宇多丸と宇垣美里『鎌倉殿の13人』最終回を語る

宇多丸と宇垣美里『鎌倉殿の13日』最終回を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんと宇垣美里さんが2022年12月20日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』最終回について話していました。

(宇多丸)で、もったいぶってもしょうがない。1年間、やりました。大河ドラマ。NHK『鎌倉殿の13人』。で、私はとにかく宇垣さんにお礼を言いたいんです。というのは、大河ドラマを通しで見るというのはなかなか習慣として私の中でここのところ根付いておりませんで。そこで宇垣さんがちょうどね、佐藤浩市さん演じる上総介が亡くなられたところのくだりですごく、まあ皆さん的にも盛り上がっていて。ある意味、最初のそういうダークな盛り上がりっていうのかな?

(宇垣美里)一番最初のね、山場と言ってもいいでしょう。

(宇多丸)そうですよね。そこで「うわーっ!」ってなっていて。で、「そんなんだったら……」と思って。「今なら間に合いそうだ」っていうんで。「ああ、そういえば昔、同じ時代を扱った『草燃える』っていうのがあって。僕の中で北条政子はずっとあの岩下志麻さんだな」っていうことで、見始めたという。だからあの時点で、とはいえ上総介ぐらいの時に言ってくださって。それで追いついておいたから、もちろん毎週楽しみでしたし。私、すいません。先に最終回を見た結論。やっぱりあの最終回のあり方をしたことによって、言いたくはないけど、名作になったと思います。本当に。

(宇垣美里)本当に!

(宇多丸)あの、素晴らしい終わり方だったと思いますね。

(宇垣美里)「そうか、死ぬ間際って、そこだけが残るのね」っていう気持ちになりまして。いや、本当になんていうか、「っていうか、主役って誰だったんだっけ?」ともなりましたし。

(宇多丸)でも、マイケル・コルレオーネ……まあ、『ゴッドファーザー』だって言っていたじゃないですか。で、小栗旬さんが1年通じて、本当に見事に演じ分けられてこられた義時は明らかに『ゴッドファーザー』で言うマイケル・コルレオーネ。だから、どんどん組織を守るために非情な選択をしていって、どんどん人間性を失ってしまう。で、その前の代のボスと……要するに『ゴッドファーザー』だとお父さんの代。ヴィトー・コルレオーネと違うのは、人徳っていうか、愛嬌っていうか。

同じ冷酷な選択をしても、こっちは愛されるのになんで俺は愛されないんだ?っていう。で、マイケルもやっぱり最後、まあいいよね。言ってもね。最後、ある種、野垂れ死ぬじゃないけども。もう全てを引っぺがされて、椅子の上でこう、ボトッとなって。だから、まあ『ゴッドファーザー』的な終幕としても見事なものでした。あと、なんか静かに終わっていくのがよかったなと思って。

(宇垣美里)そうですね。

(宇多丸)なんかもうひと上げとかしないで、下がって、下がって、人生の黄昏。下がって……。

(宇垣美里)最後の伸ばした15分。伸ばした15分をこの2人の会話に使うんだっていう。

(宇多丸)北条政子との2人のね。

(宇垣美里)やっぱり徹頭徹尾、これはホームドラマであったし、家族の話だったんだっていうのをすごく感じましたね。

最後の15分、義時と政子の会話

(宇多丸)しかも、なんて言うかな? 「ああ、そう来たか!」っていうか。義時の最期、どうやって……なにがどういう形でなるのかな?って思ったら、そういう、ある意味、政子のこういう選択の結果で……っていうのもあるし。あと、やっぱり僕ね、「これはすげえな!」と思ったのは、この最後の間際になって、頼家に手をかけたのは……っていう話が出てくるじゃない?

あれは、だから『ゴッドファーザー』で言えば、お兄さんを手にかけたのは……とか。要するに「あなた、本当はやってないわよね?」「いや、やってません」って言い張ってきた件というのは『ゴッドファーザー』でも何個かあるわけですよ。それを最後の最後で「あ、言っちゃった」っていう。

(宇垣美里)ポロリと。

(宇多丸)あそこ……要するに、最後の最後にもう血も涙もないことを入れてくるなっていうね。

(宇垣美里)でも、それが復讐だったか?っていうと、それはすごく、その復讐の部分もあったかもしれないけど。すごく救いみたいなものも私は感じて。「ああ、もうこれ以上、この子をこの道に進ませるわけにはいかない」みたいな。

(宇多丸)「これ以上、罪を重ねることはしないでいい。お疲れ様」みたいな。

(宇垣美里)「もういいんだよ」みたいな、ある種の救いにも感じて。だから、悪女的な部分もあったかもしれないけど、すごくやっぱり尼であるっていう。その救いみたいな面も見えて。この2人じゃないと、できなかったんじゃないかって。

(宇多丸)そこでやっぱり芸達者の小池栄子さんというかね。だからやっぱり、小栗さんもそうですけど。序盤のコミカルな感じ……っていうか、コミカルな感じっていうのはずっと通じて、特に北条政子はありましたけど。やっぱりその両面が……威厳とか、あとはいろんな複雑な感情。もうとにかく、小池さんはめちゃくちゃ上手い人だから。だから、あそこはやっぱりあの2人。小栗さんと小池栄子っていう二大巨頭の。

(宇垣美里)あの2人だからこその、この終わり方よ!っていう感じがしましたし。

(宇多丸)これ、出てきた人は全員、株を上げたじゃないですか。今回は。その中でもやっぱりあの2人っていうのはね。

(宇垣美里)で、たぶん改めて総集編が流れるので。それでちょっと予告みたいのが流れてて。最初から振り返るのを。もう声の高さから、顔から、なにもかもが違うんですよ! 「うわっ、こんなに変わったんだ!」っていうのも。

(宇多丸)ねえ。大学出たてで兵隊から帰ってきたマイケルがね、こんな顔になっちゃうか、みたいなね。

(宇垣美里)片田舎の、しかも次男坊ですよっていう人が。なんか「みんなに頼まれ事しちゃってどうしよう? ヘロヘロ」みたいな子が。

(宇多丸)そうですね。序盤はそういうことですよね。

(宇垣美里)それがあんた、こんなに、まあ……っていう。素晴らしかった!

(宇多丸)とにかく、そうですね。本当にだからあの終わり方は見事なものだったと思いますよ。うん。そうなんだよな! あと、ちょっとこれもね、まだご覧なってない方がいたらネタバレになるかもしんないけど。吾妻鏡というね、その北条家を称えるために後世に書かれた歴史書。これが今回の一応、大きなひとつのネタ本にもなっていて。その吾妻鏡。「ああ、これをこうやって使うんだ!」みたいなのとかも、うまいなって思っちゃいましたしね。

(宇垣美里)「えっ? ええ!?」って思いましたけど。

(宇多丸)いや、でも本当らしいですよ。あの人が吾妻鏡を愛読してたらしいんですよ。だから、で、そこから見事にバトンを渡して。次のシリーズ、お話にバトンをつなぐ。ここもなんか粋なもんだし。

吾妻鏡でバトンをつなぐ

(宇垣美里)いや、本当に見終わった後、泣くとか……泣いてるんですけども。なんか、呆然とするみたいな。

(宇多丸)だから、割と感動した泣くだの、悲しいでも何でもいいけど。その単色じゃない終わり方だったのが良かったかなっていう。

(宇垣美里)「息ができない……」みたいな。息が上がっちゃって。っていうぐらい、なんというか、すごくひそやかで、しめやかで。でも、なんていうか、もうこれしかなかったなっていう。

(宇多丸)ポジティブなあれもあるし、恐ろしい場面でもあるし。

(宇垣美里)まさに、報いですよね。これまでしてきたことの報いを受けたわけだから。彼も。そしてもちろん、お姉ちゃんも。彼女は見てこなかったっていう報いをここで受けたわけだし。

(宇多丸)そうですね。だし、ある意味何もかもを奪われているのは政子の方かもしれないからね。本当にね。

(宇垣美里)そして最後に……っていうのも含めて、いやー、すごかった!

(宇多丸)最後にあの仏像をっていうようなところもね、言っちゃえば、なんだろうな? 『市民ケーン』におけるバラのつぼみじゃないけど。彼にとっての、やっぱり最後に戻りたかったところ、みたいな感じもするし。

(宇垣美里)運慶、ピカソか!って思いながら見てましたけども。

(宇多丸)うん。あの作った像ね。あそこでね、普通に喜べばいいのにね。「おおっ、なかなかこれは……!」って。

(宇垣美里)「アナーキーな!」って(笑)。

(宇多丸)「うん、エネルギッシュだね! 俺、こんな見える? こういうオーラに見えます?」みたいな。

(宇垣美里)でも、あれこそが……「ああ、この仏像、八重にすごくそっくり!」なんて言ってた頃との違い。「ああ、もうあなたは隣に並べもしません」っていう感じがまた出てて。そうなんです。だから最後に来て、すごく八重さんのことをもう1回、思い出す回でもありましたしね。

(宇多丸)僕はだから、あの時はあの人はまだいい人だったからいいけど。「お前、なんかそもそも歴代の女房に甘やかされすぎなんだよ! そこがお前のこうなった原因でもあるんじゃないか?」って。

(宇垣美里)そう! 義時は好きな人にことをナメすぎなんですよ。だから結局、お姉ちゃんのこともめっちゃナメてたじゃないですか。政子のことをナメてたから、あんなことを言っちゃったし。そう。ナメすぎ。

(宇多丸)ナメすぎね。そうそう。だから一生懸命ね、慌てて床のなんかを舐めようとしていましたけども。パッと拭かれちゃってね。

(宇垣美里)でも、それもな、生かすかっていうよりも、そんな情けないことをさせるかっていう感じもしましたし。

(宇多丸)いや、すごい。だから最後の最後に容赦のない演出の数々。素晴らしかったと思います。そして、その全てを僕は宇垣さんに教わったというか。

(宇垣美里)ありがとうございます!

(宇多丸)宇垣さんのひと押しがあったから見たわけだから。

(宇垣美里)いや、やっぱり布教はしてナンボっすね!

(宇多丸)そうね。あともちろん、いろいろ僕の興味の軸とか、そういうところと一致するかどうかももちろんね、あるんで。そこもバシッと合いましたし。三谷さんのね、特に映画作に関してはいろんなことを言ってきましたけど。そこは別に意見、そんなに間違ってるとは思いませんが。これに関しては本当に素晴らしかったです。そう思っております。

(宇垣美里)三谷幸喜さん、やっぱり群像劇を書かせたら……っていうところ、ありますよね。

(宇多丸)あと、やっぱりなんていうか、いい話みたいなところになると僕は違和感を感じる時があるんだけど。「それ、いい話か?」みたいな。でも、こういう単色じゃない何かというかな。こういう時にすごくやっぱりいい。終わり方に関して、三谷さんの舞台もいっぱい見ているRHYMESTERマネージャーの小山内さんが「舞台の終わり方の余韻に近い」っていうことをおっしゃっていて。言われてみれば、そうかもしんない。こういう終わり方の舞台って、あるよね。こう、倒れて。そこで暗くなって、パチパチパチパチ……っていうような。

三谷幸喜の舞台作品の終わり方の余韻に近い

(宇垣美里)「万歳!」ではない、複雑な心境で。これ、総集編が12月29日にNHK総合でありますし。もっといい形で見たい。4Kで見たいっていうんだったら、またBSとかであるみたいなんですけど。これ、総集編になるとね、また今まで出てこなかったカットとか、出てくるんですよ。

(宇多丸)えっ? そんなディレクターズカットみたいなことをするの?

(宇垣美里)とか、総集編にするために違う画角のやつを使ったりとか。

(宇多丸)マジで!

(宇垣美里)私が今まで見た感じだと、時々そういうことがあるので。きっと『鎌倉殿』もあるんじゃないかなと個人的には思っていて。

(宇多丸)あと、特別編みたいな感じでね。この今まで見せてなかったUFOの中、見せますみたいな。そういう感じで。

(宇垣美里)まとめるために、キュッとするためにそれを差し込むみたいな。

(宇多丸)ああ、なるほど。そうか。接着剤としてのそういうショットを。

(宇垣美里)そうです。全部は無理なので、4章に分けてやるみたいなので。ちょっとそれも見なきゃなって思ってる! 昼から夜まで!

(宇多丸)「私、思っている!」って(笑)。はい。ということで私にとってはもう宇垣さん、本当に師匠です。ありがとうございました、ということでございます。

(宇垣美里)ありがとうございます。

(宇多丸)『鎌倉殿の13人』、本当に1年間、面白うございました。ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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