山下達郎 レコーディング技術の変化とキャッチアップを語る

竹内まりや 山下達郎の自宅レコード棚を語る NHK FM

山下達郎さんが2022年6月25日放送のNHK-FM『今日は一日”山下達郎”三昧2022』の中でアルバム『SOFTLY』のレコーディングの様子をトーク。前作からの11年間で変化したレコーディング技術への対応などについて話していました。

(杉浦友紀)達郎さん、レコーディングの様子を伺いたいんですけど。

(山下達郎)最近はエレクトロニックなので、シンセのオペレーターと2人で延々、打ち込みで。基本的な打ち込みのデータは家で打ち込んでいくんですけど、音とか、それをどういうシンセで鳴らすとか、どういうドラママシーンで鳴らすかとかは、スタジオでやりますんで。そのデータに基づいてやるんですね。それが70%ぐらいで。あとはスタジオに行ってドラマー、ベース、ギター……僕ですけど。あとキーボード。それで数曲。そんな感じです。

(杉浦友紀)結構順調に進んだんですか? 今回は。

(山下達郎)今回はね、だからその、ここ11年ぶりじゃないですか。だから本当にそのレコードのテクノロジーっていうのはどんどんどんどん変わってきて。で、90年代的な方法っていうのは結構崩壊してきたんですね。で、だいたいね、こういう技術っていうのはやっぱりね、学ぶわけですよね。たとえばマイクの立て方とか、イコライザーとか、言いますけど。そういうマイクを立てて、向こうのコンソールでどうやるかとか。

それを経験を積んでやるんですけど、だいたい40代、50代になるとそのシステムが変わるんですよね。で、それが変わった時にそれについていけるかいけないかっていうのがすごい問題でね。よく言うんですけど、ノミとカンナで削ったいのが、いきなりレーザーメスを渡されて。「今日からお前、これを使用しろ」っていう。で、その時に「冗談じゃない! 俺はノミとカンナしか使わねえんだ!」っつって。そうすると、仕事がなくなるんですよ。

(杉浦友紀)ああーっ!

システムが変わった時についていけるか?

(山下達郎)だから、カメラ。カメラマンって今、フィルムじゃないじゃないですか。全部、デジカメでしょう?

(杉浦友紀)そうですね。

(山下達郎)デジカメじゃないと仕事、来ない。漫画家の人も、昔は紙でちゃんとインクで書いていたけども、今はもうほとんどiPadでやるでしょう? だってそれで、もうネットで原稿をアシスタントに渡して着色するっていうね。もうそれのシステムに乗れない限り、仕事は来ないんですよ。それの時にどうするか?っていう。「俺は冗談じゃない」つってやるか、新しいテクノロジーにどう乗っかっていくか?っていう。そういう戦いがあってね。それはものを作ることとは全く別問題であるんですよ。

で、結局この10年間、それがね、逆に言うといい意味でアナログからデジタルになった時の問題点みたいのがやっぱりある意味で、要するにすごく改善されてきている。この3年ぐらい特にね、そういうことをすごい強烈に感じたんで。どこがどういう具合に変わって、どこを変えるべきか。で、どこは変えなくていいか。それをね、8ヶ月ぐらいそのオペレーターと2人で延々、やったんですよ。一昨年の暮れぐらいから。それで「これだ」っていう結論になって、そこからレコーディングを始めたんで。レコーディング自体は半年ちょっとぐらいで、さっとあがったんです。だから曲書きはそれとは別にやってましたから。

(杉浦友紀)じゃあまず、レコーディングの前のその準備段階が時間がかかっているんですね?

(山下達郎)かかっています。

(杉浦友紀)でも、そこちょうどいい塩梅のところが見つかって?

(山下達郎)見つかってますね。はい。それはシンセのオペレーターの橋本くん。四半世紀……25年ぐらい一緒にやってるんですけども。彼が今回、だからエンジニアも全部1人でやって。それですごくいい結果が出ましたね。

(杉浦友紀)へー! そんなに技術の面って変わるんですか?

(山下達郎)変わりますよ。だって今、自動車はこれからEVでしょう? それがでも、実は「Newest is the best」じゃないんで。なんでもかんでも新しいからいいかっつったら、そんなことはなくて。そういうところの批評性とか、そういうものを持ってないと。もうどんどん引きずられていくから。

「Newest is the best」ではない

(杉浦友紀)新しいことに対して、今言ったように「Newest is the best」じゃないっていう感覚と、でも昔のことから新しいところにやっぱり踏み出さなきゃいけないっていう感覚。ここ、結構バランスを取るのは難しいなっていう気がするんですけども。

(山下達郎)何を捨てて、何を守るかっていう。もう、だからこれは僕らの仕事だけじゃなくて、全てに通じて言えることですね。政治的なことでもそうです。経済的なことにもいえますよ。資本主義とかね、いろんな言い方があるじゃないですか。そういうもの全てに関してやっぱり、関わってきますよね。だいたい、僕らの仕事だと50代にそういうことをすごい突きつけられるんです。

(杉浦友紀)つい、頑固になってしまう瞬間も?

(山下達郎)もちろん。僕、どっちかつったら頑固ですから。未だにあのイヤモニっつって、ライブでイヤホン、使いませんし。

山下達郎 ライブでイヤモニ(イヤーモニター)を使わない理由を語る
山下達郎さんが2022年6月25日放送のNHK-FM『今日は一日”山下達郎”三昧2022』の中でライブでイヤモニ(イヤーモニター)を使わない理由を話していました。

<書き起こしおわり>

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