町山智浩と宇多丸『リチャード・ジュエル』を語る

町山智浩と宇多丸『リチャード・ジュエル』を語る アフター6ジャンクション

町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さんと2020年に公開される映画をトーク。クリント・イーストウッド監督最新作『リチャード・ジュエル』について話していました。

(宇多丸)もうちょっと行きましょうか? ああ、リスナーメールですね。

(日比麻音子)はい。メールをいただきました。「2020年、楽しみな映画は年明け早々に公開されるクリント・イーストウッド監督最新作『リチャード・ジュエル』です。年々、作る映画が渋くなっていくクリント・イーストウッド監督ですが、前作『運び屋』はかなり好きだったので今作も楽しみです。すでにご覧になったであろう町山さんの解説をお聞きしたいです。なおアトロクでは公開のタイミングで町山さんをゲストに呼んでクリント・イーストウッド総選挙を開催してほしいです」。

(町山智浩)イーストウッドもまだ元気ですよね。また彼女もね、若いのをとっかえひっかえ……(笑)。

(宇多丸)そこは相変わらなんですね(笑)。

(町山智浩)あれ、すごいなと思ってね。

(宇多丸)『運び屋』でもね、だってほら、コールガールを2人呼んじゃって。で、「医者を呼んでくれー!」とかって言って。「このクソジジイ!」っていう感じでしたけど。

(町山智浩)だってインタビュー場所に自分で車を運転してくるんだもん。

(宇多丸)もう免許返納した方がいいんじゃないか?っていう。

(町山智浩)そう。それを言ったんですよ。ラウンドテーブルで新聞社がいっぱい集まっているところで。それで俺が「また運転してきたんですか? もうやめた方がいいんじゃないですか?」って言ったら「黙れ」って言われましたね(笑)。「俺に意見するのか?」みたいな感じでね(笑)。

(宇多丸)イーストウッドに言われちゃあね。これ、ご覧になったんですか? 『リチャード・ジュエル』。

ポール・ウォルター・ハウザー主演

(町山智浩)はい。見ていますよ。これはね、ポール・ウォルター・ハウザーっていう俳優さんがいて。『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』でもう本当にダメな襲撃犯という、本当にボケでバカでっていう実在の人物なんですけども。

(宇多丸)『ブラック・クランズマン』にも出ていたし。

(町山智浩)そう。『ブラック・クランズマン』でもKKK、白人至上主義団体のメンバーなんだけども、本当に愛らしい。

(宇多丸)あとは『Cobra Kai』でもね、やっぱりいろいろやってましたしね。

(町山智浩)まあぽっちゃりなんですけどね。いつもどこかで抜けていて。

(宇多丸)僕はネット上で悪意のある書き込みとかを見たら、「これはポール・ウォルター・ハウザーが書いているんだ」っていう風に思うようにするという知恵を使っています(笑)。

(町山智浩)そうでしょう? ダメなネトウヨの役を彼、やったりするわけですよ。今回はそういう風に差別されている彼がテロリストだと思われるっていう話なんですよ。もう30すぎて定職もなく、お母さんと一緒に暮らしている……。

(宇多丸)いつもの役だ(笑)。

(町山智浩)そう。いつもの彼。彼女いない歴と年齢が同じみたいな感じで差別されていて。「だからあいつはテロリストなんだ」って思われちゃった男の話なんですよ。

(宇多丸)じゃあ、今までのポール・ウォルター・ハウザーの演じてきた役のイメージを逆に逆手に取ってというか。

(町山智浩)そう。「こういうやつがやるんだよ!」みたいな感じになっちゃって。で、実際にあった話なんですけど。だからそのへんはイーストウッドらしくて、面白いですね。

(宇多丸)あの例の『ハドソン川の奇跡』でもやっぱりいいことをやったはずなのに疑われるみたいな。その構造も……要するに、国家とかメディアとか諸々、そういうのシステムに対する不信感みたいな。そういうのもイーストウッドらしいテーマかなっていう感じがしたんですけども。

(町山智浩)そうですね。今回、だから特に問題になっているのはFBIがずっとやっている「プロファイリング」なんですよ。で、プロファイリングっていうのはその人の性格とか行動とかから「犯人だ」っていう風に特定していくんですけども。で、それが『羊たちの沈黙』で有名になったんで。

(宇多丸)『マインドハンター』でね。Netflixでやっているやつでも。

(町山智浩)でも、よく考えるとこれは大変なことなんですよ。証拠もなしに犯人だって決めつけるわけですから。

(宇多丸)ガワから。

(町山智浩)そう。それこそ「犯人の家を探してみたらゲームがありました!」みたいな。

(宇多丸)「どこにでもあるわ!」っていうね。

(町山智浩)「犯人の家を探したらエロ本がありました!」とか。「映画秘宝がありました!」とか。「もう、こいつは危ない!」っていうね(笑)。

(宇多丸)「仮面ライダーのTシャツがありました!」とか(笑)。

(町山智浩)「仮面ライダーのTシャツを着ています!」みたいな。もうその服装とか行動から犯人だと決め付けるっていうのをFBIはやっているっていうことの恐ろしさなんですよ。で、プロファイリングってその後、「これは素晴らしい、画期的な捜査方法だ」って言われたんだけど、よく考えると偏見に基づいているんですよ。で、その怖さみたいなものを描いているのがこの『リチャード・ジュエル』なんですよね。

プロファイリングの恐ろしさを描く

(宇多丸)なるほど。はい。これもね、やっぱり最近のイーストウッド映画の……予告がすげえできていて。『アメリカン・スナイパー』とかもそうだし。あの「撃つのか? 撃たないのか?」じゃないけど、今回もこの「『爆弾をしかけた』っていっぺん、言ってみ?」っつって。それでグーッと寄っていって『リチャード・ジュエル』って。これは見たいよ!っていうね。

(町山智浩)だからそういうイーストウッドらしいところがあるんですよ。まあFBIに対しては前に彼がFBIの創始者のジョン・エドガー・フーヴァーというのがいかにひどい人で。自分がゲイであることを自分で認めることができないから、人のセックスをテープに録って脅迫するっていうことをずっと繰り返してきた人がそのFBIというものを創設したんだけども。それを徹底的に『J・エドガー』という作品で描いていったじゃないですか。あんなことができるのはイーストウッドだけなんですよ。

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(宇多丸)ディカプリオががんばってやっていましたよね。

(町山智浩)ディカプリオがね、女装してやっていたんですけども。まあ、今回もそういう話なんですよ。

(宇多丸)なるほど。『リチャード・ジュエル』。こちらも楽しみですね。

<書き起こしおわり>

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