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町山智浩『ボストン市庁舎』を語る

町山智浩『ボストン市庁舎』を語る たまむすび
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町山智浩さんが2021年10月26日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でフレデリック・ワイズマン監督の映画『ボストン市庁舎』を紹介していました。

(町山智浩)ということでね、今日紹介する映画はちょっと近いんですが、ちょっと遠いような話なんですけども。タイトルからして全然見る気なくす映画なんですが。『ボストン市庁舎』っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)わっ、たしかにね、固いし地味ななんかタイトルですね。

(町山智浩)市役所ですよ。「ボストン市役所」みたいなね。これで、しかも上映時間はなんと4時間半あるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 4時間半!?

(町山智浩)4時間半なんですよ。ポストン市役所のドキュメンタリーを4時間半、見るっていう。ちょっとすごい地獄のような気がするんですけど。これが結構面白いんですよ。でね、これ監督はね、この人もまたすごいんですが。4時間半の映画を撮った監督は現在、91歳。現役最年長監督です。世界で。クリント・イーストウッドと同い年かな? フレデリック・ワイズマンっていう監督なんですが。この人はドキュメンタリーの巨匠で。1967年から50数年間で48本もドキュメンタリー映画を作ってきた人なんです。ギネス級の人です。だから54年間で48本だから、ほとんど1年1本、映画を撮ってますね。

(赤江珠緒)すごいですね。

(町山智浩)で、この間、インタビューしたんですけども。あまりにも元気なんで「なんでそんなに元気なんですか? 秘訣を教えてください」って言ったら「遺伝としか言いようがないね」ってかわされましたけども。で、このフレデリック・ワイズマンっていう人はどういう映画を作ってきたのか? 最初の映画は1967年の『チチカット・フォーリーズ』っていうタイトルの映画なんですが。これ、非常に奇妙なタイトルなんですけど。これね、ボストンの近くにあるマサチューセッツ私立精神病院の内部を撮影したドキュメンタリーなんですね。

で、ちゃんと許可を取って撮影したんですけれども、いわゆる閉鎖病棟というやつで。完全に患者たちが檻の閉じ込められていて。そこでもう徹底的に虐待されるんですよ。で、全裸にされたり、拘束されたり、無理やり薬を飲まされたり。人権を踏みにじられるのをそのまま撮影して。で、それを公開しようとしたらマサチューセッツ州が映画の公開を禁止して大騒ぎになって。大騒ぎになったおかげで「精神病院の中ではこんなにひどいことが行われているんだ」ということで全米の各地の閉鎖病棟の内部がいろいろと調査されて、廃止されたり、改善されたりしていったきっかけになった映画なんですね。それが『チチカット・フォーリーズ』っていう映画なんですが。その後、ワイズマン監督が撮ってきた映画のタイトルで言うとですね、『高校』。そのまんま。それから『病院』、『福祉』……。

フレデリック・ワイズマン監督の作品

(赤江珠緒)えっ、ちょっと待ってください。『福祉』とかって、そんなタイトルあります?

(町山智浩)そのまんまなんですよ。『競馬場』、『動物園』。

(赤江珠緒)ええっ? タイトルを考えようという姿勢はないのですか?(笑)。

(町山智浩)『大学』とか。というね、もうそのままのタイトルなんですけども。この人の映画の撮り方はもう、まさにそのまんまなんですよ。この人、ドキュメンタリーを撮っているんですけども。まず、初めて見た人はびっくりすると思うんですね。誰が誰だかわからないんですよ。出てる人が。つまり、ナレーションとか下にテロップで説明が入らないでなんですよ。で、ナレーションがないから、その場は一体どういう場で、どういう状況でこの人たちは何をしてるのか、全くわからない。だから、見ながら考えなきゃならないんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。急にその場に連れてこられたみたいな感じですね。観客は。

(町山智浩)そんな感じなんですよ。でも、どうしてそういうことをするか?っていうと、ドキュメンタリーでナレーションをつけたり、説明をつけたりすると「こういう風に見てください、こう考えてください」っていう風に監督が押し付けることになっちゃうんですね。それは避けたいと。「ただありのままの状況を見せるから、観客が自分で考えてください」っていう映画なんですよ。だからタイトルも「○○の××」とかならないで、『高校』『病院』みたいな。

(山里亮太)ああ、なるほど!

(赤江珠緒)そうね。何も足していないですね。

(町山智浩)何も足していない。『動物園』とか。「これがどうだ」みたいな……「地獄の」とか「楽しい」とか、そういうのをつけないんですよ。印象を植えつけられちゃうから。『高校』とか。そのままなんですよ。『病院』とか。そういう、すごい撮り方をしている監督なんですけどもね。で、今回『ボストン市庁舎』を撮ることにしたんですが。これ日本語タイトルは『ボストン市庁舎』なんですけども、原題は『City Hall(市役所)』なんですね。だからこの人の路線のままなんですけども。あんまりにも『市役所』っていうタイトルでは公開できないと思ったのか、『ボストン市庁舎』っていうタイトルになってんですけど。日本ではね。

で、今までこうやって病院とか学校とかのまあドキュメンタリーを撮ってきたんで、それを一括して管理しているところ、運営しているところはどこなのか?っていうことを考えたら、それが市政府なんだということで。だったら市役所、市長をちゃんと取材すれば全部、全体像が抑えられるということで『ボストン市庁舎』を撮ることにしたそうです。でね、この映画はまず最初にボストン市庁舎の電話コールセンターから始まるんですけども。

で、そこにかかってくる電話はですね、「ネズミが出ました」とか「家主に電気を止められちゃいました。水道を止められました」とか。「近所の信号が消えてるんですけど」「街灯が消えてます」とか、そういう電話なんですが。ボストン市はね、警察を呼んだり、消防署を呼んだりするみたいな非常事態以外、緊急事態以外の全ての相談を電話番号「311」で通報して相談できることになっているんです。

(赤江珠緒)へー。いいですね。

(町山智浩)だからたとえば、その急いでないものだから、「近くの公園に車椅子で入りにくい。アプローチがない」とか、そういうことも何でもいいから相談していいっていうことになっていて。それに受け答えしていくところから始まって。あとの映画はそれに対して実際にどういう風に応じていくか?っていうのを見せていく映画になっていますね。ただ、見ながら「これは一体、どこで何をしてるのか?」ってことを考えるんですけども。こういうシーンがありまして。

教会があって、その教会にご老人たちが集まってるんですね。そこに50代の市の男性職員が来て……振り込み詐欺ってアメリカでもひどいんですけども。老人たちとそれについて、いろんな質問のやり取りをするんですね。で、こう言うんですよ。「銀行からメールが来ても、そういうことを銀行はメールしませんから。それはインチキです」とかね。そういうことを教えていくんですけども。その職員はですね、こう言うんですね。

「困ったことがあったり、詐欺かなと思うことがあったらいつでも市庁舎の方に電話してください。私もオフィスにいる時はその電話に出ます。だから何でも電話してください」って言うんですが、その市職員は実はボストン市の市長なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 市長が自ら?

市長が自ら市民と話す

(町山智浩)市長自ら、その老人のところに行って。現場のところに行って、質問を直接受けて、話し合いをしてるんですね。この人はマーティ・ウォルシュという市長なんですけれども。この人がすごいわけですよ。実際は。というのは、もう日本の地方自治体の長、市長とか知事のかなり多くの人たちは市民と直接会話しないどころか、記者会見ですら質問にちゃんと答えない状況ですから。この感じはすごいんですね。このウォルシュ市長の。で、これはね、アメリカの市長はみんなこうか?っていうと、そうじゃなくて。これはボストン市のウォルシュ市長が特にすごいんですよ。

というのは、この映画でなんでボストン市を取材することになったのかというと、このフレデリック・ワイズマン監督はあらゆるところに「市の仕事を密着して全部撮らせてほしい」という風に手紙を書いたんですが、返事が帰ってきたのはボストンだけだったんですね。

(山里亮太)他は見られたらマズいんだ。

(町山智浩)そう。やっぱり内側を見られたらマズいっていうことで、みんな返事もしてこなかったと。で、ここは「もう全部、撮ってください。どこでも撮ってください」っていう感じだったそうなんですけども。

(赤江珠緒)本当に風通しがいいんだ。ボストン市長は。

(町山智浩)で、「このボストン市がね、そういうことですごい市だってことを知ってたんですか?」って監督に聞いたら、「全然知らなかった」って言ってましたけど。フレデリック・ワイズマン監督は今、フランスに住んでるんですね。で、「撮っているうちに『こいつらはすげえ』と思った」って言ってましたから。というのはね、このワイズマン監督自身はボストンで育った人なんですよ。で、ユダヤ系なんですけど、昔は非常に差別的で腐敗した街だったんですね。ボストンって。これ、映画でもね、『ディパーテッド』とかね、『スポットライト 世紀のスクープ』とかで描かれているんですけれども。ボストンはね、アイルランド系のマフィアが仕切ってる街なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)で、警察も市役所もキリスト教のカトリック教会も、このアイルランド人かイタリア人のカトリックに支配されていて、完全に腐敗しきっていて。癒着をしてて。で、黒人とかユダヤ系とかアジア系とか中南米系に対してものすごい差別があったんですね。で、このワイズマン監督の父親もユダヤ系で市の役職につけなかったりしたことがあったんで、すごくボストンってダメだなとワイズマン監督が思っていたら、今回取材してみたら全然違うんでびっくりしたと。で、それは2014年に市長に就任したマーティ・ウォルシュ市長がすごい改革をしたらしいんですよ。

とにかくその市の要職に女性を半分、つけてね。あと、アフリカ系とか中南米系とかアジア系の人たちをどんどん採用して。で、アメリカで一番多様性のある市政にしようってことで変えていって。あと、その経済格差解消作戦みたいなことを始めて。市の持っている市有地っていうのがありますけどもね。そこにどんどん低所得者向け住宅を作っていくっていう。

(赤江珠緒)へー! すごいですね。

(町山智浩)で、その5年間で2万8000戸の低所得者向け住宅を建ててるんですよ。で、今アメリカですごく問題になったら家賃がとにかく高くて高くて、貧しい人たちっていうか、低賃金労働者が仕事があるのにホームレスになっちゃうという状況が広がっているんですね。で、それを解決するためにそういう住宅を作る。あと、やっぱり大家は家賃を上げたいってことで、大家とトラブるわけですけど。それに対して、家賃が払えなくなってもすぐに立ち退きをすることを法律で禁止する立ち退き防止法を市で作ったり。いろんな形で頑張っていくうちに、その5年間でものすごい中産階級を増やしていく。中流を増やしていくということをして、かなり実績を上げていくんですね。

で、実際にどうやってやっていったかを見せていくんですが、これがすごいんですよ。たとえば、そういう所得者向け住宅を作る時に、建設業者の人たちに発注をするわけですね。で、入札があるわけですけど。その時もちゃんと意見を聞くんですよ。地元の人たちにね。そうすると「大手のところに受注をさせないでくれ」って言うんですよ。地元の工務店の人が。「大手の建設業者とかが受注しても、どうせ俺たち下請けに下請けさせるんだから。結局大手に中抜きされるだけで、俺たちは取り分減るだけなんだから、直接俺たちに仕事をくれないか?」みたいなことを言うのをちゃんと聞いたりね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)もうすごくみんなの意見を聞いていくというね。

(赤江珠緒)政治家としてものすごく頑張ってる人ですね。

(町山智浩)そうなんです。すごいんですよ、これ。このウォルシュ市長とその仲間たちがね。で、失業率もね、2.4パーセントまで落としてね、史上最低を記録したりするんですけど。あとね、仕事が早い早い。公園がありまして。ボストンコモンズっていう公園があるんですね。そこに、さっき言った車椅子用のアプローチがなかったんですね。スロープが。ウォルシュ市長の前には。で、それを障害者委員会みたいなものを作って「何が問題か?」「そこにスロープがないことです」「じゃあ、作りましょう」っていうことで、もうすごいんですよ。5分ぐらいで決めちゃうんですよ。「予算を立てましょう」って。このスピード! スピード感がものすごいんですね。

スピード感がものすごい

(町山智浩)で、「ホームレスが冬になると駅に集まってしまって大変だ」っていうことで。「その人たちを追い出す」という話とかになるわけですが、そうじゃなくて「彼らのためにシャワールームを作りましょう」とかね。パパッと決めるんですよ。スピード感があって。で、それだけじゃなくて一番、この『ボストン市庁舎』で感動的なのは1人1人の職員たちが自分たちがやること。自分たちがやっている仕事の意味ということを完全に理解しているってことなんですね。でね、駐車違反をした人がね、チケットを切られて。「このチケットは払えない」っていう風に反論してくる場所っていうのがあるんですね。

日本でもやってるとは思うんですけど。で、異議申し立てをする時に、その駐車違反をした人がですね、「僕、子供が初めて生まれて。ものすごく大喜びで、焦っていて。だからその車を消火栓のところに停めちゃったんです」って言うんですよ。そうすると、駐車違反取締係の人は「わかりました。ではこの違反はなしにします」って。

(赤江珠緒)ええっ、そんなことも?

(町山智浩)その人の、彼自身、彼女自身の個人的な判断でチケットをなしにしてるんですよ。その場で。

(赤江珠緒)ええっ? そういうのって全部、杓子定規っていう。ルールに則って、みたいなイメージですけど。

(山里亮太)役所といえばね。

(町山智浩)そうなんですよ。お役所仕事っていうと、そういうイメージなんですけども。そうじゃないんですよ。ものすごく人間的なものになっていて。まあ、ボストンを改革しようとしてるんですけど。その中でもいろいろ戦いがあって。たとえば、その撮影をしている時はトランプ政権なんですよ。だから、入国管理局。入管に外国人を見つけ出してそのビザが切れていたら、どんどんと家族や子供と引き離して、収容所にぶちこむっていうことをトランプ政権はやっていたんですけど。それをさせないという法律をこのボストン市長は作ったりね。そうやってまあ、トランプ政権と闘いながら、5年間で本当にいい市にしていこうとするんですけども。

ここで彼、ウォルシュ市長の演説が本当に素晴らしくてですね。「私がやってるのはただの市の仕事ではありません。この市を改革して、それが成功すればそれが州に広がり、最後には国に広がるんです」って言うんですよ。「だから私たちで街を変えて、国を変えましょう!」って言うんですよ。これは素晴らしいんですけど。彼は今はですね、その市長を辞めて。今年からバイデン政権の労働長官に任命されて、本当に国を変えているんですよ。

(赤江珠緒)へーっ!

(町山智浩)これはね、すごいことになってますけどね。これは、この映画が作られた後でそういう人事があったんですけどもね。でね、とにかく彼、ウォルシュ市長が何度も言うのは「皆さん、助けを求めてください。助けるのが我々の仕事です」って言うんですよ。これ、当たり前のことなんだけど、最近なんか変なことになっていて。日本だと総理大臣が「自助」とか言ったりして。それが政治理念とか言ったりする時代になってるんで。でも政治っていうのは実際はそうじゃなくて。「公助」をするためのものなんだっていうことを改めて思い出させる感じなんですよね。

(赤江珠緒)で、それが成立している世界があるっていうね。

「助けるのが我々の仕事です」

(町山智浩)というか、これが当たり前だったんですよ。昔は。日本でもいっぱい都営住宅を作ったりして。僕は子供の頃は都はすごく貧しい人たちのために、そこらじゅうに都営住宅を作ったんですよ。そういうことをやっていたんですけど今は逆にその公共サービスって日本ではすごい削られてるわけですよ。で、民営化がすごい進んで。病院とかが減らされたりね。それでいて、大企業とやる事業ばっかりにいろいろ……まあカジノとかね、そういうことばっかり考えていて。

で、公務員をすごく減らして、人材派遣業者の方にやらせてるから今、日本の役所の窓口の職員や教員や保育士の5人に1人が非正規労働者で最低賃金で働いているワーキングプアなんですよ。だから役所がワーキングプアを作り出してる状態なんなんですよね。今の日本は。フレデリック・ワイズマンにそのことを話したら「この映画を見て勉強し直せ!」って言ってましたよ。

(赤江珠緒)そうね。このボストンの政治のやり方がレアっていうのがね、おかしなことですもんね。

(山里亮太)これがあるべき姿ですもんね。

(町山智浩)そうなんですよね。だから今週、選挙だからね。本当に投票で変わりますから。それは。国も地方自治体も。ということで皆さん、ぜひ投票と、この映画『ボストン市庁舎』。11月12日から公開なので。4時間半ですが(笑)。でもね、地方自治体とか政治にかかわっている人、全ての人ですね。それら全ての人が見るべき映画です。これが政治ですよ。

(赤江珠緒)なるほど。『ボストン市庁舎』。11月12日から全国順次ロードショーです。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『ボストン市庁舎』予告編

<書き起こしおわり>

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