町山智浩さんが2021年3月16日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカの新型コロナウイルスワクチン接種の急速な進展についてトーク。2021年7月頭までにアメリカの全国民が接種完了できる見込みについて話していました。
(町山智浩)ということでちょっと今日はアメリカのコロナの状況はすごく良くなってきたので。それについて報告させてもらいます。映画館がね、とうとう開いたんですよ。うちの近所の映画館が。だからもう本当に嬉しいですけども。
(赤江珠緒)アカデミー賞ノミネート作品も昨日、発表になったということで。作品賞とかを見ると、町山さんが紹介してくださったものがすごい多いですね。
(町山智浩)そうですね。『ノマドランド』とか来週公開かな? 『たまむすび』でこの間、紹介させてもらった『ミナリ』とか。そういった映画が作品賞にノミネートされています。詳しいことはちょっと来週、話しますね。
(赤江珠緒)そうですね。お願いします。わかりました。
(町山智浩)で、4月にですねえアカデミー賞の授賞式が行われますけども。また中継で解説させていただきます。で、今日はなぜ、僕が今回コロナの話をしようかと思ったかというと、アメリカでのコロナウイルスワクチンの接種回数が1億回を越えたんですよ。
(赤江珠緒)そうですか!
(町山智浩)はい。で、その中には2回、打っている人がいるんですけども。少なくとも1回でもワクチンを打った人の数も、もうすぐ1億人に達します。これがすごいのは、アメリカの人口って3億3000万人なんですよ。だから約3割の人が何らかの形でワクチンを打っている状態になるんですね。で、これはえ当初の予定よりも早いです。
(赤江珠緒)当初はどれぐらいって言ってたんですか?
(町山智浩)バイデン大統領は1月20日の大統領就任式から100日以内……つまりだから「4月20日までに1億人に接種をする」と言っていたんですね。そう約束をしていました。でもその1ヶ月前にそれをクリアする感じです。
(赤江珠緒)そうですか!
(町山智浩)で、どうしてそうなったかというと、最初だいたい1日に150万接種と予測していたんですね。それがね、現在は1日に240万接種ぐらい、行ってるんですよ。
(赤江珠緒)すごいペースで打っているんですね!
(町山智浩)すごいスピードなんです。これ、加速している理由はあとで説明します。で、バイデン大統領は「5月1日までに16歳以上のアメリカの全住民が1回はワクチンを打てる」と言っています。
(山里亮太)すごいな!
(町山智浩)僕も、打てます。これはね、ちょっとややこしいのはね、2つワクチンがあって。ファイザー社・モデルナ社のワクチンは1回打っただけだと効く人が6割ぐらいなんですね。だから3週間経ってから2回目を打って、それでやっと9割が免疫を持ってる感じになるんですよ。だからその人たちは2回、打つ必要があるんですが、新しく3番目のワクチンでジョンソンエンドジョンソンという会社のワクチンが採用されたんですね。で、それは1回の接種で85パーセントの重傷化が防げるんですよ。だからこれは1回の接種でいいんです。
(赤江珠緒)1回で済むっていうのは、ありがたいな。
(町山智浩)はい。だからすごくワクチン接種のスピードが加速してるんですね。これで。で、さらにファイザーやモデルナのワクチンっていうのは超低温で保管する必要があるんで、すごく扱いが難しいんですよ。でもね、このジョンソンエンドジョンソンの方は普通の冷蔵庫でいいんですよ。
(赤江珠緒)へー!
ジョンソンエンドジョンソンのワクチンでスピードアップ
(町山智浩)はい。だからすごく扱い簡単なんですよ。で、さらに、このジョンソンエンドジョンソンのワクチンを1億回分、増産することが決まりました。合計2億になるのかな? で、それは国防生産法という法律で。戦争の時に工場を使って戦車とか戦闘機を作るという法律があるんですよ。フォードとかに戦闘機とかを昔、戦争中に作らせていたんですけれども。で、その法律を使って、他の製薬会社にジョンソンエンドジョンソンのワクチンを1億個、作らせるという。まあ、戦争みたいなもんですからね。ということで、一気に進むだろうっていう。
それで、このままだと7月頭までにアメリカの全住民が、ファイザーやモデルナなら2回。ジョンソンエンドジョンソンなら1回のワクチンを接種するという目標が立てられました。はい。これ、すごいですよ。これね、だいたい7割の人がワクチンを打って、抗体を持っていれば集団免疫になるって言われているんですね。だから7月4日のアメリカの独立記念日には今まで通りのの形でパーティーとか花火大会を行えるという。
(赤江珠緒)へー! なんかゴールが見えてきてる感じですね。
(町山智浩)見えてきた感じなんですよ。もちろん、マスクはしなきゃならないんですけども。ただ、もうマスク以外はだいたい通常の状態に7月の頭までにはアメリカは戻れるんじゃないかと言われています。このまま、うまく行けばね(笑)。で、すごく接種数が増えていった理由のひとつは、ものすごい会場で今、アメリカはワクチンを打ってるいるんですよ。うちの近所のオークランドコロシアムというスタジアムがあるんですけども。そこはA’s……メジャーリーグのオークランド・アスレチックスの球場なんですね。そこでワクチンを打っているんですよ。
(赤江珠緒)球場で!?
California state public health officials get the Johnson and Johnson vaccine at the Oakland Coliseum, hoping to gain the trust of the community about its safety and efficacy. This vaccine only requires one shot. #JohnsonAndJohnson #CovidVaccine pic.twitter.com/FX7GltqAlg
— Jodi Hernandez (@JodiHernandezTV) March 11, 2021
(町山智浩)野球場とか、フットボール場とかで。だから大きいところだと1日6000ショット打てるっていう風に言われています。で、そういった会場を接収するのにも、別の法律が使われていて。これ、FEMAというアメリカの機関があるんですけども。これね、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁といって、台風や自身があった時に野球場とかフットボール会場を接収して避難した人たちのシェルターにすることができる権限を持っているところなんですよ。だからそこがスタジアムを使ってワクチン接種をしてるんですよ。
(赤江珠緒)ふーん! 結構、大号令をどんどん動いてるんですね。
(町山智浩)すごいスピードで今、動いています。あとね、アメリカは普通の薬局でも打てるんですよ。
(赤江珠緒)薬局で?
(町山智浩)いつも、インフルエンザの予防接種も打てるんですけど。薬局の薬剤師がそのワクチンの注射を打つ資格を持ってるんですよ。アメリカの場合は。だから、そのスピードも速いです。アメリカはね、薬局がデカくて、デカい駐車場もあるので。密にならないでたくさんの人のワクチンが打てます。
(赤江珠緒)そうなのかー! そうすると、日本のイメージする薬局とは違いますね。
(町山智浩)あとね、看護師さんが医師の付き添いなしでワクチンの注射も打てるですよ。これ、日本はね、医師の予診とかが必要で。その場に医者がいないといけないんですよね。だからたぶん、ワクチン自体が日本で手に入っても、接種すること自体がすごく、いろんな形で困難だと思います。それこそ、野球場を使ったりとか、あとは法律を変えてワクチンの注射を打てる資格のある人を増やすとか。そうしない限り、日本も間に合わないと思うんですよね。
(山里亮太)ああーっ! 日本ってそういう話し合いになっているんですかね?
(赤江珠緒)いやー……。
(町山智浩)そういう話し合いをしているようには……ちょっとこちらの方には届いていないんですけども。
(山里亮太)まあ、しているんだとしたら、言ってくれないとね。今のを聞くと「ああ、いいな。そういう風にしてくれるんだったら安心だ」っていう風に聞こえるけども。
(町山智浩)そうなんですよ。それで僕もね、いつ打てるのか?っていうことで、登録をしているんですね。カリフォルニア州のワクチンのサービスに。でね、それはインターネットで自分の情報をどんどん入れていくんですよ。たとえば年齢はいくつか。まず、その年齢ごとにワクチンを打てる優先順位が決まってるんで。あと、その次に仕事は何か。
(山里亮太)関係があるんですか?
(町山智浩)仕事がものすごく重要で。まず、誰よりも最初にワクチンの注射を打てたのは医療従事者なんですね。お医者さんとか看護師であるとか病院で働いてる人。それとあと、老人ホームとかで働いている介護士の人たち。老人ホームに限らないですけども、介護士の人たちですね。この人たちがまず、優先的に打てるんですよ。で、この人たちはもうほほとんど、打っている状態になっています。アメリカは。で、その次に75歳以上のお年寄り。あと、エッセンシャルワーカーって言われてるんですけども。どうしても必要な仕事をしてる人たちですね。たとえばバスとかの運転手さん。バスの運転手さん、ものすごく感染率が高くて、かなりの数の方が亡くなっているんですよ。でも、そういう仕事の方がいないと困るんですよね。
(赤江珠緒)インフラを支える意味でね。接触は絶対にありますもんね。
(町山智浩)そうなんですね。あと、ドラッグストアの店員さん。これもいないと困りますよね。あとは、スーパーの店員さん。食料が買えないと困りますから。そういった人たちがその次に優先順位があってワクチンを打てる。その次に優先順位がある人たちは、リスクが高い人たち。65歳以上の高齢者の方。この人たちもう今、打っています。それと、あとは高血圧の人。糖尿病の人。心臓病の人。極度の肥満の人たち。こういった人たちは非常にリスクが高いので、今もう打ってます。それで今、打ち始めたのが保育関係の人たちですね。
(赤江珠緒)ああ、その次が?
(町山智浩)保育士の人とか。だから、こういうお医者さんとか看護師さんの人たちが子供を預ける先がないと困るわけですよ。働けなくなっちゃうから。だから、そのための保育士さんとか。あと、その次に来るのがレストランとかの従業員の人たち。で、このへんは州ごとに優先順位が違っていたりして。学校の先生があったりするんですけども。で、一番最後に来るのが僕たちなんですよ(笑)。家で仕事していればいい人たち。
(赤江珠緒)そうですか。映画評論家はもう、そうなりますか(笑)。
(町山智浩)そう。「家でやってろよ」っていう人たちですね(笑)。
(赤江珠緒)まあね。その優先順位を聞くと納得ですもんね。
(町山智浩)そうなんです。それをね、打ち込んでいくんですよ。コンピューターに。そうすると「あなたは次のワクチンですよ」「あなたの番が来ましたよ」ってメールで教えてくれるんです。で、予約をして行くとワクチンが打てるという状態になっているんですよ。現場での混乱がないように。だから、これで優先順位から外れていると、行っても打てないわけですね。っていう感じになっていますね。
(赤江珠緒)ねえ。すごくシステム化されて、ここまで非常にスムーズで来てるんですね。
(町山智浩)はい。こういうシステムを作るのがすごく早かったですね。アメリカは。で、これで全部、完全に収束とまではいかないけれども、状況は良くなってきたので、株価とかも上がっているんですが。さらにですね、バイデンさんはこのコロナで経済状態がひどい状況になってるんで。失業者とかも増えて。ここから脱出するための新しい法案とかを現在、どんどん出しています。で、先週辺りにサインした法案はですね、一律給付なんですよ。前にも話しましたけど、個人で750万円以上の収入。世帯で1500万以上の周囲の人を除いた……ほとんどの人がそうですよね。ほとんどの人が世帯で1500万とか収入はないですから。そのほとんどの人たち全員に1人あたり約15万円(1400ドル)ずつの給付が決まりました。
(赤江珠緒)ねえ。これ、1人15万円って、子供とかもでしょう?
一律給付金
(町山智浩)子供の含めます。でね、その前に、トランプさんの時。12月に6万円の一律給付も法案を通しているんで。だから合計で1人あたり20万円以上なんですよ。だから4人家族だと80万円以上。これは大きいですよ。これはものすごい助かると思います。で、今まで支払われていた失業者1人あたりの週3万円の支給も継続します。それもプラスでもらえるわけですよ。失業をしている人は。で、さらに今、進めている……もう決まりに近いんですけど。中産階級以下の人たち。だからさっき言った750万円よりも収入が低い人たち全体の中の子供がいる人たちへの大幅減税をします。これだけやれば、なんとか脱出できるんじゃないかということで、もう今からやっているんですよ。
これは大きいですね。去年も一律給付で1人12万円の給付があったので。それにプラス、今回の……まあトランプさんの分と合わせて1人20万円ですからね。これは大きいと思います。だからやっぱりね、前にも話したと思うんですけど。国ってひとつの人体みたいなものなので。血液を送っていないと壊死しちゃうんですよ。で、その頭の方が「足の方に血は行かなくてもいいや」と思っていると、足が壊死しちゃったらもう人ってだんだん壊れていっちゃうんですよね。だから、その血液が全体に行き渡るように「お金」っていう血液をとにかく行きわたらせなきゃならないという考え方なんですね。だから「国にお金があるか、ないか」なんていうのは二の次なんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。しかも、いかに有効にそのお金を使うか、ですよね。
(町山智浩)はい。だって「国にお金があるか?」っていうのは、お金って国が刷るわけですから。給付っていうのは。なければ、作ればいいんですよ。そうしないと、死んでしまうですよ。ということをやっているんですが、ただいろいろと難しいことがあって。たとえばですね、トランプさんを支持している人たちが現在、まだ3割ぐらいいるんですね。この人たちのうちの半分ぐらいは「ワクチンを絶対に打たない!」って言ってるんですよ。
(赤江・山里)ええーっ?
(町山智浩)こういう人がいると、集団明記にならないんですよね。
(赤江珠緒)まだ、そんなことを言っている人がいるんですか?
(町山智浩)まだ言っているんですよ。それで元々、「ワクチン陰謀論」というのはアメリカはすごく多くて。元々ね、はしかとかのワクチンを打たないっていう人たちも多かったんですけれども。で、今回はインターネットでいろいろとデマが飛び交っていて。「ビル・ゲイツがワクチンの中にナノマシンというちっちゃいロボットを入れて、人間を操ろうとしている」とかね。
それを本気で信じた人たちがいるので、その人たちをどうやって説得していくか?ってことにかかってくると思うんですよ。7月までに完全に集団免疫ができるようにするには。で、他にもいろいろ困っていて。テキサス州という州がですね、調子に乗っちゃって。「もうマスクも全部やめる」って言っちゃったんですよ。
(山里亮太)ええっ? このタイミングで?
(町山智浩)そう。まだ、ちょっと良くなってきただけなのに。完全にやめるって言っているんですよ。早すぎる……テキサスはこの間、停電で寒さで人が死ぬような事態になっていたにもかかわらず、テキサス州知事はもう調子に乗っちゃって。「マスク、やめる」って言ったんで、テキサス州の州都のオースティンっていう街の市長が「うちだけはマスクをやる」って言って。そうしたら今度はテキサス州に「州に逆らうなら、訴えるぞ」って言われて。州内で戦争になっていますけども。
(赤江珠緒)なんかよくわからない事態ですね、それはね。
(町山智浩)ただね、こういった形で抑えるのを、気を緩めちゃうとこれ、非常に危険なのは変異株が出てくる可能性があるんですよ。人体の中で感染した状態になっていると、変異株が出てきて。そうすると今のワクチンが効かなくなるんですよね。だから、それを抑え続けなければならないで、気を緩めてはいけないんですけれども。ただ、現在日本でどのくらいワクチンが進んでいるかというと今、「28万人」っていう風に報道をされていて。
そうすると、人口のわずか2パーセントなんですよね。で、日本がそのワクチンに遅れていると、これは非常に困るという風にバイデンさんも言ってるんですよ。そうすると結局、世界が全部、コロナを抑えないと変異株が出てくるから、また同じになっちゃんですよ。ワクチンが効かなくなっちゃうから。だからバイデンさんは「世界がワクチンを打たなければ、我々が安全になったとは言えない」っていうことで、アメリカでワクチンが普及していったら、日本にもワクチンの支援する方向でいるそうです。
(山里亮太)そうか。じゃあ、すごく先になりそうな気が……。
(赤江珠緒)まあでも、7月にアメリカがある程度、行き渡ったら……。
日本へもワクチンを支援する方向?
(町山智浩)そうですね。だからたぶんね、4月8日に日米首脳会談があるじゃないですか。そこでたぶんバイデンさんが日本へのワクチンの提供をある程度、約束するんじゃないかと言われてますけどね。だから日本も遅れてなんとかなるんじゃないかと。そうしなければ、世界のどこかで感染が広がっていたら、世界は安全じゃないんですよ。変異株が出てくるから。という感じで、まだまだいろいろ大変ですが。まあ、みんながしっかりやれば何とかなっていくだろうと。だから、みんなで頑張ろうという感じです。
(赤江珠緒)そうかー。本当にここ1ヶ月ぐらいでアメリカはグッと変わりましたね。
(町山智浩)やっぱり新しい大統領の就任が大きかったと思いますね。
(赤江珠緒)町山さんの表情もなんか、最近変わりましたもんね。
(町山智浩)だって映画が見れるんだもん(笑)。だって『ゴジラvsコング』がIMAXで見れるかもしれないんですよ? このまま行ったら。
(山里亮太)ああ、最初は諦めていたんですね?
(町山智浩)はい。『ゴジラvsコング』をコンピューターで見たくはないですよ。
(赤江珠緒)そうですよね!
(町山智浩)そう。だから嬉しいです。
(赤江珠緒)はい。わかりました。今日は町山さんに現在のアメリカの新型コロナウイルスの状況を伺いました。
<書き起こしおわり>