町山智浩さんが2023年1月10日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を紹介していました。
(町山智浩)今日、実は紹介しようと思っていた韓国映画があるんですけど。それ、来週公開だったんで。今週公開の映画の話からね、しないとなんないんで。ちょっと予定を急に変更します。まず1本目がね、1月13日から公開の映画で。『モリコーネ 映画が恋した音楽家』というタイトルの映画を紹介したんですが。これは前に紹介したエンニオ・モリコーネというイタリアの映画音楽家作曲家のドキュメンタリーなんですよ。前に『たまむすび』でこのモリコーネが亡くなった直後に「こういう人だったんですよ」っていう紹介をしたんですけど。
だから普通の音楽では使えないような楽器を使う……口笛とか、あとは口琴っていうんですけども。口に挟んでビョンビョンビョン♪ってやるやつとか。ムチとかですね、そういったものを使ったり。あと、ピアノのその弦のところに下敷きをかませて……今、下敷きってみんな、使わないから言ってもわからないだろうね。その、板みたいなものを挟んでバシャン、バシャンっていう音にしたりとか。そういう感じで、普通の楽器を使わないで音楽を作る、非常に奇妙な作曲家の人だったんですけども。
そのドキュメンタリーで。その彼が音楽を当てた『ニュー・シネマ・パラダイス』っていう映画があったんです。もう名作中の名作ですけど。あれの監督のジュゼッペ・トルナトーレ監督がエンニオ・モリコーネに「あなたの音楽、すごい変なんですけど。一体、どうやって作ってるんですか?」って延々とインタビューしたドキュメンタリーがこの『モリコーネ 映画が恋した音楽家』っていうドキュメンタリー映画なんですけど。
jwaveモーニングクラシック、来週1月9日からの4日間は、1月13日公開の映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」にちなんで、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネを特集します。選曲しているだけで懐かしさが溢れ出すのも凄いなぁ。お楽しみに。#ohayomorning pic.twitter.com/mxAeST9NVS
— 田中 泰 (@Sputnik_001) January 7, 2023
(町山智浩)やっぱりね、この人はとんでもないですよ。モリコーネって人はイタリアのもう最高の音楽学院を出た……クラシックの作曲家として勉強して、最高の成績でそこを出るんですけども。歌謡曲をやるようになるんですね。食うためにね。ただ、彼自身は実験音楽家だったんで、普通の音楽を全然作らないんで。たとえば、これも前に話したんですけど。空き缶をポイッて投げて、空き缶がガランガラン……って落ちるのを、それをリズムとして歌謡曲にしちゃったりとか、そういうへんてこなことばっかりやって。歌謡曲でもなければ、実験音楽でもないし、クラシックでもない、謎の世界を作り上げていった人なんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、途中から楽器を全然使わなくて。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』っていう映画では、汽笛の音とかですね、線路はガシャンガシャンって切り替わる音とか、それだけで音楽を作ったりとか。すごいことをやってた人なんですよ。あと、懐中時計の時計の音とかね。で、このドキュメンタリー映画はこの人自身が実は天才だっていうことがわかる作品で。彼が作曲する風景が出てくるんですけど。普通、作曲ってどうやるんだと思いますか? クラシックの作曲って。
(山里亮太)ああ、たしかに。
(赤江珠緒)メロディーみたいなのをちょっと、ワンフレーズ、自分が思いついたところからちょっとずつ、楽器を増やしていく。で、オーケストラだったら、そうやって作っていくのかな?って。
(町山智浩)でも、オーケストラっていろんな楽器があるじゃないですか。なんで、全部の楽器の曲を書けるの? 作曲家って。ヴァイオリンがあったり、オーボエがあったり、クラリネットがあったり。でも全部、吹けたり弾けたりするわけじゃないじゃないですか。作曲家だからって。それなのに、どうして全部のパートの曲を書けるのか?って。僕はずっと謎だったんですよ。あと、一番謎だったのはベートーヴェンが耳が聞こえなくなってからも作曲家を続けていたじゃないですか。どうしてそんなことできるの?って。それがね、これを見るとわかるんですけど。
このモリコーネって人は、歌も歌わなければ、ピアノを弾かないで作曲するんですよ。で、本人も言うんですけど。「俺、音痴なんだ」って言うんですよ(笑)。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)それなのに……「ピアノもあんまりうまくないんだよね」って言うんですよ。でも、譜面にいきなりペンでバーッと曲を書くんですよ。全部のパートの。それで、プロにそれを渡すと、見事なオーケストラになっちゃうんですよ。
(山里亮太)ええーっ? なんで?
モリコーネの作曲術
(町山智浩)わからない。頭の中で全部、曲が聞こえていて。で、実際に自分でピアノとかで試さないで、頭の中で鳴っているのをそのまま書いていくんですよ。全楽器のパートを。で、証言する人とか、出てくるんですけども。喫茶店で打ち合わせをしてる間に、なんかやってるなと思ったら曲を書いてて。打ち合わせが終わったら「できたよ」って言ってそれを渡されたっていう。
(赤江珠緒)うわっ、すごいですね!
(町山智浩)「何者なんだ、このモリコーネって人は?」っていう。これはやっぱり人間の中でも、全然違う才能を持った人で。周りの人も「もう全くわからない。謎だ」って言っていて。そういう人なんですけども……イタリアのクラシックの世界では邪道と言われていて。「変な音楽ばっかりやっている」って。ピストルをバンバンみたいなね。エッチな映画の音楽とかもやってて。「あいつはもう、金に魂を売ったやつだ」ってバカにされていたんですよ。で、もうクラシックの世界ではいられないとなっていたんですけども。途中でね、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という映画があって。それでジェニファー・コネリー扮するヒロインのために書いた『デボラのテーマ』っていう曲があって。それは今、かかってるのかな?
(赤江珠緒)あ、かかってきた。
(町山智浩)これが実はすごく大きくて。そのイタリアのクラシック界の人たちがこれを聞いて初めて、実は映画音楽とか、そういったものを超えて、素晴らしい音楽をモリコーネは作っていたんだということで、評価をしたという。これ、ものすごく遅い音楽なんです。すごい遅いんですよ。で、これで初めて評価して。それまで学校の友達だったクラシックの仲間がずっと「モリコーネ? あの野郎!」みたいなことを言っていたのが涙を流して「ごめんなさい! 素晴らしい音楽でした!」って。それはもう、非常に泣けるシーンで。本当にね、素晴らしい映画がこの『モリコーネ 映画が恋した音楽家』です。ぜひ、ご覧いただくと結構驚くようなことがいっぱい出てくるんで。本当、全然知らなくても面白いですね。
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』予告
(赤江珠緒)そうですか!
<書き起こしおわり>