。だからシンガーとしてね、せっかく大成功を収めても、まだそういう境遇なのかよ?っていうね。
(熊崎風斗)そんなことがあるんですね。はー!
(高橋芳朗)もう『アデルの恋の物語』っていうか、『アデルの不幸な恋の物語』みたいになっているんですね。だからそんな傷だらけのアデルの悲痛な歌を、叫びを聞いて、リスナーの人は涙を流しているわけなんですけども。で、そんな中ですね、セカンドアルバム『21』をリリースして1年後。2012年に入ってから、アデルの人生に結構大きな転機が訪れてですね。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)環境慈善団体の最高経営責任者と交際を始めてですね、やがて妊娠して、めでたく男の子を出産したんです。
(熊崎風斗)おめでとうございます。
(高橋芳朗)おめでとうございます。だから幾多の試練を乗り越えて、ようやくアデルは幸せを掴んだ。
(熊崎風斗)掴んだ後に作られた曲っていうのもかなり多いわけですか?
(高橋芳朗)で、またちょっと話を戻すとですね、幸せを掴みとって、まあよかったよかった。めでたしめでたしってなるじゃないですか。普通は。で、でもここでまたひとつ、大きな問題が生じて。アデルが幸せになったことは一女性アデルとしては素晴らしいことなんだけど、果たしてシンガーアデルとしてはどうか?っていうことなんですよ。
(熊崎風斗)そういうことですよね。
(高橋芳朗)これ、どういうことか?っていうと、ひとつ例をあげるとメアリー・J.ブライジ(Mary J.Blidge)っていう、主に90年代に活躍した女性R&Bシンガーがいるんですけど。彼女もアデルと同じように、なかなかいい恋愛に恵まれなくて。で、そういうパーソナルな恋の痛みを歌に託してファンからの共感を集めていたシンガーなんですね。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)ところがキャリアを重ねて、アルバムを5、6枚出していく過程で、ようやく素敵なパートナーと出会って、幸せになってハッピーな曲を歌い始めたら途端にセールスがガターン!って落ちたんですよ。そういう事例があって。だから別に『人の不幸は蜜の味』じゃないですけど、なんか不幸な曲を歌うこと、不幸なイメージをまとっていることがメアリー・J.ブライジっていうシンガーの大きな魅力になっていたんですね。だから今回のアデルのニューアルバム『25』。素敵な恋人に出会って、かわいい男の子も出産して、シンガーとしても今世紀最高セールスを達成して、音楽シーンの頂点に立って。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)幸せの絶頂にいるアデルが何を歌うのか?っていうところにやっぱり注目が集まるわけですね。だからメアリー・J.ブライジのようにハッピーな歌を歌うのかどうか?っていうね。で、アルバムに先がけてリリースされた第一弾シングル。さっき後ろでかかってましたけど、『Hello』っていう曲なんですけども。この曲、アメリカ一位。イギリスでも一位を記録する大ヒットになっているんですけど。
Adele『Hello』
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)この『Hello』でアデルがどんなことを歌ったか?っていうと、別にハッピーな歌を歌っているわけでもなく、偽りの不幸を演じているわけでもなく。まあ、個人的にはこの手があったか!っていう絶妙な落とし所をついてきたんですけど。これ、本来ね、いちばんやっちゃいけないことだと思うんですけど。
(熊崎風斗)はい。
(高橋芳朗)ここでアデルが誰に『ハロー』って言っているか?っていうと、元カレなんですよ。元カレ。
(熊崎風斗)はー!
(高橋芳朗)つまり、『Hello』っていう曲は昔を懐かしんで、元カレに電話をかける歌なんですよ。ざっと歌い出しの部分を紹介しますと、こんな内容になっています。『ハロー、私よ。考えていたの。いまさら会ってもらえないかしら?って。すべてを水に流すために。いま、私はカリフォルニアにいて、あの頃の2人に思いを馳せている。私のしたことすべてをごめんなさいと言いたくて』って。
(熊崎風斗)ああー。
(高橋芳朗)で、アデルは今回のニューアルバムに関して、『前作がBreak Up(別れ)のアルバムだとしたら、今回はMake Up(償い)のアルバムだ』っていう風に言っているんですけども。
(熊崎風斗)そういうことか。
(高橋芳朗)そう。この『Hello』っていう曲も一応、『あの時は私が悪かったわ』って元カレに過去の過ちを謝罪するテイをとってはいるんだけど、歌詞を軽く紹介しましたけど、アデルの心の揺らぎが結構非常にスリリングっていうか。この人は本当に償いのためだけに電話をしているんだろうか?っていう気になるんですよ。
(熊崎風斗)本当に。旦那さん気分になったらもう、アデルさん、どうしてくれるのよ?って話ですよ。
(高橋芳朗)そうそうそう。ただでさえ、昔の恋人に連絡を取るっていうのは非常に危険な行動じゃないですか。
(熊崎風斗)タブーとされていることですよ。
(高橋芳朗)タブーですよね。しかもアデルの場合、かつてダメ男ばかり引き当ててきた前歴もあるわけだし。ちょっと破滅的な側面もあるわけだから。それを重ねあわせると、余計にこの曲での彼女が危うく映るんですね。だからもう、聞いている側としては、『誰か!この人を止めてください!らめーっ!アデル、らめーっ!』っていう感じになるんですよ。
(熊崎風斗)いや、ダメですよ。アデル。
(高橋芳朗)そうそうそう。『もう償いなんてしなくていいから、このまま幸せになって!』っていう気持ちになるんですよ。で、その『Hello』の曲の後、とどめを刺すようにアルバムからもう1曲、曲がリリースされたんですね。先行で。『When We Were Young』っていうんです。これ、訳すまでもないんですけど、『私たちが若かった頃』っていうタイトルで。
(熊崎風斗)まさか・・・
(高橋芳朗)そう。まるで『Hello』の電話が、その後も延々と続いて、元カレと昔話に花を咲かせているような内容になっているんです。だから、焼けぼっくいに火がつくというか。煙があがっているような感じなんですけども。で、『When We Were Young』をね、聞いていただこうと思うんですけど。でも、恐ろしいことに、この曲を聞いていると、もはや『アデル、らめーっ!』っていう感情よりも、なんかね、『ああ、自分も昔はこんな恋愛したっけな』っていう、アデルの歌力が強すぎて、完全にアデルの世界観に飲み込まれていく。
(熊崎風斗)へー。はい。
(高橋芳朗)ノスタルジーの感覚の方がね、強くなっていくんですよ。
(熊崎風斗)なるほど。でもそういう風にできるっていうのは才能がすさまじいってことですよね?
(高橋芳朗)そうそう。実際に欧米ではアデルの『Hello』を聞いて昔の恋人に連絡を取っている人が続出しているっていう話もあったりするんです。
(熊崎風斗)いやー、大変なことがアメリカで起きていますね。
(高橋芳朗)なんでちょっと今日はその問題の曲を聞いていただきたいと思います。本当にすごいボーカルなんで、じっくり聞いてください。アデルで『When We Were Young』です。
Adele『When We Were Young』
(高橋芳朗)現在大ヒット中のアデルのニューアルバム『25』から『When We Were Young』を聞いていただきました。まあ、リリースするタイミングがばっちりだよね。これから人肌恋しい季節に、寄り添い力の高い曲を聞くとかなりグッとくると思いますけども。
(熊崎風斗)しっとりとして、聞き入っちゃいますね。
(高橋芳朗)そうですね。熊崎くんは元カノに連絡を取ったこと、ありますか?
(熊崎風斗)ないですね(笑)。
(高橋芳朗)セーフ!
(熊崎風斗)セーフ!ということでランキングトークバラエティー『ザ・トップ5』はまだまだ続きます。
<書き起こしおわり>
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