作詞家の秋元康さんがTBSラジオ『タマフル』に生出演。5千曲近くの作詞楽曲の中から5曲をチョイスし、その歌詞の解説をしていました。
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— tamafle954 (@tamafuru954) 2015, 6月 13
ということで、秋元さん自選の5曲というのを選んで来ていただいております。ということで、まずは、上から順番に・・・まずは藤谷美和子さん、大内義昭さんの『愛が生まれた日』でございます。
藤谷美和子・大内義昭『愛が生まれた日』
(秋元康)これはあれなんですよ。『5曲選んでください』って言われて。で、『趣旨は?』って言ったら、『今回は作詞家として歌詞を説明する』ということだったので選んだんですよ。で、なんかそこで、放送作家的なサービス精神が出ちゃうんだよね。そうするとまず、いろんなパターンがあった方がいいだろうなとか。
(宇多丸)ありがとうございます(笑)。
(秋元康)それでなんか、AKBが入るとプロモーションっぽくて嫌らしいなとか。そういうのがあっての5曲という。
(宇多丸)なるほど。そういう、ちょっとご配慮いただいたということですね。その配慮の上で、『愛が生まれた日』。これはなぜ、このチョイスなんでしょうか?
(秋元康)これは、まあデュエットソング。つまり、僕の曲の作り方っていうのはこれは『愛が生まれた日』っていう日本テレビのドラマがあって。それの主題歌だったので、久しくデュエットものってヒットが出ていないな。デュエットもの、面白いなっていうことで、デュエット縛り。
(宇多丸)ああー。
(秋元康)デュエットで作ろう!っていう。
(宇多丸)で、タイトルはあるわけですもんね。
(秋元康)そうですね。
(宇多丸)と、なると当然結婚っていうのが?
(秋元康)まあ、『愛が生まれた日』というタイトルじゃなかった。『そのうち結婚する君へ』かな?っていうドラマで。それで、どういう歌がいいかな?と思って。これもメロディーが先だったんですけど。メロディーで、とにかくデュエットものの曲を集めて、これでいこう!と思ったんですけどね。
(宇多丸)この歌詞全体の中でキモっていうか、先ほどおっしゃられていた、ここが刺さる!みたいなところっていうのは?
(秋元康)まあ、いちばんはやっぱりこの『愛が生まれた日』ですよね。この『愛が生まれた日』っていうタイトルって、これはもう、よかったなと思いましたね。その、もちろんね、『いくつかの別れと涙が地図になり』とかっていうそういう、『世界で一番素敵な場所にたどり着いた』とかっていうのは、たぶん後からね、みなさんがいい曲だって言ってくれるだろうが、いい詞だって言ってくださるかもしれないけれども、まずは本人の満足度としては、サビにぴったりメッセージになるような、それでいて、残るようなものがはまった時は、やっぱりうれしいですよね。
(宇多丸)これ、元のメロディーに『タンタンタンタララララン♪』っていうのはあるわけですもんね。
(秋元康)あります。
(宇多丸)それに合う言葉をまず選ぶわけですよね。
(秋元康)そうです。だからこれが別に、なんだろうな?『愛のさようなら なんとか・・・』とかでも、なんでもいいんだけど。
(宇多丸)あり得たんだけども。
(秋元康)だけど、そこで『愛が生まれた日』っていうところが、あ、これは来た!と。
(宇多丸)『日』がポイント?
(秋元康)そうそう。いや、『愛が生まれた』っていうところが、『生まれた日』でしょ?
(宇多丸)『愛』と『生まれた』をくっつけたのがまず、発明なわけですよね。
(秋元康)そうですね。
(宇多丸)人は『生まれた日』って言ったら、人なわけだけど。愛だというあたり。
(秋元康)たとえば、『愛を大切に』って。『あーいーを たいせつにー♪』だとするでしょ?そうすると、それは残らないわけですよね。
(宇多丸)そりゃそうだよねってことになっちゃうから。
(秋元康)当たり前だから。でも、『愛が生まれた日』って。『あっ、私たちって愛、いつ生まれたんだろう?』って。うん。
(宇多丸)まあ要は気持ちが生まれた瞬間みたいなのはどこだ?と、みんな考えだすっていうことなんですかね。これ、94年の曲ですけど。僕、実家のそばの餃子屋で聞きながら。流れてきて、ここまでロマンチックなことを堂々と歌われると、すげー感動的だな!と思いながら。ハードコアラッパーはちょっと、思ってましたね。
(秋元康)(笑)
(宇多丸)ありだなと思って聞いてましたけど(笑)。
(秋元康)それとやっぱりこのね、『恋人よ』っていう出だしがベタすぎて僕は好きでしたね。自分で。
(宇多丸)こういう、いくらなんでも・・・っていうド直球が効く時もある。
(秋元康)そう。だってさ、普通さ、『恋人よ』って言わないじゃん。
(宇多丸)まあ、『恋人よ』って五輪真弓になっちゃいますよね。
(秋元康)だけど『恋人よ』って言わないのに、このベタさ加減がなんか、これがね、すごく大事だと思うんですよ。
(宇多丸)これ、やっぱりデュエットであることが関係しているのかわからないですけど。ここまで全編いちゃついている曲もなかなかないっていうか。
(秋元康)ないですね。しかも、男の方が難しいからね。歌うのに。
(宇多丸)ああ、テクニック的にですか?
(秋元康)テクニック的に。ハモらなきゃいけないからね。
(宇多丸)ああ、そうか。ハモって歌わなきゃいけないから。先ほど、メロディーに乗せる、あう言葉を選ぶ。これ、当然大抵のミュージシャン、ラッパーもメロディーじゃないけど、ビートに合う言葉を選びますけど。日本語の難しさみたいなのを感じたことはあります?
(秋元康)やっぱりその、難しいから面白いなと思うんですよね。だから、たとえばそれは松本隆さんがはっぴいえんどでロックに上手くいくつかの言葉を乗せた時に、ああ、かっこいいな!と思いましたし。それまで僕らはロックにかっこいいと思うわけじゃないですか。そういう難しいことをやった時、人はかっこいいなと思うんですよね。かっこいいものにかっこいいことをしても、面白くないっていうのはすごくありますよね。
(宇多丸)なるほど。挑戦している分が面白い。
(秋元康)だから、アイドルでもそうじゃないですか。アイドルっぽいものを、AKBがずっとアイドルっぽいものをやっていたら、たぶん面白くない。そこに、『お前、見た?あの「JJから借りたもの」って、意味わかんねーよ!』っていうところが。
(宇多丸)ああ、なるほど。これは引っかかっていると。私が完全にね。あの、要は日本語って何も考えずに乗せると、すごくノペーッとしちゃうじゃないですか。音符に対して。そういうのってすごく意識されますか?
(秋元康)それはありますね。
(宇多丸)たとえば滑舌・・・要は言いやすい日本語の並びってあると思うんですけど。そういうのは試行錯誤されますか?
(秋元康)する時もあります。それはでも、やっぱり僕より上手い人がいるからね。たとえば森雪之丞さんはすごく言葉のリズム感とか。やっぱりそれは素晴らしいなと思うから。同じようなことをしないっていうのはあるかもしれないですよね。
(宇多丸)つんくさんとかも、突拍子もない乗せ方をしてきたりしますけど。つんくさんとか、どうですか?作詞として。
(秋元康)やっぱりミュージシャンですよね。
(宇多丸)ああ、発想がミュージシャン。
(秋元康)発想がミュージシャンだし。本当にモー娘。とかハロプロの音楽のクオリティーって高いなと思いますよね。それは、彼がやっぱりミュージシャンで音楽的なところから入るからで。僕はどちらかと言うと放送作家なので、企画性から入ってくるから。そこが違うかもね。
(宇多丸)勝負している武器が違うという感じなんですかね?さあ、じゃあ秋元さん、自選曲。どんどん行きましょう。2曲目。こちらでございます。とんねるずで『ガラガラヘビがやってくる』。さあ、これ。とんねるずさん、いろんな曲がありますけど。これ、ガラガラヘビなのはなぜでしょうか?
とんねるず『ガラガラヘビがやってくる』
(秋元康)まあ、要するにこういうことも音楽になるんだっていうことのバカバカしさの現象ですよね。
(宇多丸)これはもう、その内容はひたすらナンセンスな・・・
(秋元康)まあだから、この時代って、遊んでいたんですよ。全てのことが。
(宇多丸)1992年リリースですけども。
(秋元康)テレビも音楽も、もう本当に遊んでいたんですよ。
(宇多丸)遊んでいるっていうのは、ちょっとふざけたことも含めてやりやすいと。
(秋元康)もう自分が面白ければいいと。売れようが売れなかろうが関係なくて。ああ、面白いねって。たとえば夜中に石橋くんとか木梨くんとか大笑いしながら・・・っていう時代だったので、ガラガラヘビっていうのは売れたんですよ。で、そこからやっぱり学ぶんだよね。なるほど、と。これが思いがけず・・・これ、子どもをまるで意識してないんですよ。なにしろだって、『グルメじゃない』。つまり、なんでも食べちゃう悪いやつの話じゃないですか。
(宇多丸)これ、要はちょっと性的なほのめかしですもんね。これはね。
(秋元康)そうそう。だから『誰でもコン!コン!コン!』だから。だけど、子どもたちにすごい人気になったんですよ。なので、そこで僕らはスケベ心を出して。『そうだ!子どもだ!』と。
(宇多丸)(笑)。最悪ですよ、そのフレーズ!『そうだ!子どもだ!』。
(秋元康)ねえ。子どもに人気があるんだってことで、第二弾を。『フッフッフッってするんです』とか、いわゆるピンポンパン体操みたいなものを連打するんだけど・・・
(宇多丸)子どもを狙って作ったものを。
(秋元康)『がじゃいも』とか。売れないんですよ。
(宇多丸)狙って作ると、売れない。
(秋元康)そうそう。つまりそこはなにか?っていうと、子どもはいつまでも子ども用の、たとえばアニメとか動物の書いたお茶碗でご飯を食べたいんじゃなくて、大人と同じ無地で食べたいんですよ。これはたまたま、なにも意識しないで作ったから、無地の大人用のお茶碗だったわけ。それを子どもたちは面白がって手にとってくれたわけでしょ?でも、それを『そうか、子どもだ!』っていう・・・
(宇多丸)『そうか、子どもだ!』が間違いのもとという。
(秋元康)間違い。つまりそこで、あざとさっていうのはそういうことなんだなと。
(宇多丸)これ、先ほどから秋元さんがおっしゃっている放送作家としての本能というか、企画性っていうのと、あるいは残る、刺さるフレーズなりアイデアを入れておくっていうのと、紙一重じゃないですか?それ。狙いすぎて失敗とか。これを分かつものは何ですかね?
(秋元康)まあだから、やっぱりあざといものはダメだってことですね。だからあざといっていうことは、どこまで・・・たとえば『雨の西麻布』っていう歌も・・・
(宇多丸)まあ、あざといっちゃあざといじゃないですか。
(秋元康)でも、あれも本当は『雨の亀戸』だったから。で、レコーディングで『亀戸はやっぱり狙いすぎだろ?』って。で、西麻布になったりとか。だからやっぱり、その加減ですよね。でも、もうそんなこと関係なく、面白いからやりたいっていうのも、いまだにあるし。
(宇多丸)うんうん。もういいから、振り切っちゃうって時もあると。まあ、その結果が成功になるかどうかはひょっとして秋元さん自身も、やっぱり読みきれはしないっていうことですかね。
(秋元康)うん。だから、ヒットを狙ってないからね。もちろん、ヒットしたいですよ。ヒットしたいんだけど、それよりもなんだろうな?面白いことをやりたくて。それが、もう誰かがかならずわかってくれるんだよね。たとえば、その喜びっていうのは『雨の西麻布』の中に最後に『双子のリリーズ』って入っているんだけど。その『双子のリリーズ』に面白がってくれる人がいるとか。
(宇多丸)うんうんうん。
(秋元康)で、そこの、たとえばとんねるずで『情けねえ』っていう歌があって。『ウオウオウオウ♪』ってスタート、出てくるんだけど。頭で。あれ、『ウオウオウオウ サンショウウオ』だったんですよ。
(宇多丸)あ、元は。
(秋元康)うん。でも、サンショウウオまでいくと、初めから狙っているというか。
(宇多丸)出だしから笑わせすぎじゃないかと。
(秋元康)で、やめようとか。なんか、そこの兼ね合いを面白がっているんですよね。
(宇多丸)だから、あざとさにいくのか、上手くピタッとはまるのか。これ、でも本当に微妙な話ですよね。たぶん時代によっても変わるでしょうし。いま、『双子のリリーズ』最後にいきなりいったら、やっぱりあざといって言われると思うんですよね。
(秋元康)そしたら、外すでしょうね。いまだったら。
(宇多丸)はい。ということで、時間がどんどん来ておりますので、自選曲3曲目、いってみましょう。3曲目はこちらでございます。稲垣潤一さん『クリスマスキャロルの頃には』。これはもう、超有名というか、代表曲でしょう。
稲垣潤一『クリスマスキャロルの頃には』
(秋元康)これはもう、王道なんです。これは、僕はTBSの『クリスマス・イブ』っていうドラマの企画を一緒にやっていて。で、最終回がクリスマスイブだったんですよ。で、クリスマスイブだから、そこまでに、最終回までに結論が出るわけじゃないですか。だから、『クリスマスキャロルの頃には 答えが出るだろう』っていう詞を作って。それで、プレゼンしたんですよ。『こういう主題歌が出来たよ。これ、どうする?』って。で、『面白いから入れましょう』っていう風になったっていう。
(宇多丸)ふんふんふん。
(秋元康)つまり、僕の場合はこのどういう歌を作るか?っていうのがやはり、どこで誰に聞いてもらうか?っていうことがまず大きいんですよね。だからこの稲垣潤一さんでこれをドラマの主題歌として流れる場合に、何がそこにあったらいちばんみんなハッとするかな?っていうことを考えましたね。
(宇多丸)つまりクリスマスそのものを歌うんじゃなくて、その手前のところから、まだ不安定な恋人の・・・ここにやっぱりアイデアがあるって感じですかね?
(秋元康)だからそれが若い頃は直球だから。それで、行き過ぎたなとか、あるいは、あざといなとかっていう。でも、それを面白がっていた自分も好きだし。
(宇多丸)これ、やっぱりいまの秋元さんから見たら、若いなって感じる歌詞ですか?やっぱり。
(秋元康)まあいろいろ、いまだったらまた違う。どういうことか?っていうと、たとえば伝説で、いまだに言われるけれども。ガンダムのさ、『アニメじゃない』っていう歌を作った時、すごいみんなから言われて。
(宇多丸)ええ、ええ。
(秋元康)その当時はそれが新しいんだと思っていたけども。いま考えると、あの時代は面白かったし。でも、いまだったらやらないなと。
(宇多丸)類はやっぱりあると。なるほど。
(秋元康)でも、いい曲だと思うんだけどね。
(宇多丸)(笑)。そういうの、ありますよね。たぶん、言われたけど、俺は面白いと思うけどな・・・みたいなのがね。
(秋元康)そうですね。
(宇多丸)じゃあ、どんどんいきましょうかね。自選曲4曲目、いってみましょう。4曲目は中島美嘉さん。『WILL』という曲でございます。2002年。これはちょっと、意外なっていうか、これ、秋元さんだったかっていう感じですけど。これ、選ばれたのはどういうチョイスでしょうか?
中島美嘉『WILL』
(秋元康)これはさっきの話じゃないですけど、君・僕ものの王道だと思うんですよ。君・僕ものとしては、すっごい好きですね。これ。
(宇多丸)どのあたりがこれはキモですか?
(秋元康)うーん。
(宇多丸)ここ、決まった時にさっきのその・・・
(秋元康)たとえば、『停電した夏の終わりに手探りしてキスをしたね』っていう。そんなわけねーだろ!っていうところが。
(宇多丸)(笑)
(秋元康)やっぱり、エンターテイメントってそんなわけねーだろ!っていうところがないと、エンターテイメントにならないんですよね。
(宇多丸)先ほど、『映画的』なんて言い方をしましたけど。この場面、映画でやったら馬鹿野郎!ってことになりかねない。だからそんぐらい、ちょっと恥ずかしいぐらいのシチュエーション。
(秋元康)そういうことも、やれると楽しいなとか。
(宇多丸)『星』っていうメタファーをすごく使われているじゃないですか。
(秋元康)使いますね。
(宇多丸)星を見ているというか。そのあたりはどうですか?これ。
(秋元康)まあ、あとはつまり、『ああ、若いころってなんか、何を信じて、何にそんなに根拠があったんだろう?』っていう自分の中の普遍的なテーマがあるわけですよね。つまり、愛でも夢でも根拠がない。だからそれがこの、『「あの頃」って僕たちは夜の空を信じていた 同じ向きの望遠鏡で小さな星探した』っていうこのAメロができた時に、勝ったなと思いましたよね。
(宇多丸)ほー。
(秋元康)自分の中でよ。勝つっていうのは別にヒットするとかじゃなくて。
(宇多丸)ヒットするっていう意味じゃなくて。いいストーリーができた、みたいなことですか?
(秋元康)そうそうそう。だから、この山はここの道を登っていけば確実に頂上に行けるっていうAメロなんですよね。だから、中にはサビから考える人とかいらっしゃるかもしれないけど、僕はかならずAメロから。
(宇多丸)ちゃんと、順番から書いていく。秋元さんはやっぱり、3番っていうか・・・たしかにその、1番からっていう構造があるからかもしれないけど。こう、番ごとの変化の使い方が上手いなっていうところが多い気がする。特に3番の最後で殺しのフレーズっていうか、一気に泣かすみたいなのが多いな、みたいなのを言っていたんですけど。そういう意識って、お有りですか?
(秋元康)やっぱりそれは映画的な起承転結の結を・・・だから、映画でも、たとえば『卒業』とか、ああいうのが好きですよ。『ローマの休日』とか。『なるほど!監督はこのシーンをやりたかったんだな!』っていうのが。そういうのが大好きです。だから、『(500)日のサマー』って見ました?
(宇多丸)はいはい。見ました。もちろん。あ、最後。オチがね。
(秋元康)うん、そう!
(宇多丸)これ、言っちゃダメですよ。これ。なるほど!っていう。
(秋元康)ああいうの、大好き。
(宇多丸)あれ、歌っぽいですよね。あのオチね。
(秋元康)あれ、素晴らしいね。
(宇多丸)先週、実はゲストで来ていたNONA REEVESの西寺郷太くんに、『なんかベスト曲ある?』って。やっぱり『Everyday、カチューシャ』を挙げていて。僕もこの曲、大好きなんですけど。あれの、彼の表現で言うと、『歌詞だけを取り出すと小沢健二のようだ』って言っていて。
(秋元康)あ、そうですか?
(宇多丸)で、いろいろ好きなところを挙げていたんですけど。『最後に「恋はきっといつか気づくものさ」。このフレーズに死んだ!』みたいな。要はその、『恋っていうのは今じゃなくて、先から振り返った時に気づくものなんだっていうのがこの1行で表現できている。すごい!』っていうことを言っていて。
(秋元康)だからそれも、たぶん普遍的な中学生、高校生の頃のテーマとして、片想いがいちばん楽しいなってことに大人になるとだんだん気づいて来るわけですよ。片想い。それはキレイごとじゃなくて、本当は片想いと片想いが同じ人になった時にいちばん幸せになるんですよ。でしょ?
(宇多丸)はい。
(秋元康)だけど、だから僕がいちばん好きなのはO・ヘンリーの『賢者の贈り物』が好きなわけ。それは勝手な思いじゃん。
(宇多丸)それぞれの思い。勝手な思いが実は一致していたっていう時に。
(秋元康)だからそういうことで言うと、『恋は気づくもの』っていう、なんかこう一方的なそれぞれが思い続けているのが好きですよね。だから、やたらね、ディスる人たちはなんか、『ずーっと片想いものかよ!』とか、『なんかいつも追いかけているな』とかって言うけれども。
(宇多丸)そのだからいちばんいい瞬間みたいなのをパックしているからっていうことなんですかね。さあ、じゃあちょっと急ぎ足ですが、最後の5曲目、いってみましょう。5曲目は、これも意外でしたね。ジェロで『海雪』。2008年。さあ・・・
ジェロ『海雪』
(秋元康)これは放送作家的なあれですよ。やっぱり、5曲挙げる中の1曲はちょっと・・・
(宇多丸)演歌があってほしいと。
(秋元康)入れておかなきゃいけないかなと。
(宇多丸)なるほど。演歌となると変わる部分ってあったりしますか?
(秋元康)いや、これはね、そのジェロっていう方がすごい面白いじゃないですか。存在として。で、初めて会った時に、『ああ、こんな人、面白いな』と。しかも歌が上手いから、そのいちばん彼とかけ離れたものをやろうと思って。ピッツバーグ出身の人に、やっぱり出雲崎だなとか。
(宇多丸)もう、ド日本な。
(秋元康)そうそう。しかも、彼が女ことばはいいんじゃないかな?とか。
(宇多丸)あ、そうですね。これ、女ことば歌ですもんね。
(秋元康)女ことばって最近ないなとか。
(宇多丸)演歌にしても。
(秋元康)だからそれは、やっぱり放送作家的な。このレーティング週間、どういう風に盛り上げようか?とか。
(宇多丸)ありがとうございます(笑)。その、でもジェロさんに女ことば。で、AKBに男ことばみたいな。その、なんか・・・
(秋元康)あるのかもしれないですね。
(宇多丸)微妙な、だと引っかかるなみたいなのはあるのかもしれないですね。そこは本能チョイスなんですか?やっぱり。
(秋元康)そうですね。
(宇多丸)なんか、先ほどからうかがっているので言うと、たとえば時間経過みたいなのが曲にかならず入っている感じがするんですけど。それとかっていうのは、意識して入れられるところですか?
(秋元康)やっぱり飽きさせないっていうのはありますよね。つまり、歌が3分、4分。あるいは場合によっては5分ある時に、展開がないと、同じことをずーっと・・・でも、昔はすごかったんだよね。1コーラス目、2コーラス目、3コーラス目もほとんど詞が変わらないで、『花が好きだった、星が好きだった、空が好きだった』が変わるだけとか。でも、それでもありだと思うんですよね。
(宇多丸)それで広がりが出る場合もあるけれども。
(秋元康)そうそう。だから、すごくたとえば井上ヨシマサとかに曲を書いてもらっていても、やっぱりもっとほしくなる。いまの時代。だから、昔だったらAメロBメロでAに帰って終わりとかなのに、AメロBメロCメロDメロで、最後Eをつけてくれとか。
(宇多丸)井上さんの曲は特に多い気がします。
(秋元康)でしょう?
(宇多丸)それはもう、どんどんどんどん足して行きたくなる?
(秋元康)そうそう。だからもっと映画のように展開したくなってくるんですよね。
(宇多丸)ああ、でも、まあそれが秋元さんがなんとなく肌で感じているいまの人の、こんぐらいしないと飽きちゃうんじゃないか?感だったりする?
(秋元康)いや、だからそれはね、そういう言い方をすると語弊がありますけど。やっぱりあんまりこの、向こう側を見てないですね。自分が面白いかとか、自分がこういうものを作りたいかとか。
(宇多丸)ああ、そうですか。
(秋元康)だって、こんなことをしたら退屈してしまうだろうってことを念頭に置いたら、与えられた人たちは逆に、ああ、そういうことを思って作られたのかな?と感じるんだよね。そうじゃなくて、自分が面白いと思ったことに乗ってくれるかどうか?しかないんですよね。
(宇多丸)でもこれ皮肉なことに、まさに秋元さんはそうやって、こっちの感情とか好きなものみたいなのをある種、見通した上で投げてきているんでしょ?って思っている人がたいへん多いと思いますね。
(秋元康)ああ、そういう人は多いでしょうね。でも、ぜんぜnそれはないですね。自分が面白いか、面白くないかとか。
(宇多丸)ああ、そうですか。っていうことはやっぱり作家というか、なにか作り手秋元康さんとしては、やっぱり面白がれるエネルギーが生命線みたいなことですか?
(秋元康)そう。それが面白いかどうかっていう。たとえば、いま『マジすか学園』の5を作っているんですけど。それも、『これ、たぶん一般のファンの人はこっちじゃないんだろうな』と思いながらも、『いや、面白いからこっちに行ってみよう』みたいな。なんかこう、違う方に行って、失敗だと言われようが、そっちに行ってみたくなる。だからAKBの楽曲ってシングルの度にいろいろ変わるじゃないですか。方向性が。
(宇多丸)僕はでもね、前回、『AKBは楽曲は保守的だ』なんて言いましたけども。
(秋元康)あ、そうなんですか?
(宇多丸)覚えてらっしゃらないんですか?
(秋元康)ああ、前の時ね。
(宇多丸)チラッとね。
(秋元康)それはだってほら、王道の量産系だと思うからでしょ?でも、そこの王道量産系なんだけども、今回はこれを試してみたいとか。
(宇多丸)うんうん。振り子がやっぱりあったりするわけですかね。
(秋元康)だからたとえば『RIVER』の次の曲って『桜の栞』っていう合唱曲だし。ああいうのが好き。
(宇多丸)あれは面白いですよ。あれはいいですよ。あれは保守的とは言ってませんよ。
(秋元康)じゃあ、AKBの中のダメダメベスト3は何ですか?
(宇多丸)ええっ!?いま、急に、俺・・・いや、ダメかどうかはわかんないですけど、『涙サプライズ』が本当にあんま好きじゃなくてですね。なんかあの転調がね、狙いすぎていて下品みたいな・・・やめてください、こんな話!
(秋元康)いやいや、それはヨシマサにいい・・・ねえ。
(宇多丸)いや、それが上手く行っている曲もあるけれど、あれはあんまり好きじゃ・・・あんまそんな話はね。
(秋元康)いや、それが聞きたい。
(宇多丸)それはまた・・・(小声で)次回にやりましょう。それは。はい。最後に俺が黙る方向に行っちゃうっていうね。あっという間にお時間来てしまいました。秋元さん、本当にありがとうございます。今後、いろいろまたちょっと別の企画を考えて。
(秋元康)ぜひ今度はあの、AKBにダメ出しするっていう企画を。
(宇多丸)それ、やったら出ていただけるんですか?これ。
(秋元康)いや、もちろん。もちろん。もちろんですよ。だってそれ、聞きたいじゃん。どこがいけないのか?っていうことが。なるほどと。
(宇多丸)じゃあそういう無茶な企画も込みで、秋元さんに面白がっていただける企画でお呼びしたいと思います。本日は作詞家秋元さんでした。
(秋元康)どうも、ありがとうございました。
<書き起こしおわり>
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