土井善晴「和食の初期化」に至るまでの道のりを語る

星野源 土井善晴流の味噌汁で生き方が変わってきた話 星野源のオールナイトニッポン

土井善晴さんが2022年12月20日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で「和食の初期化」という考えに至るまでの道のりについて、星野源さんと話していました。

(星野源)その感じが本当にあって。それをすごく、わかりやすい言葉でこの本は書かれているじゃないですか。で、今回聞きたかったのは、土井さんってお父さんが料理のものすごい有名な方で。そこからフランス料理を修行されに行ったり。日本に戻ってきて、味吉兆で修行をされて。で、その後、自分のこのスタイルというものにたどり着くわけじゃないですか。で、ちっちゃい頃から料理っていうものをお仕事にされてるお父さんがいて。それをまた、その「料理を仕事にしよう」と思ったところからの「和食の初期化」っていうところにたどり着くまでって、どんな道だったのかな?っていうのをすごく聞きたいんですよ。

(土井善晴)それは私、人生を今から語ることになりますよ(笑)。

(星野源)そう。なんで今日、6時間ぐらい必要かなって思うんですけど(笑)。

フランス料理修行と料亭での修行

(土井善晴)いや、本当を言うとね、やっぱり一番最初はフランス料理で。それこそフランスに行ってね、三ツ星のレストランとかで仕事をする。その時に、まあ言うたらその頂上というか、三ツ星っていうようなものに命がけの人たちがいてて。だからそれのために、なんだろう? 財産を潰して破産してしまうような、そんなレストランがあったり。それで二つ星に降りるって言うたら、もうそれが負担になって自ら命を絶つみたいな人も出てくるぐらいの。みんながそれに、価値観がすごかったんですよ。

そうして、そういうものの世界を知るわけですよね。そやけど、まあまあ、日本に帰ってきて。自分が日本料理のこと何にも知らんいうことに気がついて。日本人やのにね。そして日本の味吉兆に行くわけですけども。そこなんかでも、価値観いうのがやっぱり、すごく綺麗なもので。富士山でいうと頂の雪の白いところの世界をやってるわけですよ。で、それが最高やと思って、すごい……とにかく自分がいてる、今やってることが最高やと思ってやっていて。

それがある時、ちょっと父に3月3日、おひなさんの時にね、言うたらもう春やから。木の芽、山椒の芽をハマグリのおつゆに吸い口って、香りのものと季節のものを添えるんがあるんですよ。吸い口、いうんですね。香りのもの。そしてね、父は柚子を……柚子って、冬のもんですよ。今頃から、ずっと柚子を……柚子湯とかする時期から、おひなさんの頃まであるわけですよ。そうすると、父が柚子を使ってるから、私としたら「木の芽を添えた方がいいんと違うか? みんな、料理屋ではそうしてる」っていう話をした。そしたら「いや、善晴。大阪の船場とか、そういうような旦那衆のお家では『3月3日を柚子の使い納めとする』っていう昔ながらのそういう話がある」っていう。そういう話が背景にあるわけですね。

で、実際に3月3日に山椒の芽なんか、自然界にはないわけですよ。芽が出てないんですよ。まだ寒いから。だからそれを先取りにして……いうことで。促成野菜って、ちょっと人間が温めたりして作った木の芽を使ってるのはええけども。それはほんまのことと違ういう話ですねん。だけどもやっぱり、そういうことをひとつずつ聞くと、自分の知らんことだらけです。だって、富士山の一番雪のかかることしか知らないんですよ。サンマも、そんなの全然使ったこともないし、みたいな。そんな仕事しか、してない。「イワシが好き」なんか言うたら、バカにされるみたいな世界におるわけですわ。美味しいものは白身の魚。鯛やヒラメやハモやっていうような世界しか。

だけども、そういう青背の魚とか、イカ……スルメイカなんて言うたら、使わないわけでしょう? そしたら、そういうような一般の人たち。庶民が、みんなが暮らしの中であるというのは富士山のすそ野の隅っこまで、もう私の知らんことだけやったんですわ。

(星野源)そこに家庭料理があったんですね。

(土井善晴)そうそう。そこに家庭料理があるし。素晴らしい食文化があるし……いうことなんですよね。

(星野源)それでいろいろ、いろんな土地を回ったりとか、研究をされて。

(土井善晴)知らんことだらけなんですよ。だって料理屋言うたら2ヶ月とか3ヶ月ぐらい、季節を先取りですわ。だから1月を新春言うて。1月からもう春ですねん。そうでしょう? だいたい、それでもう2、3、4を春として、5月になったら夏ですわ。5、6、7。それで8月いうたら秋ですね。そうしたら、現実の私たち。お天道様が暑いな言うてるような盛りの時、言うたら秋半ばから終わりみたいな話になってくるから。

旬いうのがグワッとずれてるんですよ。だから何でも先取り、先取りいうようなことでしょう? そしたら、そんな野菜なんて現実にないのに、それを使う言うたら促成野菜いうことで。それが「走り物」言うて。初物を喜ぶっていう。先取りした、縁起のいいものばっかり。まあ、ほんまのこというたら、美味しないわけですよ。

(星野源)ああ、なるほど。旬よりも早いわけですもんね。

(土井善晴)そうそう。美味しないから、出汁っていう話やないんですけれども。まあ、言うたらそんなに美味しいものを目指してない世界ですね。綺麗なものを目指してる世界です。それは清らかなもの。だから「綺麗なもの」いうのがすごく大事で。日本の社会では「切り落とし肉」っていうのも、綺麗に整えたロースや綺麗に整えたヒレいうのがあって。あと全部、その周りについてる細かい肉とか、脂身とかは全部切り落とすわけです。それを「切り落とし」いうて。別に売ってるけども。

とにかく「綺麗に整えたものが一番よい」ということなんですよ。で、そういうような綺麗にすること、いうようなものばっかりで食べられるところ言うたら、やっぱり魚やったら半分しか使ってないわけでしょう? 1キロの魚ったら400から、まあ500グラムもお刺身は取れへんわけですわ。あとの600ぐらいが本当になんか、まかないで食べることもあるけども。ほとんどね、廃棄することの方が多いみたいなのが料理屋の世界で。綺麗なところ。

だから必ずしも美味しいものということじゃないんですよ。綺麗なものなんですよね。清らかなものを尊ぶいう、神さんに近づくような世界と、庶民の一物全体っていう。ひとつのものの命を作ってるもの、なんでも、捨てないでムダにしないで食べよういう、そういう普通の庶民の生活の中の食べ物と。やっぱりこの2種類があるわけですわ。これでもうケ・ハレとかね、そういう言い方するやけども。

ハレの日の料理と、日常の料理

(土井善晴)ハレの日の料理と、日常の料理と。そういう風にね、いろいろと考えたり。そういうような生活みたいなもの……「本当って何?」っていうことでしょう。だから、ええとこばっかり……今、普通の私たちの生活なんかでも、ええとこばっかり気にしてたら、高いものがいいとこやいうことで。その高いものを買ってきて美味しいと思ってるから。なんでも高いもん出したら、そういうような廃棄するところがすごく多いんですわ。

(星野源)なるほど。

(土井善晴)そうすると、ムダが出るわけじゃないですか。そしたら、いろんなものがムダになったり。今やったら地球環境とか、そういうようなものとかにね、私たちの生活なんかでも非常に贅沢で。あるいは「それ、栄養素がないかもしれん」みたいなものを食べて、それでしっかり食べてるつもりになってるけど。実際の問題いうのはもう、それの3分の1ぐらいしか、ええとこは食べてない。栄養素を取ってない、いうことになるからね。

(星野源)土井さんがそういう風にいろんなことを考えながら生きてこられて。で、土井さんの言葉ってものすごく面白いなと思うんです。で、難しい言葉を使ってないのに。でも「料理は哲学である」という風におっしゃってるじゃないですか。で、その哲学性みたいなものをものすごく感じるのと。あと、その「和食の初期化」っていう、そういうもので。たとえば全部、意味はわからなくても、なんかパッと伝わってくるものがある。その語彙力みたいなものって、どういうところから培われたんですね?

<書き起こしおわり>

土井善晴「尻上がりに美味しいもの」「探し味」を語る
土井善晴さんが2022年12月20日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』にゲスト出演。星野源さんと「尻上がりに美味しいもの」や「探し味」について話していました。
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