高橋芳朗 2020年アメリカ大統領選挙と音楽業界の動きを語る

高橋芳朗 2020年アメリカ大統領選挙と音楽業界の動きを語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

高橋芳朗さんが2020年10月23日放送のbayfm『MUSIC GARAGE : ROOM 101』に出演。著書『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』を切り口にアメリカ大統領選挙を目前に控えたアメリカの音楽業界やアーティストたちの動きについて話していました。

(渡辺志保)ここからの時間は音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんをお迎えして、スモール出版さんから発売されている新刊『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』についてたっぷりとお話を伺ってまいりたいと思います。めちゃめちゃ楽しみにしておりました。高橋芳朗さん、どうぞよろしくお願いいたします。

(高橋芳朗)こんばんは。よろしくお願いいたします。

(渡辺志保)以前、2019年4月19日。この番組が始まって割とすぐだったんですけど。その時にも大先輩としてご出演いただきまして、本日2回目のご登場、ありがとうございます。

(高橋芳朗)『生活が踊る歌』という著作を切り口にいろいろお話させてもらったですよね。

高橋芳朗と渡辺志保『生活が踊る歌』を語る
高橋芳朗さんがbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』に出演。渡辺志保さんと著書『生活が踊る歌 TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」音楽コラム傑作選』について話していました。 (渡辺志保)続いては、お待ちかねのゲストの...

(渡辺志保)そうなんです。そこでもいろんなことを教えていただいて。また今回もね、そのアメリカのポップミュージックを軸に社会問題までを語っていらっしゃるという内容ですので。今日もちょっと肉厚な感じでお話を伺っていきたいと思います。まずは簡単に高橋芳朗さんのプロフィールを紹介させてください。

高橋さんはTBSラジオの番組『ジェーン・スー生活は踊る』や『アフター6ジャンクション』などの番組にもご出演。今回発表された『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』は各番組での音楽特集から、アメリカの政治的、そして社会的なトピックに関連する解説を抜粋して再構成したもので、高橋芳朗さんご自身によるコラムや評論、そして書き下ろしパートを加えて書籍化されました。スモール出版さんから絶賛発売中でございます。

(渡辺志保)反響はどんな感じですか? まだ発売されたばかりだとは思いますが。

(高橋芳朗)ちょっとまだ書評とかそんなにタイミング的に出てないので、反響がどんな感じなのかなって分からないところもあるんですけれども。それとは別に、このタイミングで出せたことにすごい意義を感じております。アメリカ大統領選直前のその混沌としたアメリカの状況の中で、日本にそういう現地の空気の片鱗でも伝えられるような本を出せたこと個人的にすごい手応えを感じていますね。

(渡辺志保)この大統領選前にだそうという、それがひとつのゴールみたいに最初から?

(高橋芳朗)そうですね。それは当然、もちろんありました。

(渡辺志保)そして、何より『生活は踊る』の前回の書籍もそうですけれども、やはり高橋さんといえばラジオという感じがしますし。本書も今、説明させていただいた通り、いろんなラジオ番組に出られた時のその内容を元に書かれているので、しゃべり言葉で書かれているっていうのがやっぱりすごくキモなのかなという風にも思いました。

(高橋芳朗)それが分かりやすさに繋がったらいいなと思っています。

(渡辺志保)そしてですね、この『ディス・イズ・アメリカ 』で触れられている内容についても伺っていきたいと思うんですけれども。まず、今年の話をぜひ伺いたいなと思っていて。本当にさまざまなテーマについて書かれている著作ですけども。ちょっと早い段階ではあるんですが、もう2020年はめちゃめちゃ混沌というか。2020年全体がもうパンデミックっていう感じがするんですけど。高橋さん的に振り返ってみてどんな1年だったという風に形容しますか?

(高橋芳朗)志保さんが仰っていたみたいに、1月にグラミー賞でビリー・アイリッシュが主要4部門を制覇したのがもう本当に遥か昔に感じるというか。

(渡辺志保)そうですね。遠い昔のことのように感じますね。

(高橋芳朗)それで3月ぐらいですか? 新型コロナウイルスが世界中に感染拡大して。それを受けてレディ・ガガがオンラインのチャリティーコンサートを開催したりとかしたじゃないですか。『One World: Together at Home』っていう。

(渡辺志保)ねえ。かなり大規模な。そしてかなり巨額のドネーション(寄付)を集めて……っていうことがありましたね。

(高橋芳朗)まあ、そういう大きなトピックがあったんですけど、全部やっぱり5月のミネアポリスのジョージ・フロイドさんの殺害事件。ミネアポリスで無抵抗の黒人男性が白人警官によって殺害されたあの事件で、何かちょっとムードが一変したというか。それ以降のトピックがやっぱり印象に残ってますかね。

(渡辺志保)でもに本当そうですよね。もちろん高橋芳朗さんご自身もそうだと思うんですけど。私もやっぱりブラックミュージック、ラップミュージックに心を奪われて、ずっとそれを聞き続けていて。本当にもうなんて言うんすか? おこがましいながら、それでちょっと日本で飯を食っているみたいな仕事をしてるので、やっぱり今回のそのBlack Lives Matter。そしていろんな……ブリオナ・テイラーさんとかジョージ・フロイドさんの事件っていうのをリアルタイムで目の当たりにしたっていうのは個人的にもすごくインパクトというか。良くも悪くも、めちゃめちゃインパクトを受けてしまいましたね。「こんなこと、あるんだ……」っていう。

(高橋芳朗)この『ディス・イズ・アメリカ 』だと最初にそのBlack Lives Matterが台頭してきた2014年、2015年ぐらいがまさにスタートになってるんですけど。その時とまた全然状況が違ってますよね。今回は。やっぱりね、僕はあのジョージ・フロイドさんが殺害され時の絵面。あれがやっぱりね、ちょっと強烈だったんじゃないかなっていう……。

(渡辺志保)そうですね。本当に、そうですね。まあキラー・マイクとかも実際にスピーチで言ってますけど。「殺人ポルノ」っていう言葉を彼は使っていましたけど。本当に今はスマートフォン1台で何でも、どこまででも情報が拡散されていく時代。だから、この番組でも押野素子さんとかにお話を伺ったんですけれども。今回のBlack Lives Matterのムーブメントは本当にスマートフォン時代のデモみたいな。そういった感じはすごく受けましたね。

(高橋芳朗)中でも結構、Black Lives Matterの運動を支援するようなプロテストソングがいっぱい出たじゃないですか。リル・ベイビーの『The Bigger Picture』とか、あとはH.E.R.の『I Can’t Breathe』とか。

(高橋芳朗)そのへんが僕的には特に印象に残ってるんですけど。中でも、ちょっとこの番組で紹介するのは異質なのかもしれませんけれども。カントリーバンドのディクシー・チックスがグループ名を「チックス」に改めてカムバックをして。6月25日に『March March』っていうシングルをリリースしたんですけれども。これが結構、『ディス・イズ・アメリカ 』の本の中でも扱っているんですけども、すごい衝撃でしたね。

The Chicks『March March』

(渡辺志保)そうですね。私もこの『ディス・イズ・アメリカ 』を読んで改めて自分の知識を深めたっていうところがあるんですけど。ディクシー・チックスって本当に90年代とか、もう全米を代表するカントリーバンド。カントリーの枠を超えてですけど。

(高橋芳朗)一番セールスを上げてる女性グループなんですよね。2003年に当時、ブッシュ政権を批判したんですよね。イラク侵攻に突入していったブッシュ政権を批判して、それがカントリーアーティストとしてはね、主に支持するファン層が保守層だったりするので。それでもすごい激しいバッシングを浴びて。でもそれに屈することなく、その自分たちの主張を貫いてグラミー賞を受賞したっていう、そういうキャリアのグループなんだけれども。そんな彼女たちが14年ぶりに、このタイミングで、そのBlack Lives Matterを支援するプロテストソングと共に帰ってきたっていうところにその今の混迷するそのアメリカの危機的状況をものすごく強く感じたんですよね。

(渡辺志保)そうですよね。だからディクシー・チックスの「ディクシー(Dixie)」の部分がやっぱり彼女たちのアイデンティティーだったわけじゃないですか(※注 ディクシーとは、アメリカ合衆国南部諸州の通称)。そこを取る……そして後、この『ディス・イズ・アメリカ 』にも書かれてますけど。レディ・アンテベラムもレディ・Aに名前を変えて(※注 「アンテベラム」とは「アメリカ南北戦争以前」という意味)。

やっぱり彼ら、彼女たちってそのアメリカの良心的なバンドってイメージがすごくあって。すごい「マジョリティーを代表する」って言ったら変かもしれないですけども。メインストリーム中のメインストリーム。だから彼らがその名前を変えるっていう、そこまで動かしたというか、影響力があるムーブメントになってるんだっていうことに……。

(高橋芳朗)ディクシー・チックスの「ディクシー」っていう言葉やレディ・アンテベラムなら「アンテベラム」っていう言葉が奴隷制時代の南部の伝統に基づいた言葉で。それが現代に使うものとしてはふさわしくないということで改名を迫られていたわけだけど。そのスピード感、判断の速さ。そこにもちょっとびっくりしましたね。志保さんが言ったみたいに本当にアメリカでも国民的なスーパーバンドなので。そういうアーティストがこの状況の中であっさり、そのバンド名を変えるような、そういう状況に今あるんだなっていう。そのショッキングさもありましたね。

(渡辺志保)そうですよね。

(高橋芳朗)もう数ヶ月、数週間先のことがわからないような時代を今、僕たち生きてるんだなっていうことをすごい痛感させられる事件でした。

(渡辺志保)私もすごくそれが衝撃的だったけど、何となく自分では理解が足りないというか、知識が足りなかったようなところもあるんですが。その高橋芳朗さんのお話を伺って「ああ、なるほど。こういう背景だったのか」という風にも思ったところが多かったなと思いますね。というわけで、何と言っても先ほども冒頭に仰ってましたけれども。

本当に超目前にアメリカ大統領選挙が迫っているということで。どうなりそうなんでしょう? なんか私は個人的に前回、ヒラリー・クリントン VS ドナルド・トランプの構図だった2016年の選挙の時に、やっぱりたくさんの女性アーティストたちがヒラリー支持を表明していた。しかし、フタを開けてみればトランプさんが大統領になられたという。そこでひとつ、やっぱりあれだけのポップスターたちの力をもってしても、民衆の心っていうのは……なんて言うんですかね? 「力が及ばない」って言ったら変な言い方かもしれないですけど。「はあ……」って。

ちょっとショックみたいなね、そういったところがあったんですね。で、今回もまた、もう皆さんご存知のように、いろんなアーティストが反トランプを掲げていたり。でもつい最近、アイス・キューブがね、トランプ派に……いや、びっくりしちゃったんですけど。

(高橋芳朗)びっくりしましたね。これも本当、今のアメリカの混沌とした状況の象徴だと思うんだけど。アイス・キューブがトランプの「プラチナ計画」でしたっけ? 「黒人の司法での公正性を担保する」っていう公約をトランプが出したんですよね。黒人層の票がほしくて。それにアイス・キューブが賛同する表明をしたということで、みんな面食らっているわけなんですよね。

(渡辺志保)そうなんですよね。だからこの大統領選挙の直前にアイス・キューブもトランプ支持を表明したっていう。

(高橋芳朗)だってアイス・キューブは前回の大統領選の時だったかな? 『Arrest The President』っていう曲を出しましたよね? 「大統領を逮捕しろ」なんて曲を出した、そんなアイス・キューブがまさかね。

(渡辺志保)かつ、『Fuk Da Police』でおなじみの……っていうね。N.W.A.時代はね。ということもあったから、本当にどうなるかわかんないなって思っていて。ヨシさんはそのへん、どうですか?

(高橋芳朗)ねえ。本当に今、志保ちゃんが言ったみたいに前回がその、ヒラリー・クリントンの圧倒的優勢が伝えられていて。でもいざフタを開けたらトランプが勝ってしまったという。で、たぶん今回はその前回の反省が生かされた選挙活動になってるのかなっていう印象を受けていて。より、呼びかけがシンプルになってる感じがするんですよ。

それってたぶん、対抗候補のジョー・バイデンの魅力の乏しさもあるのかもしれないですけども。単に「Vote」って……「とにかく投票して選挙権を行使しましょう」っていうメッセージが前面に打ち出されている印象があって。さっきのディクシー・チックス改めチックスのあの『March March』っていう曲でもミュージックビデオの最後に「use your Voice. use your Vote.」っていう文字が映し出されるんですけども。

よりシンプルなメッセージになっている

(高橋芳朗)「とにかく投票しましょう」っていうことですよね。この間のビルボードミュージックアワードでも結構政治色が強いセレモニーになったと思うんですけど。リゾが「Vote」っていう文字がたくさんプリントされていたドレスを着てて。「とにかくあなたの声と力を使って、行使して抑圧されるような状況をはねのけましょう。拒否しましょう」みたいなスピーチをしていたんですけども。より、だからそのメッセージがシンプル化してる感じはあるかなっていう風に思いますね。

(渡辺志保)そうですね。そして「カニエ・ウェストには絶対に投票するな。これはジョークじゃないんだ」みたいなつぶやきもたくさん見かけて。だからみんなが本当にシリアスに投票に対して真摯な気持ちでと言いますか。何はともあれ……。

(高橋芳朗)そのメッセージがシンプル化してるところになんかもう、政策の戦いじゃなくなってるのかな?っていう。もう政策じゃないよね。なんかね。

(渡辺志保)そうですね。もうだって「Vote him out.」とか「Vote them out.」って……その「投票をして彼らを追い出せ!」っていう、それがハッシュタグ化してトレンドになったりしている状況ですから。

(高橋芳朗)この間の討論会とかもさ、もうお互いの政策をぶつけ合うようなものじゃないじゃないですか。罵り合いっていうかさ。

(渡辺志保)ラップのバトルかな?って思っちゃうぐらいに(笑)。

(高橋芳朗)だからそのシンプルな呼びかけにまたちょっと、すごい危機感を感じたりもします。

(渡辺志保)逆にね。なるほど。もう本当にどうなるかわかんないっていう感じなんですけれども。ちょっと、この『ディス・イズ・アメリカ 』、何と言ってもポップミュージックを取り上げた著書でありますので。ここで、ちょっとその中から1曲、高橋芳朗さんにぜひ紹介していただきたいなと思っていて。今回、選んでいただいたのは先に申し上げるとビリー・アイリッシュの曲なんですよね。で、この『ディス・イズ・アメリカ 』の中でもやっぱり度々、ビリー・アイリッシュの名前は出てくるということで。今回、選んでいただいた楽曲……なぜ、この曲なのか?っていうところをちょっと先に伺ってもいいですか。

(高橋芳朗)はい。7月30日に出たビリー・アイリッシュの目下最新シングルですね。『my future』っていう。この曲は民主党の……ビリー・アイリッシュは民主党支持を表明していて。民主党の党大会でもこの曲をパフォーマンスしたりしてるんですけれども。やっぱり、これはもうアメリカに限らず、世界中の大人たちが肝に銘じなくちゃいけないことだなと思うんですけど。その18歳の彼女、ビリー・アイリッシュが今のこの状況の中で、「私は自分の未来に恋している。未来の自分に会うのが待ちきれない」って歌ってることをね、ちょっと重く受け止めた方がいいんじゃないかなっていう気がすごいしていますね。

(渡辺志保)ああ、もう泣けちゃうよ。泣けちゃう……。

(高橋芳朗)本当に。ねえ。お互いに今、子供がいるじゃないですか。

(渡辺志保)そうですね。私も子が生まれまして。はい。

(高橋芳朗)だからもう本当に自分の子供を見るたびに、そのビリー・アイリッシュが『my future』で歌っていることが結構オーバーラップするというか。ねえ。本来、こういうことを歌うようなアーティストではなかったと思うんですよ。

(渡辺志保)そうですよね。彼女と言えば、ちょっとダークっていうか、ニヒル、アンニュイというか。そういったイメージが強かったと思うんですけども。うん。

(高橋芳朗)その彼女がこういうことを歌ってることをやっぱり皆さん、本当に真摯に受け止めましょうという感じで。まさにそのリリースされたタイミングにギリギリ間に合って、『ディス・イズ・アメリカ 』の最後に彼女のメッセージとこの曲を掲載することによって本がまとまったなってっていうこともあったので、この曲を選んでみました。

(渡辺志保)ありがとうございます。では、高橋芳朗さんから曲紹介をお願いできますでしょうか?

(高橋芳朗)はい。ビリー・アイリッシュの最新シングルです。聞いてください。『my future』。

Billie Eilish『my future』

(渡辺志保)引き続き、この時間は音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんをお迎えして、スモール出版さんから発売されている新刊『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』について伺っていきたいと思います。いや、もうビリーの歌声がしみる。歌声というか、歌詞もね。

(高橋芳朗)うん。聞くたびにちょっとグッと来てしまうというかね。もう個人的に今年のベストシングルの最有力候補かなっていう。

(渡辺志保)そうかー。でも高橋芳朗さんとしてはビリー・アイリッシュっていうのはどんなアーティストだと捉えてますか? やっぱり今のアメリカにもはやなくてはならない存在なのかなと思ったりするんですけど。

(高橋芳朗)今年ね、グラミー賞で主要4部門を制覇した時は、なんだろうな? 彼女はお兄さんのフィニアス・オコネルと一緒に家でね、宅録で全てのアルバムを作っていて。それでクリエイティブコントロールもほぼ自分たちで、兄弟で掌握していて。それで作品を作っていて。それでこういう成果をあげたっていうところで世界中の家で自分で音源を作ってネットに作品をアップロードして表現している若いミュージシャンたちにものすごい勇気を与えた重要アーティストだと思うんですけど。そういうビリーがまさかね、こういう今のコロナとかBlack Lives Matterを経て、アメリカのこの社会状況を動かしていくような存在にまでなっていくことになるとは思わなかったなっていう感じですかね。

(渡辺志保)彼女にとっても本当に激動のここ数ヶ月っていう感じだったんじゃないかなと思ってしまいますね。

(高橋芳朗)本当に……なんか彼女に今、心を動かされてますね。ビリーの一挙手一投足に。

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