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町山智浩『荒野の誓い』を語る

町山智浩『荒野の誓い』を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『荒野の誓い』を紹介していました。

(町山智浩)で、今日の本題を話します。本題はまた今週の末に公開なんですけども。『荒野の誓い』という映画なんですよ。これはやっぱりね、(『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と同様に)先住民と騎兵隊の話なんですね。西部劇ですね。

(赤江珠緒)「荒野」って聞くとそんな感じですね。

(町山智浩)そうなんですよ。『荒野の誓い』というタイトルでこれ、主演はクリスチャン・ベールです。バットマンをやっていた人ですね。それでものすごく太ってディック・チェイニーの役もやっていました。

(赤江珠緒)はいはい。『バイス』で。

(町山智浩)そう。『バイス』でディック・チェイニー副大統領の役をやって、また元にもどっていますけども。すごいよね、この人ね(笑)。体重を増やしたり減らしたりしすぎですよね。

(赤江珠緒)本当。『荒野の誓い』のポスターを見たら全然違う!

(町山智浩)そう。僕はインタビューしたんですけど、彼が言うには「奥さんや子供に止められた。『父ちゃん、太ったり痩せたりするのはもうやめて』って言われた」って言っていましたけども。

(山里亮太)これ、心配になるぐらいの増減だからね。

(町山智浩)そうですよね。「でも、自分自身は全然平気なんだけどね」って言っているけど、たぶん血管はボロボロだと思いますが。で、今回は痩せバージョンのクリスチャン・ベールで、彼は騎兵隊の軍人なんですけれども。ある使命を与えられるんですよ。それは大統領からの使命で、「インディアン戦争というものがもう終わるんだ。だから『平和になった』というキャンペーンみたいな形で拘束されているシャイアン族のインディアンの酋長の人をはるかに離れたシャイアン族の住んでいる土地、モンタナ州まで護送をしろ」という任務なんですね。

(赤江珠緒)うん。

酋長をはるか離れた土地まで護送する

(町山智浩)で、新聞社とかも来て、マスコミ向けのキャンペーンみたいなことをやらされるんですよ。ところがいくつか問題があって。まずこの主人公のブロッカーっていう名前の騎兵隊の隊長はですね、長い間のインディアンとの戦いの中で部下をたくさん殺されて、ものすごく先住民を憎んでいるんですよ。「そんな護送なんて死んでもやらねえよ!」みたいな感じになっているんですね。

で、さらにこの護送をされるシャイアン族の酋長のイエロー・ホークという人も一族をたくさん殺されて。しかも、自分たちが住んでいたモンタナからもう遥か彼方の、メキシコとの国境に近いニューメキシコに連れて来られて家族全員で拘束されている。で、ものすごく白人を憎んでいるんですよ。

(赤江珠緒)それはそうですね。

(町山智浩)その彼を護送しなきゃならない。で、一緒に運んでいるのは部隊みたいな形で小隊を組んで運ぶんですけども。ちなみにその中にはティモシー・シャラメくんもいますよ。『君の名前で僕を呼んで』のあの美少年ですけども。彼も出ているんですが。で、一緒に連れて行くその騎兵隊の人々もみんな心を病んでるんですよ。ものすごい長い戦闘が続いたんで、みんなおかしくなってるんですよ。で、運んでいくとまたいろんな厄介事が次々と起こるっていうまあ一種のロードムービーといわれる旅映画なんですけども。で、行く先々で敵が襲ってくるし。

(赤江珠緒)ええっ? 一応もう治めているということじゃないんですか?

(町山智浩)あのね、この頃は「もうインディアン戦争は終わった」って言ってるんですけど、その中で戦闘を続けてる人たちが何人かいるんですよ。一族全体はアメリカ政府に対して降参してるんだけれども、何人かはゲリラ戦を続けているんですよ。それが無差別にその白人を殺すという形で報復をしてるんですよ。で、この一行はそこのコマンチ族という人たちに家族を皆殺しにされてしまった生き残りの奥さんを途中で拾う形になります。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それはロザムンド・パイクさんっていう、『ゴーン・ガール』のあのとんでもない奥さんの役をやっていた人ですけども。『プライベート・ウォー』という映画では片目のジャーナリストをやってた人ですね。その人も拾って。今度はこの奥さんというのは家族を……もう自分の娘も先住民に殺されているから、先住民をものすごく憎んでいるんですよ。でも、彼女も拾って。

で、その頃っていうのは西部の荒野は砦がいくつかと、いくつかの小さな街があるだけで、その間は非常に危険なんで。その間はみんなが護衛して、互いにグループを組んで身を守りながら移動しなきゃならないんですよ。で、また移動をしていくと次々といろんな敵が現れるんですね。で、同じ騎兵隊員の中にもものすごく先住民を憎んでいる人が何人かいて。そいつらは「ことあらばなんとか先住民を殺してやろう」って思って付け狙ってくるんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だからもう四方八方が全部敵の中で果たしてそのイエロー・ホーク酋長を彼の故郷まで送り届けられるんだろうか?っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)そうなると複雑な心理になりますね。

(町山智浩)そうなんですよ。しかもこの酋長がなぜ故郷に帰りたいっていう風になったかというと、ガンで余命いくばくもないという。で、「死ぬ時までには自分の故郷で死にたい」ということで運ぶんですけど、もう全員が憎み合っている状態で、憎み合っている人たちの間を抜けて行くという過酷な使命の話なんですね。で、この「インディアン戦争」という言葉が出てくるんですけど、それがいったいどういうものか?っていうのがなかなか日本の人たちにはわかりにくいと思うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

300年続いたインディアン戦争

(町山智浩)インディアン戦争っていうのは300年以上続いたんですよ。ものすごい戦争だったんです。で、「戦争」っていうとひとつの戦争だと思うと思うんですけど、そうじゃなくてこれは実際の英語では「Indian Wars」なんですよ。だからいくつもの戦争が中に入ってるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、じゃあ戦国時代みたいな、そういうイメージなんですか?

(町山智浩)そうそうそう。戦国時代ってほら、全体としては中に小さい戦争がたくさん入っているわけじゃないですか。あれに近いんですよ。で、いつ戦争が始まったかというと、いちばん最初にその『ポカホンタス』っていうディズニーの映画があったじゃないですか。あれでイギリス人たちがはじめてアメリカに渡ってそこに入植するじゃないですか。村を作る。その段階からもう戦争は始まっているんですよ。あとはピルグリム・ファーザーズって言われている人たちがボストンの方に着いたんですけども。最初は先住民の人たちは快く迎えてくれたんですけども。先住民の土地を白人が取ろうとして、すぐに戦争になっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)入植と同時に戦争ですよ。で、そこからどんどんの戦争をしながら白人が東から西に広がっていくんですね。

(赤江珠緒)そうか。300年か。なるほど……。

(町山智浩)300年ですよ。それはものすごい関係性になってきますよ。で、先住民の人たちは最初、全然戦争をする気はなかったんですよ。というのは、彼らは「土地を所有する」という意識がないんですよ。だから白人が入ってきたところで、別にその土地は俺のものではないから。だから別に「住めば?」っていう感じだったんですよ。

(赤江珠緒)「みんなのものだ」みたいな?

(町山智浩)ええとね、巨大な神みたいなものなんですよ。「グレート・スピリッツ」というのがいて。まあ、宇宙の真理みたいな。形のあるものじゃなくて宇宙の法則みたいなものを先住民というのは信じているらしいんですね。で、土地というものはそのものなんだと。空とかを所有できないように、土地を所有できない。だから「住みたい」という人がいれば住めばいいんだっていう考え方なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。うん。

(町山智浩)ところが、白人にはそういう概念がないんですよ。「領土」っていう概念があるんですよ。だから噛み合わないんですよ。なので「ここは白人の領土だ」って言っても入ってきちゃうんですよ。要するに「誰のものでもないじゃん」っていう。その噛み合わない中で戦争になっていくんですよ。で、それを300年続けてるから、もう恨みが溜まっていくんですが……ここですごく重要なのは白人たちは先住民をひとかたまりだと思っているんですよ。だからさっき言った奥さんは家族をコマンチ族に殺されているんです。ところが、コマンチ族っていうのとこの護送する酋長のシャイアン族っていうのは全く関係がないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。うん。

「先住民」と「白人」

(町山智浩)その住んでいたところっていうのも距離的にも北海道よりも離れているんですよ。アメリカっていうのは巨大ですから。日本の何十倍もあるわけですね。だから「先住民」っていうけども、端っこに住んでいる人たちっていうのは遺伝子的にもすごく遠いんですよ。全く別の民族なんです。それなのに白人はそれを全部ひとかたまりとして考えて、インディアン戦争ということで「自分たちは先住民というグループと戦っている」っていう感じになっているんですね。すると、全然関係ない恨みが全然関係ない人たちに向けられるんですよ。

(赤江珠緒)ひどいな。うん。

(町山智浩)これはひどいんですよ。だからそういった……でも、それは先住民たちの方も同じで。「白人が俺たちの土地を奪って、生活を奪って、家族を奪ったんだ」っていう風になっているんですけども。でも、その「白人」っていうのはいったい誰か? 「白人」というものはいないんですね、実際には。それぞれが、ウィルソンさんだったりジョンさんであったりするけども、「白人」っていう名前の人はいないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、彼らから見たら全部が白人で一緒くたなんですよ。だから、お互いに同じなんです。家族をその人に殺されたわけではないよねっていうことなんです。でも、一人ひとりは認識しないで全部一緒で。「白人は嫌だ」「インディアンは嫌だ」ってなっちゃってるんです。それをこの3人が一緒に旅してる間に乗り越えていくっていう物語なんですよ。この『荒野の誓い』っていう映画は。

(赤江珠緒)乗り越えていく。この敵対状況を?

(町山智浩)だからこのブロッカーっていう人は最初は「こいつは先住民だ。俺の仲間を殺したやつだ」と思ってるんですけど、「この人は『先住民』ではなくて、この人は『イエロー・ホーク』という個人である」っていうことにだんだんと気づいていくんですよ。驚くことじゃないでしょう?

(赤江珠緒)う、うん。そうなんですけども、そういう状況でそういう風に至れるのか?っていうね。

(町山智浩)一緒に2人で面と向かって戦いを切り抜けていったり、生活をしていく中で一人ひとりになっていくんですよ。一人ひとりとして向き合っていくんです。で、その時は相手がアメリカ人だろうと日本人だろうと韓国人だろうと関係ない。そこにいるのは「田中さん」とか、そこにいるのは「李さん」とか。そういうことをわかっていくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)やっぱり相手のことを知れば知るほど、敵意っていうのは薄まっていくんですね。

(山里亮太)うん。ちゃんと知ればね。

(町山智浩)「一人ひとりとして対峙していく」っていうことなんですよ。それを、この3人で旅をしながら、だんだんその真実に近づいていくっていう物語がこの『荒野の誓い』という映画なんですね。だからこれをいま、アメリカで作るということはすごく意味あるし、日本でいまこの映画を見るということにもすごく意味がある映画だと思います。もっと詳しい解説はパンフレットに書きましたんで、ぜひ読んでください。という映画が『荒野の誓い』ですね。今回は『ゴーン・ガール』のお姉さんはあんまりとんでもない事はしませんからね(笑)。

(山里亮太)ああ、『ゴーン・ガール』のイメージで行くと、落ちつている。

(町山智浩)それで行くとね、「お前は『ゴーン・ガール』なんだから悪いことやったれや!」って言いたくなるんですけども。『ゴーン・ガール』ではないですから(笑)。

(赤江珠緒)いや、役ですから(笑)。『荒野の誓い』は今週末、9月6日公開となっております。これまたすごく考えさせられそうな映画ですね。町山さん、ありがとうございました。

『荒野の誓い』予告編

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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