高橋芳朗 BTS『Butter』を語る

高橋芳朗 BTS『Butter』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2021年5月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でBTS『Butter』を解説していました。

(宇多丸)はい。高橋芳朗さん、よろしくお願いします。今日は情報が詰まっていそうですね。

(高橋芳朗)はい。もうさっそく行きましょうか。今日はBTSが5月21日にリリースした新曲『Butter』の解説をするということで。さっそくまずは聞いてもらいたいと思います。BTSの新曲『Butter』です。

BTS『Butter』


(宇多丸)はい。さっそくお聞きいただいているのはBTSの新曲『Butter』です。ということで、高橋芳朗さんには毎月、この企画をやっていただいております。

(日比麻音子)最新の洋楽情報や注目の新譜を紹介していただいております。前回は4月28日(水)、ブリトニー・スピアーズについて改めて彼女のキャリアや功績を楽曲とともに振り返りました。

(宇多丸)あのブリトニー特集も非常に勉強になりました。好評でした。

(高橋芳朗)ありがとうございます。

高橋芳朗 ブリトニー・スピアーズの功績を語る
高橋芳朗さんが2021年4月26日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、日比麻音子さんとブリトニー・スピアーズのドキュメンタリー『Framing Britney Spears』やブリトニー・スピアーズのポップミュージックに対する功績について話していました。

(宇多丸)今日は冒頭からBTS『Butter』を聞きますけども。今日は高橋芳朗さん流というか。まさにヨシくんならではの分析ですね。この曲の。

(高橋芳朗)そうですね。洋楽的観点から話を進めていけたらと思います。

(宇多丸)このAメロパートとかが相当にキーだと思いますよ。キモはここでしょうね! ここは、これは味が出るよ!

(高橋芳朗)ジョングクが手の甲にチュッとキスするところでぶっ倒れました!

(宇多丸)今日はそういう解説なんですか?(笑)。

(高橋芳朗)いやいや、そういうのも挟みつつ……(笑)。

(宇多丸)わかりました。ヨシくん、よろしくお願いします。

(高橋芳朗)お願いします(笑)。

(中略)

(宇多丸)ということで今夜はBTSの新曲。今、後ろでは『Dynamite』という大ヒットした曲が流れてますが。さらに出てきた新曲『Butter』を洋楽的目線でヨシくんに解説していただきます。よろしくお願いします。

(高橋芳朗)よろしくお願いします。「洋楽的目線で解説する」っていうのは、この『Butter』が今、後ろで流れてますね。去年8月21日にリリースした『Dynamite』に続くBTSにとって2曲目の完全英語詞の曲というところにも基づいてるんですけども。

(高橋芳朗)もう世界のポップミュージックシーンをひっくるめて、今年の上半期最大の注目のリリースと言ってもいいじゃないかなと思いますけどね。で、アフター6ジャンクションの3月放送の「沼落ちするにはワケがある! K-POP入門入門!!」っていう特集があったじゃないですか。

(宇多丸)はい。K-POPのいわゆるビジネスサイクルというか。それが非常によくできてるというお話で。

(高橋芳朗)たしか水曜日の特集でした。その時にK-POPの新作リリース……「カムバ」っていうやつですか。それにあたっての、ティーザーで期待感を高めていくっていう、そういうスタイル、様式みたいなものが紹介されていましたけども。今回のBTSの『Butter』に関してもリリースのアナウンスがされてから実際に曲が発表になるまで約1ヶ月弱ぐらいかけて情報が小出しにされていったという経緯があるんですね。なので今回の解説はこの少しずつ明かされていった手掛かりと共に、どんなサウンドをイメージしていったかっていうのを時系列に沿って解説していけたらなと思います。

(宇多丸)なるほど。小出しになった情報順にというかね。なるほど。

(高橋芳朗)で、まず始まりはですね、4月26日の23時だったんですけど。BTSの公式YouTubeチャンネルに「What’s Melting?(なにが溶けているの?)」っていうタイトルとともに1本の動画が公開になったんですよね。

(日比麻音子)これ、もう「うわっ!」ってびっくりしましたもんね!

(高橋芳朗)BTSのロゴマークが入った黄色いキューブ型のバターがゆっくりハート型に溶けていくっていうアニメーションなんですけども。この溶けかかったハート型のバターが今回の『Butter』のアートワークというか、アイコンになるんですね。で、この動画をもって5月21日の韓国時間13時にBTSの新曲『Butter』がリリースされることが正式に発表になりました。

(高橋芳朗)で、この『Butter』のリリース告知直後に発表になったプレスリリースでは、英語詞であることに加えて曲の内容について、こういう説明がされていたんですね。要約すると「ダンスポップベースの軽快なムードにソフトでいてカリスマ性に富んだBTSの魅力が感じられるサマーソング」っていう。まあ、ちょっと抽象的でどんな曲かは全然わからないんですけども。で、ちょっとここで大前提として、今年の前半の欧米のポップミュージックのざっくりとしたサウンドの傾向を確認しておきたいんですけど。

結論から行くと、まだ去年、2020年のムードを引きずってるようなところがあるんですね。具体的には80年代リバイバルとかディスコリバイバルみたいなところなんですけど。まあ、そもそも今もなおチャートの上位に留まり続けている『Dynamite』のサウンドもそういう土壌から生まれてきたっていう背景があるわけなんですけども。

(宇多丸)うんうん。むしろ正統派ディスコですね。

(高橋芳朗)で、欧米ポップミュージックの今の気分を知る上で、ちょっと1曲わかりやすいサンプルを聞いてもらいたいんですけど。もうこれは超ビッグネームですね。スーパーボウルのステージにも立ったことがある、イギリスのコールドプレイです。コールドプレイが5月6日にリリースした『Higher Power』っていう新曲をちょっと1コーラスだけ聞いてもらえますか?

(宇多丸)はい。コールドプレイ2021年の新曲『Higher Power』なんですけど。めっちゃ80’sポップス!

(高橋芳朗)そうなんですよ(笑)。で、この曲は2020年の最大のヒット曲になったザ・ウイークエンドの『Blinding Lights』。あの曲を手がけたマックス・マーティンをプロデューサーに起用しているんです。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。じゃあもう完全に同じ路線だ。あれはa-haの感じでしたけども。


(高橋芳朗)思いっきり80年代リバイバルのあおりを。

(宇多丸)ビートからしてね、久々にこういう感じのシングル曲を聞いたわっていう感じだよね。

(高橋芳朗)ちょっと80’sアリーナロック的なというんですかね。

(宇多丸)いろいろな曲のパーツをちょっと思い出しますけどね。うん。

(高橋芳朗)だからコールドプレイ……現行随一のモンスターバンドのコールドプレイも現状、こうした80’sサウンドを打ち出しているような感じっていう。

(宇多丸)なんか本来のコールドプレイのイメージからしたら、一番80年代的なチャラポップっていうのは遠いところにあったものなんだけど。本当に時代の趨勢っていう感じですね。

(高橋芳朗)で、この潮流を作った立役者のザ・ウイークエンドも今年に入ってからまた『Save Your Tears』っていう曲で1位を取っているんですね。

(高橋芳朗)あとはフー・ファイターズみたいなハードロックバンドも今年の2月に出した新作では影響元としてデヴィッド・ボウイの1983年に大ヒットした『Let’s Dance』を挙げているような、そういう事態になってるんですね。

(宇多丸)止まらないね。80’sリバイバル、随分前から続いているのにね。でも、なんかリバイバルのポイントがやっぱりデュア・リパぐらいからさ、どんどんいなたみっていうのかな? 歌謡みっていうのかな?

(高橋芳朗)振り切っていますよね。

(宇多丸)うん。なんか味濃いダサみの方に行きがちっていうか。

(高橋芳朗)比重を置いているような感じですよね。

(宇多丸)やっぱりデュア・リパは相当口火を切ったと思うけどね。

(高橋芳朗)先見の明ですよね。で、こういう欧米のポップミュージックの状況と、あとは『Dynamite』のインパクトだったりロングセラーぶりから考えても、この『Butter』がこのへんのトレンドのイメージから大きく外れることはないだろうなとは思いましたね。だからプレスリリースの「ダンスポップベースの軽快なムード」っていうのもまあ、そういうことなんだろうなって。

(宇多丸)まあ、80’sなんだろうなと。

(高橋芳朗)はい。その時は受け止めたですけども。で、この後に『Butter』のリリースに向けての動きとしては、5月2日から17日にかけて2、3日おきぐらいにコンセプトクリップとかティザーポスターとかティザーフォトが公開されていったんですね。で、5月19日の午前0時。リリースの2日前にミュージックビデオのティザーが公開になったんですよ。で、ここで初めてどんな音かがわかったんですけども。で、このティザーが20秒ぐらいのモノトーンの動画なんですね。で、横一列に並んだBTSのメンバー7人がその『Butter』のイントロと思われるビートに合わせて首を振ってリズムを取るっていう、ただそれだけのシンプルな動画だったんですけど。ちょっとその『Butter』のインストゥルメンタルをかけてもらえますか?

『Butter』のベースライン

(高橋芳朗)もうね、このティザーはこのへんでブチッと切れるんですよ。

(宇多丸)だから本当に最初のベースが入ってきて……というところぐらいしかないわけですけども。このむき出しの状態で聞くとより「あっ!」っていう感じがしますよね。我々とかはね。

(高橋芳朗)だから、たった20秒ぐらいなんだけど、ものすごい示唆に富む20秒だったんですよ。で、もうこのティザー動画でも『Butter』のイントロのベースラインがクローズアップされてるわけですけど。

(宇多丸)そこだけ聞かせてるんだもんね。だってね。

(高橋芳朗)そうそう。で、これは後になってわかることなんですけど。『Butter』の曲の後半のメンバーでリーダーのRMのラップで「All the playas get movin’ when the bass low」っていうラインがあるんですね。「ベースが響き渡ればみんなが踊りだす」みたいな意味だと思うんですけども。で、今回の『Butter』のキモ、大きなポイントのひとつはやっぱりこのベースライン。

(宇多丸)Aメロのベースライン。はい。

(高橋芳朗)ここにあると思うんですね。で、このティザー動画で明らかになったその『Butter』のベースラインに欧米のメディアが速攻で素早く反応を示していて。

(宇多丸)だって誰が聞いたって一連の……。これ、一連が始まるね。

(高橋芳朗)で、すぐに「あるロックの名曲に似ている」と指摘されたんですね。で、その曲がクイーンのディスコナンバーの『Another One Bites the Dust』。1980年の全米ナンバー1ヒットなんですけども。ちょっと聞いてもらいましょう。


(宇多丸)はい、ご存知といいましょうか。クイーンの大ヒット曲です。

(高橋芳朗)どうですかね、日比さん。

(日比麻音子)「あっ、そうじゃん!」って今、言っちゃいました(笑)。「これじゃん。そうじゃん」って。

(高橋芳朗)で、面白かったのはこの『Butter』のティザーにクイーンのTwitterの公式アカウントがリアクションしたですよ。『Another One Bites the Dust』の歌詞に「Are you ready? Hey, are you ready for this?」っていうフレーズがあるんですけども。その部分を引用しつつ、フレディ・マーキュリーのGIF動画を添付して「Another One Bites The Dust × #BTS_Butter」っていう投稿をしたんですね。だからこれ、ある意味クイーンから曲に御墨付きを与えるようなツイートなんだなっていう風に受け止めて。「えっ? 『Butter』ってもしかしたら『Another One Bites the Dust』をサンプリングしているの?」って思ったんですけども。

(宇多丸)でも、ちょっと違うもんね。モロじゃないもんね。っぽいけどね。

(高橋芳朗)でも、それに示し合わせてクイーン側がリアクションをしたのかと思ったんですよ。

(宇多丸)ああ、なるほどね。今時はどのラインでクリアランスを取るとかも、いろんな……それこそ裁判のラインとかもいろんなラインがあるから。だからひょっとしたらクリアランスを取っているのかと思ったんだ。

(高橋芳朗)ある種のプロモーションの一環としてね。でもまあ、特にそういうわけではなかった。

(日比麻音子)だから普通にクイーン側がファンと同じ目線で見て。「あっ、これ似てる!」とか「一緒じゃん」って乗っかったっていうことですね?

(宇多丸)だから「#お前らのルーツはあくまで俺だとは言っておきたい」ですね。

(高橋芳朗)アハハハハハハハハッ! メディアが結構騒いでいたから、クイーンもそのBTSの新曲リリースのお祭りに乗っかっていったのかなっていう感じなんですね。

(宇多丸)ただ、このクイーンの曲だって別に……だからこれ自体もあるじゃないですか。これ自体がオリジナルっていうわけでもないというか。

(高橋芳朗)はい。その話はちょっとこれからさせてもらいます。まあ、このクイーンの投稿はだから誤解を与えるからかもしれないですけども。すぐに削除されてしまったんですけども。で、たしかに日比さん、宇多丸さんが仰ってるように『Butter』のベースラインは『Another One Bites the Dust』のベースラインによく似ているんですけども。この曲自体が1970年代後半当時のディスコブームを受けて、クイーンのベーシストのジョン・ディーコンが作った曲なんですね。で、これは映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていたと思うんですが。当初メンバーは「バンドのイメージにそぐわない」って言って、ちょっと乗り気じゃなかったんですね。

(宇多丸)やっぱりロックバンドとしては……非常に要するにブラックミュージックベースというか。ループミュージックだし、単調だしさ。

(高橋芳朗)でも、これをマイケル・ジャクソンの進言でシングルカットすることになって。結果、クイーンにとって2曲目の全米ナンバー1ヒットになったという経緯があるんですけども。で、さっきから宇多丸さんがほのめかしてますけれども。このクイーンの『Another One Bites the Dust』のベースラインには元ネタがあるんですね。これがシックの1979年のディスコヒット『Good Times』。この曲にインスピレーションを受けて作られているんですね。ちょっとベースラインに注目して聞いてみてください。

(高橋芳朗)はい。シックの『Good Times』を聞いていただいております。

(宇多丸)似てますね。

(日比麻音子)これだ!

(高橋芳朗)だからBTS『Butter』はシック『Good Times』、クイーン『Another One Bites the Dust』の系譜にあたる曲と言ってもいいと思うんですね。

(日比麻音子)この流れにBTSもいるっていう風に考えると、すごく壮大な曲なんですね。

(高橋芳朗)そうですね。まあ、割とスタンダードになっているベースラインでもあるので。

(宇多丸)大ネタというかね。スーパー大ネタ。ヒップホップ、ラップの最初のヒット曲である『Rapper’s Delight』もシック『Good Times』を当時は無断で流用したりしているので。非常に有名なベースラインなんです。


(宇多丸)たぶん音楽史上一番有名なベースラインのひとつだと思う。だからまあ、そういう意味では……っていう感じなんですけどね。

(高橋芳朗)で、実は去年、これも水曜日だったと思うんですが。アトロクで『Dynamite』の解説をした時に『Dynamite』をシック的なディスコソングと位置づけてこの『Good Times』をかけているんですよ。

(宇多丸)ああ、そうだっけ。その時点で。そうか。じゃあ、ある意味文脈ができていたんだ。

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(高橋芳朗)ただ、『Dynamite』がシックの小気味良いギターカッティングにフォーカスしていたのに対して、『Butter』はベースラインに着目をしたっていう感じですかね。

(宇多丸)ああ、そうか。うまい! なるほどね。でも、そう考えると非常にロジカルというか。BTSの戦略はね。うんうん。なるほどな。

(高橋芳朗)で、やっぱりね、ベースが強調されているだけあって、『Butter』は『Dynamite』よりもグッとファンクですよね。

(宇多丸)重心が低いというか。腰を落としたダンスミュージックというか。そういう感じがありますよね。

(高橋芳朗)マッシブという感じですかね。

(宇多丸)しかも、要素はタイトだし。決して音数は多くない。

(高橋芳朗)80年代のシンセファンク的って言ってもいいかなと思うんですけど。そういう意味ではシックの『Good Times』のベースラインに影響を受けて同じ時期に作られた、もうひとつディスコの名曲があるんですよ。それがね、ヴォーン・メイソン&クルーの『Bounce, Rock, Skate, Roll』っていう曲なんですけども。

(宇多丸)これももう、ヒップホップ界ではビッグチューンですよ。

(高橋芳朗)ちょっと聞いてもらいましょうか。

Vaughan Mason And Crew『Bounce, Rock, Skate, Roll』


(高橋芳朗)はい。ヴォーン・メイソン&クルーの『Bounce, Rock, Skate, Roll』を聞いてもらっております。

(宇多丸)かっこいいなー!

(高橋芳朗)『Butter』、ベースラインとしてはシックの『Good Times』とかクイーンの『Another One Bites the Dust』に近いと思うんですけど、音の質感としてはこっちに寄っているかなっていう感じがしますかね。

(宇多丸)ちょっとシンセと打ち込み感……要するにシックとかクイーンは生演奏感が強いですけども。これはより「タン、タン!」っていう感じとか、割と機械感というか。強いですね。

(高橋芳朗)そうですね。要はまあ、さっきも軽く触れましたけど。『Butter』はディスコとかファンクのスタンダードな気持ちよさを追求した曲って言っていいかなと思いますね。で、これまでもさんざんしゃぶり尽くされてきたその『Good Times』スタイルのベースラインのうまみというか、快楽みたいなことをもう見事に引き出すことに成功してるじゃないかなと思います。

(宇多丸)Aメロでずっとストイックにさ、すごくミニマムな要素だけで通して、サビでバーン!って開くみたいな構造も……それですごくフレッシュに見えるし。うまいよね、これはね。

(日比麻音子)しかも『Dynamite』の次ってなれば、やっぱりプレッシャーというか、期待値もかなり高いから。そこは意識もしているんでしょうかね。

(宇多丸)2枚目のカードとして、おしゃれじゃない? 1枚目は『Dynamite』で、ポップで間口が広くて明るいっていう感じで。2枚目はちょっとだけ渋いんだよ。このちょっとだけ渋いが……憎い!(笑)。

(高橋芳朗)絶妙ですよね(笑)。

(宇多丸)かっこいいわ。さすがでございます。

(高橋芳朗)で、サウンドトータルのイメージとしてはこのミュージックビデオのティザーが公開される前にBTSが表紙を飾ったアメリカの音楽メディアのローリング・ストーン。そのカバーストーリーというか、インタビュー記事に『Butter』のサウンドを推測するにあたって結構重大なヒントが書かれていたんですよ。これはローリング・ストーンの記者による評だと思うんですけど。結構具体的な記述があったんですね。要約すると「ブルーノ・マーズのようなレトロのスタイルにジャム&ルイス風のシンセサイザーを重ねたピュアで快活なダンスポップ」って書いてあって。これで大興奮したんですけども。ジャム&ルイスはジミー・ジャムとテリー・ルイスによるプロダクションで。

(宇多丸)ジャネット・ジャクソンのプロデュースとかね。

(高橋芳朗)そうですね。ジャネット・ジャクソンのプロダクションパートナーとして有名ですけども。1980年代から1990年代にかけて、たくさんのヒットを生み出した……。

(宇多丸)恐怖のモンスタープロデューサーですね。

(高橋芳朗)最も成功を収めたR&Bプロデューサーと言ってもいいかもしれません。

(宇多丸)成功の時期が長い&スタイルの自己革新がすさまじい。

(高橋芳朗)で、このジャム&ルイスとブルーノ・マーズというと、ブルーノ・マーズの目下のところの最新アルバムの『24K Magic』。2016年に出たアルバムなんですけど。あのアルバムってジャム&ルイスをはじめとして、テディ・ライリーとかベイビーフェイスといった1980年だから1990年代に活躍したR&Bプロデューサーへのオマージュだったんですよね。

で、それを踏まえると、これはローリングストーンで指摘された「ブルーノ・マーズのようなレトロなスタイルにジャム&ルイス風のシンセサイザーを重ねたピュアで快活なダンスポップ」っていうのは、ブルーノ・マーズのアルバムの中でも『24K Magic』で打ち出したサウンドと考えてもいいんじゃないかなと思ったんですね。で、ティザーで公開された『Butter』の断片を手掛かりにして『24K Magic』の収録曲から具体的に絞り込んでいくとしたら、夏っぽい抜けの良さとかも含めて、『Chunky』っていう曲がイメージに近いかなと思ったりしました。ちょっと聞いてもらいましょう。ブルーノ・マーズで『Chunky』です。

(高橋芳朗)はい。ブルーノ・マーズで『Chunky』でした。

(宇多丸)かっこいいなー!

(高橋芳朗)かっこいですよね。まあ、このへんのラインなのかな?っていうイメージをその時点では抱いていたんですね。で、今はもうね、ブルーノ・マーズの『24K Magic』のタイトル曲と『Butter』のマッシュアップとかも作られてネット上に出回ったりしていますね。で、こういう流れを経て5月21日の13時に『Butter』がリリースされることになるんですけど。曲そのものが楽しみだったのはもちろんなんですけど、誰がプロデューサーなのか?

(宇多丸)そのへん、明かされていなかったんだ。

(高橋芳朗)そう。誰がソングライターか?っていうのも非常に期待してた、楽しみにしたんですね。

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