町山智浩『マエストロ:その音楽と愛と』を語る

町山智浩『マエストロ:その音楽と愛と』を語る こねくと

町山智浩さんが2023年11月21日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『マエストロ:その音楽と愛と』について話していました。

(石山蓮華)ということで今日は町山さん、何をご紹介いただけるんでしょうか?

(町山智浩)もうすぐ公開される映画で12月8日、公開の『マエストロ:その音楽と愛と』という、俺に全然向かないタイトルの『その音楽と愛と』という副題がついてる『マエストロ』っていう映画をちょっと紹介したいんですけども。

(町山智浩)この歌はご存知ですか?

(でか美ちゃん)はい。でも全然知識としてはないというか。「聞いたことあるな」ぐらいの感じです。

(町山智浩)「聞き覚えがある」って感じ?

(石山蓮華)舞台で見て。で、古い方の映画で見ましたね。

(町山智浩)そうですか。これは『ウエスト・サイド物語』というブロードウェイミュージカルの映画化のサントラなんですけども。そこから『Tonight』なんですが。この音楽を作った人がレナード・バーンスタインというアメリカ人の作曲家なんですね。で、この人の伝記映画がこの『マエストロ』という映画なんですよ。でね、レナード・バーンスタインって人はね、たぶんアメリカでは最大の作曲家と言われてる人です。それまでクラシックの作曲家っていうと、ドイツとかさ、ヨーロッパの人ばっかりだったんですけど。アメリカからとうとう本格的な作曲家が出たと言われた初めての人なんですね。で、この『ウエスト・サイド物語』は映画、ご覧になってますか?

(石山蓮華)はい。

(でか美ちゃん)私は見たことないです。

(町山智浩)ああ、そうなんですか。この映画はね、ブロードウェイミュージカルがもとにあるんですけど。画期的だったのは、その音楽の種類なんですよ。これ、話はプエルトリコ系の不良とポーランド系の不良の抗争の話なんですね。だから、アメリカの中では1960年にこれ、映画として公開されたんですけども。それまで、そういうマイノリティというものがアメリカに存在するっていうことは、実はハリウッド映画は出してなかったんですよ。ユダヤ系がいたり、イタリア系がいたり、実際にはするわけですけども。そういうことはないっていうふりをしていたんです。ハリウッド映画は。だからみんな「白人」っていうよくわからない……ただの白人なんて、いないのに。

(でか美ちゃん)そうか。そんなわけがないのに、それでやっていたっていう。

(町山智浩)そう。やっていたのを『ウエスト・サイド物語』からは白人の中にもユダヤ系がいたり、ポーランド系がいたり、ロシア系がいたり、いろいろとするんだ、みたいなことを初めて出す映画が出てきたんですね。で、その時に彼、レナード・バーンスタインが書いた曲っていうのは、アメリカにいるあらゆる人種の音楽をひとつのミュージカルの中にぶち込むってことをやったんですよ。で、アメリカは多民族国家ですから。ジャズがあるでしょう? 黒人の人たちが作ったジャズ。それと、ブルースがあって。プエルトリコ系の人とかラテン系の人たちが作ったサルサとかマンボとかがあって。それを全部、ひとつのミュージカルの中に入れて。「これがアメリカなんだ」ということを見せたんですね。ここですごいのは、それを全部1人で作曲してるってことなんですよ。

(石山蓮華)そうだったんですか!

(町山智浩)元々、クラシックの作曲家の人なんですけど、全部やっちゃうよっていう。

(でか美ちゃん)えっ、ジャンルが全然違うのに?

(町山智浩)全然違うのに。

(石山蓮華)なんか映画とか、舞台で見てても私は同じ人だとは思いませんでした。

(町山智浩)1人の作曲家が作ってるとは思わないですよね? 「いろんな人を雇っているんじゃないかな?」って思うじゃないですか。

(石山蓮華)そうですね。なんか、ディズニーのクラシックみたいなところもあるし。踊れるような曲もあるし。

ジャンルの違う曲を全て1人で作る

(町山智浩)タッチが違うから普通、バラバラの人が……それこそ人種の違う人がやってると思うんだよね。ところが全部、この人が1人でやってるんですよ。天才でね、この人がすごいのはジャンルもいろいろやるんですけど、仕事もいろいろやって。基本的にはニューヨークフィルの指揮者なんですね。それとこの人、大学の先生もやってるわけですよ。で、指揮を教えてるわけでしょう。それで今度は映画音楽の作曲もやっていて、ミュージカルも自分で作るんですよね。その上にね、テレビに出まくってたんですよ。レナード・バーンスタインっていう人は。日本のテレビで今もやってるのか。『題名のない音楽会』っていうのをやっているじゃないですか。クラシック音楽の面白さを若い人たちに伝えようとして、解説しながら生のオーケストラがね、いろんなことをやって見せてっていう。ああいう番組のフォーマットを作ったのは、このレナード・バーンスタインなんですよ。

(石山蓮華)へー!

(町山智浩)テレビが始まるでしょう? アメリカでテレビの放送が1950年代から。で、そのあたりからロックンロールが出てきちゃったから。若い人たちはロックとかしか聞かなくなっていったんですよ。で、クラシックとか聞かなくなってきている中で、ロックを聞く若い人たちと、あとはクラシックはいいんだけれども、ロックっていうのはすごく悪い音楽だなっていう風に思っている親父とかも。「最近の若者は、あんなやかましい音楽をやって下品だ」とか言ってる人たちの間に橋を架けるような仕事をテレビでやっていたんですよ。レナード・バーンスタインという人は。だから「クラシックっていうのはつまらないと思ってる人もいるでしょう。ちょっと、聞いてください。ねえ。面白いでしょう? かっこいいでしょう?」みたいにやったり。逆にビートルとかキンクスとか、そういったロックンロールをかけて。「これ、やかましいと思っているでしょう? クラシックをいつも聞いている人は。実はこれ、音楽的にすごいことをやってるんですよ」っていうことを解説するのをやっていて。それをテレビでずっとやっていた人なんですよ。

(でか美ちゃん)なんか音楽への愛がすごいですね。

(町山智浩)この人、すごいんです。で、この人の伝記映画がこの『マエストロ』なんですけども。マエストロっていうのは「指揮者」とかね、「巨匠」という意味ですけど。で、このバーンスタインを演じる人はブラッドリー・クーパーという人で。これ、写真を見るとわかるんですが。バーンスタインにすごく似てるんですね。

(でか美ちゃん)ねえ。似てますね。

(町山智浩)目と鼻のあたりのね、強い感じとかがすごい似てるんで。で、「やってくれ」っていう風に最初、スピルバーグから言われて。スピルバーグが監督するはずだったんですけど。この『マエストロ』っていう映画は。ただ、ブラッドリー・クーパーはこのキャスティングが決まった後に『アリー/ スター誕生』っていう映画を自分で主演して監督したじゃないですか。あれ、非常に素晴らしい映画だったんで。あれもミュージシャンの話なんですね。それを見たスピルバーグが「ああ、なんだ。君が自分で監督しろよ」って言って。で、彼らがこの映画を自分で主演して、監督をしてるんですよ。

(でか美ちゃん)スピルバーグ自ら、手放してたんですね。

(町山智浩)手放したんです。これに関しては。で、スピルバーグはこの映画をやる理由は非常に強くあって。このバーンスタインっていう人はユダヤ系の人だったんですね。で、スピルバーグもユダヤ系の人で。そのユダヤ系の人たちの音楽ってのは、クラシックの世界では差別されていたんですよ。で、その人たちの地位を向上させるっていうのに貢献したんでスピルバーグはバーンスタインの映画をやるんじゃないかと言われたんですけど。でも「君の方が向いてるんじゃない?」っていうことでブラッドリー・クーパーがやることになりましたね。で、『アリー/ スター誕生』っていう映画はご覧になってます?

(石山蓮華)見てはいないんですけど。レディー・ガガで出ていた……。

(町山智浩)そう。レディー・ガガが主演で。あれはブラッドリー・クーパーがミュージシャンなんですけど、レディー・ガガを発見するんですね。ゲイバーで歌っている彼女を見つけて、デビューさせるんですけど。レディー・ガガの方が才能があって。それを見つけたブラッドリー・クーパーは、彼女と結婚をするんですけども、どんどんどんどん自分の方が忘れられていくんですよ。世間で。で、アルコールに溺れていって、破滅していくんですね。で、夫婦の関係は非常にいいんですけれども、旦那の方がなんていうか、実存主義的な危機に陥っていくという話で。実話は元になってるんですけど。そういう夫婦って、たくさんいるんだと思うんですよ。なんていうか、奥さんの仕事に嫉妬したりね。だから同業はきついと思うんですけど。で、それを彼、ブラッドリー・クーパーが見事に監督したんで。音楽家の夫婦の話は1本、やったわけだから。これはもう、できるんじゃないかって。

(でか美ちゃん)ああ、なるほど。そういう流れもあって。

(町山智浩)そうなんですよ。で、これはバーンスタイン、音楽家としてはもう偉大なんですけども。音楽家としての仕事をするところがワンシーンぐらいしかないんですよ。

(でか美ちゃん)ええーっ? 「伝記映画って聞いてるぞ?」っていう感じですよね。どう描くんだろう?

(町山智浩)そう。僕がびっくりしたのは彼の一番の代表作である『ウエスト・サイド物語』を作るっていうところも、ほとんどないんです。びっくりした。

(石山蓮華)そうなんですか!

(町山智浩)で、そのテレビのシーンもほとんどないんですよ。「奥さんとお子さんから見たバーンスタイン」っていう映画になっていて。だから、ほとんど自宅にいます。

(石山蓮華)じゃあ、もう本当に家族の映画なんですね。

(でか美ちゃん)人間としての部分に迫っている?

バーンスタインとその家族を描く

(町山智浩)そうなんです。夫として、父としてのバーンスタインは一体どういう人だったのか?っていう映画になってるんですね。で、どうしてそれがこんな大きなドラマになるのかというと、まずひとつはすごくいい夫なんですよ。で、最初に奥さんと会った時も、奥さんは女優だったんですけど。これ、キャリー・マリガンさんが演じてるんですけどもね。とにかくね、ものすごくしゃべるんですよ。バーンスタインって。サービスするんですね。エンターテインして。ずっと面白いことを言ってるんですよ。で、歌って踊ってピアノを弾いて。センスもすごくいいし。で、顔もいいでしょう? バーンスタインって。

(石山蓮華)そうですね。

(でか美ちゃん)楽しい、華やかな人ですね。

(町山智浩)すごいハンサムで歌って踊って。そしてサービス……ものすごく気が利くんです。もう最高の男性、ボーイフレンドじゃないですか。で、結婚して子供が3人できるんですけど。そうすると、もう子供のために、仕事よりも子供をすごく重視して。しょっちゅう家にいるし。送り迎えはやるし。常に子供のそばにできるだけようとして。それで、いる間もずっとパーティーをやっていて、楽しいんですよ。子供たちを喜ばせようとして。最高の父親で、最高の夫なんですけど。ただ、問題なのは彼はゲイだったんですよ。

(でか美ちゃん)そうなのか。

(石山蓮華)じゃあ本当は、別の恋人もいたんですか?

(町山智浩)たくさんいたみたいです。で、一番最初に奥さんが「結婚しよう」ってことになって。「僕、紹介した人がいるんだよ」ってバーンスタインが言うんですね。「君と結婚することを彼に言いたいんだ」って言って。その彼っていうのは、クラリネット奏者なんですけど。「僕、この人と結婚することにしたから」って言うと、そのクラリネット奏者がこんな顔をするんですよ。

(石山蓮華)眉間にシワを寄せて。

(町山智浩)それを見て奥さんも「あっ、こいつら、できてる」って一瞬でわかるんですよ。

(でか美ちゃん)ああーっ! でも、そういう時の勘って100パー当たりますよね。

(町山智浩)当たっているんですよ。で、「うわっ、どうしよう?」と思うわけじゃないですか。まあ、たしかに奥さん、悩むんですよ。「この人、ゲイだわ。結婚……どうしたらいいのかしら?」って。でも、いい人なんですよ。ものすごく魅力的で。で、向こうの両親にも会うんですよね。すると、このバーンスタインの父親っていうのは、すごい嫌なやつなんですよ。音楽家でも何でもなくて、ビジネスマンとしては成功してるんですけど。自分の息子が、それこそ大指揮者として注目されてるのに、全くそれを父親は評価してないんですよ。「なんかチャラチャラした音楽かなんか、やってるらしいな。お前」みたいな。で、結構いい歳まで結婚しなかったし、恋人がいなかったんで、「どうも息子はゲイじゃないか?」って疑ってるっぽくて。その父親が「おめえはいつになったら一人前なるんだよ?」って言うんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そういう感覚で。なんか時代とかもあるでしょうし。

(町山智浩)時代もある。まあ、昔の話ですからね。で、「ああ、この人は結構、結婚しないとやばい感じなのかな?」って奥さんも気がついて。それもあって、結婚をするんですけどね。

(でか美ちゃん)なんか妻は妻で、異常なレベルで覚悟が決まってますよね。

(町山智浩)そう。すごい覚悟が決まってるの。この奥さんは。

(でか美ちゃん)そうですよね。その、なんか人としては愛してもらってるかもしれないけど、女性・男性としての愛情はなかなか……っていうところで。でも、結婚をしたのか。

(町山智浩)そう。だからものすごく複雑な夫婦なんで、みんな「一体、どういう夫婦生活だったのか?」ということでずっと謎とされていた部分を、その奥さんはもう亡くなっちゃっていたんですけども、娘さんがいて。今、62、3で存命中なんですね。その娘さんがずっと、その自分のご両親の夫婦生活を見てきたことをいろいろ本にして。で、この映画でも監修みたいな形で関わっているので、勝手にブラッドリー・クーパーたちが映画化したわけじゃなくて、ご家族の了解を得て。「こういう夫婦だった」っていうことで描いてるんですけど。まあちょっとね、すごいのは結構ね、このバーンスタインっていう人はめちゃくちゃなんですよ。さっき言ったみたいにものすごく天才で、エンターテインな感じなんだけど、酒とタバコとドラッグやりまくりなんですよ。

(でか美ちゃん)常にハイな感じで?

(町山智浩)常にハイ。

(石山蓮華)だって毎日毎日、パーティーをやるぐらいの勢いってすごいですね。

(町山智浩)そう。僕もね、途中から「これ、ちょっとおかしいな?」って思ったのは、昼間のシーンでもお酒のコップとかが置いてあるんですよ。「この人、ずっと飲んでいるぞ?」っていう。「この人、シラフでいないな」って。で、いつもハイで。それこそ「いやー、もう君たち、みんな元気? イエーイ!」みたいなことをやっているんで。「ヤクでもやってるんじゃないの?」って思っていたら本当にやっていたっていうね。

(でか美ちゃん)「本当にやってるんかい!」のパターンですね(笑)。

アルコールとドラッグで常にハイなバーンスタイン

(町山智浩)で、娘さんもそれには気がついていて。「かなりやばいな」と思うんですけど。そのエネルギーがね、作曲とか……もうありとあらゆる仕事をしてるんですよ。朝から晩まで仕事してるんですよ。

(でか美ちゃん)そうですね。テレビにも出て。曲も作って。

(町山智浩)で、普通のクラシックの作曲家と違って、ジャズ、ロック、ラテン、全部聞いてる人なんで。勉強のためにね。だからもう、常にフル回転してるわけですよ。常にアクセルを踏み込んでる状態になっているんで。「大丈夫か、この人?」っていうね。

(でか美ちゃん)「大丈夫か、この人?」って言われてる人って、大抵ネアカなだけだったりするけど、大丈夫じゃなかったパターンですね。

(町山智浩)鋭いですね(笑)。というのは、この奥さんがなんでこの結婚生活にある程度、我慢をしてるか?っていうと、この彼が抱えている闇みたいなものに気づいていくんですよ。なんでこんなにいつも躁状態で「イエーイ! レッツゴー!」みたいにやってるのか? それはどう考えても、何かを忘れようとしてるんですよ。

(でか美ちゃん)根が深そうな……。

(町山智浩)そう。自分自身の問題と直面しないように。自分の闇を見ないようにして。で、常に興奮状態に自分を置いてるという。で、そのことも奥さん、わかるんですよ。だからね、耐えるし。しかも、奥さんに対してめちゃくちゃいい人なんですよ。

(でか美ちゃん)そうですよね。家族に対しても。

(町山智浩)いいんですけど。途中からね、ちょっとダメになって。バーンスタインはね、自分の愛人ちゃんの男の子がいるわけですけども。それを自宅に連れてくるわ、エスコートしていろんなところに連れてくるわ。しまいには奥さんと同席させて2人……要するに、こっちに奥さん。こっちに男の子の恋人。その2人を抱えてマスコミの前に出たりしているんで。さすがに奥さんも「お前、いい加減にしろよ!」っていう。それはねえだろうっていう。

(石山蓮華)ちょっとラインを超えちゃいますけど。素に戻る時間というのは、なかったんですか?

(町山智浩)あのね、ほとんどないんですよ。2回ぐらい、素に戻ります。この映画の中で。それはその時に彼が傷を見せるシーンなんですよ。それは奥さんにしか見せないんですよ。だからいつも「イエーイ、イエーイ!」ってやっているんですけども。ふと、「僕は実はものすごい怒りを心にいつも秘めてるんだよ」って言うところがあるんですよ。

(でか美ちゃん)でもこれをちゃんと娘が関わって、映画にしているっていうのがすごいですね。

(石山蓮華)ねえ。ちゃんと当人たちのOKが取れてるっていうのは安心して視聴者としても見られますね。

(町山智浩)そうなんですけどね。その娘がね、父親に対して対決するシーンもあるんですよ。娘さんを演じてるのはイーサン・ホークとユマ・サーマンの娘さんがいて。もう大人になって俳優としていろいろ活躍されてるんですけど。彼女が娘さん役でね。彼女がやってるっていうのも、イーサン・ホークとユマ・サーマンの娘ってことで、いろいろ苦労してる部分を全開にして、うまく使っていて。バーンスタインに「お父さん。世間ではお父さんは男の人が好きだって言われてるみたいだけど、本当のところはどうなの?」って聞くところがあって。ズバッと聞くんですけども。そうするとブラッドリー・クーパーは「うーん……そうじゃ、ないよ……」みたいな(笑)。なんなんだ?っていうね。すごいシーンもあって。結構、すごい映画になってるんですよね。

(でか美ちゃん)なんか明るくバーッと、「エンターテイナーです!」ってやっていたら、なんかそういう自分のパーソナルな部分もパーンと、家族に対しても言ってやってるのかな?って思ったら、やばくなって3人連れて行くまでは割とこう、隠すというか。

(町山智浩)でも、誰でも知っていて。みんなわかっていて。まあ、そこらへんでキスしたりしてるんで。男性にね。

(でか美ちゃん)なんとも言えないあれがあったんだろうけど。

(町山智浩)で、この映画はだから、その夫婦愛はもう本当にすごい深い夫婦愛なんですけども。日本で今、公開する時にちょっと引っかかるところがあって。そのバーンスタインさんが恋人にしていた人たちっていうのは、自分よりも立場のかなり弱い音楽家の人たちなんですよね。

(でか美ちゃん)そうか。さっきもね、トランペット奏者って。奏者でしたもんね。指揮者でそうだと……ねえ。なかなか。

(町山智浩)そうなんですよ。権力的に差がすごくあるわけじゃないですか。それで、彼に気に入られれば音楽家としてはすごく万全だから……ってことで。そういう権力関係がある中で、なんというか、ねえ。そういう彼の欲望をね、暴走させたわけで。それ自体はいいの?っていうことはあるわけですよね。だからこの映画はぜひ、『TAR/ター』という映画と合わせてごらんいただきたいんですけども。『TAR/ター』はケイト・ブランシェットがレズビアンの指揮者を演じていて。で、彼女が尊敬してるのがバーンスタインなんですよ。

(石山蓮華)映画の中にも少し、このバーンスタインのテレビが出てきますよね?

(町山智浩)出てきます。ビデオで彼女、ケイト・ブランシェットが見るシーンがあります。で、あの『TAR/ター』という映画はもし現代にバーンスタインと同じことをしたらどうなるか?って話なんですよ。

(石山蓮華)ああ、そうか!

(町山智浩)だからね、すごく裏表でね。この『マエストロ』っていう映画と『TAR/ター』っていう映画は本当に裏表だなと思って。両方、ぜひ見て、いろいろと考えていただくといいかなと思いますけども。

『TAR/ター』と裏表の関係にある作品

町山智浩『TAR/ター』を語る
町山智浩さんが2023年1月31日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でケイト・ブランシェット主演の映画『TAR/ター』について話していました。

(町山智浩)で、この映画は1ヶ所しか彼が実際に音楽の仕事をするシーンがないって言ったんですけど。その1ヶ所っていうのが、すごいんですよ。6分間、あるんですけれども。バーンスタインがマーラーの『復活』という曲を指揮するところで、ブラッドリー・クーパーがそれのビデオが存在するんで。それを完璧に再現するんですね。で、その6分間の再現のために6年、修業したんですよ。

(石山・でか美)ええーっ!

(町山智浩)6年、修行したんです。

(石山蓮華)ブラッドリー・クーパーの6年のスケジュール!?

(町山智浩)すごいんですよ。

(でか美ちゃん)この映画の構想、そんな前からあったんですね。

(町山智浩)ずっと企画はあって。で、クライマックスがそれになるってことは決まっていたんで。6年間、ずっと修行していて。たった6分間のために。

(石山蓮華)うわー、見たい!

(町山智浩)すごいですよ。ワンカットで。

(石山蓮華)えっ、ワンカットで?

(町山智浩)もう、ものすごくて。とにかくバーンスタインっていう人はロックに近い人なんで。指揮をしているんですけども、一番騒いでます。それ、歌なんですけど、歌っちゃってるし。自分で。で、満面の笑顔で、叫びながらバーッて体中、もうめちゃくちゃ動かしながら。軽くジャンプしながらやっていて。宮本浩次さんが歌ってるスタイルに非常に近いです。

(でか美ちゃん)でも、たしかに指揮者の演技してみるのとはもう、枠から外れてるから。それだけ修行しないとやっぱり無理なのか。

(町山智浩)できないんです。とんでもないんです。もう見てるだけで爆笑するぐらい、すごいんで。その6分間を見るだけでもこの『マエストロ』は価値があるんで。ぜひ見ていただきたいなと思います。

(石山蓮華)これはぜひ、見に行きましょう。いろんな賞にも絡んできそうですね。

(町山智浩)はい。アカデミー賞は行くでしょうね。

『マエストロ: その音楽と愛と』予告

<書き起こしおわり>

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