石山蓮華・でか美ちゃん・町山智浩『バービー』を語る

町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る こねくと

石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2023年8月15日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前週、町山智浩さんが紹介した映画『バービー』を見た感想を話していました。

(石山蓮華)そして先日、7月25日に町山さんにご紹介いただいた映画『バービー』。こちらも早速、私もでか美ちゃんも見えてきました!

(でか美ちゃん)見てきました!

(町山智浩)どうでした?

(でか美ちゃん)今日はちょっとね、その感想戦、多めに話そうっていう風に町山さん、おっしゃってくださったんで。

(石山蓮華)町山さんが私たちに「映画の感想を聞きたい」って言ってくれるんだっていうのが、まずめっちゃ嬉しくて。

(でか美ちゃん)嬉しい、嬉しい。

(町山智浩)いや、『バービー』はだって女性の感想を聞きたいですよ。

(でか美ちゃん)たしかに。作品を見ると、そう思った。

(石山蓮華)なんか本当に私自身、始まってからずっと結構、笑ったり泣いたり、いろんな気持ちが止まらなくて。まあ、本当に最高の映画だなと思って。Tシャツも買って帰りました。

(でか美ちゃん)「バービーランド」って書いてあるTシャツを。

(石山蓮華)Tシャツ、買いまして。そしてその映画の最後のセリフっていうのが結構、メッセージもしっかり強いし、印象的なものだったんですけど。私はあのセリフに完璧に感化されて、自分の卵巣のMRIの画像を全面にプリントし、後ろに最後のセリフを1行、ポンッと書いたオリジナルTシャツを発注しました。

(でか美ちゃん)ええっ? それ、私もほしい(笑)。あ、でも自分の卵巣の方がいいか。まあ、そんなこだわりがあるかどうかは……。

(石山蓮華)でも全然、あげるよ(笑)。

(町山智浩)すげえ!

(でか美ちゃん)感化のされ方、独特(笑)。でもいいね。ファッションにするっていうのもね。

(石山蓮華)それぐらい、そのメッセージ性っていうのをポップに表現してくれるから。だから自分でもまず、気づいたところから行動してみたい。「動いてみよう」って思える、本当にいい映画でしたね。

(でか美ちゃん)ねえ!

(町山智浩)僕はね、そんな反応とは思わなかったんですけども(笑)。

(でか美ちゃん)まさかTシャツを作るとは……って(笑)。

(町山智浩)びっくりしたんですけど(笑)。僕はね、見ていてすごくね、「これ、どうしようか?」って思いましたよ。

(でか美ちゃん)それはなんか「ギクッ」みたいなことなんですか?

(町山智浩)そうそう。だからケンっていう男性たちがいて。バービーランド、ケンしかいないんですけど。ケンがたくさんいるんですが。彼らが革命を起こしちゃって。それまで、女性が支配していたバービーランドを乗っ取って、まあ政権を取っちゃうじゃないですか。それで今度はバービーたちがさらにケンからバービーランドを取り戻すため、ケンたちを罠にはめようとして。で、彼女たちが「男を罠にはめるのは、実は簡単よ」っつって。それで「私、『ゴッドファーザー』を見たことないんで。解説してくれない?」って言うところ、あったじゃないですか。

(石山蓮華)ありましたね(笑)。

(町山智浩)すると、もう超嬉しそうにケンたちが「『ゴッドファーザー』っていう映画はね、フランシス・フォード・コッポラとね、ロバート・エヴァンスがね……」とか言い始めるんですけど。

(でか美ちゃん)「見たことないの?」って言いながらね(笑)。

(石山蓮華)「あの名作を?」って(笑)。

(町山智浩)その解説をする時に、もう超嬉しそうだし。で、あそこで「とにかく男たちっていうのは何かを説明させたり、解説させたり、『教えて』って言うと超喜ぶのよ」って言っていた時がありましたよね?

(でか美ちゃん)教えたがり、みたいなね。

(町山智浩)教えたがり屋ね。で、ケンたちがずらっと揃って、もう何百人ものケンが一斉に「教えます!」って言うんですけど……「俺、それ仕事だから!」と思いましたけどね(笑)。

(石山蓮華)アハハハハハハハハッ! いや、私もその映画を見てる時に「ああ、町山さん、このシーンどうやって見てるんだろう?」って(笑)。

(でか美ちゃん)私も思った(笑)。

(町山智浩)もう本当に「どうしよう?」と思って。

(でか美ちゃん)町山さんの場合はね、ご職業というか。これはその「プライベート文化うんちく語りたがり男性」の話だから。ケンの場合は。町山さんは職業ですから(笑)。

(町山智浩)一応、職業だけど。でもあの映画『バービー』の中では、その男の教えたがりっていうのは一種の男の欲望として描いてるじゃないですか。

(石山蓮華)マンスプレイニングですね。

(町山智浩)で、それをすごい快感として描いていて。あれ、いわゆるマンスプレイニング(mansplaining)っていうんですよね。英語だとね。「男は教えたがりだから」っていうね。で、あの時、バービーたちがそれを聞いてる表情というのがみんな、「はいはい」って顔で聞いてるじゃないですか。

(でか美ちゃん)「聞いてあげてる」顔なんですよね。

(町山智浩)そうそう! もうその状況でさ、なんていうの? 女の人たちは接待してるわけじゃない? でも、男たちはそれに誰も気がついてないんだよね。

男たちのマンスプレイニング問題

(でか美ちゃん)ねえ! だから私も見た感想としては、ちょっとやっぱり今日、番組でいろんなお話をしてるんで。やっぱり映画の公式Twitterのこととかは私もすごくいろいろ思うところはありつつ、どの国も企業の中の人のアカウントって炎上しがちなんだなっていう。その、あるあるっぽい部分もあるのかな、とかも思いつつ。やっぱりあの件があったからってこの映画を見ないっていう風なストッパーがかかってるんだとしたら、本当にもったいないと思いました。ぜひ見てほしいし。なんか、もはやあのTwitterの1件とか、ああいうものをなんか冷笑的に見たりとか、その戦争みたいなものをああいう視点で面白がっちゃうみたいなのって、それこそ……もちろん男性だけの責任じゃないという前提はありつつ。いわゆる男社会の成れの果てだと思ったんですよ。あのムーブメント自体が。なんか不謹慎なことを面白がってみる。「俺は強いぞ」みたいな。

だからこの『バービー』自体がそういうもの全体をすごく皮肉たっぷりに描いてて。かつ、別に説教臭くない作品だったから。めっちゃ見てほしいと思いましたね。面白かったし。私が一番……まあ「男、女」ってあんまり分けてもあれなんだけど。象徴的だなって思ったのが、バービーたちがバービーランドで「ガールズナイトよ! ケン、バイバイ!」みたいな感じでね、女たちだけで毎夜毎夜パーティーしてるんですけど。ガールズナイトは、ガールズナイトなんですよ。でも、ケンたちがケンダムって。「男の国だ!」ってやっていた時に、そのケンたちのボーイズナイトには女の接待が必要だったんですよね。ボーイズナイトには女も参加してるんですよ。でも、そのお酒を出したりとか、マッサージしてあげるわよっていう。そこは、男だけの世界ではないんですよね。ボーイズナイトは。

(石山蓮華)発言権がない女が発生するのがボーイズナイトなんですかね。

(でか美ちゃん)そうそう。で、ガールズナイトの良くない点を挙げるとすれば、ボーイズを排除しているっていう部分があって。それがすごい男女の差があるなって思って。なんか、その作品としてグレタ・ガーウィグさんは女性のそういう……その女は男性をちょっと排除しすぎてしまうみたいな部分も描いているし。男の人はどういう場面でも女性の手助けを必要としてしまうっていう部分も描いていて。どの角度でも皮肉に、ポップに描いていて。すごいなと思いました。面白かったです。本当に。

(町山智浩)うんうん。基本的に全部、ギャグにしてるから、全然押し付けがましくないのと。あと、僕がすごいなと思ったのは、ケン同士を戦わせるじゃないですか。バービーがお互いに嫉妬をさせて。それで男同士が戦い始めるんだけど、戦ってる様子が戦争になるんですけど、遊んでるようにも見えるでしょう?

(でか美ちゃん)そうですね。人形のごっこのね。

(町山智浩)そうそう。で、スポーツをしてるようにも見えるし、お祭りみたいにも見えるの。要するに騎馬戦みたいなことをして。

(石山蓮華)神輿を担いで、みたいな。

(でか美ちゃん)盛り上がっているように見えちゃうっていうね。

(町山智浩)そうそう。でもね、実際、人類史的にはね、戦争も祭りもスポーツも同じものなんですよ。発生源が。スポーツっていうのは一種の戦争のシミュレーションだったり。お祭りって結構ほら、男同士がそれこそ喧嘩祭りっていうのがあったりして。で、神輿同士で戦わせたりとかね。実際に人が死んだりするのもあるんですけど。世界中、みんなそうで。だからあれ、全部実は祭り、戦争、スポーツっていうのは同じものなんだっていうことを一瞬で描いちゃってるんで。って、こんな風に言うと、とまたマンスプレイニングになるんで、解説ができない(笑)。

(でか美ちゃん)もちろんでも、その知らない、知りたいことを聞きに来てる時は本当にありがたいですよ。それは男女関係ないですからね。

(石山蓮華)解説とマンスプレイニングって非常に近しいところにあると思うんですけど。でも今回、やっぱり私たち、町山さんのお話を伺いたいし。町山さんのお話、好きだし。だから、これからも解説はお願いします!

(でか美ちゃん)そうですよ! それは本当に……町山さん、怖がらないで!

(町山智浩)こうやって許してもらっているのも、バービーの罠かと思うじゃないですか(笑)。

(でか美ちゃん)だから本当、堂々巡りになっちゃいますよね。「これも言わせてるのかな?」って。でもそういう、町山さんみたいに「俺、大丈夫か?」って思える人は大丈夫って言ったらちょっとざっくりしすぎかもしれないけど。

(町山智浩)いや、この間もね、本当に『ゴッドファーザー』をカミさんに見せて解説したばっかりだったから(笑)。

(でか美・石山)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)「うわっ、俺、やってんじゃん!」っていうね(笑)。「ヤバい!」って思ったですけどね。

(石山蓮華)でも、私が『バービー』がすごくいいなと思ったのは、やっぱり女性の物語であり、そのケンっていう男性の物語でもあるんですけど。描いていることが字幕版では「男社会」ってなっていたけど。その個人というものが家父長制によって、それぞれの性格とか、ファッションとか、嗜好とかじゃなく、「こうあるべき」にとらわれてしまうということから解放していこうっていう。そこがやっぱりこれ、女だけの映画でもないし。男だけの映画でもなくて。これはみんなの映画だっていうのがめちゃくちゃ面白くて。「これは自分を取り戻す物語だな」と思って。

「これは自分を取り戻す物語」

(町山智浩)そうですね。途中で、バービーのことが子供の頃から好きだったお母さんが出てきて。彼女はマテル社で働いてるんですけども。彼女は大人になってみたら全然、バービーみたいに宇宙飛行士にもなれないし、大統領にもなれないし、お医者さんにも、パイロットにもなれないっていうので、自分がすごく惨めな気持ちになってきたっていう話をしますよね? で、彼女は突然、そこから演説に入ってくんですけども。

(でか美ちゃん)あれ、いいですよね!

(町山智浩)「女って生きるのが大変で。ちょっと太ると『太ったね』って言われて、痩せると『痩せすぎだ』って言われる。『リーダーシップを取れ』って言われるから一生懸命やると『女のくせに威張るな』って言われる。もう、どこへも行けないけれども一生懸命それでやっている。『女だから母にならなきゃ』って言われるから、一生懸命お母さんとして頑張ると『子供のことばっかりかまっていて。子育てを仕事に持ち込むな』とか言われたりする。女はどこにも行けない!」っていう話をするじゃないですか。

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(町山智浩)で、実はそのバービーっていう人形は宇宙飛行士とか、ファッションデザイナーとか、いろんな職業、可能性があるんだけども。その普通に女性が生きていくっていうことを救ってくれないんじゃないか?っていう……これ、すごい。バービーのお金で作ってる映画なのに、バービーの問題点を指摘するっていうので、あの映画はすごいことになっていますよね?

(でか美ちゃん)すごかった。マテル社の懐の深さって言ったらあれなのかもしれないけど。「でも、開き直ってもらっても困るんだよ」っていう。

(石山蓮華)あと、このバービーを作っているマテル社のCEO役のウィル・フェレルが出てきて! めっちゃよかった!

(でか美ちゃん)本当に面白かったのが、急いでエレベーターに乗ってバービーを追いかけなきゃいけないとか、そういう場面でも「エレベーターを開けて! あ、でもボタンは僕が押したい!」とか「ここが通れない!」とか、あれがね(笑)。

(石山蓮華)会社員あるあるみたいな(笑)。

(町山智浩)ねえ(笑)。あれ、重役が11人いて、全部男で。そういう風になっているんですけど、本当はマテル社の重役は11人中、5人は女性なんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですね。

Board of Directors | Mattel, Inc.
Our Board of Directors is comprised of global leaders from various fields and industries, with a broad and diverse range...

(町山智浩)そう。ただ、「マテル社」っていう会社名にも問題があって。「マテル(Mattel)」っていうのは2つの名前を合体させたものなんですね。それはバービーを作ったルース・ハンドラーさんの旦那さん(エリオット・ハンドラー)ともう1人、ハロルド・マトソンさんっていう人の名前を合体させてマテル(Matt+Elliot=Mattel)っていう風になっているんですけども。実は、そのマテルを作る最初のアイディアを出したバービーの創作者のルース・ハンドラーさんの名前はマテル社の名前に入ってないんですよ。

(石山蓮華)女性不在なんですね。

マテル社の内部事情も全て描く

(町山智浩)そう。本当は彼女が作ったのに。で、そういう問題とかも全部描いていて。「私がマテルを作ったのよ」ってルースさん、言うじゃないですか。でも彼女の名前は残ってないんですよ。いろんな問題を……結構、マテルの内部事情とかも全部……ルースさんが脱税したとか、そういうことまで言っちゃっていて(笑)。普通、そんなのチェックが入るでしょう? 「これ、脱税とか関係ねえだろ?」とか。でも、全部言っちゃうっていうね。すごい映画ですよ。

(でか美ちゃん)いろんな角度から面白かったですね!

(石山蓮華)そして先日の町山さんの『バービー』の解説は各種ポッドキャストでも配信されていますので、ぜひ予習としてもご活用いただければと思います。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る
町山智浩さんが2023年7月25日放送のTBSラジオ『こねくと』で映画『バービー』を紹介。『バービー』が革命的作品であると話していました。
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