町山智浩 エンニオ・モリコーネを追悼する

町山智浩 エンニオ・モリコーネを追悼する たまむすび

町山智浩さんが2020年7月7日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で91歳で亡くなった映画音楽の巨人、エンニオ・モリコーネさんを追悼していました。

(町山智浩)今日はですね、ちょっと予定を変更しまして。日本時間で昨日になるんですけど。エンニオ・モリコーネという大映画音楽家が亡くなりまして。その人についてちょっとお話したいと思います。この人、名前は聞いたことありますか?

(赤江珠緒)はい、あります。

(町山智浩)はい。

(山里亮太)あ、この曲、聞いたことある。

(町山智浩)はい。この曲は『荒野の用心棒』という映画の音楽なんですね。これが1964年に公開されて、全世界で大ヒットして。この音楽がとにかく世界を驚かせたですよ。これ、聞いていてまず口笛で始まるじゃないですか。その後、変な音がいっぱい入ってくるんですよ。

(赤江珠緒)なんか「ピュルルル♪」とか。

(町山智浩)そうそう。「ピュルルル♪」とか「パーン!」ってムチを叩くような音が入ってきたりとか。普通の楽器の使い方をしてないですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(町山智浩)はい。で、これはこのエンニオ・モリコーネという人がその西部劇をイタリアで作る時に、それまで西部劇というのはハリウッドで作ってたんですね。アメリカの話ですから。それをイタリアの監督とイタリアの制作者たちがハリウッドの俳優をスペインに呼んできて、スペインに荒野があるので、そこでロケして作った映画が日本ではマカロニ・ウエスタンと言われてるイタリア製西部劇なんですよ。

で、この『荒野の用心棒』っていうのはその最も初期のマカロニ・ウエスタンなんですけども。彼らが困ったのは「お金がない」ってことなんですよ。だからハリウッドの映画の場合には音楽はオーケストラなんですよ。でも、そうするお金はない。じゃあ、どうするかってことで変わった楽器をいっぱい使って、その面白さを出していくっていうやり方だったんですよ。最初は。

(赤江珠緒)それが結果、こういう曲?

(町山智浩)はい。すごい小規模なんですよ。で、口笛だから楽器がないわけですよ。明らかにそれは口笛だからね。

(赤江珠緒)たしかに!

(町山智浩)それと、その頃に流行っていたエレキギターを入れて……その頃ちょうどビートルズがデビューして大ブームになっていた頃ですからね。エレキギターが流行っていたんでエレキギターも入れて……という非常にその、それまでの西部劇とは全く違う。だって西部劇にエレキギターって入ってなかったですよ。それまで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だって西部にはまだ電気楽器はないわけだから(笑)。それを入れていって、すごく現代的な音楽にしたんですね。で、これがもう全世界で大ヒットして。どのぐらいヒットしたかというと僕、子供の頃、親父が不動産屋をやってたんで。あちこちに物件を見に行くっていうので車に乗せられていったんですよ。結構。

すると親父の車にはね、その頃ね、エイトトラックのテープというものがありまして。その頃ね、カーステレオってカセットテープじゃなかったんですよね。すごい巨大な弁当箱みたいなやつを入れるんですよ。それでずっとこのエンニオ・モリコーネのマカロニ・ウエスタンの音楽を聞かされていたんです、僕。

(赤江珠緒)わー、そうですか!

子供の頃からモリコーネの音楽を聞かされていた

(町山智浩)ちっちゃい頃に。それこそもう4歳とか5歳の頃ですけど。で、僕は全然西部劇とか知らないし、アメリカ映画も見たことないんですよ。その頃はまだ。ちっちゃいから。でもねエンニオ・モリコーネの音楽だけはね、全部知ってたの(笑)。

(赤江珠緒)へー! じゃあお父さまもちょっと西部劇モードになりながら?

(町山智浩)そうそうそう。子供を連れて仕事に行ってるんだけど、頭の中はたぶん荒野を走ってるんですよ(笑)。そういう人だったので。で、まあとにかく大ヒットして、ラジオとか喫茶店でガンガンかかるような世界だったんですね。モリコーネの音楽っていうのは。

(赤江珠緒)たしかに。うちの親もよく言いますもん。『荒野の用心棒』って。うん。

(町山智浩)ああ、やっぱり? 名前だけは知ってるでしょう? 『荒野の用心棒』って。だからそのぐらいね、すごいヒットしたんですけど。これはクリント・イーストウッドというアメリカの俳優がアメリカでテレビに出ていたんですけど、あんまり映画で売れてなかったんで、イタリアに出稼ぎに行って。ガンマンをやってですね、大ヒットしたんですけどもね。

(赤江珠緒)じゃあ出世作みたいな感じですか?

(町山智浩)そうです。それでスターになったんですよ。イーストウッドは。で、これがシリーズ化されていくんですね。監督はセルジオ・レオーネというイタリア人の監督で、イーストウッド主演でその『荒野の用心棒』の続編みたいなのがどんどん作られていくんですけども。それがまたね、毎回毎回変なことをやるんですよ。このエンニオ・モリコーネ音楽で。でね、その次に作られた映画がね、『夕陽のガンマン』という映画なんですけど。その音楽をちょっと聞いてもらえますか?

(町山智浩)これ、変でしょう?

(赤江珠緒)たしかに。「ビヨーン、ビヨーン♪」って……。

(町山智浩)「ビヨンビヨンビヨーン♪」っていうのが(笑)。これね、マウスハープという、「口琴」と書く楽器なんですよ。これね、アイヌのムックリと基本的に同じものです。

(赤江珠緒)ああ、ありますね。アイヌのムックリ。紐をピンと張ってやる……。

(町山智浩)そうそうそう。「ビヨーン、ビヨーン♪」ってやつ。それを西部劇に使っているんですよ。


(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、「その発送はなかった!」っていう感じなんですよ。

(赤江珠緒)でも、なんか本当に荒野っていうイメージですもんね。

(町山智浩)ねえ。でも全然荒野とマウスハープって関係はないんですよ。

(赤江珠緒)使っている楽器は、そうなんだ。

(町山智浩)だからね、実はこのエンニオ・モリコーネっていう人は元々イタリアなんで、オペラとかを研究してきた人なんですけれども。その一方でその当時、1960年代にすごく世界中で流行っていたのは「実験音楽」っていうのが流行っていたんですね。前衛音楽とか。それはたとえば、だからピアノを普通に弾くんじゃなくて、ピアノの中にいろんなガラクタを入れていろんな音を立てるとか。

リズムとかを破壊していったりですね、今までの音楽の枠から外れた、もう楽器じゃないものを使ったりとか。そういう実験がすごく流行った時、彼はその実験音楽のグループにいたんですよ。だからそれを映画音楽に持ち込んでいったんですね。エンニオ・モリコーネは。だから、マカロニ・ウエスタンなんだけれども、その一種の実験音楽でもあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

一種の「実験音楽」

(町山智浩)でね、その次のやつがまたすごいんですけど。『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』の音楽をちょっと聞いてもらえますか?

(町山智浩)これ、いわゆるインディアン……アメリカ先住民の太鼓なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! この「ピロロロローン♪」っていうのも?

(町山智浩)はいはい。これ、口笛が入っていて、あとはピッコロとかあとオカリナも使ってますね。ただ、一番おかしいのはさっきから言ってる「フアンフアンフアーン♪」って。これ、人の声なんですよ。

(山里亮太)ああ、やっぱりそうなんだ。

(町山智浩)そう。で、ここでエレキギターが入ってきて。で、ここからがすごいですよ!

(町山智浩)はい。すごい……「アイアイヤー♪」って言っているでしょう? あれはコヨーテっていう犬がいるんですよ。アメリカに。野犬のような、オオカミのような。それの独特の鳴き声を人が真似してるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)で、それに対してずっと何者かのボーカルで「ウワンウワンウワーン♪」って言っているんですよ。コメディみたいでしょう?

(赤江珠緒)本当だ。音を分析するとね。全体は聞いたことがありましたけど。1個1個がすごい意味があったんですね。

(町山智浩)意味があるんですよ。これね、この映画はお笑いなんですよ。この映画、南北戦争を舞台にすごくインチキでチンケな詐欺師みたいな男と、そのクリント・イーストウッド扮する謎のガンマンと、そのハゲタカみたいな、まさにコヨーテのような悪いやつと、その3人が三つ巴で金をめぐって争うという西部劇なんですよ。で、それぞれの今の楽器とか人の声がそのキャラクターを示してるんですよ。その3人の。

で、マヌケなインチキな男のキャラクターは「ウワンウワンウワーン♪」なんですよ。で、ものすごい悪いやつはコヨーテの声なんですよ。で、口笛はいつものようにクリント・イーストウッドなんですよ。三作続けて出ていますから。口笛はクリント・イーストウッドのテーマなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それが乱れて……入り乱れてるところに突然、進軍ラッパが鳴るんですよね。「パパパパパパーッ!」って。あれは戦争が始まるんですよ。この映画は南北戦争の話で、クライマックスはその南軍と北軍の大戦争になっていくんです。スペクタクルに。だからこの映画の自体のスペクタクルなストーリーをわずか3分以内に収めちゃった音楽なんですよ。

(赤江珠緒)はー! 面白い!

(町山智浩)ものすごい不思議な、変なことをしてるんですよ、これ。で、そういうことをやっていたんで、そのひとつの映画音楽という枠を超えた画期的な音楽としてエンニオ・モリコーネという人はもう世界中から注目されたですね。で、まあその後にそうじゃない、非常に商業的な音楽にもなっていくんですけども。あまりにもその音楽がすごすぎて、映画がコケても音楽だけ当たるっていうことになっちゃうんですよ。エンニオ・モリコーネって。

(赤江珠緒)ええっ?

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