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町山智浩『コレクティブ』を語る

町山智浩『コレクティブ』を語る たまむすび
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町山智浩さんが2021年4月13日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアカデミー賞にノミネートされたルーマニアのドキュメンタリー映画『コレクティブ』を紹介していました。

(町山智浩)今日、ご紹介する映画は、もうすぐアカデミー賞なんですね。あと2週間後か。で、そのアカデミー賞でダブルノミネートされている映画をご紹介します。アカデミー賞の国際映画部門と長編ドキュメンタリー部門の二部門にノミネートされているルーマニアのドキュメンタリー映画なんですよ。『コレクティブ(COLLECTIVE)』っていうタイトルなんですが。これ、日本では秋公開ですね。で、『コレクティブ』というのはね、ルーマニアの首都ブカレストにあったライブハウスの名前なんですよ。で、そこが2015年10月30日に火災になったという事件が元になってるドキュメンタリーです。

で、そこでハードコアのバンド……ハードコアっていうのはなんというか、メタルとかパンクでも一番強烈なやつですね。そのバンドが演奏をしてたんですけど。Goodbye to Gravityっていう、「重力にさよなら」っていうバンド名なんですよ。安全地帯みたいなんですけど(笑)。それが歌を歌っていたら、彼らが電気花火ってわかりますか? スパークラーっていうんですけども。パチパチパチッて。

(赤江珠緒)火花が?

(町山智浩)そう。火花が散るやつ。ケーキとかに差すやつね。あれをね、演出でやっていたら、それが天井に燃え移って、一気にそのライブハウスが焼け落ちちゃったんですよ。で、その現場で64人、亡くなりました。

(赤江珠緒)ああ、ニュース、ありましたね。

(町山智浩)で、その亡くなった原因というのが、その天井に入れてた防音材が不燃素材じゃなかったんですね。普通は燃えないようにグラスファイバーとかを使うんですよ。ところが安くあげるために燃えるやつを使っていたため、それに一気に燃え移って。それは今、YouTubeでも映像で燃えるところが見れますけども。もう一瞬なんですよ。天井に火が広がって。で、その時の燃えた防音材のガスでほとんどの人が気を失った状態で焼け死んじゃったんですね。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、大問題になりまして。しかもそこ、80人しか収容できないところに300人以上入れていたっていうことで。それで、そのバンドの人もボーカル以外、全員死亡ですよ。すごいことになって。で、それに対して営業許可を出していた市とか、地元の消防関係者とか、そういうのに対して「一体何をやってるんだ?」っていう話になったんですよ。

(赤江珠緒)まあ、そうなりますよね。

(町山智浩)そこから、ものすごいデモが起こりまして。それがルーマニア全土に広がる大抗議デモになって。そこで結局、その市長であるとか与党の首相とかが辞任するところまで追い込まれたんですね。で、この映画『コレクティブ』ばそこからの話なんですよ。というのは、病院に入院した人が百何十人といたんですけども、その多くが次々に病院内で死亡していったんです。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)そう。なにかおかしいんですよ。っていうのは、ルーマニアだけでは治療をできないので。ものすごい重症の人とかはルーマニアの近くの外国の病院に運んで入れていたんですね。で、その人たちは死ななかったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、その人たちは助かって?

(町山智浩)そっちの方が火傷が重かったのに。ところが、軽い火傷だったルーマニアの病院に入った人たちは次々と死んでいったんですよ。

(赤江珠緒)それはおかしいですね。

(町山智浩)おかしいでしょう? で、ガゼッタという新聞がルーマニアにありまして。それがスポーツ新聞なんですよ。スポーツ新聞というか、いわゆるタブロイド。日本だと夕刊フジとか日刊ゲンダイみたいなものなんですが。そこの記者が「これはおかしい」と思って調べはじめて。そうしたら、その火傷の患者の治療に使っていた抗菌剤、病院で使っていたものをその記者が手に入れるんですよ。そして、それを調査に出したらなんと抗菌剤が10倍に水で薄められていたことがわかるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)だから菌が防げなくて。みんな、バクテリア感染で死亡していたことがわかってくるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、火傷じゃなくて、バクテリア感染で?

10倍に薄められていた抗菌剤

(町山智浩)そう。で、「これはどういうことなんだ?」ということで、ルーマニアのMinistry of Health……だから日本だと厚生労働省の大臣にあたる人を記者会見で追求をするんですね。そうすると、その厚生大臣は「我々がその抗菌剤を調査したところ、95パーセントは通常通りで効果的なんで。そのあなたの追求していることは間違っている」っていう風に、その記者の方を否定するんですね。ところが、さらにその記者……トロンタンという記者が調査をはじめて、他の研究者とかにその抗菌剤を出して調べたところ、200以上のルーマニアの病院で、その薄められた抗菌剤が使われていることが判明したんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? どうしてまた?

(町山智浩)で、「これはおかしい」っていうことになって、その厚生大臣も辞任に追い込まれるんですけども。その抗菌剤を作っていた会社がルーマニアのヘクシーファーマ(Hexi Pharma)っていう製薬会社であることがわかるんですね。で、その抗菌剤を国が認可していることもわかるんですよ。まあ、さっきも大臣が「大丈夫だ」って言ってましたからね。で、「これはおかしい」っていうことになってくるんですね。「どうしてこんなものが認可されているんだ?」って。で、そこで1人、ガゼッタの新聞記者の中にオタクがいまして。いろいろと調べたら、その抗菌剤の原料を買った元の会社が出てくるんですね。ヘクシーファーマが。ところが、抗菌剤をヘクシーに売った会社とヘクシーの社長は同じ経営者だったんですよ。

(赤江珠緒)えっ? そこが同じ?

(町山智浩)ダン・コンドリア(Dan Condrea)という人物が両方とも経営してたんですよ。要するにトンネル会社みたいなのを作って、その抗菌剤を7倍の値段で自分の会社に売っていたんですよ。ひどい話で。それをさらに10倍の薄めていたんですね。だから、大儲けなんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ! それを10倍に薄めていたんだ。

(町山智浩)大儲けなんです。しかもその病院の多くは公立病院で、さらにこの火傷に関しては国がお金を大量に出していたんですね。大変な、国家的な事態だったから、その治療に関しては国がものすごい補助金を出して治療に当たっていたんですけど、それを彼らが吸い上げる形になっていたんですよ。で、そのトンネル会社であげた利益を賄賂として政府関係者、厚生省の関係者、病院関係者に配っていたことが判明してくるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! じゃあ、そのあたりが全部繋がっちゃっていたの?

(町山智浩)繋がってくるんですよ。で、このダン・コンドリアが証言をするということになったんですね。その贈賄の事実について。すると、このダン・コンドリアは突然死んじゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? その会社経営者が?

(町山智浩)しかも、ものすごいスピードで木かなにかに激突して。車が木っ端微塵になって死ぬんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)これ、おかしいだろ?っていう話ですよね。で、警察は「自殺だろう」って言うんですけど、「本当かね?」っていうことで、前半はこの新聞記者が追いかけていく話なんですよね。で、この『コレクティブ』という映画、後半は主人公が変わってくるんですね。厚生大臣が辞任したんで、その代わりに新しい人が……政権が代わったんで。野党が政権を取ったんですよ。それまで、ずっと長期政権だった与党に代わって、自由団結結束党というリベラル系の野党が政権を取って新しい厚生大臣を任命するんですけども。

その人がものすごく頼りないメガネのヒョロヒョロッとした若者なですよ。若者といっても35歳ぐらいかな。ヴラド・ヴォイクレスク(Vlad Voiculescu)さんっていう人が任命されて。「僕、やります。頑張ります」とか言っていて。「これはダメかな?」とか最初は思っちゃうんですけども。そうしたら、この人がすごくバリバリと厚生省の腐敗を暴いていくんですよ。

(赤江珠緒)そういう闇の部分を。へー!

(町山智浩)で、この人、どうしてこんなことができるのかなと思ったら、この人は元々ね、社会運動家だった人なんですね。ヴォイクレスクさんという人は貧しい子供のがん患者たちを救うため、彼らの治療費を集める仕事をしてたんですよ。そういうNPOを作って。そこから、その貧しい人たちの医療のための運動家をずっとしているうちに、結局医療政治みたいなものの専門家として彼は任命されたんですね。で、彼は全く政治畑じゃなかったんですけども。

ルーマニアはずっと、チャウシェスクが倒れて以来、同じ与党が長期政権を握ってきたので、完全に腐敗していて。職業的政治家たちが人の生命を司る厚生省の大臣とかもやってるという状態になったんですね。で、彼らは別に医療とか何も知らないけれども、医療の利権の中にだけはいるんですよ。医療とか薬品の。で、彼らは自分の利権のことしか考えていないから、もうどっぷり腐敗していて、ひどいことになっていたんですけども、それまではわからなかったんですよ。このライブハウス、コレクティブの火災で初めてわかったんですね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)というのは、このヴォイクレスクさんが厚生大臣になってから、「この10倍に薄めている抗菌剤があるっていうことは、この事件が起きる前からもずっと使われていたということじゃないか?」っていうことで、それを調べ始めると、ずっとそれは使われいて、ものすごい人が死んでいたことがわかるんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ、そうなのか……。

長期政権の腐敗と癒着構造

(町山智浩)それをずっともみ消していたんですね。病院も。で、今度はその病院の理事長とかが逮捕されるという事態になってくるんですよ。すごいこの政治と大企業と病院のとんでもない癒着がどんどん暴かれていくっていう話なんですね。で、これはね、見ていると……これね、監督は最初にその新聞にスクープ記事が出たのを見て、「これは面白い」っていうのでカメラを持って、その新聞記者のところに行って。「ずっとこれからあなたたちが調査取材をしているのに付き添って、撮影をさせてくれ」って言って。それで撮り続けたものなんですね。

で、途中でこのヴォイクレスク新厚生大臣が任命されて、彼がいろいろとやり始めたら今度はこの監督は彼のところに行って。「厚生省の内側であなたが戦っているのを全部撮らせてくれ」って言ったんですね。そうしたら、全部撮らせたんですよ。これはすごい。日本の政治家は絶対にやらないですよね。これはすごいなと思って。その彼は絶対に腐敗のない男なので。それでやっていくんですけれども、彼もなかなか戦いきれないんですよ。

女性のお医者さんが出てきて。カメリア・ルイさんっていう人が病院内で火傷した患者たちがどんな状態になっているのかっていうビデオを送ってくるんですよ。新聞の方にね。それがすごく。もう体じゅうが腐敗して、ウジがわいている状態なのに、放置されているんですよ。ただ、それがどの患者なのか、どこの病院にいるのかみたいなことがあって。それを何とか助けなきゃっていうことで、このカメリアさんという告発者を厚生省が呼んで。このヴォイクレスク大臣が直接会って。「どうしたらいい? どこにいるんだ? 私が助ける!」ってやるんですよ。これ、すごいですよ。日本の大臣、こんなことしないですよ。絶対。で、「よし、助けるぞ!」ってなってその病院に電話したら「ダメだ……」って言うんですよ。「どうしたんですか、大臣?」「今電話したら、彼は死んだらしい」っていう。その患者も殺されちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)という、すごい話なんですよ。これ。とんでもないんですけどね。びっくりしましたけど。で、どうしてこんな事態になったのかっていうことで、この映画の中でわかってくるのは、まずものすごくルーマニアって投票率が低いんですって。与党はもう何十年も政権を握り続けていたんで、国民の政治に対する関心が本当に薄れちゃっていて。全然投票に来ないらしいんですよ。それが一番大きい原因で。あともうひとつはメディアがやっぱり長期政権で、新聞とかテレビが完全に政権との間に利権構造ができてしまっていて。で、大臣とかそういった人たちの話を聞けるかどうかがそのメディアの仕事ぶりとして考えられていて。「調査をする」っていうことをしなくなっちゃったらしいんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ、でもなんかそれ、ちょっと日本もなんかよく聞くような状況になってますよ。

(町山智浩)そうなんです。このトロンタンっていう記者がそう言うんですよ。「私のようなタブロイド紙がなんでこんな取材をしなきゃいけないんだ?」って言うんですよ。メインメディアやテレビはとにかく記者として政府の記者会見とかに入れることが大事だと思っているから、絶対こういうことしないんだっていう。

(赤江珠緒)いやー、ひどいよ。だって10倍に薄めていなかったら助かった人は間違いなくいたでしょうに。

(町山智浩)だからかわいそうなのは、この中で全身をものすごい火傷で。両手両足がなくなっちゃった人が出てくるんですよ。ところが、その彼女は生きてるんですよ。で、それを見た、火傷で息子を失ったお父さんが「うちの息子は彼女に比べるとはるかにちっちゃい火傷だったのに……」って言うんですよ。「なんで彼女が生きていて、俺の息子が死んだんだ?」って言うんですよ。まあ、ひどい話でね。ただやっぱりね、これでわかるのは、調査報道……「Investigative Journalism」というものが滅びてしまうんですね。長期政権でメディアが力を失っていくと。で、この新聞はこれでめちゃくちゃ売り上げを出したんですよ。でも、売り上げはそうやって特ダネで作るものであって。広告で利益を上げようとしちゃうと、どうしても大企業の言いなりになっちゃうんですよ。薬とかサプリとかを作っている会社は広告費をすごい使ってますからね。そうすると、彼らを批判できないっていう状態になるんですよ。薬はすごいんですよ。日本でもCM。本当に。アメリカでもすごいんですが。という、広告から離れて売り上げだけで、部数だけで成り立つジャーナリズムにならない限り、なかなか難しいんだということもわかります。

(赤江珠緒)これは考えさせられますね。

(山里亮太)見たい!

(町山智浩)これはね、もうぜひ見ていただきたいと思います。強烈な映画『コレクティブ』。日本公開は今年の秋です。

(赤江珠緒)本当ですよね。もう「忖度」という言葉が流行ってる場合じゃないと思いますね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『コレクティブ』予告

<書き起こしおわり>

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